新司法試験令和4年民法設問1に関する答案構成(谷雅文)

2023年1月1日   谷雅文 

シンプル思考の勧め・その実践的な展開です

 

新司法試験・令和4年・民法の問題(設問1)を考えて見ました。

 

設問1(1)の問いは、「~CがAに対して甲土地の引渡しを請求した。Aはこれを拒むことができるか、論じなさい。」です。この問いは平成27年の予備試験の問題(第6講)に似たところがあります(こちらは、訴えを提起したという設定)。CがAに甲土地の引き渡しを請求したというのですが、これだけでは請求の内容が分かるだけで、その請求の根拠が分かりません。従って何だろ~?と思いつつ、問題文を読んでいくしかありません。
 ここから先は、基礎体力診断テストや第2講(導入問題)、第3講(H23年予備試験民法)と全く同じ要領で、問題文を読み進めていけば良いのです。そうすると、これは、典型的な物権変動問題だと言うことが分かるはずです。非常に基本的なことが問われているので、誰でもある程度の回答が可能と考えられますが、こういうときは説明の丁寧さで差が付きますから、この点に留意しつつ解答を作成する必要があります。
 答案構成の基本は時系列に沿って説明を進めていけば良いのですが、この問題の場合、CがAに引き渡しを請求したと言う状況が設定されているので、まず、この請求の根拠についてどのように考えられるのかを説明した上で(物権的返還請求権になる)、次いでその請求の当否(これをA側から言うと、請求を拒めるかと言うこと)に及ぶという構成が問いの形に整合的で良いと思います。
 ありそうなものは、いきなり冒頭に「本請求は甲建物の所有権に基づく物権的返還請求である。」とか書き出すものですが、これはあまり感心しませんし、解答としても不十分だと思います。何故なら、そのような書き出しは、第3講(H23年予備試験民法)のような問い自体が検討するべき請求権を特定している場合なら、それで良いのですが、本問では、Cの請求が甲建物の所有権に基づく請求だということは、問題文自体からは明らかではないのですから、これでは所有権に基づく請求の当否だけを考えれば良いのだということの説明が何らないことになるからです。なんでそう考えられると言うのか、この問題で示されている事実関係を踏まえて、その理由を示すべきでしょう。
どうしても先に請求の根拠を示したいと言うのであれば、いっそのこと「CはAに対して、甲建物の所有権に基づいて引き渡しを請求するものと考えられるが、Aはこれを拒むことができる。」と一気に最終結論を述べた上で、以下理由の通りである~と続けたら良いと思います。これは、結論前出しスタイルです。
 私個人としては、この問題に対しては上記のとおり、
1 請求の根拠の説明
2 その当否
3 結論
 と言う構成でまとめるのが良いと思いますが、そうでなくても、解答をまとめることはできると思います。それは、
1 甲建物を巡るAとCの基本的な法律関係の説明、
2 結論
 と言う構成です。1の部分が先決問題になっていることが分かると思います。実のところ、問題文を読み進めている時、頭の中はこのような構成になっているのではないかと思いますね。それをそのまま説明しても良いのです。
 本問に示された事情からすると、結局のところ、Cは甲建物については何らの権利を取得することはできないのではないでしょうか(民法判例百選○Ⅰ 第8版 No.22+平成29年予備試験の問題(第9講)と比較してみると良いです・どう見ても類推の基礎が不十分です)。要するに、BC売買は他人物の売買に過ぎず、Aはこれに拘束されない(=原則のまま・ここを丁寧に説明する必要がある)。そうすると、結局、Cは無権利者に過ぎないのです。他方、Aは甲建物の所有者です。つまり無権利者 vs 所有者と言う関係になりますから、CはAに何も請求することができない(第2講の導入問題と同じ)。従っ
て、当然のことながら、AはCの請求を拒むことができる。
 これはCが終始無権利者に過ぎない(甲建物を巡るAC間の法律関係に変化はない)ということを示すところに説明の主眼がありますが、実はこれで本問題の問いにきちんと答えているのです。問いは、「~CがAに対して甲土地の引渡しを請求した。Aはこれを拒むことができるか、論じなさい。」ですから、これに対してこの構成は、この事情の下ではCはいかなる意味においても、Aに甲建物の引き渡しを請求することはできないのだということ、従って、Cの引渡請求は何らの根拠も持ち得ないということ(=Aはこれを拒むことができる)を十分に示している。ですから、これも立派な解答ですね。後述のとおり、設問1(2)の構成を考えると、こちらでまとめると言うのもありです。また、もし、問題文で、Cが引き渡しを請求したという状況の設定がなく、単にCはAに対して甲建物の引き渡しを請求できるか、と問われているだけなら、最早解答を2段構えにするメリットはないですから、後者の構成の方が良いと思います。

 

