民法の事例問題を解く際に初学者に対して「当事者の生の主張」を考えよと言うことがよく言われていると思います。実際にこれを耳にした人は多いでしょう。
生の主張とは分かりにくいところがありますが、つまるところ、アマチュアさんの主張ないし言い分です。その言い分中には法律的な意味のある部分もあれば、そうでない部分も含まれ、それが法律的に意味ある主張となり得るのかを考えると言うことなんだろうと思います。
これは学修を始めたばかりの人については妥当するところはあるのですが、学修が進む につれてそう言った媒介項は不要になっていくはずのものです。
このことは下記の事例を考えて見れば簡単に分かるはずです。
「Aの所有する甲土地をBがAの承諾を得ることなく、資材置場にして使用している」
学修が進んでいる人は、上記の事実関係から直ちにBの甲土地占有は法律上の権原のない違法かつ不当なものであって、
①甲土地所有権に基づく物権的返還請求権の成立要件が充足され、AはBに甲土地の返還を請求できるし、
②不法行為、不当利得を理由として賃料相当損害金の請求をすることができる
旨を把握することができます。
この場合、特にAが何を言いたくなるか等を考える必要はないですね。 プロの実務法曹を目指す以上は、こうでなくてはなりません。
しかし、学部1年生はこうはいかないでしょうね。Aが何を言いたくなるかな~等と考えて見ることは良いことです。
つまり、生の主張を考えるということは学修のプロセスを示すと言う意味はありますが、事案分析の際の公式のようなものではありません。それが必要ないし有益かどうかは基礎体力のレベルの問題なのです。プロの実務法曹を目指すのなら、上記のような「生の主張」は不要です!と言う人にならないといけない。それは卒業するべきものです。これに拘っていると何時までもアマチュアさん状態です。それはプロへの成長を遅らせてしまいます。誰でも初めはアマチュアさんですが、変わっていく必要があることに気がつかないといけません。
では、どうしたら、効率的に変わっていけるのか?まずは、それを止めることから始めましょう。
なお、上記事例で①②が出てこなかったと言う人は、勉強不足と練習不足がその原因ですから、しっかり勉強して、練習しましょう。大切なことは勉強して練習することなのであって、「Aの気持ち」を考えることが重要なのではありません。
まず、前提として法的思考には2つのモードがあることを知っておく必要があります。
これは下記のとおりです。
聞き慣れない言い方なのかもしれませんが、実は上記①②の思考は法律を学修した人なら誰でもやっていることで、法的思考はこの2つの組み合わせで成り立っています。実務法曹も例外ではありません。
ただ、実務家は アマチュアさんよりも知識や経験を豊富にもっていますから、①の方が強くなっていく 傾向があります。これも基礎体力に係わる部分ですが、実務家は日々法律問題に取り組 んでいる訳ですから、これがしっかりしているというところですね。
そこで、実務法曹を目指すのあれば、学修によって①の思考のレベルを上げていくのが効率的に実務法曹 へ近づいていく道なのです。 何時までも、何も知らない、分からないという姿勢でいては成長しませんから、ここは背伸びをするように努力する必要があります。学んで使って身につける。これしかありませんが、本講座では講師がそれを実践して見せてくれますから、その後を追いかけ ていけば良いのです。やっていればできるようになるし、それがあたりまえにもなる。つまり、最初は大変ですが(特に初学者はそうです)、段々楽になっていくのです。人間はそのようにできてます!
