2024年度の上位法科大学院を志望される皆さんへ
2023年度東京大学法科大学院入試選抜結果を詳しく分析します。
※ 内容の特質上、分析や解説内容は「である調」(常体)に、ご案内内容は「ですます調(敬体)」と、文体が混合しております。 あらかじめご了承ください。
今年度入試の引用元:http://www.j.u-tokyo.ac.jp/admission/law/admission/#link-01
過年度入試の引用元:http://www.j.u-tokyo.ac.jp/admission/law/admission/past/
2023年度入試については、元来通り、TOEIC等外国語能力を証明する資格試験結果の提出を必須とした。
未修者入試については、2022年度入試については、出願者数が前年比大幅減となったが、今年度については志願者数を若干持ち直した。
既修者選抜については、東京大学法学部法曹コースの本格的稼働により、43名が二次試験(筆記試験)免除で合格した。これにより、一般入試における既修者合格者数は大幅に減少することとなった(137名)。
未修者コースについては司法試験実績の結果も出願者数に影響があることから、出願者数の増減については断定できない。他方で、2023年度の一橋大ロー入学者選抜が高倍率であったことや(形式倍率4.24倍)、同校では定員数の関係から結果としてTOEIC等資格の高スコアが求められた(参考:既修者入試における1次通過最低点:710~720点)。この事態を見て、来年度の受験生で主に650~700点未満の受験生については、一橋大学法科大学院の受験を敬遠し(又は東京大学法科大学院にも同時出願することにより)、東京大学法科大学院を受験することが強く考えられる。
東京大学法科大学院へ出願を検討している方についてアドバイスをするなら、まず同校はTOEIC等外国語資格のスコアをそれほど必要としない。後述のとおり、基準点となる400点~500点程度取得しておけば安心となろう。反面で、同校に出願し選考に通過するためには、一定水準以上の成績や、少なくともステートメント課題文に対し適切に回答することを強く求められる。
来年度の出願者数は少なくとも2023年度、又はそれよりも多い2021年度程度の水準となることを強く想定している。受験生は日ごろから入試対策(主に学業成績、それ以外には特にステートメントの文章力・問いに正確に答える力)をすることを切に願う。
なお、未修者入試については近年の傾向に基づく限り、既修者入試ほど高GPAが求められず、また一定程度低いGPA(不可なしで2.5未満程度)であっても合格する傾向にある(もっとも未修者人気が既修者以上に過熱した場合は、この状況も変わるであろうが…)。
もっとも、GPAは高いに越したことはない。実際に、筆記試験等で合格者平均点以下を取ったが、GPAやステートメント等書類点が高評価であったことにより、救済された合格者も多く存在する。そのため、学業成績については可能な限り高評価を得られるよう、日頃から勉学に努めて欲しい。
既修者コースについては法曹コース導入による影響や、2023年度入試において、同じ司法試験合格実績トップ校である一橋大学法科大学院におけるTOEICの1次選抜最低通過点が非常に高かったことを勘案すると、東京大学法科大学院の来年度出願者数は近年と比べ若干増加する可能性も排除できない。
筆者は長きにわたり東京大学法科大学院の合格者を分析している。そこから判明した事実であるが、例年、いわゆるMARCH校法学部や早慶等大学付属校出身者、日大等学部生については、法学知識に長けている方が多い反面、外国語については苦手とする方が多い(TOEIC等スコアで700点以下という方は非常に多い)。
そのような方々であっても、2022年度入試までは(特に2021年度入試についてはTOEICも面接も課されなかった)一橋大学法科大学院に出願し、問題なく受験資格を得ることが出来ていた。しかし、2023年度における同法科大学院入試においてはTOEIC720点未満程度の方は1次選抜に通らず、結果的に受験資格を得られない方が続出するという事態が生じた。
上記結果を受けて、TOEIC700点以下レベルで、元来一橋を志望していた方の多くが東大に進路変更ないし一橋の併願先として選択することが強く想定される(最終的にどちらを受験するかはさておき)。
つぎに、東京大学法科大学院における外国語資格の位置付けについて案内する。
