目 次
今年もそろそろ各法科大学院の募集要項が公開される時期が来ました。
また予備試験も受験し終わるとと、大学学部3~4年生にとってはそろそろ色んな現実に気が付くようになります。「果たして私が予備試験ルートで良いのか」「予備校の宣伝・大学入試の偏差値主義に流され過ぎている気がする」「学部に3年以上在学しているのに、入学前と比べて考え方を含めて何も成長していないような・・・」といったものです。
そこで予備試験などが一段落ついた時期、ここで一度いろんな視点で考えてみましょうというのが今回の企画です。
大学入試(特にマークシート方式のもの)と違い、答えは一つではありませんから。
私、BEXAともに、様々な視点からいろいろな事実や意見を提供します。皆さんで今一度、果たしてロースクールに進学するとは何か、今回は一緒に考えてみましょう。
今回の主題は「ロースクールに進学すること・進学するメリット」についてです。そして、その検討し際しては、その際に色んな視点に目を向けることの必要性を記事しました。この視点は、実はロースクール入試だけでなく、初対面の方との交渉や、就職活動やサマークラーク等の書類(各所の指定記載欄)を作成する際にも重要なことなのです。
例えば皆さんがある日突然、「知らない誰かと交渉して、何らかのサービス供給契約を成立させてこい」という命令を与えられたしましょう。
民法でいうなら契約の成立には双方の意思が合致すること・・・とすぐに答えは出るでしょう。このことについて要件事実や法律要件を指摘するだけならすごく簡単かもしれませんね。ですが実社会において一番難しく、だけれども一番重要な事項は、この“(双方の意思の合致の前提として)どのようにして相手方の信頼を得るか”にあります。
そして、この信頼を得るためには答えはありませんが、どのケースでも必ず必要不可欠なことは「まずは相手を知ること」にあります。
ロースクール進学を検討するなら、ロースクール制度を批判するなら、ステートメントを作成するなら、その前提としてまずは「相手をきちんと知りましょう」。
この記事を読んでいる方は法科大学院制度や予備試験制度について、一通り知っていると思います。そのため、今回は法科大学院制度について説明は割愛させていただきます。
また、ここでは予備校や大学などが広告等を使い誘因する「●●●●大学のここが凄い!!」、や、漠然と「最短ルート合格」とか、そういう漠然不明確なPRは記載しませんのでご留意願います。また、たとえば法科大学院「予備試験と違い、模擬裁判などをローの授業で学ぶことが出来る」とか、法科大学院側はよくPRする事項については個人的には差別化要素にはならないので(形式的にはなりますが)敢えて記載しませんでした(司法修習でも機会がありますしね…)。
まず、予備試験に合格する可能性・割合についてみてみましょう。
皆さんは、予備試験の合格者属性というものをご覧になったことはありますか。まず資料として、以下では『令和3年度予備試験最終結果表』を添付いたします。全文をご覧になる場合は⇩⇩⇩からリンクしてください。
https://www.moj.go.jp/content/001358476.pdf
この表を見る際に、2点ほど注意して頂きたい点があります。
1点目は、この表については「出願時の」職種・身分基準であるということです。
予備試験は例年1月中旬頃の出願です。それに対し、短答式試験は翌年度5月、口述(最終試験)は11月中旬です。つまり出願時の学年と合格時では、学年が1つ違うということです。
そのため、大学生の中に記載されている人物が合格時も本当に大学生かというと、大部分は「いいえ」ということになります
では、実際の受験生はどれくらいなのか?というと、以下の文科省資料が参考になると思います。全文をご覧になる場合は⇩⇩⇩からリンクしてください。
https://www.mext.go.jp/content/20211217-mxt_senmon02-000019554_3.pdf
つまり、令和3年度の予備試験では、法務省資料によると、出願時の大学生は3,508名となっていますが、実際に受験時も大学生であった者は2,564名に減ります(▲944名。正確にはこの数に出願当時高校生の受験者が若干増えることとなります。以下同旨)。
そして上記資料より、大学生の実際の合格者数は153名ですから、それ以外の差額99名の方は概ね法科大学院等に進学したことが強く予想されます。つまり、最大値99名の方が同大学院在学1年目で予備試験に合格したということになります。
(ア)大学学部生の名目(形式)合格率
上記より、大学在学中に予備試験に合格し、司法試験受験資格を得ることができる実質割合は約5.97%となります。
(イ)(実態反映後の)法科大学院在学中合格者を除いた全体の合格率
また、卒業後上記法科大学院に進学したことが見込まれる上記合格者(99名)と、法科大学院3年次に予備試験に合格した方の人数(99名※法務省資料参照)を除いた合格者は269名となります。
その人数を全体の受験者数(11,717名)から学部既卒1年目の者と法科大学院受験生の数(3,622名)を減じ(計8,095名)、同合格者数(269名)を除いた数で算出した実態合格率は、約3.3%となります。
(ウ)社会人合格率(無職を含む)
