2023年度 東京大学法科大学院入試  志願者報告書(ステートメント)作成にあたって

東京法科大学院に出願を準備中の皆さんへ
出願期間を前に志願者報告書(ステートメント)作成について、詳しく解説します。
※ 本文は「である調」(常体)になっています、あらかじめご了承ください。

2023年度 東京大学法科大学院入試
志願者報告書(ステートメント)作成にあたって

| 目次

1 基本データ
 (1)所在地
 (2)ア.入学に必要な諸費用(2021年度実績)と、イ.授業料等納付後に辞退する場合の入学費用償還請求の可否について
   ア.入学に必要な経費
   イ.授業料等入学費用納付後に辞退する場合の入学費用償還請求について
2 出願時期・入試日程
 (1)2023年度入試日程
   ア.出願日
   イ.試験日
   ウ.合格発表日
   エ.2022年度入学者選抜結果の分析について
3 過年度および2022年度ステートメント課題の分析 
 (0)前提として(特に既習者向け)
 (1)今年度と過去のステートメント課題文の変更点について
 (2)2023年度のステートメント課題文について
   ア.2023年度課題文
   イ.課題文の読解と分析
    (ア)あれもこれも書こうとしない・趣旨一貫とした文章を書く
    (イ)志望動機記載には、ロー側の求める人材像などを確認すること
     東大ローが受験生に求めている人材像について
4 合格者ステートメントについて(解答例添付
【添付資料】東京大学法科大学院 合格者答案

1 基本データ

(1)所在地
東京都文京区本郷7丁目3-1 東京大学本郷キャンパス内本郷総合棟
上記施設は中央図書館裏にある(通称、ガラス棟)。

(2)ア.入学に必要な諸費用(2021年度実績)と、イ.授業料等納付後に辞退する場合の入学費用償還請求の可否について
ア.入学に必要な経費
・第1次入学手続:入学金282,000 円
・第2次入学手続:授業料804,000円
→国立大学法人が設立する法科大学院の場合、入学金と授業料については各校一律にする傾向にある(その他諸経費については別)。各校の詳細については、BEXAにて連載中の記事(https://bexa.jp/columns/view/295)2.(1)カ.項目のリンク先を参照願いたい。

   イ.授業料等入学費用納付後に辞退する場合の入学費用償還請求について
・例:予備試験に最終合格したため、辞退する場合
 →所定の方法により入学辞退の手続きをすれば、入学金を除くすべての入学に関する費用は受験生に返還される。

2 出願時期・入試日程

(1)2023年度入試日程
ア.出願日
 2022年9月30日(金曜)~10月7日(金曜)*当日消印有効
イ.試験日
 法学既習者コース:2022年11月12日(土曜)
 法学未修者コース:2022年11月12日(土曜)*面接試験を実施しない
 →一昨年度と異なり、追試験など特別措置を講じる予定はない(9月13日現在)
ウ.合格発表日
 1次選抜(書類):2022年11月4日頃(郵便による通知)
 2次選抜(筆記):2022年12月9日(金曜) 
エ.2022年度入学者選抜結果の分析について
 以下リンクにて、合格者得点・GPA分布など詳細を分析の上、公表しています。ご参照願います https://bexa.jp/columns/view/367

3 過年度および2022年度ステートメント課題の分析

(0)前提として(特に既習者向け)
 東京大学法科大学院の過去の資料や昨年の合否ラインを分析する限り、ステートメントの配点はそこまで高くない。また、あくまでも二段階2次試験における総合評価材料の一つである
 (*二段階2次:過去の東大側の自己査定資料によると、2次試験で筆記試験を課すが、採点後に上位3割程度は筆記試験の成績+GPAで合格者を算出する。残りについてはステートメント書類など総合評価に基づき合否判定を下すと書いてある。前者について東大側は二段階1次、後者については二段階2次と表記している)。
 一昨年度の合格者・不合格者より寄せられた情報に基づくと、高GPA(3.6以上)で筆記試験も一定程度取れている場合、2段階一次で合格する可能性があるが、基本的に受験生は二段階2次で選抜される。そして昨年度入試では、GPA3以上~3.4程度の場合、筆記試験196点~205点ラインで合否が左右していることからすると、既修者コースステートメントの配点は概ね10点程度であることが予想される。
 なお昨年度より東大ローは成績表記方式を変えていることが窺われる。具体的には採点した後に司法試験等と同じように偏差値点に換算したうえで、受験生に得点開示している。そのため、昨年度と一昨年度の合格点算出方法は異なることに注意が必要である。
 さて、話を戻そう。10点程度の差だからといってステートメントを適当に書くことはお奨めしない。一昨年度入試においては、自分は筆記試験だけで合格点を取れると過信した結果、問題の相性などもあってか筆記試験で200点程度の点数をとってしまい、結果的に総合点で不合格となる例が散見したからである。
 絶対に合格したいのであれば、ステートメントについても万全を期して臨んで欲しい。

