本講座は、行政法の定番教科書「サクハシ」の著者・慶應義塾大学名誉教授の橋本博之先生、司法試験過去問対策の定番「行政法ガール」の著者・弁護士の大島義則先生、「行政法の流儀」でおなじみの弁護士の伊藤たける先生の共著「行政法解釈の技法」(弘文堂、2023年)を用いた講義です。
BEXAでリリースしていた「行政法の流儀(実践編)」に付属していた「行政法の流儀(基礎編ダイジェスト)」を大幅にリニューアルし、完成をさせた講義となります。
行政法の科目は、処分性、原告適格、本案上の主張さえおさえておけば簡単だと言われています。近年の司法試験や予備試験では、それ以外にも訴訟選択、固有の訴訟要件のほか、個別の論点も出題されていますが、合格者は「現場思考で乗り切れた!」というため、対策は必要ないと思いがちです。
しかし、合格者が未知の論点を現場思考で乗り切れたのは、処分性、原告適格、本案上の主張といった基本的な論点で、他の不合格者をごぼう抜きにするほど、いい答案が書けているのです。
多くの行政法の問題では、基本的な論証で差がつくことは稀です。差がついているとすれば、それは「当てはめ」なのです。
差がつく「当てはめ」をするためには、基礎知識の正しい理解が不可欠です。
たとえば、処分性は次のように定義されています。
「①公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、②その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」
この①②の要件の当てはめをするためには、それぞれの要件がなぜ必要なのかを知っていなければなりません。また、近年では、③実効的な権利救済も考慮要素となるといわれていますが、①②要件との関係をどのように考えるかも知らなければなりません。
取消訴訟の原告適格も同様です。原告的額が認められるのは、「法律上の利益を有する者」ですが、これについても、判例が次のように定義していることは有名です。
「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。」
しかし、「当該処分を定めた行政法規」が「個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含む」といえるためには、問題文中に掲げられた個別法を現場で解釈しなければなりません。数多くの個別法の当てはめをあらかじめ用意することは不可能ですから、この判例の説示の意味や、どのように当てはめるのかを正しく理解していなければ、差がつく「当てはめ」などできるはずもありません。
行政法では、訴訟要件論と本案論が区別されていることは有名です。しかし、訴訟選択も問題になるほか、これを考えるにあたっては、判決の終了論も重要となります。
たとえば、取消判決の第三者効と拘束力が生じと、民事訴訟とした場合と比べてどのようなメリットがあるか、具体的な事例を用いて説明することはできるでしょうか?
また、原告側には主張制限(行訴法10条)があることは有名ですが、典型論点である処分理由の差し替えは、訴訟上でどのようなときに登場するのでしょうか?
取消訴訟の訴訟物は「違法性一般」と言われていますが、その具体的な意味はどこにあるのでしょうか?
4段階検討プロセスでは、こういった基本的な論点について、もう一度位置づけをしなおすことで、行政法事例問題を解くにあたってコアとなるフレームワークがマスターできるのです。たとえるならば、民法で一度学んだ知識を、要件事実論により具体化するイメージに似ています。
行政法の事例問題では、慣れないうちは訴訟選択で頭を悩ませることもあるでしょう。また、本来であれば原告適格を正面から検討しなくてもよい事案であることに気が付かず、大展開をしてしまうこともあり得ます。
そこで考案されたのが「4つの主要行政紛争モデル」という考え方です。この考え方は、2当事者のみか、3当事者が登場するのかという視点と、係争対象が申請に対する処分なのか、不利益処分なのかという視点を掛け合わせて、2×2で4つのモデルごとに事案を検討するものです。
この4つのモデルさえ理解をしていれば、すべての予備試験、司法試験の問題を解くことができます。
講義時間:
約2時間19分
配信状況:
全講義配信中