社会人については、全体の受験者数(11,717名)から、大学学部生と法科大学院生・大学院生を除いた人数(計4,598名)で算出が可能です。
同合格者数は114名ですので、約1.6%の合格率となります。(参考:この比率からもわかる通り,予備校にとっては給与収入などのある社会人受験生の顧客獲得は来年度以降の継続的収益に繋がることから,受講を積極的に誘引するという背景もあります)
(エ)小括
これに対し、法科大学院に進学した場合の司法試験受験資格取得割合はどうでしょうか。
令和3年3月基準での法科大学院全体の標準修業年限修了率は約70%です。
これは、2年課程又は3年課程でストレートに修了し、司法試験受験資格を得られる割合は70%ということです。もちろん、各校の状況や既修・未修コースか否かで異なりますので、詳細については各校の公表値をご覧いただく必要があります。令和3年3月基準でいえば、たとえば愛知大学さんのように標準修業年限修了率が悪化(16.7%)しているところもありますが、それでも予備試験経由で本試験受験資格を得られる割合と比べると、差は一目瞭然です。
つまり、自分自身の人生プランを策定し、「おおよそ何年後までに法曹になりたい」という明確かつ確定的な目標をもっているのであれば、法科大学院という環境下で集中して勉強をすることを私は勧めたいと思います。このデータを作成した今では、真に法曹を志望する方に対して「予備試験はリスクが低いから法科大学院ではなく予備試験受験を」との言説を流すことは私には出来ません。
上記のサンプルを基に、社会人受験生の費用を算出してみましょう。
大学生や法科大学院生を除いた方の予備試験合格率は、上記のとおり約3.3%です。
そして予備校がこぞって「1年合格者輩出」と広告しているということは、裏を返せばそれだけ希少(だから宣伝になる)ということです。つまり1年で合格する人はほぼいません(これまで他の手段で法律の勉強をしていた方、法律職出身者(裁判所事務官や特定の国家公務員)、一般教養が非常に得意な方などを除く)。
某大学の司法試験研究室に1年次に入学し、朝から夜まで勉強し、それでようやく大学4年次に予備試験に合格する方が数名出る程度ですので、最終合格までの実態期間は早くて3年~、そのうえでロー在学中にようやく合格できる方もいますので勉強期間は5年に上ることとなります(サボっている等の個人の事情を取捨したうえで)。
某塾の入門講座を調べてみると、①入門講座で110万円程度、論文演習や答練もいれて年間130万円。基本的に1年で合格はしませんので、そうすると②再度模試や弱点強化の為に講義を購入、③教材の購入・・・。期間が延びれば延びるほど、逸失利益や費用負担は多くなります。また、司法試験受験資格を得られるまでの期間は不確定ですので、下手をすれば無限に高額の費用負担が生じることとなります。
反面、正社員でしたら昇給・昇進・部下や上司との関係性を犠牲にして勉学に励む必要もあります。そうすると、残業代や給与収入を犠牲にして臨むわけですから、最悪のケースではどちらも中途半端となり、収入に占める費用割合だけが増えていくという事象も生じかねません。
つまり、1年で入門レベルからでも仮に合格できるのであれば費用負担は少ないでしょう。しかし残念ながら、それは現実的な合格率データからして夢物語・不可能であることを物語っています。
現実的に見るのであれば、特に学習入門・初学者であれば数年はかかることを覚悟する必要があります。その場合、どのような選択をすればよいか。
少し話が逸れますが・・・、この問題について筆者の意見を述べるのであれば、社会人(正社員を想定)であれば上記問題との均衡を図るためにも、①予備試験の勉強をしつつ、②3年で予備試験合格しないのであれば(知識を無駄にしないためにも撤退するのではなく)法科大学院に進学する、③法科大学院に進学し、実力を確認するためにも予備試験も並行的に受験する(合格したら儲けものというステンスで。なお現在の司法試験制度では、ローに入りながら予備試験だけに力をいれるメリットがあるのかは疑問です)といった、現実的なプランを立てる必要があると思います。
人生は有限で、時間は待っていてくれません。ダラダラやるなら、明確な目標をもって行動しましょう。試験には失敗が付き物ですが、目標をもって計画して行動していれば、仮に失敗したとしてもそれがダラダラと長期間になるリスクは避けることが出来ます。
以上が、藤澤の意見です。
話を戻し、
上記より費用負担については、上記の非現実的な視点で見れば予備試験ルートのほうが安いことになりますが、そのように考える・結論づけるのは非常に短絡的であり、かつ予備ルートのほうが安いという結論をする予備校については、まだきちんとした分析が行き届いていないことを物語っています。
明確な時期や目標をもって自分の人生プランをきちんと策定し、そのうえで本当に予備試験の方が安いのか、考えてみましょう。
これはタイトルのとおりです。学生でなければ原則として猶予はできません。納付義務が生じます。
以降は、箇条書きでも内容がわかりやすいので、列挙させて頂きます。ただし、義務教育とは異なり、下記の事項を有効活用できるか否かは貴方次第です。与えられた機会を有効活用してみましょう。
