目次(項目番号は第1回からの通し番号です)
このガイドは法曹へ関心を持つ皆さんに法科大学院の紹介とその入試対策を活用してもらうという目的によるものです。
内容は大きく分けて《法科大学院とは》《法学未修者コースとは》《法学既修者コースとは》《各校別》の4つです。そのほかにも,試験日カレンダー などの資料も随時アップします。
2022年度 法科大学院入試対策ガイド第3回は法学未修者の筆記試験対策についてです。 ツイッターの質問箱で,受験生の皆さんから質問が多い事項についてまとめて解説,ご案内いたします。
(第2回「入試選抜の分かりにくいところをズバッと解説!」はこちらから。)
下記本文中、ブルー太字のQ部分が皆さんからの具体的な質問例です。
Q.近年の入試問題の傾向について教えてください。
A.近年の入試問題の傾向
①与えられた問題文(論評等)を読み,その文章の要約をしたうえで,それに対する自身の意見を問うもの(以下,「論評意見型」)が主流です。
②当事者の会話が問題文に記載されており、そこで与えられた指示内容を踏まえた上で,対応策について回答するもの(以下,「問題解決型」)の小論文を課す法科大学院もあります。
近年の筆記試験では,①が依然として多いですが,面接試験を課さない法科大学院もあり,その影響からか②の形式を採る法科大学院入試問題も少なくありません。大別すると上記2点に分類されるでしょう。
Q.法科大学院入試(法学未修者コース)対策問題集を買ったのですが,解答を見ても意見が終始一貫していないものや,解答内容に疑義のあるものも多く存在しているように思えます。更に,何にせよ掲載されている問題が10年以上前の問題ばかりで古すぎます。現在の入試の傾向に沿った,法学未修者コース小論文対策に有益な教材を教えてください。
A.大手予備校などから法科大学院小論文対策書籍は販売されています。しかし残念なことに,10年以上前から新刊・改訂はありません。そうしたことから、藤澤が自信を持って皆さんにお薦めできる市販書籍・講座はございません(詳しくは、第2回「(1)ウ 小論文用対策書籍のお薦めを教えて?」をご参照ください)。
Q.市販の問題集で対策する以外に,お勧めの方法ありますでしょうか。できれば正確な解答を見ながら自分の解答が正しいか確認したいです。
A.唯一,一部の法科大学院側が公表する問題解説・採点実感・解答については,受験生に強く薦めています。もちろん,無料で提供されており,かつ大学院の教授ら入試担当者が作成しているので,質については担保されています。
第2回で予告したお待ちかねの法科大学院公認の解答解説について説明します。 以下記載の法科大学院では,大学院側が受験生に求める解答・出題の趣旨や採点表・採点実感が掲載されており,非常に参考になります。藤澤としては,市販の問題集や予備校で小論文対策をするよりも,費用は掛からないうえ,こちらをみっちりやることを強く勧めます。
下記の問題だけで全校の法学未修者コースの試験に十分に対策することが可能であり(演習書一冊分以上ある),かつ出題者が求めている正確な解答例を無料で知ることができるからです。
再度繰り返します。市販の小論文入試対策参考書や予備校講座を買う前に,これを一度熟読し,解いてみてください。大学の入試担当(大学教授)が問題を作成し,公式に解答例を掲載しています。どの予備校の解答例や問題集よりも正確性は担保されているので,以下のロースクールの問題を利用することをお勧めします。
・同志社大学法科大学院(http://law-school.doshisha.ac.jp/02_entrance_ex/question.html)
問題文は掲載されていませんが,受験生がどのように解答をするのが望ましいか,法科大学院側が公式に解答例を作成・掲載しています。文章の要約問題の記載,簡易意見論述型の書き方・解答例として非常に参考になります。同大学院を受験しない志願者も,一度は目を通してみることを薦めます。文字数も少ないので,すぐに確認できる内容です。
・関西学院大学法科大学院(https://www.kwansei.ac.jp/lawschool/lawschool_012767.html)