上記を踏まえてと言うことになりますが、事例問題を解く(=事案分析をする)際に重要なことは、時系列に沿って考えると言うことです。その根拠は「権利関係不変の公理」にあります。
すなわち、「権利義務は発生して変動する、変動要因となる事実がない限りそのままである。」この公理には例外がありません。 絶対的なものなので、「公理」とされるのです。このたった一つの公理の上で全ての民事訴訟が行われています。ですから、この公理に従って考えるのは当然のことですし、こ れこそが事案分析の王道です(副次的な効果として論点への飛びつきを防止することに もつながります)。
また、これを意識することで要件事実や要件事実論につながって行くのが分かるはずです。 シンプルに考える。頭の中をごちゃごちゃにしないことが肝要です。本講座では講師 が常に一定の思考を示しています。頭を動かさないからこそ変化する事実関係に食いついていける。これをお手本にして訓練し、プロとしての思考を確立して行けば良いのです。
公開講座(第3講・平成23年予備試験民法の解析です)を見ていただければそのシ ンプルさが実感できるはずです。参考答案はなんと1400字です。考えたことをほとんどそのまま書いて答案完成!。無駄がないのでコンパクトなんです。この点は、この講師の特徴と言えますね。とにかく無駄がなく、すっきりしていて読みやすいので、起案の神様とさせて貰いました。権利関係不変の公理については、要件事実論30講第4版4頁2を参照して下さい。 なお、山本先生はこれを不文のルールと理解されています(山本・民法講義Ⅰ第3版ⅹⅹ ⅴ7)。
事案分析にあたっていきなり弁論の組み立てを考えようとして分からなくなっている人が沢山いるようです。これは実にもったいない残念なことです。そもそもそのような必要はないのだと言うことが分かれば楽になれます。もちろん実務法曹を目指すのですから、弁論の組み立ては分かるようにならなければなりません。その意味で要件事実ないし要件事実論を学ぶ必要はあります。しかし、そのことと、事案分析の際にいきなり弁論の組み立てを考えると言うことはつながりません。
要件事実を学んだことで事案分析に支障を来すようでは一体何を学んでいるのか本末転倒になってしまいます。弁論のことはワンツーで考えれば足りるのです。
まず、①時系列に沿って当事者間の 法律関係について考える。
続いて、②当事者間の法律関係に基づいて当事者間の訴訟に ついて訴訟物および攻撃防御方法の構造を考える。
この2段階で良いのです。
1階から2階へ上がると言う感じですね。いきなり2階に上がらないことが肝要です。本講座ではいきなり2階にあがることなく、1階から2階へあがる姿勢が堅持されており、この姿勢は弁論のことが問われている問題で顕著に示されます。
このことを講師は「要件事実を暗記ものにしない」と述べています。すなわち、当事者間の法律関係に基づいて弁論の組み立てを考えるのです(第3講の公開講座・平成23年予備試験民法の問題について弁論構造に関する考察が示されていますから、参照いただければこのことが分かります。)これこそ、司法試験において求められていることです。
この意味で本講座は要件事実論の基礎を学ぶ上でも好適なものとなっています。
ボトムアップ型の思考とトップダウン型思考を並走させることにより、法的分析→判断という2ステップで評価される法律答案=合格答案を作成することができるようになります。
いきなり法的分析ですか?といぶかる人もいるかと思いますが、「生の主張」は卒業ですから、その出番がないので、こうなるのです。これがプロの実務法曹です。初めからできないと言うのは分かりますが、それを放置してはいけません。できないのは、頭の中がアマチュアさん状態ですから、プロを目指すからには、それを改善していきましょう。法律答案が書けない本当の理由は、実はstep1ができていないと言う点にあるのですが、このことに気づいていない人が多いのです。書けない原因に正面から向き合ってこれを克服しなくてはなりません。その処方箋を提供するのが本講座です。
また、答案の書き方は、決まりがあると言うものではなく、判断事項です。何がどのように問われているのかによって答案構成を考えることができなくてはなりません(もっとも、上記step1の解析が答案構成に影響を及ぼすという関係性はあります。第3講の公開講座にもこの関係が示されています)。
ここは判断力が必要になりますが、これは経験を積むことによって向上しますから、積極的に練習するべきものです。ここでもまずは自分なりにやってみるのです。それが良いのか悪いのか?ダメなら、どこがダメなんだ、そして、それはどうしてなのか?といった具合ですね。そのトライアンドエラーの繰り返しが自分を成長させるのです。
ただ、これも初めからそうすることは難しいでしょうから、まずは、講師の参考答案を見て、その構成や表現などを学んでみる=まねてみると言うのでも構わないでしょう。段々できるようになって行けば良いのです。
本講座で用意した全46問によって一通りの民法演習問題は網羅できるため、本講座を受け切ることで法律初学者であっても民法に関する網羅的な知識を身につけることができます。
また、本講座は、予備試験・新司法試験・旧司法試験の過去問をあえて分野別にわけていません。試験では常に横断的な理解が問われるため、分野別に分けてしまうとその分野だけに集中してしまい、学習効果が落ちてしまうからです。本講座は、全分野を横断的に理解できるようあえて、同時並行型の学習方法を採用し、横断的な視点を鍛え上げます。