設問1(2)の問いは「【事実Ⅰ】及び【事実Ⅲ】(1、2及び7から11まで)を前提として、令和2年6月1日、Dは、Cに対し、甲土地につき、Dへの所有権移転登記手続をするよう請求し(以下「請求1」という。)、それができないとしても、Aへの所有権移転登記手続をするよう請求した(以下「請求2」という。)。これらの請求は認められるか、請求1及び請求2のそれぞれについて論じなさい。」です。これも請求1・2の内容は分かりますが、その根拠は示されていません。ここでは、問題文に示されている事実関係の下で、請求1・2は認められるかどうかを説明することが求められていることです。
 こちらは、まず基礎体力診断テスト(対F関係)の要領です。これに加えて詐害行為取消権の理解が問われている(第30講とかぶります)。これも典型的な物権変動問題ですから、時系列に沿ってまとめれば足りますが、請求1については判例を踏まえた説明が必要です(民法判例百選○Ⅰ 第8版 No.61、同百選○Ⅱ 第8版 No.16)。
 また、この設問については、解答の冒頭に請求を示すことは避けた方が良いと思います(ex.Dは、Cに対して、甲の所有権に基づいて甲の所有権移転登記を請求することが考えられる~)。なぜなら、請求1については、所有権に基づく請求、詐害行為取消権に基づく請求が考えられるので(いずれも否定される※)、冒頭に請求の根拠を明示すると無駄が多くなるからです(基礎体力診断テストと同じ)。どうしても冒頭に請求の根拠を示したいのであれば、これも結論前出スタイルにした方が良いです。
そして、この問題では、(1)(2)のいずれも主張反論の形式は不要です。これはもう分かると思いますが、そう言った記載は無益記載=無駄にしかなりませんから、注意して下さい。

 

また、設問1~3を通じて、弁論のことは全く聞かれていません。
従って、これらの問いに解答するにあたり、要件事実ないし要件事実論は不要です。簡単なことをややこしくするのは止めましょう。これが分からないとすると、それ自体が問題です。

※ 本問の事実関係からすると、まずDC間では甲建物の所有権の帰属を巡る優劣が先決問題になり(これが第1ラウンド)、この点においてはDはCに勝てないと考えられます(民法177条・基礎体力診断テストの基本的法律関係の説明参照)。従って、この観点からは無権利者D vs 所有権者Cになるので、DはCに対していかなる請求もできないですから(第2講導入問題と同じ)、請求1・2のいずれも根拠付けることはできない。
そこで、Dは売主Aの責任を追及することになるのですが、この時点ではAの唯一の財産であった甲建物の所有権が第三者に移転されており、責任財産がなくなっている。ここで詐害行為の問題なり(これが第2ラウンド)、本問に示された事実関係からすると、その要件の方は充足されるものと考えられるのですが、その権利を行使した際の効果がどう言うものになるのかがさらに問題になります。ここは請求1と請求2の双方について考えて解答するべきです(出題趣旨参照)。
まず、請求1は不可ですね(中田・債権総論第4版・322頁γ)。他方、請求2は認められると解されます。Cに対する請求としては抹消登記請求が原則ですが、それだけでは登記名義がAに復帰しません。
だからと言って受益者Bも訴えて抹消登記請求しなくてはならないと言うのもいかがなものかと言ったところですね。そこまでしなくても良いんじゃないでしょうか。一種の中間省略登記になりますが、それで不都合はないはずです(内田・民法Ⅲ第4版・384頁)。
なお、改正民法424条の9は動産および金銭について債権者の直接請求を認めるものですが、不動産には何ら言及がないのですから、この規定の反対解釈を当然ないし絶対的なものとしてはいけません。結論はそれで良いと思いますが、そのような解釈を支える実質的な理由を説明するべきところです。正に形式論と実質論は車の両輪なのです(プレップ民法第5版・64~68頁)。
以上の次第で、答案構成は以下のようにするとうまくまとまるはずです。
1(1)甲土地の所有権の帰属に関する優劣を論ずるセクション
    →C勝(=Dは無権利者)
 (2)上記結論を基礎に請求1・2のついて考察するセクション
    →いずれも×(簡単です)
2(1)1の結論を踏まえて、詐害行為の成立について考察するセクション
      →要件充足(認定は丁寧に!)
 (2)詐害行為取消権を行使した効果について考察するセクション
      →請求1×(判例)、請求2○
請求1について、請求2についてというまとめ方ができない訳ではありませんが、書きにくいと思いますし、絶対そうなるというものでもないでしょうが、視野狭窄に陥りやすいようです。「請求から~」に過度に拘るのは良い結果につながらないので注意が必要です。また、出題の趣旨を見ても、上記に述べたように思考していることが明らかであって、請求から~・・と言った思考はしていないのです(詐害行為の成立は認められるとして、その効果が問題だ・・出題の趣旨7頁ウ)。余計なことをしないで、素直に事実に沿って考えるようにしましょう。

 

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