こんにちは、たまっち先生です。
第7回となる今回は、商法の直接取引と間接取引の区別について、実際のA答案とC答案を比較検討し、どのような点に気をつければ、合格答案を書くことができるのかをレクチャーしていきたいと思います。
今回扱うのは、平成30年度予備試験の商法です。
平成30年の商法は、予備試験の過去問の中でも非常に重要性の高くかつ良問だと思っております。このような重要問題を中心に過去問演習をすることが合格への最短ルートだと考えております。
A答案とC答案を比較した上で、なぜ評価に差がついているのかを検討してみましょう。
両答案ともに、名義説に立ち、「第三者のために」行った直接取引であることを認定することができており、その点については特に問題ありません。
しかし、A答案は、任務懈怠に関する過失の認定が非常に丁寧です。問題文の事実を丁寧に拾った上で、Bには具体的にどのような注意義務があったかを具体的に認定することができています。本問は、「自己のために」行った直接取引であるか、「第三者のために」行った直接取引であるのかの評価が分かれる問題であって、帰責事由の要否が分かれる問題でした。そのため、「第三者のために」行った直接取引であると解した場合には、帰責事由の有無を丁寧に認定することが求められていたと考えられるでしょう。この点で、A答案とC答案には差がついたと考えられます。
また、責任限定契約の適用の可否に関して、A答案はBの過失が経過室に止まっていることを認定することができている一方で、C答案は「善意でかつ重大な過失がない」ことの認定をすることなく責任限定契約の適用を肯定しています。このように、A答案は要件の認定を会社法及び会社法施行規則の条文を丁寧に引用しながら当てはめることができているのに対して、C答案はこれらの認定がやや雑になっています。この点からは、同じ内容であっても、論述の丁寧さで評価に差がつくことお分かりいただけると思います。前回の民法と同様、民事系科目では要件の一つ一つの認定の丁寧さを重視して採点を行っている傾向があると考えられます。
本問では、監査等委員会設置会社における利益相反取引をした社外取締役の損害賠償責任について問われています。
本件賃貸借契約は、甲社と甲社の監査等委員である取締役Bが代表する株式会社丁社との間で締結されています。そして、丁社はBが全部の持分を有しています。そこで、本件賃貸借契約が、利益相反取引に該当するかを検討する必要があります。
【問題文及び設問】
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https://www.moj.go.jp/content/001263947.pdf
423条の任務懈怠責任が問題となるのは、明らかですが、監査等委員会設置会社であるという点や利益相反取引が問題となっていることから、423条1項のみならず、423条3項、同条4項及び428条1項にも言及することが求められていました。このように、商法では、細かい条文操作を要求する問題が出題されることが多いので、本記事を商法の条文を丁寧に読むためのきっかけにして欲しいと思います。
また、利益相反取引は司法試験、予備試験ともに超頻出論点です。ですが、直接取引と間接取引の区別を苦手とする受験生が非常に多い分野でもあります。直接取引と利益相反の区別も重要ですが、「自己のため」に行った直接取引なのか、それとも「第三者のため」に行った直接取引なのかも428条1項の適用との関係で非常に重要な意味を有しています。本問はまさにその点の認定が問われた問題であり、利益相反取引を本質的に理解できていなければ解答するのが難しい問題といえます。
B E X Aの考える「合格答案までのステップ」との関係でいえば「5、基本的事例問題が書ける」との関連性が強いと思います。
直接取引と間接取引は会社法の基本的知識がある受験生はご存知だとは思います。しかし、実際の事例問題においてどのように直接取引と間接取引の区別を行うか、「〜のために」の意義は何を指すのか、といった点は演習を重ねていないとなかなか出来るものではありません。平成30年の予備試験の商法はそのような基本的な知識の理解ができているのかを聞いている問題といえるでしょう。本記事を通して、基本的な理解ができているか、自分の理解が間違っていないかをぜひ確認していただければと考えております。
356条1項2号にいう「自己または第三者のために」の文言は、取引当時者が誰であるかという名義を問題としているとする見解が一般的です(名義説)。すなわち、取締役本人が会社の取引の相手方となる場合が「自己のために」する取引、取締役が他の自然人や会社等を代表・代理して当該自然人・会社の名義で取引を行う場合は「第三者のために」する取引ということになります。
ここで、直接取引の範囲に関して、X社が取締役Yと経済的に一体であると思われる者と取引をする場合にも直接取引として規制を及ぼすことができるかという問題があります。この点については、無理に直接取引として処理をせずとも、間接取引として処理すれば、利益相反取引の規制に服させることができますので、直接取引に該当する範囲は形式的に判断するのが良いでしょう。したがって、直接取引に該当するのは、取締役本人が契約の相手方となっている場合あるいは取締役が自然人または会社を代表・代理している場合のみに限定するべきでしょう。そして、それ以外の取引については、間接取引該当性を検討すれば足りると考えます。また、「自己のために」行ったのか、「第三者のために」行ったのかを判断するにあたっては、純粋に名義説にしたがって、名義が誰であるかで判断するのが無難でしょう。
利益相反取引のもう一つの類型は、会社が取締役以外の第三者と行う取引の場合で、会社と取締役の利益が相反する場合や、債務引受をする場合が典型例です。間接取引の該当性については、基準の明確性の観点から、外形的・客観的に見て取締役の利益と株式会社の利益が実質的に相反しているか否かで判断するとされています。
直接取引と間接取引の区別が重要な理由は、428条1項が存在するからです。利益相反取引による責任が問題となる場面で423条3項所定の取締役に任務懈怠の推定がされても、原則的には過失責任であるから、取締役の側で自己の無過失が立証できれば責任を問われることはありません。しかし、428条1項は、「自己のために」直接取引を行った取締役については、任務懈怠が自己の「責めに帰することができない事由」によることを主張・立証しても免責されないと規定しています。この規定の適用の有無を検討する必要があるからこそ、利益相反取引が問題となった際には、直接取引なのか間接取引なのか、直接取引に該当するとしてもそれが「自己のために」行われたものなのかあるいは「第三者のために」行われたものなのか、という点まで認定することが重要となるわけです。