過去の入試分析に基づく限り、東京大学法科大学院については、TOEIC等スコアについては足切りの参考程度に用いるに過ぎない(一応総合考慮の材料にはなるが、微々たるものに過ぎない)。
事実、今年度入試についてもTOEICスコアが430点程度でも最終合格している(後述資料参照)。東京大学法科大学院のTOEICスコア水準の情報を入手できた受験生については、来年度以降、GPAは高いが外国語の勉強を苦手とする方々を含め、東大ローに出願することが予想される。そのため、来年度の出願者数(内部法曹コース含む)については、少なくとも2021年度入試程度の水準に回復するであろう。
以上より、同校を受験する学生は、最低限の外国語資格のスコアを取得したうえで、特に学部4年前期(法曹コースや早期卒業者については3年前期)までの学部成績を上げることに注力して欲しい。具体的なGPAの目安については後述のとおりであるが、GPAは低くても3.0前後を目標に、日々の勉学に励んで欲しい。
GPA (Grade Point Average)とは、各科目の成績から「特定の方式」によって算出された学生の成績評価値のこと、あるいはその成績評価方式のことを指す。
この「特定の方式」については、各大学や入学年度によりさまざまであるが、そもそも日本にGPA制度が導入された趣旨は、日本の大学では成績評価基準や方法が統一していないため、海外留学する際に各種障壁が多かったことに基づく。そのため、留学する際の統一基準として、最高評価を4~単位認定された最低評価を1として評価することとしたのが、そもそもの始まりである。
東京大学については、出願書類からもわかるとおり、①成績評価につき不可を記載する欄がないこと、②一般教養と専門科目を分けて記載しないことからすると(注:東大は1~2年次が教養課程、3~4年次が専門課程と年次により分かれるため、これに該当しない)、京都大学法科大学院の書類点等とは異なり、不可抜きの総合成績でGPAを算出しているものと考えられる。
つぎに、東京大学の学部では「秀・優・良・可」で評価が分類され、特に専門課程ではそれらの人数につき厳格な割合が定められている。また過年度の実績と比較する限り、東京大学法科大学院では東大内部生については、内部基準とおり、秀を4.3として評価し、不可を含めずにGPAを算出している蓋然性が非常に高い。
なお後述のとおり、東京大学と他の私大でのGPA評価は若干異なり、同じGPAでも平準化の過程で東京大学のGPAのほうが有利に働く蓋然性が高いことが、分析結果により明らかとなった(「イ.既修者コース合格者について」項目参照)。
なお、社会人など、現在のGPA制度が導入される前の評価基準(優良可の三段階のみ)に基づく方もいるであろう。その場合については、現在の学部学生との公平性確保の観点からしても、優4・良2・可1で計算すると整合する。これは、実際に昨年度の既修一次不合格者(社会人かつ理系)データとも整合するため(参考:理系3段階3.2→上記基準2.4で一次不合格(同年は2.6程度で通過))、出願の際には上記基準で算出し、ご自身の第1次選抜通過可能性について検証して頂きたい。
以下説明では、上記基準に基づき、GPAの評価値を記載する。
(ア)外国語能力について
今年度も同様に、GPAや外国語能力を証明する資格のスコアにより、一次選抜が実施された。
過年度の調査からすると、①外国語資格のスコアについては大学の方針からしても(理系の院を除く)足切り程度に用いるに過ぎず、それは法科大学院の入試でも同様といえる。ただし、一定程度の外国語能力がなければ、どんなにGPAが良くても一次試験で不合格となる事象は今年度入試についても生じている(上記2022年度入試表におけるCさん参照)。
過年度では実際に、TOEICのスコアが390点であった出願者が不合格となっている反面、TOEIC420点程度でも一次選抜に通過した事例がある。事実、2023年度入試についてもTOEIC400~440点程度であっても合格する者がいた(上記2023年度入試表におけるBさん参照)。このようなことからすると、TOEICについては必ず400点以上、最低基準が上がる可能性を考慮するなら、できれば500点程度を最低でも取得して頂きたい。
(イ)GPAについて
過年度と概ね同様の結果が得られたが(若干、足切りの基準が上昇している)、今年度については2022年度の事実に加え、一橋大学学部生が東京大学法科大学院を受験する際のGPA算出基準が概ね判明した。
