司法試験・予備試験の学習を始めると、多くの受験生が悩むのが「どの基本書を使えばよいのか」という問題です。
基本書には、それぞれに良さがあります。もっとも、受験勉強で使う以上、単に詳しい本や読みやすい本を選べばよいわけではありません。
大切なのは、司法試験・予備試験の学習に必要な情報を押さえながら、最後まで読み進められる一冊を選ぶことです。
そこで本記事では、荒井たかふみ講師が紹介する「全7科目のおすすめ基本書」のうち、前編として憲法・民法・刑法の基本書を取り上げます。
まずは基本書選びで重視したいポイントを整理したうえで、各科目の基本書の特徴を見ていきましょう。
基本書選びで重視したい5つのポイント
まず、基本書を選ぶ際の視点を整理しておきましょう。
① 通読可能な分量であること
基本書には、初学者向けの入門書から、辞書のように使う分厚い本までさまざまなものがあります。
入門書は読みやすい反面、司法試験・予備試験に向けた情報量としては足りないことがあります。一方で、分厚い本は情報量が豊富であっても、初学者が最初から通読するには負担が大きくなりがちです。
受験勉強で使う基本書としては、必要十分な情報がまとまっていて、なおかつ通読できる分量であることが重要です。
② 判例・通説を中心に学べること
司法試験・予備試験対策では、まず判例・通説をしっかり理解することが大切です。
基本書の中には、著者独自の学説を厚く説明しているものもあります。それ自体に価値がないわけではありませんが、受験対策として使う場合には、判例・通説に依拠して説明されているかどうかを確認する必要があります。
特に、憲法や刑法のように判例と学説の対立が大きい科目では、この点が重要になります。
③ 試験に必要な情報が掲載されていること
読みやすい本であっても、司法試験・予備試験で必要となる判例や論点が十分に掲載されていなければ、受験対策としては不十分です。
初学者にも読みやすいことと、試験に対応できる情報量があること。その両方を満たしているかどうかが、基本書選びでは重要になります。
④ 記述が分かりやすいこと
必要な情報が載っていても、記述が分かりにくければ読み続けることは難しくなります。
最近の基本書には、図や具体例を用いて説明しているものもあります。特に民法のように、具体的な事案をイメージすることが重要な科目では、図やケースを用いた説明が理解を助けてくれます。
⑤ シェア率が高いこと
多くの受験生が使っている本には、それだけの理由があります。
また、試験との関係でも、「この本に載っている知識であれば出題してもよいだろう」という感覚が働くことがあります。そのため、受験生の間でどれだけ使われているかという点も、基本書選びの参考になります。
今回紹介する憲法・民法・刑法の基本書
本記事では、憲法・民法・刑法について、荒井たかふみ講師が紹介する基本書を取り上げます。
表では、各科目の中で特におすすめの基本書を「おすすめの基本書」、あわせて比較・検討したい本を「その他のおすすめ基本書」として整理しています。
ここから、各科目ごとに基本書の特徴を見ていきましょう。
憲法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|木下智史・伊藤建『基本憲法Ⅰ・Ⅱ』
憲法でおすすめしたい基本書が、木下智史・伊藤建『基本憲法Ⅰ 基本的人権』『基本憲法Ⅱ 総論・統治』です。
『基本憲法Ⅰ・Ⅱ』の大きな特徴は、判例・学説の知識を「答案のどの部分で使うか」という視点で整理されている点にあります。
憲法の答案を書くには、単に判例・学説の知識を知っているだけでなく、判例・学説の知識を答案のどの部分で使うのか、たとえば、権利が保障されているか否かの検討で使うのか、それとも制約態様について論述する際に使うのか、といった点まで理解しておく必要があります。
『基本憲法』では、「○○の意義」、「○○の内容」、「○○の判断枠組み」といったように、見出しレベルで知識が整理されています。
つまり、知識を単に覚えるだけではなく、答案上どの位置で使うのかを意識しながら学ぶことができます。これは、憲法の論文対策を考えるうえで大きなメリットです。
また、短答試験対策との関係でも、必要な範囲で判例や学説の説明が掲載されています。
短答試験では、判例そのものの知識だけでなく、判例に対する代表的な学説上の批判を知っていることで、ダミー肢を切りやすくなる場面があります。『基本憲法』では、そのような短答試験に必要な範囲の知識も説明されています。
そのため、『基本憲法Ⅰ・Ⅱ』は、憲法の知識を答案につなげながら学べる構成になっています。
その他のおすすめ基本書|芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第八版』