実は、ギリギリのところで合格点に達することのできない受験生は、知識が足りていないというよりは、問題を「法的に読む(=上記step1)」ことができていない場合がほとんどです。
これらの能力は、法律や事実を瞬時に法的に理解していく瞬発力を向上することによって磨かれます。本講座では、講師の解説とともにシャドーイングのように事案を思考していくことで、事案を瞬時に、法的に読み解く力を身につけることが可能です。
また、インターリーブ学修を意識して作られているため、受講者は自ずと基礎体力を向上させていくことができます。
また、講義は板書とレジュメ・答案例(講師作成)を参照しながら行いますので、口頭だけでは理解しづらい部分も視覚的に理解することが可能です。
本講義では、講師の思考過程が細かいところまで明確に示されています。
本講座を受講することで、初見の問題であってもどのように問題文を読み→法律状況を把握し→答案構成をし→答案表現するのかという実務家の思考=合格者の思考を習得することが可能です。
本講座を受講すれば、事案分析の過程で論点に遭遇するという実感を持てるようになり、講師や合格者がいう「この論点に気づくべき」に気づけないことがなくなります。
講義時間 |
約30時間(全49講) |
受講形式 |
テキスト + 講義動画 視聴 インターネット環境下でのストリーミング動画配信にてご受講いただけます。 テキスト配送は、以下のスケジュールで配送いたします。 問題文と出題趣旨は法務省よりダウンロードいただけますが、受講ページからPDFダウンロードも可能です。 |
扱うテーマ/配信状況 |
第1講~第20講 配信中 |
司法試験は難しい試験です。決して楽して合格できるものではありません。
しかし、効率的な学修は間違いなく存在します。努力は正しい方向へ向けられなくては十分な成果は得られません。
実は、この点については、インターリーブ(ベネディクト・キャリー著「脳が認める勉強法」ダイヤモンド社)学修の実践が鍵を握っており、この点に早く気づくべきなのです。
無理に暗記しようとするのではなく、変化する事実関係の中で具体的に実践的な学修をどれだけすることができるかが重要です。実践の中にこそ学びがあります。本講座を実践問題解析と名付けているのは、これがその理由です。
「額に汗」ではなく「脳に汗」をかきましょう。これは民法に限らないことです。正に、民法を制する者は司法試験を制する。本講座を通じて、そのお手伝いができればと考えております。
初めから、プロのようには行かないのは当然ですから、分からないと言ってへこむ必要もないですし、そこで諦めてはいけないところだと思います。まずは違いを認識することから始めれば良いのです。第2講(導入問題)はこの趣旨で作成したものです。分かったと思っている人は多いですですが、実はそうでないと言う人が沢山いるという問題です。まずは違いが感じられれば良いのです。
弁護士・大学教員
経歴
1986年 中央大学法学部法律学科卒業
1987年 司法試験合格
1988年 司法研修所
1990年 弁護士谷雅文法律事務所
2005年 中央大学大学院法務研究科実務講師
2006年 中央大学大学院法務研究科非常勤講師
2007年 中央大学大学院法務研究科特任准教授
2011年 中央大学大学院法務研究科特任教授
2018年~中央大学大学院法務研究科客員教授
著書・論文
『法科大学院における文書作成教育の実践とその課題について -京都大学法科大学院シンポジウム参加報告を兼ねて-』中央ロージャーナル2009年
『法文書作成の現場から』中央ロージャーナル2010年
顕著に見られる現象は、「書き方を決めてかかる」と言うところだと思います。このことは何がどのように問われているのか?ということを全く考えようとしないという姿勢につながります。しかし、民法の論文問題は多様ですから、書き方を決めてかかると問題に対応できず、痛い目を見ることになるのです。答案の書き方から教えるのは間違っています。答案の書き方が先にある訳ではなく、問いが先にあるのだ、と言うあたりまえのことを直視すべきでしょう。問いに対応できる柔軟性を身につける必要がありますが、実はそれはそんなに難しいことではないのです。本講座ではこういう点についても説明しています。
基礎問題で差を付けると言うところです。応用問題で差を付けられないと言うのが基本姿勢でしょう。これが一番効率的なので、受験生が真っ先に取り組むべきです。ですから、本講座では基礎力の向上に主眼を置いているのです。なお、ここで基本と言っているのは、いわゆる「Aランクの論点」のことではありませんので、念のためここで申し上げておきます。
一言で言うと、一貫性ですね。扱っている問題は広範囲渡りますが、終始一貫した思考過程が示されていると言う点が強みだと思います。要件事実も扱いますが、これも同様で、実体法の解釈論に基づいて弁論構造の組み立てを考えるという姿勢を貫いています。また、上記にも係わりますが、シンプルさも強みでしょう。頭が動かないので、ごちゃごちゃしないところとか、いきなり2階にあがらないところ等です。さらに言うと答案が短い。無駄がないのも強みでしょう。
他の同種講座との違いとしては、従来語られることがなかったトップダウン型の思考の重要性を指摘して、プロを目指すのであれば、これを駆使できるようにするべきであること、そして、これを身につけるための方法を具体的かつ実践的に示している点が挙げられます。この点が明確に意識されているほとんど唯一の講座だと言えるでしょう。
講義時間:
約30時間50分
配信状況:
全講義配信中
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