一橋大学学部においては、GPAをA+を4.3、Aを4、Bを3、Cを2、F(不可)を0で算出している。この基準においてDさんの学内GPAは約3.5であったが、第1次選抜において不合格(足切り)となった。そこで筆者の下に相談があり、GPAについて藤澤が案内する上記GPA基準(A+:4、A:3、B:2、C:1、不可なし)に直して再度算出すると、彼のGPAは2.5程度であることがわかった。このことからわかる通り、一般にGPAは各校毎に算出が異なることから、東京大学では平準化の過程で上記GPA基準に変換して算定し直し、一次選抜を行っていることが強く想定される。
なお京都大学学部出身者については、学内においてGPAをA+~Dの5段階で算定されているようであるが、合格者や不合格者の成績を調査する限り、同大学出身者についてはA+とAを同一の4として評価し、B3~D1として評価して一次選抜を行っていることが強く想定される。
(ウ)東京大学内部生と外部生のハンデ(成績平準化)について
上記「イ.2022年度入試の1次選抜について」を参照願いたい。まずAさんとBさんを比較し、両者ともTOEICに換算したスコアはほぼ同じであった。また、専門課程(法律科目)の成績についてもBさんのほうが優れていることも判明した。しかし、最終的に一次選抜に通過したのは、Bさんではなく、Aさんであった。
表記載のとおり、両者の違いとしては出身大学の違いという事情以外には存在しない。そうすると、Bさんは平準化の過程で不利になり、同程度のGPAでも出身大学によっては差異が生じたことが明らかである(具体的には、東京大学内部生(と同等の大学)か、それ以外の大学かで評価がわかれ、合否判断が行われているということである)。
一次選抜については、受験料が返還されることからわかるとおり、実態に則した実質的な判断というものは行われず、一般に、受験生が提出したデータやスコア・属性に基づき事務処理がなされたうえで、出願者数などの数字を考慮し最終的に合否判定が下される。
「受験者は内部生と同視される者か、それ以外か」という属性に基づき、GPAの平準化の過程で、合否が分かれたといえよう。
(エ)まとめ
以上より、来年度(2024年度入試)についても、少なくとも足切りを突破するための最低限のGPAとしては、内部生であれば内部の評価基準で2.6程度、外部生であれば各校の水準でGPAを算出するのではなく、きちんと藤澤が案内した上記GPA基準で算出し直したうえで、その数値を2.65以上にして欲しい。(なお、ハンデを負うことなく最終合格するためには、少なくともGPA2.9は欲しいところである)
未修者入試については、一次選抜・二次選抜の合否結果に対するGPAの影響は、既修者入試ほど大きくない。また理系枠・社会人枠という特別枠も設けられていることから、GPAのみに重きを置くという傾向はみられない。
ただし、GPAが低すぎる場合、一次選抜で不合格となる点に注意する必要である。
昨年度については、理系枠で出願した方についてはGPA2.3程度であれば、ギリギリ一次選抜に通過した。他方、法学部出身である場合は同GPAで一次選抜不合格となってる事例がある。つまり、入試選抜については既修者入試よりも増して総合評価が重要視される。
また、今年度入試においては、学部旧帝大・同大学院(いずれも理系)かつ社会人出身者が同大学院未修コースに出願したが、1次選抜で不合格となった。なお、その受験生の(在学時の成績は3段階評価だったため、現在の4段階水準に戻す必要がある。そこで上記平準化GPA、具体的にはA4、B2、C1で算出すると)学部GPAは2.32(なお3段階成績基準ではGPA3.1程度、学部GPAを4段階に換算したとしても、大学院の成績も含めて算出すればGPAは3程度となる)、TOEICは505~550程度のスコアであった。
同人の大学院における成績評価(GPA)は優秀であり、かつ彼は優れた研究業績を残していた。他方で、出願書類に大学院の成績記載欄は設けられてないことから説明会等で問い合わせたところ、学部成績とは扱いが異なり、大学院成績は総合考慮における参考資料としては考慮される(程度の)扱いであった。