近年,論評型の小論文を出題しており,法科大学院側が公式に解答例を公表しています。 問題の難易度は相対的に高く,人気国立大学法科大学院(合格率首位の一橋大など)と問題形式が似ていますので,そこを受験する方は勿論のこと,どの大学院の法学未修者コースを受験する場合でも非常に参考なります。それだけでなく,出題者の意図する解答例が過去5年分かつ全日程(全15問程度)掲載されています。市販の問題集や予備校の解答例以上の水準の問題・解答例が無料で手に入りますので,演習に取り掛かるのであれば,こちらを一度解いてみることを強く勧めます。
・日本大学法科大学院(https://www.law.nihon-u.ac.jp/lawschool/admissions03.html)
直近では問題解決型の小論文が出題されています。解答例の記載はないが,採点基準が詳細に説明されており,法科大学院入試において出題者が求める注意点,加点・減点項目が何か正確に把握することが出来ます。
・専修大学法科法科大学院 (https://www.senshu-u.ac.jp/education/lawschool/admission/archive.html)
問題解説については非常に簡易であり,一般的な法科大学院入試の出題の趣旨記載程度ですので,解説は上記と比べると参考にならないことも考えられます。また,試験日程によっては解答例の記載がなく,一般的な解説に留まるものもあります。
しかし,入試期によっては1,000字程度の論述式解答例について詳細に記載されていることから(参照:同校令和3年度第Ⅱ期入試,10月特別入試),同大学院と同程度の文字数による小論文作成が求められる学校を受験する方には,決められた文字数でどのように記載すれば良いのか非常に参考になると思います。
上記4校のロースクールの問題だけでも,通常の法科大学院の数年分(日程も含めるとその数倍の問題量)の入試問題を解くことが出来ます。また,解答の質は担保されています。ぜひ問題集として利用することをお勧めします。
Q.試験直前期以外は机に座って勉強するのが苦手です。そのため,普段から通学途中の時間などを有効活用して勉強しています。普段の生活の中で勉強できる方法があれば取り入れたいのですが,私に合った小論文対策方法のオススメを教えてください。
A.小論文(意見型)対策だけでなく,後述の口頭試問型口述試験にも有益な勉強方法があります。机に向かわなくても,ふと時間が出来たときに,また通学途中やテレビを見ながらでも出来る勉強方法なので,ぜひ日々の生活の中で取り入れてみてください。
◆勉強方法◆
①ニュースや新聞を見て問題を把握する(現代の社会問題について知見を広げるため)。
②ニュース番組ではコメンテーターの主張・意見を聞く。なお,新聞の意見欄でも可。
③それらを踏まえた上で,頭の中で簡単に要約し,何が問題となっているのかを把握する(要約力)。
時間があれば頭の中で内容を構成してみる。
④仮にコメンテーター等の意見を採用した場合,それでは欠けている視点,具体的には保護されない利益が生じるのではないか。
一方の利益ばかりを考えた偏った意見となっていないか(失われている利益がないか)ピックアップする(意見型小論文の土台)。
⑤(余裕があれば)自分の意見を頭の中で考える・構成する。
このような考え方は,未修者小論文だけでなく,具体的な事案の検討の際にも不可欠となってきます。実務と言っても身近ではないので,以下では,憲法等の論述式試験における解答作成の視点を例に出し,案内します。
同法の論述式試験では,法律知識を吐き出す前に
ⅰ本件で制約されている権利・自由は何か正確に把握する
(原告の主張。上記①基礎知識の存在と③問題を正確に把握する能力および要約力に相当)。
ⅱ制約によって守ろうとしている利益はなにかを正確に把握し(被告の主張。上記②および③に相当),
ⅲ両者を比較し,権利の重要性や制約態様を踏まえ,妥当な結論を導く(裁判所の判断に相当。上記④および⑤に相当)
が求められています。
すなわち,知識を吐き出す以前の問題として,実務や論述式試験では両当事者の悩みや主張を正確に把握し,頭の中で適切に要約・処理し,妥当な結論・解決策を導く必要があります。それらの基礎となる視点(潜在能力)を受験生らが有しているのか・素質があるのか見極めるために,法科大学院は法学未修者コースの受験生に対し,小論文を課しているわけです。
法科大学院側が小論文を課している趣旨を把握すれば,もう何も怖いものはありません。将来の法曹になるための基本的な知識・視点を有しているのか,そこが問われているだけです。日々の勉強では焦らずに,きちんと文章を読み,内容を正確に把握しましょう。
