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強制処分と任意処分 合格答案のこつ~たまっち先生の 「論文試験の合格答案レクチャー」 第 11 回 平成30年司法試験の刑事訴訟法から~

2022年7月22日   たまっち先生 

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一般記事 - 論文試験・合格答案レクチャー - A答案とC答案

たまっち先生の
「論文試験の合格答案レクチャー
第 11 回
「強制処分と任意処分」合格答案のこつ
平成30年司法試験の刑事訴訟法から

第1 はじめに
       誰もが知っている重要論点でも、問題文の事実を丁寧に拾うことで十分
   合格答案を書くことが可能

 こんにちは、たまっち先生です。
 第11回となる今回は刑事訴訟法の超重要論点である強制処分と任意処分について、実際のA答案とC答案を比較検討しながら、受験生の皆様がどのような点に注意して答案を書けば合格答案を書けるようになるのかをレクチャーしていきたいと思います。
 強制処分と任意処分は刑事訴訟法の中でも最も重要な論点の一つであり、司法試験・予備試験の受験生であれば誰もが知っている論点だと思います。このような有名論点だからこそ、どの受験生もある程度の内容の答案を書いてくるため、相対的に他の受験生よりも優れた答案を書くのが難しくなっています。
 もっとも、判例・学説が当てはめで注意しているポイントを押さえ、問題文の事実を丁寧に拾うことで十分合格答案を書くことが可能です。それでは、実際の司法試験の過去問を元に考えていきましょう。

| 目次

第1 はじめに
   誰もが知っている重要論点でも、問題文の事実を丁寧に拾うことで十分 合格答案を書くことが可能

第2 A答案とC答案の比較検討
  【A答案とC答案】
   比較検討
  ⑴ 下線部①の捜査
  ⑵ 下線部②の捜査
第3 平成30年司法試験の刑事訴訟法を選んだ理由
第4 B E X Aの考える合格答案までのステップ・・・7と8と相関性が強い
第5 強制処分と任意処分の区別の基準
   1 「強制の処分」の意義
   2 任意処分の限界
   3 本問の考え方
  ⑴ 強制処分該当性
  ⑵ 任意処分の限界
第6 終わりに
      評価に大きな差がついたのは、当てはめ力の差