(※なお、総合考慮材料といっているが、大学側はその資料に配点が設けられていたり、加点する材料となるとは言っていないことに注意が必要である。一般社会において、書類等審査をする事務員は(専門家ではないため)個別具体的な資料の価値を判断できない。他方で顧客満足度(弁護士のみではなく一般にも言える事柄であるため、依頼者ではなくあえて「顧客」という語句を用いた)向上のためには、仮に代理人が無益だと考える資料でも、できるだけ顧客の要望や依頼に応え、そして彼らの意見を聞くことや書類提出の機会を設ける必要もある。そうすれば、仮に顧客が満足いかない結果となっても、顧客には「総合考慮の下で審査し、今回はご期待に沿えない形となりました」といえるし、顧客も最善を尽くして審査をしてもらったので、結果については不満足であるものの、一応の納得をして頂けることとなる。このように、審査に当たって「総合考慮材料」という文言は、ある種のマジックワードを用いることが多々あることを、頭の中に留めて戴きたいところである)
以上の事実に基づく限り、東京大学法科大学院において「大学院の成績」は一次試験において考慮材料とはならず(なったとしても微々たるものであり)、最終合否の決定において総合考慮材料にしかならない(=学部GPAほどの重要性がない)ということがわかる。
そうすると、最終評価(2次試験)の材料は、GPA・外国語・ステートメント・筆記試験となる。最終合格者のデータを見る限り、GPAや外国語のスコアはそれほど高くなく、また筆記試験のスコアは低くても、他者よりも優れているステートメントの文章力を評価され、結果として合格した方がいる。
一次選抜については、募集要項では「外国語の能力及び学業成績等を総合的に審査」とある。他方、その後の記述で、これに加えて二段階選抜では「筆記試験」「面接」という言葉が書き加えられていることからすると、一次選抜の段階で未修者コースについては、(可能性はそれほど高くはないが)ステートメントも評価要素となる可能性を排除できない。
来年度の出願の際には、GPAだけでなく筆記試験なども含めた総合評価であること、最終的にはステートメントの文章力も合否結果に大きく影響を与えることを意識したうえで、それらの準備に努めて欲しい。
図1:2023年度既修者入試合格者点数分布(藤澤調査)
(参考:昨年度2022年度東京大学法科大学院 入試選抜結果の分析~2022年度 法科大学院入試対策ガイド お年玉企画~ - BEXA)
今年度入試の開示得点についても、昨年度と同様に、偏差値換算後の点数である蓋然性が高い。なお、その根拠等については、上記昨年度資料における「(1)既修者入試 合格者入試得点について」項目において説明をしているので、そちらを熟読願いたい。
今年度の調査では、上記表ア及び以下記載のとおり、筆記試験の点数が合格者よりも偏差値点1点以上高かったが、最終的に不合格となるケースを発見した。これにより、前年度入試分析においても筆者藤澤が都度案内していた①東京大学法科大学院入試における合否判定は、既修においても総合評価で決されるという事実に加え、②具体的なステートメントの点数(推測点)が明らかになったように思える。以下、案内する。
まず、上記「ア.2023年度入試の合格最低点について」をご覧いただきたい。
FさんとGさんでは、不合格者FさんのほうがGPAは高い。そして第1次選抜において東京大学学部出身者と他大学では、平準化の過程で東京大学出身者のほうが多少有利に働くことは、「2⑵ 既修者コース 第一段階選抜合格者について」項目において既に案内したとおりであるが、両者の間で約0.25も差のあるGPAであるにもかかわらず、かつ秀4.3で評価されている東京大学学部生のGPAほうが、平準化の過程で有利になるとは思えない。
次に、TOEIC等外国語外部検定資格については、後述の「TOEIC合格者点数分析」項目で案内するとおり、大学としては点数が高いからといって高評価をするということはせず、足切り程度にしか用いないという方針は従来と変わっていない。(なお、その事実については、大学入試共通テストに変わる英語民間資格を導入するか否かの議論が際に東京大学が下した否定的・外部能力試験の信用力に懐疑的な判断をしていることからもわかる通りである)。また、他の受験生が筆記試験の合格点ボーダー付近でかつTOEICが400~500点程度であっても、難なく合格している。これらの事実からすると、FさんとGさんとではTOEIC等外国語資格のスコアに多少開きがあるもの、このスコアの差が東京大学法科大学院において合否を分ける重要な要素となったとは思い難い。
