2022年度 法科大学院入試対策ガイド 第5回 ~ステートメントについて対策を解説~

法科大学院を受験する皆さんへ

 このガイドは法曹へ関心を持つ皆さんに法科大学院の紹介とその入試対策を活用してもらうという目的によるものです。
 内容は大きく分けて《法科大学院とは》《法学未修者コースとは》《法学既修者コースとは》《各校別》の4つです。そのほかにも,試験日カレンダー などの資料も随時アップします。

5 ステートメントについて
傾向と対策を解説

(法学未修者コース・法学既修者コース共通です。)

  2022年度 法科大学院入試対策ガイド第5回はステートメントについてです。 第3回では第4回とご案内しておきながら第5回に変更させた頂きました。たいへんお待たせいたしました。改めてお詫びいたします。

 (第1回「法科大学院ってどんなところ?」はこちらから。

 (第2回「入試選抜の分かりにくいところをズバッと解説!」はこちらから。

 (第3回「ロースクール受験シーズン突入。未修者にすぐ役立つ、教材と勉強方法を解説!」はこちらから。

 (第4回「何を聞かれるか分からない不安解消に役立つ!面接(口述)試験の傾向と対策を解説」はこちらから。

 下記本文中、ブルー太字のQ部分が皆さんからの具体的な質問例です。

たいへんお待たせいたしました、予定を変更していた「ステメン」です。

ア ステートメントについて

Q1.出題者は何を測るために私たち受験生にステートメントを課しているのでしょうか。

A1.説明会を含めて,各校入試担当者へのヒアリング結果からわかったことを以下記載します。
 ステートメントでは概ね,①与えられた問いに対して正確に答えることを前提として,②表現力(物事を考え表現する力)③日本語力(日本語を正しく用いているか)④論理的構成力(説得力)⑤受験生の意欲を測るために用いているようです。

 既修者では未修者のような小論文課題はありません。一方,未修者については当日のペーパーテスト(小論文)はありますが,それだけで論理力や受験生の能力・資質を測ること,社会人を含め多様な人材を確保することは難しいと考えられています。そこで,筆記試験だけに捕われずに受験生の資質など含めて幅広い角度から評価しようとするのがステートメントです。

 このステートメント,名称は異なるものの,実は一般社会において頻繁に課されています。そして,今後もステートメントに触れる機会は恐らくあるでしょう。
 仮にみなさんが法科大学院に進学せず,学部3~4年次に一般企業等の採用試験を受験したとしましょう。そこではステートメントに類似するものとして,自己PRや志望理由書の作成を求められ,それにより1次選抜・評価がなされます。
 司法試験後の就職活動,法律事務所へのサマークラーク等についても同様です。
 社会に出る際には必要不可欠な書類となるステートメント書類。学部生から一歩先の世界・社会へ飛び込むために作成が義務付けられる書類という認識で取り組んでみましょう。

Q2.問いに正確に答える力とはなんでしょうか。

A2.法科大学院側が課題とした題材を正確に読み解く・回答する上で必要不可欠な,課題の読解力・内容把握力のことです。これは何もステートメントだけではなく,論述式試験や実務社会においても必要不可欠な能力です。

 たとえば,「カレーの作り方を述べよ。ただし,ルーについては市販のカレールウを用いるものとする」という課題があるとします。この課題に対し貴方が①シチューの作り方を説明する,②カレーの作り方を記載しているがカレールゥの作り方を厚く説明している場合,それでは問いを正確に把握し回答できていないことになります。

 以下の例題で,皆さんは何が問われているか正確に把握し,それを表現することが出来るでしょうか。実際の問題を用いて読み解いてみましょう。
 ◆例題◆
 あなたが法曹を志望する動機、資質・能力に関する自己評価、大学や社会における活動実績等とともに、志望する法曹像について述べよ(2022年度中央大学法科大学院入試 改題)。