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】

さっそく、A答案(合格答案)とC答案(不合格答案)を見て行きましょう。

A答案

C答案

1 下線部①の捜査の適法性
⑴ 下線部①の捜査は適法か。まず、下線部①の捜査が「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項ただし書)たる「検証」(218条1項)にあたり、これを検証許可状なくして行っている点で令状主義に反しないか。「強制の処分」の意義が問題となる。
ア 197条1項ただし書の趣旨は、個人の意思を制圧し、重要な権利利益を侵害制約する処分につき、法で予め要件などを充足することで、国民の行動の自由を民主的に担保する点である。
そこで、「強制の処分」とは①個人の意思を制圧し、②身体・住居・財産等の重要な権利利益を侵害制約する処分をいい、①は合理的に推認される相手方の意思に反するか否かで決する。
イ 本件では、下線部①の捜査は、本件事務所から公道に出てきた男を対象に、Pがいた車内からビデオカメラで男の様子を撮影したものである。
もっとも、かかる捜査において、対象者である男の同意を得ていない。そして、男は、公道上に姿を現したとはいえ、通常他人から勝手にその容貌等をビデオ撮影されることについては許容しないものと考えられる。
そうすると、下線部①の捜査は、合理的に推認される男の意思に反するものといえる(①)。
また、下線部①の捜査により、対象者となった男に対し、みだりに容貌等を撮影されない自由(憲法13条)を侵害することになる。
もっとも、男は行動上においてその姿をビデオ撮影されているだけであり、公道上の場合、通常他者の目に触れることは想定される。これは、たとえ車内という男にとって撮影されていることがわからない場所からのものであっても同様といえる。そうすると、男のプライバシー権についての要保護性は低い。
また、上記撮影行為は公道上で行われているものであって、令状をもって規律される、私的領域に対する「侵入」(憲法35条1項)としての性質を有しない。
以上からすると、下線部①の捜査は、対象者となった男の重要な権利利益を侵害制約する処分とはいえない(②)。
ウ よって、下線部①の捜査は、「強制の処分」たる「検証」にあたらず、令状主義に反しない。
⑵ もっとも、下線部①の捜査は、捜査比例の原則(197条1項本文)に反しないか。
ア 197条1項本文の趣旨は、強制処分でない捜査手法を認めつつ、なお対象者に対し法益侵害が生じうるために、手段を最小限度に留めた点にある。そこで、犯罪の嫌疑の程度や撮影行為を行う必要性・緊急性と被侵害法益の性質程度を衡量し、具体的な状況で相当といえる範囲において、当該行為は197条1項に反しないと解する。
イ 本件では、Pらが下線部①の捜査の前にVから得ていた情報によれば、Vに対する詐欺を行った犯人の顔こそよく覚えていなかったものの、犯人の特徴として、中肉中背の男である旨を述べていた。また、犯人は「A工務店」と書かれたステッカーが貼られた赤の工具箱を持っていたとも述べており、「A工務店」はその後の捜査により本件事務所であることが明らかとなっている。そして、下線部①の捜査の対象となった男は中肉中背の男で、Vが述べる犯人の特徴と一致している。加えて、その男は本件事務所に入っていくところをPに目撃されており、男が甲やA工務店の関係者等、Vに対する詐欺に何らかの形で関与している合理的な嫌疑があるといえる。
また、本件では、Vに対する詐欺事件において、Vの証言や、本件メモ、本件領収書意外に犯人と結びつく証拠が存在しない。かかる状況においては、Vが述べた犯人が下線部①の捜査の対象者である男と一致するか否かを確認するために、男の姿を撮影しておく必要性が高い。
さらに、Pの撮影は車内からなされているが、男の面前で撮影するとなると、男が犯人であった場合にPらの意図を察知され、証拠隠滅や逃亡を図られてしまうおそれがある。そうすると、かかる事態を防ぐために、下線部①の捜査を行う必要性・緊急性は高いといえる。
これに対し、下線部①の捜査により対象者となった男のみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害することになる。もっとも、前述の通り、かかる権利は重要ではない。また、撮影時間は約20秒と短く、かつ、本件事務所の玄関ドアに向かって立ち、振り返って歩き出す男の姿を撮影するのみで、これ以外に映していない。そうすると、下線部①の操作による被侵害法益の性質程度は弱いといえる。
以上を踏まえると、下線部①の操作を行う必要性・緊急性が高い一方で、被侵害法益の性質程度は低いため、具体的状況下において相当の範囲といえる。
ウ よって、下線部①の捜査は197条1項に反せず適法である。
2 下線部②の捜査の適法性
⑴ 下線部②の捜査は適法か。下線部②の捜査が「強制の処分」たる「検証」にあたり、検証許可状なく行ったとして令状主義に反しないか。前述の「強制の処分」の定義に沿って検討する。
⑵ 本件では、下線部②の捜査は、本件事務所の机上にある赤色の工具箱を対象に、ビデオカメラでこれを撮影している。下線部②の捜査の先立つ捜査においては、本件事務所には甲以外に出入りする者がいなかったため、甲以外の従業員がいないものと判断されている。そうすると、赤色の工具箱は、甲の所持品であったと考えられる。
そして、下線部②の捜査は、甲の同意なくして行われているところ、通常自己の所持品についても勝手にビデオ撮影されることに同意しないものといえる。そうすると、下線部②の捜査は、合理的に推認される甲の意思に反するといえる(①)。
また、下線部②の捜査では、工具箱が撮影されたのみで、甲の姿は映っていない。そして、かかる撮影は、採光用の小窓を通して本件事務所の内部を見通すことができたためにこれを行っただけである。そうすると、重要な権利利益を侵害したとはいえないとも思える。
しかし、本件事務所の前面には腰高窓があったところ、そこにはブラインドカーテンが下されており、かつ、両隣に建物が接していたために、公道から事務所の中を見ることはできなかった。そして、採光用の小窓から本件事務所の中を見ることができるものの、玄関上部に位置しており、向かいのマンションの2階通路から出ないと見れない状況になっている。このような構造においては、採光用の小窓から本件事務所の内部を見られることを想定していなかったと考えられる。
そうすると、本件事務所の中には、令状でもって規律される私的領域に準じた空間であるといえ、その中にある赤色の工具箱を約5秒間にわたって撮影することも「所持品」に対する「侵入」すなわち「検証」として、重要な権利利益を侵害制約する性質の処分といえる(②)。
よって、下線部②の捜査は「強制の処分」たる「検証」に当たるところ、検証許可状なくこれを行った点で令状主義に反し違法である。