最後に、両者から同校に提出したステートメントを提出いただいたうえで、藤澤が再度添削・評価した。その結果、FさんとGさんではステートメントの客観的評価が明らかに異なることがわかった。具体的には、Fさんのステートメントは、東京大学法科大学院が受験生に課した問いに答えていないという重大な不備が存在した。
東京大学法科大学院の既修者コースにおけるステートメント課題は「①志望理由・特記事項(②これまでの勉学の状況等を踏まえて記入すること)」である。
Fさんは、①志望理由については非常によく書けている。自分の将来像を挙げ、かつ東京大学法科大学院が展開している科目(事実)を挙げた上で、その将来像を達するためには東京大学法科大学院でなければならない(因果関係)という構成できちんと説明しており、そこは非常に素晴らしいステートメントであった。
他方で、社会人ならまだしも(注:社会人の場合は、課題文における「等」という文言から、勉学以外の観点から志望理由等について立論することは可能という意味)、Fさんは学部出身者である。そうすると「②これまでの勉学の状況を踏まえて記入する」ことを東京大学大学院側が求めているのに、その指示に全く答えていない(何も記載していない)という重大な不備があった。なお、Gさんはステートメントの論理性につきFさんに若干劣っているものの、大学院側の問いにはきちんと答えることが出来ていた。
いくらステートメントが筆記試験と比べて重要でないとしても、課題文の問いに答えていないレベルのステートメントは論外である。(ラーメン屋さんでチャーシュー麺を注文したのに、チャーシューの入ってないラーメンが運ばれてきたら、皆さんは怒りますよね。それと同じです。)
そのため、来年度の受験生がFさんと同じ失敗を繰り返さないために、ここでも再三案内したい。
①提出前に、どんなに時間がなくても、問いには正確に答えているかを確認すること。
②OBOGや予備校に添削してもらうのであれば、その添削者が東京大学法科大学院の課題文をきちんと把握しているかを確認すること。※重要。
③添削して頂けたのであれば、最後に受験生は添削者に対し「私のステートメントは、問いにきちんと回答することが出来ているか」を確認すること。添削を担ったにもかかわらず、添削者はステメン課題を理解せず文章しか読んでいない方が非常に多い傾向にある。できれば添削者から面前などできちんと解説・説明を受けること)
上記点を徹底して頂きたい。
なお、筆者が過年度資料や今年度入試を分析する限り、2022年度入試から筆記試験が偏差値点に移行された以降、既修者コースにおけるステートメント評価点については4点程度(A4点~D1点)の配点であると分析している。昨年度含め、ステートメントの内容がたとえ優秀であっても、150点台前半(150~152点程度)で合格となった受験生がいないことがその根拠として挙げられる。
2023年度入試については、調査対象者のGPAは高く、低GPAで合格したというデータは寄せられなかった(調査対象者最低GPA:2.85)。以下では2022年度入試の分析内容となるが、来年度受験生のために非常に有益であると考えたため、そのまま記載する。
まず、今年度についても筆記試験(開示得点)は偏差値換算後の点数であることに留意が必要である。丁さんの場合、合格者最低点より12点高い程度で、通常であれば僅かな点数差かと考えるであろうが、素点ではないため、そのような評価は事実誤認ないし過小評価となる。偏差値換算点の乖離幅≠実際の点数の乖離幅ではないことに留意が必要である。①偏差値点ゆえに1点~小数点以下の点数が違うだけで、その中には(素点とは異なり)何十人の受験生が存在する蓋然性が高いこと、②2022年度の最高点でも200点未満であること、③2022年度合格者の合格点中央値(推計)が170点程度であることを加味しても、12点差の価値は、素点12点差の価値よりも非常に高い。それだけ10点以上差の点数を取るということが大変ということである。(※参考:総合評価を加味しない理論値であるが,競争倍率2倍なら筆記50点,2.4倍であれば52点,3.2倍であれば55点必要となるが,倍率が2倍→3.2倍へと1倍以上昇すると約20%も多く落ちる人数が増えるのに,偏差値点上は5点しか変わらない〔しかし体感の誤差は差が殆どないように思えてしまう〕のが偏差値点の怖いところである)