なお,①~⑤の内容は,文章の内容把握の訓練にも用いることが出来ます。頭の体操の一つとして,日々少しずつこなしていきましょう。
Q.私の周りには予備校がありません。また通信講座で頼むにしても,大手司法試験予備校ではアルバイトの学生が添削していると聞いており,一抹の不安があります。仮に自分で添削するとしたら,どのようにすればよいのでしょうか。
A.(ア)自分で書いた小論文解答(特に意見型)を添削する方法
◆解答について◆
正確な解答筋の小論文(上記法科大学院が公開している解答解説)であれば,配点や公式解答例が記載されているので,自分の解答がそれに沿って記載されているか,各自で小問ご とに確認しましょう。
一方で市販の参考書等に付属している解答例については,それが法科大学院の求める解答例とはかけ離れている場合もあります。過信せず,あくまでも読み物(参考解答例)と位置 付けましょう。自分で採点・添削する際の模範解答として用いるのは非常に危険です。
また,予備校等で公表されている合格答案についても,解答の正確性に疑義のあるものも多いのが実情です。実際予備校に解答を寄稿した合格者の方々が後日点数開示してみたところ,48点~70点未満のものが混在しており,小論文が平均点以下でも合格した例は存在する からです。
法学未修者コース入試の場合,小論文のみで合格を左右することはなく(ただし,問題文を把握できていない・趣旨と離れて解答している場合を除く),また学校によっては基準点以下でも優遇枠に入れば合格する大学院等もあることから,合格者でも答案の水準に大きな差があります。
合格者答案を過信せず,あくまでも合格水準を把握するための利用に留めましょう。
(イ)添削についての原則論(解答例の公表していない法科大学院入試過去問を含む)
既に回答いたしました『上記記載の法科大学院公認の解答解説』項目に記載致しました各法科大学院の問題を演習教材として利用することを強く勧めます。通常の法科大学院の問題では,問題自体著作権法上の問題から公表されていないケースや,出題の趣旨の内容が薄いともあります。そのような場合,自分で添削しても,それが出題者の求めることを適切に記載しているのか・合格水準にあるのか把握することは困難で,復習もままならないか らです。
また,他者が添削する場合も,その人物がきちんとその大学の過去問を分析していなければ,単に書いた文章を読み添削する程度に留まってしまいかねないためです。そのような過去問はあくまでも直前期に,問題の傾向を把握するための読み物として位置づ け,傾向を把握する程度に留めるのが適切です。
(ウ)それでも自分は受験校の過去問だけを解くという方
万が一,何としてでも自分が受験する法科大学院の問題を解きたいならば,以下の事項に注意して添削してください。
①出題の趣旨を読んで内容を把握する
(ただし,大学院によっては,出題者が書きたいことを数行程度書くのみで,問題に対する解説になってないものも存在しているのも事実 です)。
②自分が書いた文章を一日後~数日後に再度読み,その際に内容を添削する。
→書いたばかりの感覚が消え,多少なりとも客観的に把握できるようになるからです。
③特に主語と述語の対応関係を確認する。また,日本語として違和感のある文章となっていないか。
④書いた文字は,読むことが出来る水準にあるか。
⑤問題文を読み,内容を正確に把握しているか。
上記のことをやったうえで,それでも疑問点が生じた場合,出題の趣旨に書かれている 以上のことは正確に把握できないという点に留意が必要です。
再三繰り返しますが,直前期に受験校の過去問を確認する程度ならまだしも,普段の演 習に受験校の過去問を用いるのは,(解答解説が充実している場合を除き)自己流の文章となってしまいかねず,非常に危険です。問題の解答例や採点基準等が存在し,受験生に対して丁寧に解説している場合を除き,過去の入試問題は確認程度に留めることが無難でしょう。
今回も,BEXA記事「2022年度 法科大学院入試対策ガイド」をご講読くださり,誠にありがとうございます。
今回のような質問への解説につきましては,適宜追加してまいります。
次回は「ステメン」について解説する予定です。
ご期待ください。
また,「【更新版】2022年度 法科大学院入試 試験日カレンダー 6月~12月分」もご活用頂ければ幸いです。
2021年7月5日 藤澤たてひと
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