こんにちは、たまっち先生です。
今回は、前回に引き続き刑事訴訟法の証拠法に関してA答案とC答案とを比較検討しながら、どのような点に気を付ければ、合格答案を書くことができるようになるのかをレクチャーしていきたいと思っております。
さっそく、A答案(合格答案)とC答案(不合格答案)を見て行きましょう。
1 A答案について見てみましょう
A答案は、自白法則の根拠について虚偽排除説に立ち、虚偽のおそれのある自白のみの証拠能力を否定すれば足りるから、自白法則からは自白に由来する派生証拠の証拠脳梁は否定されないことについて指摘できています。これは、自白法則の根拠を適切に理解できていないと指摘できない事項であるといえるため、レベルの高さが窺えます。その上で、本件文書等を自白から生じた派生証拠であると考え、派生証拠に対して違法収集証拠排除法則を適用する立場によって本件文書等の証拠能力を判断しています。ただ、虚偽排除説からでは、直ちに自白獲得手段の違法性を基礎付けることができません。ここで、A答案は、乙の逮捕には、証拠能力のない甲の自白が疏明資料として使用されていることから、乙に対する逮捕自体が違法であることを指摘できています。
このように、甲に対する自白獲得手段を無理やり違法とせずとも、乙に対する逮捕を違法とすることによって派生証拠であることを基礎付けることが可能となります。このように、一貫性のある論述ができている点にもレベルの高さを感じることができるでしょう。
そして、違法収集証拠排除法則の適用にあたっては、違法の重大性を満たす必要があるところ、A答案は、乙に対する逮捕は疏明資料として証拠能力のない甲の自白を用いたものであり、その後は裁判官の審査を経た適法な令状により本件文書等が収集されていることから、違法の程度が重大とまではいえないことを指摘することができています。
また、約束による自白の部分に関しても、黙秘権を侵害したとまではいえないことから、こちらも違法の重大性を基礎付けないことを指摘できています。このように、本件文書等の収集に至るまでの手続に着目して、それぞれの手続の違法性を丁寧に論証できている点が高く評価されたといえるでしょう。
2 つぎにC答案について見てみましょう
C答案も自白法則の根拠について虚偽排除説に立って、虚偽のおそれのある状況下でなされた自白については、証拠能力が否定される旨を指摘できています。
他方で、A答案のように、自白法則の根拠からすれば虚偽のおそれのある自白についてのみ証拠能力を否定すれば足りるので、派生証拠の証拠能力を否定する必要がないという点には言及ができていません。不任意自白を論じていた際には、専ら任意性を問題として違法性を問題としなかったのにも関わらず、それから生じた派生証拠については卒然として取調べの違法性を問題として、不任意自白は実は違法収集証拠であったので、毒樹の果実論で処理するというものであって、論理矛盾が生じていることになります。そのため、自白法則と違法収集証拠は全く別物である(=二元説)ことを指摘しなければ答案としては不十分でしょう。そして、自白獲得手段について、適正手続違反としていますが、ここでは黙秘権侵害や供述の自由の侵害を論じる必要があったのに、適性手続という非常に抽象的な概念を持ち出して違法性を基礎付けてしまっており、出題の意図からはずれてしまった印象を受けます。
また、C答案では、甲の自白獲得について重大な違法性があるとしており、密接関連性の程度によっては本件文書や本件メモの証拠能力が否定されかねませんから、密接関連性については丁寧な論証が求められます。しかし、C答案は乙が甲が自白したことを知らずに自白したことのみをもって、甲の自白とは関連性がないと結論づけており、決めつけてしまっている印象を受けます。それ以外にも、令状審査に裁判官が関与している点や現に乙が自白した通りの場所から本件文書が発見されていること等の事情も落ちていますので、それらの事情を丁寧に拾って検討できると、高得点が狙えたでしょう。