なお、ハンデの有無については❶昨年度、ハンデを負わない層の受験生であれば総合得点195点程度で合格した反面、GPA最下位層は筆記試験において230点程度で合格、220点で不合格という実績がある。また❷かつて東大は2次試験の合否をGPA6:筆記試験4+総合評価で算出していたと公開していたこともあり、それを一部踏襲し、現在でもGPAを重視している蓋然性が高い。これらのことからするとGPA下位層のハンデの事実は依然存在しており、同層については筆記試験で他の受験生よりも高得点を取る必要があることは明らかである。
ただし、そのハンデの幅は、1次足切りラインギリギリで通過した者ほど大きく、2022年度については2.8程度であれば大きなハンデを負わなかったことが合格者データより推測される。そしてそれは、2023年度についても同様である。
他方で、ハンデ層となる基準値は不確定であることから、受験生はハンデを負わないためにも、出願時にはGPA(不可なし)2.9~3程度を確保して欲しい。
合格者平均GPAは昨年度比で0.1以上上昇した。受講生や調査対象者の話を纏める限り、コロナ禍において各大学がオンライン授業を導入したこともあり、講義出席が容易ゆえに平常点等で減点されることが少なくなった結果、日頃から予備試験や法科大学院等試験勉強をしている者が高成績評価を取りやすくなったことが考えられる。
合格者のGPAについては、2.95以上が大半を占める。もっとも、既修者コースについては高GPAだからといって優遇されるというものではない点にも留意する必要がある。
(過年度資料でGPA6:筆記4の評価割合といっておりそれに固執する方もいるが、それはあくまでも過去の割合に過ぎず、別に大学側が「個人のGPAが高くなればその分個人のGPA換算点・評価が高くなり優位に立てる。」とまでは言ってないことに注意)
参考までに、GPAが高い層で、合格最低点より偏差値点10点未満の差であった不合格者のデータを以下掲載する(2022年度)。このことや過年度のデータからもわかるとおり、GPAが高くても、合格者最低点を確保しないと入学試験を突破できないことは明らかである。
受験生は、高GPAを確保したとしても、それに慢心せず、入学試験までに演習などをこなし、常日頃から実力を高めて頂きたい。
まずTOEICのスコアを提出する受験生が例年大半を占める。もちろん、TOEFLやTOPIK(韓国語能力検定)、HSK(中国漢語水平考試)を提出する受験生も例年存在する。
以下では母数の多い『TOEIC® Listening&Reading』のスコアを用いて分析する。
まず、かねてより藤澤が「TOEICの足切りラインは400点程度」とお伝えしてきたが(参照リンク:https://law-information2019.hatenablog.jp/entry/2021/02/01/173203)、今年度入試についてはそれが如実に反映・証明される結果となった。詳細については上記図表をご覧いただきたい。
つぎに、既に他の項目で触れた内容であるが、TOEIC等外国語資格のスコアについては重要性が低く、最低限のラインを突破していれば良いというのが近年の傾向である。
ただし、来年度入試については、過年度であれば一橋大学法科大学院を第一志望等として受験したであろうTOEIC500~700点台の受験者層が、東京大学法科大学院に併願ないし出願変更をすることが強く想定される(これは、2023年度入試において、少なくとも既修においては(勿論、出願する受験生が多かったことが理由であるが)第1次選抜段階のTOEIC等最低点を720点程度として定めたことに基づく)。
そのことから、万が一ボーダーラインが上昇した場合の保険として、出願を予定している受験生は450点以上、できれば500点以上を取って頂きたいところである。
最後に、調査に応じてくれた合格者の方の属性を纏めた。
上記はあくまでも情報を提供してくれた合格者のデータに留まる。詳細かつ正確なデータについては、東京大学法科大学院側が内部情報を公開するまでお待ちいただきたい。
なお東京大学法科大学院でさえ予備試験合格者の合格者は10%程度に留まる。この割合は仮に母数が増えたとしても、そこまで崩れないであろう。同様に一橋大学法科大学院合格者でも予備試験合格者を観測しているが、その割合は決して高くはない。