 まず,この例題で問われている「メイン論点」(以下,受験生にイメージをしてもらうために,この表現を用います)で聞かれていることは「志望する法曹像について」となります。つまり,結論部分としては,問題文に対する回答として“~という法曹像を志望する”等の内容となることは明白です。
 次に,自らの主張をした場合,具体例や理由を挙げることが文章の基本です。要は,主張と,その主張の説得力を強化するために,具体例を挙げて説得力のある文章にしてくださいということです。そのための要素として上記例題では①あなたが法曹を志望する動機,②資質・能力に関する自己評価,③大学や社会における活動実績等をステートメントのなかで具体的に挙げてくださいと誘導しているのです。
 そうすると,ステートメントの構成としては,①②③を経緯として,結論,すなわち志望する法曹像に結び付くよう説明するというのが最も論理的な流れになろうかと思います(あくまでも一例)。
 そして,これが「問いに答える」ということになります。

 なお,ステートメントの文章としては,読み手に全論点を落とさないようにする・落としていない旨を読み手に強調するため(読解力),かつ忙しい採点者に対してストレスを与えず好印象を持ってもらうために(印象力),見出しをつけることをお薦めしています。その場合,たとえば「⒈法曹を志望する動機について」といった項目立てが適切かと考えます。

 いかがでしょうか。上記問題において,自分できちんと出題者の問いに答えることが出来ましたでしょうか。
 できていない方は,以後きちんと問題文を読み解くよう心がけてください。この読み解く姿勢というのは,何も法科大学院入試のステートメントだけでなく,小論文試験や論述式試験,司法試験,果ては実務に出た際にクライアントのニーズや言い分を把握するために必要不可欠な能力となります。問いを読み解く力を少しずつ養っていきましょう。

Q3.ステートメントを書くと言っても,自己PRする箇所が見当たりません。
 私は体育会に所属し選手としてバリバリに活躍していた訳でもないですし,社会でも外資系や財閥系大手企業に勤務する等といった自慢できるような経歴ではありません。具体的には,私は10年程度勤務していますが,その企業はいわゆるブラック企業であり,周りの新卒社員が3年未満でほとんどが辞めていくような劣悪な労働環境下で働いています。
 そうすると,特にPRポイントなどなく,単に「若年者の労働実態に詳しい」くらしかないのですが・・。

A3. 自慢と自己PRは異なります。

 ステートメントにおいて法科大学院側は,受験生の志望度合い以外に,特に受験生の論理力・文章力を測っています。その際に用いる主張を補強するための事実は,何も自慢できる事実に限られるものではありません。
 説得力・論理力のある文章で必要なのは,その事実からどのようなことを考えたかという点です。論理力のある文章とは,自慢できる事実を用いれば良いというものではなく,要は【様々な事実をどう評価するかの問題】で、結論に至る過程が一番重要です。
 繰り返しますが,読み手は未修小論文と同じく文章力・論理的を判断する材料、そして出願者の意欲や素質等(等以下は既に説明済み。面接資料など)を判断する材料としてステメンを課しているのです。無理に自慢する必要はありませんし、自慢しても上には上がいることくらい読み手はわかっています。

 今回の質問者さんのアピールポイントが見当たらないとのことですが、その内容からするとPRポイントは既に表れているのではないでしょうか(すなわち、質問文において表れており、どのように文章にしたらよいかわからないというだけですよね?)。 すなわち、自己PR・長所は現代社会における(ブラック)企業における労働実態を知っているという点ですよね。その経験をどう長所として生かして、課題の内容・果ては法曹の志望動機に結び付けるかという問題です。

 個人的には上記体験・経験は労働法事件において、威力を発揮する礎になるものと考えています(依頼者とのグリップ力・企業の実態を把握している点等)。 そしてステートメントの構成としては,①【主張・動機】入り口の労働実態を知っていること、③【結論部分となる将来の法曹像】出口は(ブラック)企業の労働実態を最前線で体験した身として、労働法分野で活躍する法曹像を将来像ということになりそうです。そして②の部分で、①の事実をどう評価・結び付けて、③に結ぶかという論理的構成力の問題となりそうです。
 あとは文章力次第・箇条書きに思った点を書き出してみて、それを結び付け、②を一応の水準にまずは作成してみましょう。

Q4.ステートメントで「あなたはなぜ◎◎大学法科大学院を志望しようと考えたのか」と質問されています。しかし,私はその回答に戸惑っています。
 予備試験よりも法科大学院のほうが自分の将来にとっても現実的であるし,大学院に行って勉強したいというのが本音です。しかし,「予備試験が現実的ではない。」などとステートメントに書くわけにもいかず,そうであるならば法科大学院進学のメリットを考えなければなりませんが,それが見当たりません…。考え方を教えてください。