今回扱うのは、平成27年司法試験刑事訴訟法の設問2になります。事案としては、司法警察員が、甲の取調べにおいて、甲に対し、検察官の不起訴約束を伝えた上で、自白を勧告した結果、甲が不起訴処分になることを期待して自白した場合に、その後に発見された本件文書や本件メモに関して証拠能力が認められるかというものになります。自白法則、違法収集証拠排除法則を中心に、伝聞証拠に関しても問われており、証拠法の全体的な理解が試されているといえるでしょう。そのため、本問を適切に処理できれば、証拠法に関する理解はかなり進んでいるといえるのではないでしょうか。このような考えのもとで本問を題材とさせていただきました。
【問題文及び設問】
平成27年司法試験の刑事訴訟法を読みたい方は、⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/001144529.pdf
「B E X Aの考える合格答案までのステップ」との関係では、「5、基本的事例問題が書ける」との関連性が強いと思います。
本問で問われているのは、自白法則、違法収集証拠排除法則、伝聞法則という証拠法の基本的知識の理解です。そのため、順を追って丁寧に検討ができていれば、本問の難易度自体はそれほど高いわけではないですが、論証を暗記しただけの受験生は論理矛盾が生じるなど苦労する可能性があります。そのため、それぞれの分野を正確に理解し、論理矛盾を起こすことなく論じることが大切だと思います。
⑴ 虚偽排除説
不任意自白は、類型的に虚偽の内容が含まれている恐れが大きく、信用性に乏しいため証拠排除すべきであるとする考え方。
⑵ 人権擁護説
憲法38条1項の保障する供述の自由を中心とする被告人の人権保障を担保するために、任意性を欠く自白を排除すべきとする考え方。
⑶ 違法排除説
不任意自白は自白獲得手段に違法があるため、手続の適性担保のために排除されるべきとする考え方。
⑷ 任意性説
⑴説と⑵説を総称した考え方。
本問では、いわゆる「約束による自白」の証拠能力が問題となりますが、最判昭和41年7月1日(以下、昭和41年判決、といいます。)では、「被害者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解するのが相当である」と判示しました。昭和41年判決は、約束の違法性を認定しておらず、被疑者への心理的影響を考慮したものですので、任意性説に立つものといえます。検察官が行った約束というのは、あくまで被疑者が自白をするために動機にすぎず、黙秘権や供述の自由を侵害したとまでは評価できませんので、捜査手法自体に違法があったとは言い難いことになるでしょう。
この点については、採点実感でも、「甲に対する供述獲得手続は、甲の黙秘権ないし供述の自由を実質的に侵害するものとして、違法であるとする答案・・・も相当数見受けられたが、ここでも不起訴約束による供述獲得がなぜ黙秘権や供述の自由の侵害と評価されあるいは違法と評価されるのかについて、具体的な検討ができていた答案は限られ、多くは、結論を示すにとどまっていた。」とあり、黙秘権や供述の自由の侵害があったと結論を示すだけでは低い評価にとどまったことが示唆されています。
また、そもそも上記の通り約束による自白自体が黙秘権や供述の自由を侵害したと評価するのが困難である以上、その理由づけを答案で示すことも困難であるため違法排除説から答案を書くのは相当困難であると思われます。
仮に、約束と引き換えに自白を獲得した点を重視すれば、約束による自白という捜査自体の違法性を基礎付ける余地がありますが、上記したように憲法上保障される黙秘権や供述の自由を侵害したとまではいえない関係で、重大な違法があったとまではいえないと思われます。
不意任意自白に由来する派生証拠の証拠能力については、かかる証拠は供述証拠ではなくて虚偽のおそれがないわけですから、自白法則が自白の証拠能力を否定している根拠が妥当せず、自白法則によって派生証拠の証拠能力を否定するという論理は不当であるといえるでしょう。そのため、虚偽排除説からは、不任意自白に由来する派生証拠の証拠能力を否定するのは困難でしょう。
人権擁護説からは、不委任自白に由来する派生証拠の排除は、黙秘権など人権保障のために自白を排除するのであれば、派生証拠までも排除しないと、人権保障の目的を完遂できないとの論理が成り立ち得ます。