受験生は併願先として私大ローも受験するであろう。例年、私大ロー入試段階で予備試験合格者がどの程度受験するのかよく話題になるが(例:〇〇ローは予備試験合格者が大勢受験しに来るから、レベルが高くトップ校より難しい等)、東京大学法科大大学院でもこの程度の割合であることを認識したうえで、受験生は発信者の主観的意見や風説に流されず、私大ローないし東京大学法科大学院入試に臨んでいただきたい。
なお余談であるが、調査対象の中には予備試験に合格したものの、東大ロー等で不合格となった者も数名存在する。私立ローとは異なり総合評価が重要であることから、例年予備試験に合格していても不合格となる落ちる方も少なからずいる(特に1次)。
慢心をせずに受験して頂きたい。
社会人は例年であるが、理系枠に該当する者でも不合格となる事案が発生している。
可能性としては、①理系枠に該当する者が10名程度に達した(なお、あくまでも「程度」であり、10名の定員が必ず確保されるとは書いていない)、②筆記試験だけではなく、ステートメントの文章力を含めた水準が理系枠・一般枠の求める水準にすら達していない、③総合評価が極めて悪く理系枠に要求する水準以前の問題であったこと、が考えられる。
①については、同一日程である一橋大学法科大学院未修者コースの出願者数が激増したことから、そちらを併願していた理系学部出身受験者の殆どが、理系優遇枠のある東京大学法科大学院に流れた可能性も強く考えられる。
②③については、従来理系枠で不合格となった者を殆ど聞いたことがなかったこともあり、恐らく理系枠で合格できない水準であれば、自然と一般枠に合格できる水準にすらないという主張ことかと思われる。そうだとしても、後述のとおり筆記試験で110点程度取った理系出身者が不合格となっていることからすると、単に②③が要因であるとは一概には言えそうにない。
あくませも推測の域を超えないが、理系枠該当者内の対象者選抜では理系におけるの学術・研究成果、すなわちGPAがモノを言うようにも思える。つまり理系GPAの上位者10名程度を理系枠として選抜しているように思える。そうであるならば、今年度不合格者の開示点数や不合格結果と整合する。
しかし如何せん未修者かつ理系枠出願者の合否データが手元に少ない。そのため、今後のデータの蓄積に期待したいところである。
なお社会人枠については、出願者数が定員数を下ることはまずないと思ってよい。これは、もちろん法曹を志願しようとして入学する者もいるが、学び直しという観点から志願する方や、東京大学というネームの欲しさからか、兼ねてより複数回未修者コースを受験しているご年配の方も一定数以上いると聞く。
また実際に毎年受験生へヒアリングしている限りでは、説明会は勿論のこと、入試選抜会場でも少なくとも10名以上の社会人が参加していたとの回答を得ている。
当然であるが、理系枠でも法曹を志望する理由のない者、社会人でも法曹志望理由のない者は、ステートメントの文章や面接(21・22・23年度は行われなかった)で差がつく結果となる。東京大学法科大学院はGPAのみ・筆記試験のみでは合否が決まらない点に留意が必要である。ステートメント作成にもきちんと注力することをお願いしたい。
なお社会人枠については、過年度の合格者データを分析する限り、特に理系枠等とは異なり、GPAに偏重することはなく、特に過去の経歴やステートメントの文章力、面接時のコミュニケーション能力や判断能力を重視している傾向にある(21~23年度は面接実施せず)。
繰り返しとなるが、未修者コース入試は既修者にも増して総合評価の比率が高く、筆記試験の点数だけでは合否は決まらない点に留意が必要である。
そのうえで、 既修コースと比べて未修者コースはGPAのみで合否に影響を与えることはない(ただし、例年学部首席級のGPAを確保している限りでは、筆記点がかなり低くても合格する傾向にはある)。つまり、合否については①GPA、②ステートメント、③筆記試験の成績、④面接(21・22年度入試では行われず)の結果で左右されている。
事実、以下の図のとおり今年度入試については、筆記試験の点数を合格者と比べても遜色ないスコアであっても、不合格となった受験生が存在している。
ア.2023年度対象者データ
イ.2022年度対象者データ
繰り返しで恐縮であるが、未修者コース入試は総合評価である。
上記図表ア.をご覧願いたい。これは、2023年度入試の2次試験合否データを表す。
まず、筆記試験の点数は不合格者乙さんのほうが数点高い。(なおこの表には掲載していないが、23年度入試についても乙さんよりも5点程度低い方でも合格した方も存在する。)