(1)今年度と過去のステートメント課題文の変更点について
 昨年度と比較する限り、課題文の変更はない。また、筆者の知る限りステートメント課題に変更点はないが、インターネット上のものなど過去のステートメントを参考にした場合、内容によっては問いに答えていないステートメントが完成する場合があります。細心の注意を払っていただきたい。

(2)2023年度のステートメント課題文について
ア.2023年度課題文
 既修:志望理由・特記事項(これまでの勉学の状況等を踏まえて記入すること)
 未修:①これまで大学や社会で学んできたこと、経験してきたこと及び東京大学法科大学院を志望する理由、②あなたの目指す法曹像。自己が法曹養成専攻に入学するのにふさわしいと考える特記事項がある場合は、合わせて記述すること

イ.課題文の読解と分析
 既修コースについては記入欄が18行しかなく、簡易かつ簡潔な論述が問われる。それに対し、未修コースについては1,200字以内と指定されており、既習コースと比べると文字数に余裕がある。(なお特に未修者コースの上記課題については、東京都立大学法科大学院の出願をした方にとっては、馴染みのあるステートメント課題と感じていると思える)。
 
 現時点(2022年9月末)では既にロースクール入試を経験している受験生も多いであろう。また、この記事を読んでいるということは、BEXAで既に連載した記事(https://bexa.jp/columns/view/312)や慶應義塾大学法科大学院入試対策記事(https://bexa.jp/columns/view/465)を読んでいただいた方は多いと思う。そこで以下は東京大学法科大学院を受験する方向けに、より有意義にしていただくために、東大ロー入試向けに更に実践的なことを案内する。受験生は以下作成上の注意点を読んだうえで、自らステートメントを作成してほしい。

    (ア)あれもこれも書こうとしない・趣旨一貫とした文章を書く
本課題文で求められるのは、あくまでも「志望理由について、これまでの勉学の状況などを踏まえて記入すること」である。そして特記事項とあるのは、文言のとおり、「それ以外に何か特別に記載すべき点(特に優れたPR・表彰等)」があれば記載する程度のものであろう。

 次に、既修者コースへ出願する場合、短い18行程度の大きさの枠内に収まる文章を作成する必要がある。そのためか、例年あれもこれも記載したため、読み手に対して説得的な文章が書けないケースが散見される。
 読み手が一番知りたいのは具体的事実の内容や自慢ではなく、「その具体的事実についてあなたはどのように評価したのか、そこから何を学び・それがどう東大ローの志望(未修であればそれに加えて将来像)に繋がるのか」という点である。単に具体例を挙げるだけでは、読み手にとって「この志願者は事実を挙げるだけで、なにも考えられていない(想いがない)・説得的な文章を書けていない」と思われるだけである。

 ロースクール入学後、または社会に出た際にも学ぶと思うが、事実は1つでも、それに対する評価や考え方・価値観は人それぞれである。それは論述式試験でも同じである。あてはめにおいて、事実だけを挙げて仮にその事実について何も説明をしなかった場合、それがどう主張や規範と対応するのか、何の説得力もない文章となってしまう。

 (未修コース志願者には少しわかりにくいかもしれないが、以下では殺意の有無につき争われている仮の事案を例に挙げる。被告人宅から刃渡り16cmのナイフが見つかり、しかもそのナイフから被告人の指紋・被害者の血痕が検出されたとしよう。論述式試験においてその事実だけを記載しても、果たして殺意があったと認められる事情として“評価できるのか”未だに不明である(傷害の故意だったことも十分考える余地がある)。その事実から、例えば事件に使われたナイフの殺傷能力の高さを認定する(評価)ことを通して初めて殺意が認定される一つの事情として考慮されることになるのである。〔その際は当然、経験則、また最終的には他の証拠(間接事実)などを挙げそれらを評価して初めて殺意が認定されることは言うまでもないが…〕)

 その事実からどのようなことを言えるか(評価)、そしてそれが最終的に自らの主張とどう繋がるのか(一貫性)を意識してステートメントを作成してほしい。

    (イ)志望動機記載には、ロー側の求める人材像などを確認すること
 次に、説得的な文章を書く前提として、法科大学院側の求める人材像や、その特長を把握することをお勧めしたい。そして特長とは、結果論ではなく、法科大学院側はどのようなことを長所として考えているか等である。

 例えば東京大学法科大学院の司法試験合格実績は秀でてている。しかし、合格実勢を残しているのは、あくまでも法科大学院を修了した受験生が日ごろから一定程度以上の学力を身に着けていた・個別に勉強したからであり、予備校と異なり法科大学院が司法試験合格に直結するわけではない(少なくとも東京大学に限っては)。そうすると、志望動機に「司法試験合格率が高いこと」と書いても、それは単に結果だけに注目しただけで、それならば「司法試験合格実績が低ければ東京大学法科大学院を志望しないこととなる」「予備試験だけでなく一橋大学法科大学院の累計合格率のほうが我が校より高いが、なぜそこを志望しないのか」という疑問を採点官に生じさせてしまう。