・・・と挙げればキリがありませんが、進路を決定するファクターとして重要な要素はは
(1)(2)の要素です。
今一度考えたうえで、これからの法科大学院入試や予備試験、果ては人生プランの設計に臨みましょう。
法科大学院入試は実際とのくらいの競争倍率なのでしょうか。その事実を知る必要があります。
別添資料『令和4年度各法科大学院入学者選抜状況』では、令和4年度入試における各校の競争倍率や社会人・他学部の受験者数について掲載されています。こちらをご覧いただければ法科大学院各校の概ねの競争倍率を把握することが出来ます。
ただし注意点もあります。たとえば早稲田大学法科大学院の場合、昨年度入試では1次書類審査が廃止されたうえ、慶応義塾大学法科大学院の合格発表後であったことから、志願者数≠受験者数であることが確実であるのに、志願者数=受験者数となっており誤った数値が文部科学省に対して報告されています。このような場合でも文科省側は法科大学院各校の報告に基づき、上記資料を作成しているので、大学院によっては実際の競争倍率と乖離した競争倍率となっていることに注意が必要です。そのため「志願者数=受験者数」として報告している法科大学院については、実態とは大きくかけ離れていることが予想されます(事実、受験生に対するヒアリング調査の結果、昨年の早稲田大学法科大学院については試験教室によっては15~20%程度不受験であったことが判明しています)。
また、社会人の方は予備ルートではなく法科大学院を選ぶとしても、実際どの程度の人々がロースクールを受験しているのか、予備校から積極的に情報発信されていません。社会人であれば(予備校の収益の観点からしても)予備試験を選択しろという過大な広告がなされていますが、では実際に法科大学院を受験する社会人は果たして少ないのでしょうか。その実情を把握して頂きたく、『法科大学院入試における社会人受験者割合』資料を作成いたしましたので、ご覧いただければと思います。
法科大学院の進学を選ぶとしても、無暗に・何も考えずに法科大学院を選択し、進学をした場合には大きなリスクを伴うこととなります。
具体的には
①入学しても上の学年に上がれない(留年する)
②授業料が予想外に高い・学費免除ということで入学したのに成績要件に引っかかり打ち切られた。
③修了しても殆どの卒業生が司法試験に合格できない
④学生の勉強に対するモチベーションが低い、等々です。
これでは予備試験ではなく法科大学院を選んだのに、結局司法試験受験資格を得るのに過大な費用が掛かった・過剰な年数がかかったということになってしまいます。
そこでこのようなリスクを避けるためにも、藤澤が文科省で公表されている資料を基に、以下の表を作成いたしました。各自ご覧になり、最終的な意思決定の際の資料として有効に利用して頂ければと思います。
<添付資料>をご覧いただくにはログイン又は無料登録が必要です。
『実質標準修業年限修了率・在学中司法試験合格者数』
『令和3年基準留年率』
『令和3年4月時点 法科大学院学費一覧(文科省に対する法科大学院による令和4年4月報告に基づく数値)』
今回の連載については、やみくもに「予備試験が良い」「法科大学院が良い」というものではなく、両者を比較したうえで、盲目的に「予備試験が良い」という言説に流され過ぎないよう意識を喚起するために作成いたしました。
予備校が収益確保の手段として無暗に情報を発信している「予備試験のほうが費用の面や年数・リスク面からしても優れている(特に社会人)」という言説について、果たして本当にそう言えるのか(根拠のある言説なのか)という観点から、改めて精査しようとするものです。
なお、あくまでも筆者の意見としては「受験者の境遇による」と考えており、普遍的な解答というものはないと考えています。ただし、予備試験ルートにおけるリスクを把握しておかないと、いざ自分が失敗したときに、やみくもに費用や時間を費やしただけで、何も残らないという結果だけが残ることとなります。それは正社員であれば特に、です(昇進・昇給を犠牲など)。
そのため、本連載をご覧になり、そのうえで意思決定に際しては各自できちんと情報を分析し、リスク管理をしたうえで、意思決定をして頂ければ幸いです。
特に「ゴールから逆算した場合にどのような道・方法を選択すれば良いか」という視点で考えて頂き、果たして①予備試験ルートがよいのか、それとも②法科大学院ルートがよいのか、③年数をかけ予備試験の勉強をやりつつ基礎知識を習得する過程で法科大学院ルートを選択し、同大学院在学中に予備試験にも合格するという折衷案を目指すのかということを考えて戴ければ幸いです。
今回も、BEXA記事「藤澤たてひと●法科大学院受験シリーズ」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は「ロースクールに進学するメリットについて」皆さまと一緒に考えてみました。
次回以降も、法科大学院受験に役立つ情報を発信してまいります。
ご期待ください。
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2022年6月19日 藤澤たてひと
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