承認を得た利益相反取引については、自己契約・双方代理の外形を有する場合でも民法108条の適用はなく、有効となります。これに対して、承認手続を経ていない利益相反取引は一種の無権代理人の行為として無効となると解されています(356条2項反対解釈)。
問題は、承認を経ていない利益相反取引に会社外の第三者が登場する場合です。判例では、取引安全の見地から会社は第三者の悪意・有過失を主張・立証して初めて取引の無効を主張できると解されています(最判昭和43年12月25日等)。
本件において、本件賃貸借契約は、甲社と甲社の監査等委員である取締役Bが代表する株式会社丁社との間で締結されています。そして、丁社はBが全部の持分を有しています。そこで、本件賃貸借契約が、利益相反取引に該当するかを検討する必要があります。ここで、利益相反取引にいう「自己又は第三者のために」の意義が問題となります。上記の通り、「のために」とは、法律上の当事者名を形式的に示す意味であるとされています。したがって、法律上、取締役が会社の取引の相手方となる場合にのみ「自己のために」に該当することになります。他方で、取締役が他人を代理・代表する場合には、「第三者のために」に該当することになります。この区別が重要とされる理由は、428条1項の適用の有無があるからだというのは上記の通りです。
本件では、Bが丁社を代表して甲社と本件賃貸借契約を締結していることから、法律上の当事者名を形式的に考えて、甲社の「取締役」Bが「第三者」丁社「のために」行った「取引」であると考えることができます。したがって、本件賃貸借契約は、「第三者のために」行った直接取引に該当することになります(他方で、純粋な名義説ではなく計算説的な考え方によれば、Bが丁社の全ての持分を有しているという点を重視して、「自己のために」した直接取引であると考えることも可能です)。
利益相反取引に該当するとした場合、会社に損害が生じれば、423条3項が適用されることになります。本件では、問題文の「本件賃貸借契約の賃料は周辺の相場の2倍というかなり高額なものであったが」甲社は12ヶ月間に渡って月300万円の賃料を支払ったという事情があります。したがって、1ヶ月あたり150万円の損害が生じており、その12ヶ月分ですから甲社には合計1800万円の「損害」が生じていることになるでしょう。
そして、このことから423条3項各号の適用がありますので、「第三百五十六条第一項の取締役」としてBは任務懈怠が推定されることになります(423条3項1号)。ここで、上記の通り、本件賃貸借契約は「第三者のために」行った直接取引であり、428条1項が適用されませんので、Bは上記本件賃貸借契約の締結に関して故意・過失がなかったことを立証することによって、責任を免れることが可能となります(他方で、計算説的な考え方によって「自己のために」行った直接取引であると考えた場合には、428条1項が適用されることで、無過失責任となりますので、Bが故意・過失がなかったことを立証したとしても、Bは責任を免れることができません)。
そこで、Bに故意・過失がなかったかを検討することになりますが、Bは本件賃貸借契約の賃料が周辺お相場より2倍というかなり高額なものだったことを知り得たのであって、Bは甲社取締役として甲社に損害を与えることが明らかな取引をしてはならない注意義務を負っていたわけですから、それにもかかわらず漫然と本件賃貸借契約を締結したBには、上記注意義務違反があることは明らかで、少なくとも過失があるといわざるを得ないでしょう。
なお、最後に注意すべき点として、甲社が監査等委員会設置会社であるという点を忘れてはなりません。この点、423条4項は、423条3項の任務懈怠の推定規定について、「取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。」と規定しています。もっとも、本件ではBが監査等委員である旨の事実がありますので、423条4項による推定規定の排除はないことになります。答案ではこの点まで指摘しておく必要があります。
以上より、少なくともBが423条1項の任務懈怠責任を負うことは確定します。
ですが、設問の指示にもあるとおり、Bが責任を負うとしても、その額はいくらなのかを確定する必要がありますので、以下簡単に検討しておきましょう。
本件では、上記の通り甲社には1800万円の損害が生じていることになりますが、甲社には定款で責任限定契約が締結されていますので、「善意でかつ重大な過失がないとき」にはBの責任は1200万円に限定されることになります(427条1項、425条1項1号ハ)。もっとも、上記の通り、本件賃貸借契約の賃料が周辺相場より2倍というかなり高額であったことからすれば、注意義務違反の程度は著しいですから、427条1項の適用はなく、Bの責任が限定されることはないでしょう。
いかがでしたでしょうか。今回は、商法の利益相反取引について検討していきました。
司法試験・予備試験の超頻出論点であり、直接取引と間接取引の区別を苦手とする受験生が多い分野です。平成30年の予備試験は、任務懈怠責任の検討の中で利益相反取引の認定を行うという問われ方でしたが、他にも利益相反取引自体の効力を問う問題や「重要な事実の開示の開示がなかった」場合の利益相反取引の効力を問う問題など、問われ方は様々ですので、いずれの論点に対しても解答をできるように準備しておいてもらいたいと思います。
本記事を通して、受験生の皆様の理解が少しでも深まれば幸いです。
今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は「平成30年度予備試験の商法 利益相反取引」合格答案のこつについて解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
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2022年6月24日 たまっち先生
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