1 捜査①
⑴ 捜査①は、対象の状態を視覚の作用で認識するものであり、「強制の処分」(198条1項ただし書)に当たるならば「検証」(218条1項)に位置づけられ、検証令状が必要となる。しかし、本件では検証令状が得られていないので、令状主義(憲法35条1項、218条1項)に反するものではないか。
ア 捜索差押え等の強制処分は対象者の意思に反して重要な権利利益を制約することから厳格な要件・手続に服している。そこで、「強制の処分」とは、被処分者の明示または黙示の意思に反して重要な権利利益を実質的に侵害する処分をいうと解する。
イ 捜査①は公道で行われているところ、公道のような開放的な空間では他者から見られるのが通常である。しかし、それを超えてビデオ撮影されて映像に残されていることまで承諾しているとは考え難いから、被処分者の黙示の意思に反するといえる。
次に、公道では他者から見られるのが通常であることからプライバシーの要保護性は低く、また、捜査①は20秒程度の短時間にとどまる。そのため、住居の不可侵(35条1項)に近いようなプライバシー侵害があるとはいえず、重要な権利利益を実質的に制約するものとはいえない。
ウ よって、捜査①は「強制の処分」にはあたらず、令状主義に反しない。
⑵ それでは、任意処分として許容されるか。
ア 任意処分であっても権利利益の制約が生じるので、捜査比例の原則の下、必要性や緊急性等を考慮し、具体的状況の下で相当といえることが必要である。
イ 本件では、本件事務所に入っていった人物の姿態がVの供述と整合すること等から、対象者が犯人であるかVに確認するためにビデオ撮影を行う必要があった。また、公道から同事務所内を見られないことからすれば出てきたところを撮影するほかない。さらに事件は詐欺という重大なものである。そのため高度の必要性がある。
これに対して、前述のようにプライバシー侵害は小さく相当といえる。
ウ よって、任意処分の限界を超えず、適法である。
2 捜査②
⑴ア 捜査②も視覚の作用で対象物を認識するものであるから、「強制の処分」に当たるならば検証にあたり、検証令状がないことから令状主義に反しないか問題となる。「強制の処分」該当性は前述の基準で判断する。
イ 捜査②は、本件事務所内を写しており、被処分者の黙示の意思に反する。もっとも、人は写っておらず、時間もわずか5秒である。そのため、住居の不可侵に匹敵するだけの重要な権利利益に対する実質的制約はない。
ウ よって、捜査②は「強制の処分」にあたらず、令状主義に反しない。
⑵ア 任意処分の限界を超えていないかについて前述の基準で判断する。
イ Vに甲の容姿を見せても犯人が判然とせず、甲の持っていた工具箱が決定的証拠となり得た情況の下で、甲が工具箱を持ち歩いているところをみてもステッカーが見えなかったことからすれば、捜査②の必要性は高い。一方、前述のように生じるプライバシー侵害は大きくなく、相当といえる。
ウ よって、任意処分の限界は超えず、適法である。

 