A4.良いところに気づきましたね。実は以前より皆さんにお伝えしていた点でもあります。

 まず初めに,質問者さんは予備試験ルート現実的でないと思った理由はなんでしょうか。そこを深堀していく必要がありそうですね。なにも,社会人生活をしながら10年や100年勉強の時間を与えられるという条件でしたら,予備試験のほうが現実的だと回答する方は多いように思えます。このように,意見の対立がある中で、質問者さんがそのような考えを見出した理由をまずは探してみる必要があります。

 そのうえで,以下では考えるヒントを挙げたいと思います。なお,面接でも良く聞かれる事柄ですので、面接を課す法科大学院を受験する予定のある方は,ステートメントの課題になくともきちんと理解しておくとよいでしょう。
 当然ですが、法科大学院と利益対立(類似)する制度として予備試験制度があります。講義ではないので簡単に触れるにとどめますが、昨年からお伝えしているのは、予備試験はあくまでも「資格」であり,その勉強は「資格取得のためのものにすぎない」という点に注目すれば良いと思います。これは,各ロースクールのカリキュラムにも表れています。

 簡単に言うと、活きた知識として用いることが出来るのか、果ては「理論と実践の架橋」として予備試験が果たして機能するのか、そのような視点で考えてみると、説明がしやすいと思います。
 なお,当然意見に対する反論はつきものですし,これが唯一の正解というものはありません。もっとも,法科大学院に進学することのメリットは,勉強面以外にも、人との出会い・将来にわたる縁の形成(将来における人的交流の基礎ができる)など、挙げればかなりの数があります。それを探してみてください。

Q5.ステートメントの文章は,「です,ます」調で書かなければならないのでしょうか。「だ,である」調で書きたいのですが,それは変だと友達に言われました。

A5.確定した形式などありません。印象面の問題なので,自分にとって書きやすいもの,読み手にとって印象の良いもの選びましょう。

 たとえば,以前私が担当した社会人の方はステートメントに「だ,である」調を用いました。しかし,未修4名程度しか全額免除を出さない有名私大の学費全額免除を得ています。

 要は説得力のある文章において,どちらの方が用いやすいかという問題です。
 仮に皆さんが将来大企業に勤務した場合,社内で決裁を貰うためには稟議書という書類を課されます。稟議書とは,決裁権限者が案件を把握し,その意思決定の可否を判断するための内部資料です。そこでは一般的に,「だ,である」調が用いられています(もちろん企業にもよるでしょうが)。このため,社会人経験者などは,ステートメントの文章を説得力のあるものとするために,また慣れているということもあり,あえて「だ,である」調を用いる方も多いです。

 それに対して,学生さんはやはり「です,ます」調を用いる方が多いです。その理由としては,やはり丁寧な印象を持たれたいという考えや,義務教育課程を通じ,作文等文章では「です・ます」調で書くよう指導されたという事情が挙げられるでしょうか。  

 いずれにせよ,必ず「です,ます」調でなければならない,「です・ます」調でなければ減点というものではありません。その文章内容や自分の境遇等と相談して文体を決めればよいでしょう。

Q6.私は昨年もロースクールを受験しており,その際に作成したステートメントがあります。なお昨年は,出願要件を満たしていたものの書類選考で落とされてしまいました(成績は早期卒業要件を満たす程度)。今年もそのまま提出してもよいでしょうか。

A6.必ず見直しましょう。修正すべき箇所はあるかと思います。

 昨年,出願要件を満たしているものの書類審査で落とされたということは,おそらくそのステートメントに何かしらの問題があったことが十分に考えられます。前述のとおり,問いにきちんと答えているか,加えて誤字脱字はないか,他校のステートメントのコピペではないか,論理力のある文章となっているか,きちんと確認しましょう。

 今回も,BEXA記事「2022年度 法科大学院入試対策ガイド」をご講読くださり,誠にありがとうございます。  今回は「ステートメント対策」についてご案内いたしました。
 次回からお待ちかねの各法科大学院の個別紹介と入試問題分析・入試対策案内に入ります。
 次回は人気の高い慶應義塾大学法科大学院について解説する予定です。
ご期待ください。

 また,「【更新版】2022年度 法科大学院入試 試験日カレンダー 6月~12月分」もご活用頂ければ幸いです。

2021年8月9日   藤澤たてひと 

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