芦部信喜『憲法』は、簡潔な記述が特徴の基本書です。
憲法の各分野について、非常にコンパクトに記載されているため、重要な事項を短い文章で確認できる点に特徴があります。
一方で、記述が簡潔である分、その内容を答案に反映するのは簡単ではありません。
その他のおすすめ基本書|渡辺康行ほか『憲法Ⅰ・Ⅱ』
渡辺康行ほか『憲法Ⅰ 基本権』『憲法Ⅱ 総論・統治』も、憲法を学ぶうえで比較対象になる基本書です。
特徴としては、情報量が豊富であることが挙げられます。
人権編と統治編を合わせると分量が多く、通読用としては厚めです。
また、『基本憲法』と比べると、下級審の裁判例についての言及が多い点も特徴です。
下級審の裁判例は問題の素材になることもあるため、辞書的に参照する場面では有用です。一方で、通読用として考えると分量が多く、最初からすべてを読み込むには負担が大きい本です。
そのため、『憲法Ⅰ・Ⅱ』は、通読用として一気に読み進めるというより、必要に応じて参照する基本書として捉えると特徴を活かしやすいでしょう。
民法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|有斐閣ストゥディア民法(全7巻)
民法でおすすめしたい基本書が、有斐閣ストゥディア民法です。
全7巻と聞くと分量が多いように感じるかもしれません。しかし、1冊ごとの分量は比較的コンパクトで、300ページ前後の巻が中心です。中には250ページ程度の巻もあります。
有斐閣ストゥディア民法の大きな特徴は、重要条文や判例について、CASEとその説明という形式で解説されている点です。
民法では、具体的な事案をイメージしながら条文や判例を理解することが重要になります。
条文や判例を文字として読むだけでは、「どのような場面でその条文が問題になるのか」「どのような事案でその判例が意味を持つのか」が見えにくいことがあります。
その点、有斐閣ストゥディア民法では、CASEを通じて具体的な事案をイメージしながら学習できます。
また、文章だけでなく図も用いられているため、抽象的な法律関係を視覚的に理解しやすい点も特徴です。
さらに、頭から順番に読みやすいように工夫されている点も重要です。
民法では、ある分野を理解するために、別の分野の知識が必要になることがあります。例えば、総則分野を学んでいる段階でも、登記に関する知識が必要になる場面があります。
有斐閣ストゥディア民法では、そのような場合でも必要な範囲で補足説明がなされています。そのため、途中で別分野の知識につまずきにくく、読み進めやすい構成になっています。
その他のおすすめ基本書|潮見佳男『民法(全)[第3版補訂版]』
潮見佳男『民法(全)』も、民法を学ぶうえで比較対象になる基本書です。
この本の特徴は、条文や判例知識を必要十分な範囲で一冊にまとめている点にあります。
民法には非常に多くの条文があります。その中から、司法試験・予備試験の学習に必要となる条文や判例知識が整理されている点は、大きな特徴です。
一方で、事例の説明や図解はそれほど多くありません。
有斐閣ストゥディア民法では、具体的な事案や図を通じて理解できる場面が多いのに対し、潮見『民法(全)』では、具体的な場面をイメージしながら学ぶという点で少し難しさがあります。
そのため、民法を学んだ経験がある人が知識を整理するために読むには良い本ですが、これから民法を学ぶ人が最初に読む場合には、やや読みづらさを感じる可能性があります。
刑法のおすすめ基本書
おすすめの基本書|大塚裕史ほか『基本刑法Ⅰ・Ⅱ』
刑法でおすすめしたい基本書が、大塚裕史ほか『基本刑法Ⅰ 総論[第3版]』『基本刑法Ⅱ 各論[第4版]』です。
『基本刑法』の特徴は、判例・通説に依拠した説明がされている点にあります。
刑法の基本書には、体系書的に書かれているものもあります。そのような本では、著者の学説に基づく説明が厚くなり、司法試験・予備試験との関係では、そこまで深入りしなくてもよい部分まで詳しく扱われることがあります。
例えば、具体的符合説と法定的符合説の問題があります。
判例・通説は法定的符合説ですが、学説上は具体的符合説も支持されています。そのため、具体的符合説に沿った記述が厚くされている本もあります。
しかし、司法試験・予備試験との関係では、まず法定的符合説の処理を押さえることが重要です。
『基本刑法』は、判例・通説を軸にして説明されているため、受験との関係で学ぶべき内容を整理しやすい基本書です。
また、『基本刑法』では、まず条文を意識しながら基本事項を理解し、そのうえで論点を学ぶ構成になっています。そのため、論点だけを切り離して学ぶのではなく、条文や基本事項とのつながりを意識しながら学習できます。
判例・通説を中心に、基本事項から論点へと順序立てて学べる点が、『基本刑法Ⅰ・Ⅱ』の特徴です。