 
【比較検討】
   ⑴ 下線部①の捜査

ア 強制処分該当性
 まず、A答案C答案ともに、「強制の処分」の解釈について、197条1項ただし書の趣旨に遡って検討できており評価されたと思います。この点で両答案に差はないでしょう。
 次に当てはめについてですが、A答案は、被侵害法益について「みだりに容貌等を撮影されない自由(憲法13条)を侵害することになる」と具体化して論じることができています。他方で、C答案は本問で問題となる具体的な権利を設定できておらず、単にプライバシー権というワードを使うにとどまっています。採点実感では、『下線部①の捜査によって制約を受ける権利・利益の内容について一切触れない答案や、抽象的に「プライバシー」とのみ述べ、甲のいかなる「プライバシー」の制約が問題となるのかについて具体的に指摘できない答案も見られた。』と指摘されており、重要な権利利益とは言っても当該事案との関係でどのような利益がどのように侵害されているのかを具体的に検討しなければ、高い評価が得られないことがお分かりいただけると思います。したがって、「強制の処分」を検討する際には当該事案において侵害される権利利益がどのようなものかを具体的に設定したうえ、その権利利益が憲法上保障されているような重要性の高い利益か否かを論じる必要があるわけです。

イ 任意処分の限界
 A答案は、昭和51年決定が示した規範を定立したうえ、問題文の具体的事情を踏まえ、当該捜査が必要性、緊急性、相当性を満たすものであったかを丁寧に検討することができています。犯罪の性質や証拠関係から男と犯人の同一人物であることが高かったという事情を踏まえ、当該ビデオ撮影を行う必要性が本当にあったのかという観点から検討できている点が高く評価されたのだと考えられます。

 他方で、C答案は「捜査①は公道で行われているところ、公道のような開放的な空間では他者から見られるのが通常である。しかし、それを超えてビデオ撮影されて映像に残されていることまで承諾しているとは考え難いから、被処分者の黙示の意思に反するといえる。次に、公道では他者から見られるのが通常であることからプライバシーの要保護性は低く、また、捜査①は20秒程度の短時間にとどまる。そのため、住居の不可侵(35条1項)に近いようなプライバシー侵害があるとはいえず、重要な権利利益を実質的に制約するものとはいえない。よって、捜査①は「強制の処分」にはあたらず、令状主義に反しない。」という論述をしており、公道で撮影したことや撮影時間が短かったという点は踏まれられているものの、本件被疑事件がどのような事案で、どのような証拠関係で、なぜビデオ撮影までする必要があったのか、という点に関しては全く検討することができていません。これでは表面的・抽象的な検討にとどまっていると判断され、高い評価は得られないでしょう。

 ⑵ 下線部②の捜査

 まず、A答案は、『・・・本件事務所の前面には腰高窓があったところ、そこにはブラインドカーテンが下されており、かつ、両隣に建物が接していたために、公道から事務所の中を見ることはできなかった。そして、採光用の小窓から本件事務所の中を見ることができるものの、玄関上部に位置しており、向かいのマンションの2階通路から出ないと見られない状況になっている。このような構造においては、採光用の小窓から本件事務所の内部を見られることを想定していなかったと考えられる。そうすると、本件事務所の中には、令状でもって規律される私的領域に準じた空間であるといえ、その中にある赤色の工具箱を約5秒間にわたって撮影することも「所持品」に対する「侵入」すなわち「検証」として、重要な権利利益を侵害制約する性質の処分といえ」と論述しており、本件事務所の性質が公道とは異なることを問題文の事実を丁寧に拾って評価することができています。さらに、本件事務所が憲法35条1項にいう「住居」とは同視はできないものの、それに準じたものである点を指摘し、本件事務所が令状を要求するほど私的領域性の強い場所であることを強調している点も素晴らしいといえるでしょう。

 他方で、C答案は『捜査②は、本件事務所内を写しており、被処分者の黙示の意思に反する。もっとも、人は写っておらず、時間もわずか5秒である。そのため、住居の不可侵に匹敵するだけの重要な権利利益に対する実質的制約はない。よって、捜査②は「強制の処分」にあたらず、令状主義に反しない。』と論述しており、強制の処分該当性を否定する理由として、時間がわずかであることしか指摘できていませんし、なぜ本件事務所が住居とは同視できないのかについても理由を示すことができていません。このように、論述が薄いため、説得力に欠ける答案となってしまっています。任意処分の限界についても、必要性と相当性の事情を一言ずつ指摘するにとどまっており、検討が甘いといえるでしょう。

