前編では、憲法・民法・刑法の基本書を取り上げました。
後編では、行政法・会社法・民事訴訟法・刑事訴訟法について、各科目のおすすめ基本書を紹介します。
行政法では個別法の条文、会社法では基本事項の説明、民事訴訟法では具体例や図、刑事訴訟法では公判手続の具体例など、それぞれの本の特徴を見ていきましょう。
今回紹介する行政法・会社法・民事訴訟法・刑事訴訟法の基本書
後編で取り上げる基本書は、次のとおりです。
行政法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|中原茂樹『基本行政法[第4版]』
行政法でおすすめしたい基本書が、中原茂樹『基本行政法[第4版]』です。
『基本行政法』の特徴は、判例を基にした設例があり、個別法の参照条文も掲載されている点にあります。
『基本行政法』では、判例を基にした設例の中に、関連する個別法の条文が示されています。たとえば、病院開設中止勧告事件では、医療法の条文が挙げられています。
また、判旨の引用部分や解説部分でも、必要に応じて個別法の条文に言及されています。
そのため、単に判例の結論を確認するだけでなく、個別法の条文をどのように読み、どのように解釈するのかまで学べる構成になっています。
『基本行政法』は、基礎から個別法の解釈まで学べる点に特徴があります。
その他のおすすめ基本書|櫻井敬子・橋本博之『行政法[第7版]』
櫻井敬子・橋本博之『行政法[第7版]』は、通称「サクハシ」と呼ばれる行政法の基本書です。
サクハシの特徴は、簡潔にまとまっている点にあります。
一方で、注意したいのは、個別法の解釈まで学ぶのには適さない点です。
判旨の引用が個別法の解釈まで学ぶのには不十分な箇所もあるため、個別法の解釈を学ぶ、すなわち論文試験に必要な力を養うためには別の教材(橋本博之『行政法判例ノート』などの判例集)が必要になります。
会社法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|高橋美加ほか『会社法[第4版]』
会社法でおすすめしたい基本書が、高橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦『会社法[第4版]』です。
表紙の色から、いわゆる「紅白本」と呼ばれることがあります。
『紅白本』の特徴は、会社法の基本事項を所与とせずに説明している点にあります。
たとえば、会社法では「非公開会社」という言葉が出てきます。初めて会社法を学ぶ段階では、非公開会社がどのような会社なのか、なぜ公開会社と非公開会社で規制のあり方が大きく異なるのかを理解する必要があります。
『紅白本』では、このような基本事項についても丁寧な説明があります。
また、「司法試験・司法試験予備試験の過去の出題に応じ、必要な部分についての説明を追加した。」(第3版はしがき)とあるように、著者の先生方が司法試験・予備試験の出題傾向を踏まえて基本書を執筆している点も特徴です。
その他のおすすめ基本書|伊藤靖史ほか『会社法[第6版]』LEGAL QUEST
伊藤靖史ほか『会社法[第6版]』は、LEGAL QUESTシリーズの会社法基本書です。
条文の内容を確認しながら学べる点や、条文索引がある点に特徴があります。
一方で、注意したいのは、ところどころ理由の説明が不十分に感じられる箇所がある点です。
具体例として挙げられているのが、取締役解任の際の損害賠償です。
この点については、期待保護という観点からの説明が問題になりますが、LEGAL QUEST会社法だけでは理由付けを補いながら読む必要が出てくる場面があります。
その他のおすすめ基本書|田中亘『会社法[第5版]』
田中亘『会社法[第5版]』は、辞書的に使うのにお勧めしたい本です。
紅白本が約600ページであるのに対し、田中『会社法』は800ページ以上、索引まで含めると900ページ近くあるため、通読には不向きです。
民事訴訟法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法[第2版]』
民事訴訟法でおすすめしたい基本書が、和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法[第2版]』です。
通称「和田民訴」と呼ばれることがあります。
『和田民訴』の特徴は、具体例や図が使われており、概念の理解がしやすい点にあります。
抽象的な概念を、具体例や図と結びつけながら理解できる構成になっています。
また、必要以上に学説に立ち入らない点も特徴です。
判例・実務と学説が対立する場面でも、必要以上に学説に深入りしすぎず、判例・実務をベースに学びやすい構成になっています。
注意したいのは、第2版では令和4年改正(IT化に関する改正)が反映されていない点です。そのため、IT化についての改正は別途確認する必要があります。
その他のおすすめ基本書|三木浩一ほか『民事訴訟法[第5版]』LEGAL QUEST
三木浩一ほか『民事訴訟法[第5版]』は、LEGAL QUESTシリーズの民事訴訟法基本書です。
この本は、令和4年改正が反映されています。
一方で、注意したいのは、具体例が和田民訴より少なく、抽象的な概念を理解しづらい点です。
また、ところどころ、判例・通説、つまり実務とは異なる見解の説明が長い点も注意が必要です。
その他のおすすめ基本書|瀬木比呂志『民事訴訟法[第3版]』
瀬木比呂志『民事訴訟法[第3版]』も、民事訴訟法の基本書として比較対象になる一冊です。
特徴は、裁判官の実務経験からの論述が勉強になる点です。
実務経験に基づく論述が含まれている点は、この本の大きな特徴です。
一方で、注意したいのは、索引が引きづらい点です。
用語索引がページ数ではなく各項目番号を引く形式になっており、そこからページを確認する必要があります。
刑事訴訟法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|吉開多一ほか『基本刑事訴訟法Ⅰ・Ⅱ』
刑事訴訟法でおすすめしたい基本書が、吉開多一ほか『基本刑事訴訟法Ⅰ 手続理解編』『基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編[第2版]』です。
『基本刑事訴訟法』は、予備試験向けという点に特徴があります。
大きな特徴は、公判手続の場面での当事者のやり取りの具体例が提示されており、手続の具体的なイメージを持ちやすい点です。
手続編第7講・第8講では、公判手続の場面でのやり取りが具体的に示されています。
そのため、単に手続名や論点を確認するだけでなく、刑事手続が実際にどのように進むのかをイメージしながら学べる構成になっています。
実務基礎との関係でも、公判手続の具体的なイメージを持てる点は重要です。
その他のおすすめ基本書|宇藤崇ほか『刑事訴訟法[第3版]』LEGAL QUEST
宇藤崇ほか『刑事訴訟法[第3版]』は、LEGAL QUESTシリーズの刑事訴訟法基本書です。
この本もわかりやすい本です。一方で、基本刑訴と比べると、公判手続の記述は見劣りがします。
たとえば、誘導尋問の具体例や、人定質問の進め方などはほとんど書かれていないため、具体的な手続の流れをイメージしづらいです。
そのため、実務基礎を考えると、別に刑事手続の解説書が必要になります。
その他のおすすめ基本書|酒巻匡『刑事訴訟法[第3版]』
酒巻匡『刑事訴訟法[第3版]』も、刑事訴訟法の基本書として比較対象になる一冊です。
特徴は、判例と学説が対立する論点で、自説の論述が多い点です(たとえば、別件逮捕勾留の箇所)。
酒巻『刑事訴訟法』は、判例・通説にも言及していますが、判例と学説が対立する場面では、自説の論述が多い本です。
そのため、判例・通説を一定のレベルで理解していないと読みづらいとされています。
酒巻『刑事訴訟法』を読む場合には、判例・通説の基本的な理解を前提に読み進める必要があります。