次に、GPAや出身大学群のレベル、TOEICスコア(なお、同スコアの重要性については既修における「(5)2023年度最終合格者 TOEICスコア」項目で説明しているので、そちらを参照願いたい)については、大差ない水準であった。
そうすると、残るはステートメントであるが、この問題点については既修「(2)合格最低点の分析について」項目において説明したとおりである。乙さんも「問いに答える」点で問題があった。
特に未修者コースについては、既修よりもステートメントの重要性は高い。また、既修者コースと課題文は若干異なる(既修者よりも具体的に指示がなされている)。
これらを理解したうえで、必ず自身の作成したステートメントが「問いを正確に把握し、それにきちんと答えているか」という点に細心の注意を払って戴きたい。
続いて、上記図表イ.について案内する。
まず社会人Dさんについては社会人枠で通過したことが強く推測される。通常であればGPAが低いため、かなりのハンデを負うが、Fさんと同程度のGPAで合格している。(社会人枠の評価については上記「(1)総括」項目で述べたとおりである。)
次に、Aさんの筆記点は合格者の中でも最低点であり、かつ不合格者でもAさんを上回る筆記点の方が散見された。しかし、Aさんのステートメントを例年や他の合格者のそれと比較する限り、文章力や法曹に対する意欲もさながら、何度も構成し、非常に論理的かつ説得力のある文章として大成されていた。またAさんは社会人枠や理系枠にも該当しない。
これらのことからすると、Aさんの筆記試験の点数やGPAの点数は優れているとは言い難いものの、ステートメントの文章力で大きく評価され、結果として合格したことが推認される。
そうすると、Fさんの不合格要因としては、上記「(1)総括」のとおり、①まずは理系枠内におけるGPAで他の理系出身者に劣ってしまったこと、②次に一般枠選抜において同様の合格者と比べてGPAと、その不利の程度を挽回するだけのステートメントの評価が高くなかったことが強く考えられる(TOEICについて記載していない理由は、一次選抜における解説、およびEさんの同スコアや筆記点・GPAを参照)。
このように、未修者コース入試は総合評価であり、筆記試験の点数が取れたとしても、不合格となる例は散見される。不合格という悲しい結果を招かないためにも、特にステートメントについては、課題にきちんと答えることは勿論のこと、論理的にも説得力のある文章を心掛けて頂きたい。
2024年度に受験する方は、今後ステートメントを作成するにあたっては筆者の以下寄稿を参考願いたい。
・ステートメント対策について(総論):https://bexa.jp/columns/view/312
・2023年度入試 東大ローステートメント課題の分析: https://bexa.jp/columns/view/479
2024年度私大等対策については既に告知していた通り、業務上の都合により2023年度のような連載等対応をしかねる結果となりました。
他方で予備校等では個別のステメン分析や書き方の教示が行えていないことや(内容が古すぎる、実務家の解説ではない等)、受験生に誤った解答解説が伝播されることを非常に危惧しています(「ステメンは作文でOK」など)。
そこで今年度については、業務と両立しつつより受験生をサポートできるよう、BEXA様を通じて講座を出す方向性で準備をしています。
なおそこでは入試資料につき使用許諾等を戴いた慶應義塾・早稲田大学法務研究科について分析講義をする予定です(国立大については阪大・神戸大を検討。他校は未確定)。
この講座は他校にはない、法律論述式試験の解答方法とステートメントの回答方法をリンクさせ解説する予定です。すなわち、初学者段階から実際の司法試験答案(解答例)を見て戴き、法律論述式試験の解答の仕方(法的三段論法)のイメージをつけるとともに、ステートメント文章の作成の仕方とをリンクさせ、一体的に学べる革新的な講座とする予定です。
また、課題文分析や考え方の教示だけでなく、実際に藤澤の講座受講生が作成した合格者参考答案や未修リベンジ合格者による当該年度合格・前年度不合格答案を用い、論理的かつ説得力のあるステートメントの作成方法を具体的に示す予定です。
乞うご期待下さい。
藤澤たてひと
2023年1月16日 藤澤たてひと
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