第3 平成30年司法試験の刑事訴訟法を選んだ理由

 刑事訴訟法の初回ということで、扱う問題は平成30年の司法試験です。平成30年の司法試験は設問1で強制処分と任意処分に問われていますが、ポイントは2つの捜査の適法性が問われているという点です。このように2つの捜査が問われている時は、2つの捜査を比較しながら論じることを求めていると考えられます。そのため、注意が必要です。2つの捜査のどのような点が同じでどのような点が異なっているかを的確に把握し、それに対する自説を展開することで高い評価が得られます。

【問題文及び設問】

平成30年 司法試験の刑事訴訟法を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/001258874.pdf

第4  B E X Aの考える「合格答案までのステップ」では、7と8と相関性が強い

  B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「7、条文・判例の趣旨から考える」、「8、事実を規範に当てはめできる」との相関性が強いと思います。

 強制処分と任意処分の限界について、規範を定立することができる受験生がほとんどだと思いますが、果たして当てはめで判例や学説の理解を踏まえて答案を作成することができていますでしょうか?規範に忠実に事実を評価して当てはめることができているでしょうか?超重要論点、受験生であれば誰でも知っている論点だからこそ、当てはめを丁寧に行う必要があるのです。

第5 強制処分と任意処分の区別の基準

1 「強制の処分」の意義

 最決昭和51年3月16日では、「強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、右の程度に至らない有形力の行使は、任意操作においても許容される場合がある」と判示しています。これに対し、通説では、強制処分を「相手方の明示または黙示の意思に反して、重要な権利利益を実質的に侵害制約する処分」と定義しています。いずれの定義を用いても問題ないですが、昭和51年決定の「意思制圧」基準は何をもって意思が制圧されたと判断するのか不明確なので、通説の方が使い勝手が良いと思います。そして、出題趣旨では、「強制処分に対する規律の趣旨・根拠を踏まえながら、強制処分と任意処分とを区別する基準を提示することが求められる。」とあり、「強制の処分」が197条1項ただし書の解釈問題であることを踏まえ、同項ただし書の趣旨を踏まえて規範を定立することが必要だといえます。
これらを踏まえると、答案では以下の論証を示すことになります。
【論証】

 強制処分であることによって生じる法的効果の重さや、現に法定された強制処分の手続の厳格さに鑑み、強制処分は重大なものに限定すべきである。そこで、「強制の処分」とは、相手方の明示又は黙示の意思に反して、重要な利益を侵害する処分をいうと解する。
2 任意処分の限界

 前記昭和51年決定は、「強制手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれのあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当ではなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである」と判示しています。そして、昭和51年決定は、事案の性質(事件の重大性)、嫌疑の程度、被疑者の態度、被侵害法益の性質・程度との衡量により判断するとしています。これは、197条1項本文の捜査比例の原則によるものと考えられています。
これらを踏まえると、答案では以下の論証を示すことになります。
【論証】

 強制処分にあたらないとしても、何らかの法益侵害のおそれがある以上、捜査比例の原則(197条1項本文)に則り、必要性、緊急性などを考慮したうえで、具体的状況の下で相当な処分といえることを要すると解する。
3 本問の考え方
 ⑴ 強制処分該当性