違法排除説ですともっとも説明が簡単です。違法排除説に立てば、派生証拠はいわゆる「毒樹の果実」の問題として処理することができるからです。
したがって、不任意自白に由来する派生証拠の証拠能力を考えるにあたっては、人権擁護説、違法排除説のいずれかに立つことが必要となります。
⑴ 違法性の承継として処理する立場
先行する捜査と捜査が同一目的の一連の手続で、派生証拠が先行する捜査の違法状態を直接利用してもたらされたという関係にある場合に、先行する捜査の違法の重大性と排除相当性を考慮して派生証拠の証拠能力を判断します。
⑵ 派生証拠それ自体に違法収集証拠排除法則を適用する立場(毒樹の果実説)
最判平成15年2月14日(以下、平成15年判決、といいます)は、違法な先行手続きを利用した採尿手続きにより採取した証拠の証拠能力について、①証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠である、②当該覚醒剤の差押えと証拠能力のない鑑定書との関連性は密接なものではない、③関連性が密接ではないので、当該覚醒剤の収集手続に重大な違法があるとはいえず、排除相当性もなく、当該覚醒剤の証拠能力を否定することはできない、としています。平成15年判決は、毒樹の果実論に立ち、派生証拠それ自体に違法収集証拠排除法則を適用したと考えられています(この点については、最判昭和58年7月12日の伊藤正己補足意見が参考になります。)。
⑶ 本問での考え方
約束による不任意自白については、虚偽排除説または人権擁護説の立場で考えた場合には、そのような自白の証拠能力が否定されるとしても、直ちに自白獲得手段に違法があったことにはなりません。そして、自白法則の趣旨が黙秘権等の人権保護や虚偽のおそれの排除にあることになりますので、自白自体の証拠能力を否定すれば、自白法則の趣旨は達成されるので、派生証拠まで証拠能力を否定してしまうと、自白法則の趣旨を超えることになってしまい不当とすら言えてしまいかねません。
このような場合に本件文書及び本件メモの証拠能力を論じるにあたって違法収集証拠排除法則を適用するのであれば、自白獲得手段に何らかの違法性があることを説得的に説明する必要があります(上記の採点実感でも指摘されています。)。
甲の自白獲得手段と本件文書及び本件メモの獲得手段の関連性について検討すると、上記違法性承継説に立った場合には、両手続が同一の目的であるとはいえませんし、本件文書及び本件メモは、甲の供述内容を知らない乙の供述に基づき発付された捜索差押許可状による捜索差押えによって発見されましたので、甲の自白獲得手続を直接的に利用したという関係にないことは明らかでしょう。したがって、上記違法性の承継説に立ったときには、本件文書及び本件メモの証拠能力は否定されないことになるでしょう。
次に、上記毒樹の果実説に立った場合には、甲の自白獲得手続と本件文書及び本件メモの獲得手続との関連性についてみると、甲の自白から本件文書及び本件メモが直接発見されたわけではなく、甲が自白したことを知らない乙が自白されたことによって本件文書及び本件メモは発見されているわけですので、甲の自白獲得手続と本件文書及び本件メモの関連性はないとはいえませんが、密接・強度であるとは言い難いでしょう。また、本件文書及び本件メモは、甲乙の詐欺の共謀を立証する上で非常に重要な証拠であることからしても、排除相当性が認められないでしょう。
したがって、上記毒樹の果実説に立った場合にも、本件文書及び本件めもの証拠能力は否定されないことになるでしょう。
いかがでしたでしょうか。平27年の司法試験刑事訴訟法は証拠法の全体的な理解を問う非常に良い問題です。論理矛盾が生じないように気をつけながら論じるのがなかなか難しいですが、実際のA答案を参考にしながら、どのような点に注意すれば高得点が得られるのかを学んでもらいたいと思います。
今回は、平成27年司法試験刑事訴訟法設問2の前半部分についてレクチャーしていきました。次回は、設問2の後半部分、主に伝聞法則についてレクチャーしていきたいと思いますので、ご期待ください。
2022年7月31日 たまっち先生
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