 下線部①の捜査、下線部②の捜査ともに被疑者が捜査機関にビデオカメラ撮影されることを望んでいたと解することができないような特段の事情のない本件において、通常ビデオ撮影され捜査機関に情報摂取されることは望ましくない事態ですので、合理的に推認される意思に反するといえるでしょう。では、重要な権利利益を侵害したといえるでしょうか。
 下線部①の捜査は、行動上においてみだりに容貌等を撮影されない自由が制約されていますが、公道は他者から見られることを受忍しなければならない場所ですので、プライバシーの要保護性が低下しており、重要な権利利益とは言い難いように思います。このように考えれば、下線部①の捜査は、重要な権利利益を侵害したとまではいえず、「強制の処分」には当たらないというべきでしょう。
 他方で、下線部②の捜査は、みだりに個人の営業拠点である事務所内を撮影されない自由が制約されています。ここで、事務所内はたしかに玄関上部の採光用の小窓を通して撮影されたものであり、外から見えるといえます。しかし、甲の姿が写るか否かは偶然の事情に過ぎないですし、令状は事前審査ですので、かかる法益の差異を裁判所は判断できず、区別できない以上、保護法益が低いとは評価できません。そのうえ、事務所内というのは公道等の誰もが行き交う場所に比して、私的領域性が強い場所であり、プライバシーの要保護性が高い場所であるというべきです。
 以上からすれば、本件事務所は住居ほどではないにせよプライバシーの要保護性が高い場所であるといえるので、みだりに個人の営業拠点である事務所内を撮影されない自由は重要な権利利益であると評価することができます。
 よって、これを侵害している下線部②の撮影は、「強制の処分」に該当し、ビデオ撮影は視覚や聴覚という五感の作用によって対象を認識するものですので、「検証」に該当するといえるでしょう。

 ⑵ 任意処分の限界

 下線部①の捜査については「強制の処分」該当性を否定しましたので、任意処分としての限界を超えていなかったかという点を検討することになります。下線部②の捜査についても「強制の処分」該当性を否定した方は、同様に任意処分の限界を検討することになります。
 まず、対象となる犯罪の性質・重大性に関しては、犯人と被害者が二人だけのときに被害者宅で行われたものであり、密行性が高いものであるとの評価が可能です。そして、重大性については、被疑事実は詐欺罪で被害額が100万円と高額であることからも犯罪の重大性を肯定することができます。

 次に、嫌疑の程度については、犯人の特徴として、中肉・中背の男、A工務店と書かれたステッカーが貼ってある赤色の工具箱を持っていたというものであり、本件の男は中肉中背であり、身体的特徴が矛盾しないことになります。もっとも、中肉中背の男性は世の中に多く存在しますので、この事情だけでは推認力が高いとはいえないでしょう。他方で、本件で、犯人が渡した領収書記載のA工務店の住所に実際にA工務店が存在しており、そこに出入りする者であるから、犯人が所属しているA工務店に男も所属していると思われ、この点は男に対する嫌疑を高める事情であるといえるでしょう。
 これらを踏まえて本件下線部①の捜査が本当に必要性、緊急性、相当性を備えていたか否かを具体的に検討していく必要があります。ここで注意すべきは抽象的・表面的な検討にとどまらず、個別具体的事情を踏まえて具体的に検討するということです。
 当該手段によって達成される捜査目的については、犯人と対象の男の同一性確認であり、Vしか犯人を見ていないことからすれば、撮影した上で同一性を確認することは重要といえます。そして、上記の通り、男には相当程度の被疑事実の嫌疑が認められます。これらの事情からすれば、対象となる男を撮影する捜査の必要性が認められることになるでしょう。また、Vに対する詐欺事件について男を逮捕できるほどの証拠は存在せず、事案を早期に解決するには、犯人と同一人物であることが疑われれる男をビデオ撮影する緊急性も認められるでしょう。
 被侵害法益については、公道上におけるみだりに容貌等を撮影されない自由であって、強制の処分でも検討した通り、他社から見られることを受忍しなければならず、保護の程度は低いものといえます。
 以上を踏まえれば、下線部①の捜査は、捜査の必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況の下で相当と認められます。

第6 最後に
   評価に大きな差がついたのは、当てはめ力の差

 いかがでしたでしょうか。今回は、強制処分と任意処分の区別について見ていきました。本記事でも見たように、A答案とC答案を見ても規範部分ではほとんど差はありません。
 しかし、評価に大きな差がついたのは、当てはめ力の差です。問題文の事実のどのような点に着目し、どのような点に気をつけて当てはめなければならないは、日頃の過去問演習を積んでおかなければ身に付くものではありません。司法試験でも毎年出題される重要論点ですので、受験生の皆様はしっかりと準備しておく必要があります。本記事が皆様の学習に少しでも役立てば嬉しいです。

 今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 今回は
平成30年司法試験の刑事訴訟法から「強制処分と任意処分」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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