 何もそれは法科大学院の志望動機に限ったものではない。たとえば男性が異性を好きになったとして、異性から「どうして私を好きになったの(要は上記志望理由に相当する質問)」と聞かれたとしよう。その際に、「あなたは弁護士で、その職業が好きだから(結果論)」と言っても、異性に対して何の説明にもなっていないし、そもそも弁護士である異性など無数にいるという疑問を抱かれるのは当然である。そして、適当な理由を思いついて告白していると思われかねない。

 志望動機を伝えるのであれば、まずはきちんと相手のことをきちんと知ってほしい。そして、相手の見た目(司法試験合格実績や就職実績)だけでなく、ロースクールそのものにどのような長所や特長があるのか、しっかりと把握してほしい。

東大ローが受験生に求めている人材像について
 まず、以下では東京大学法科大学院の特長および理念を引用する。
(引用元:http://www.j.u-tokyo.ac.jp/admission/law/about/

・教育理念及び目標
 国民や社会に貢献する高い志と強い責任感・倫理観を持ち、先端的法分野や国際的法分野でも活躍しうる、優れた法律実務家を養成することを目的とする。
・養成しようとする法曹像
① 「国民の社会生活上の医師」として、法律問題に表れた市民一人一人の悩みを真摯に受けとめ、その信頼できる相談相手となり、問題の解決を助ける使命感と専門的能力を備えた法曹を養成する。
② 法の体系・理論・運用に関する基礎的・応用的知識を十分に習得するのみならず、それらを複眼的に理解したうえ、法律問題や法の課題を解決するために、自らの思考行動を発展させることのできる法曹を養成する。
③ 法の問題をその背景である人間や社会の問題とも関連させて、的確に把握したうえ適切な解決を図ることのできる、広い視野と鋭い分析力をもった法曹を養成し、また、社会経済のグローバル化・情報化によって急速に発展している先端的・国際的法分野においても活躍できる法曹を養成する。 


 この表記からもわかる通り、まず東京大学法科大学院側としては、自らのロースクールを「国民や社会に貢献する高い志と強い責任感・倫理観を持ち、先端的法分野や国際的法分野でも活躍しうる、優れた法律実務家を養成する」機関である(またはその養成を目的とする)と考えていることがわかる。すなわち、求める受験生としては、東京大学法科大学院の教育に貢献することは勿論のこと、上記目的を達しうるだけの素養を有する人物であることを前提としていることが読み取れる。受験生にその前提に欠ければ、いくらロースクール側が目標を掲げても、教育の成果が無になってしまうからである。

 次に、養成しようとする法曹像についても検討する。
 これは、東京大学法科大学院側が、同大学院入学者には①~③に掲げるような法曹になってほしいと考えた上で、教育をするという姿勢が見受けられる。言い換えれば、東京大学法科大学院に入学するのであれば、現時点で①~③の素養(可能性)を有する者であること望ましいということになる。

 志望動機を書く際は今一度、これらの点を踏まえて検討できているか再度確認してほしい。

 最後に注意点を挙げる。大学学部や司法試験研究室主催による東大ロースクール合格者説明会では、合格者が東大ローの特長として「東大ローは企業法務分野の事務所への就職に強い」ことを挙げるケースが非常に多い。
たしかにそのとおりだが、今まで説明したように、それはあくまでも結果論に過ぎず、ロースクールそのものの魅力ではないため、説得力に欠けてしまう。だからといって、「企業法務をやりたいからその実績を有する東京大学法科大学院を志望する」という内容を変えろというものではない。

 企業法務志望を書くのであれば、例えば、上記「養成しようとする法曹像③」やカリキュラム等と結びつけるなどにより、「企業法務志望であるが、数々のロースクールの中でも●●という特長・カリキュラムが整えられているのは東京大学法科大学院のみである。その夢を叶えるためにも、貴学への進学を希望する」等というように、東大法科大学院の特長やカリキュラムなどと関連させたうえで、論理的・説得的な文章を作成してほしい。そうすれば、ステートメントで自ずと高評価を得られるであろう。

4 合格者ステートメントについて(解答例添付)

 別紙には、筆記試験では合否ラインであったが(一昨年度でいえばGPA3程度・196~205点内という合否ボーダーライン)、最終的に総合評価(ステートメント)で合格した方の合格答案を添付した。なお今回は既修者に合格する例の少ない社会人合格者によるステートメントを採用した。(なお、完成の一前段階(提出前)の合格者ステートメントを講義題材として添付している。これは、今までの連載内容の理解力を確認する目的と、受験生が丸写しをすることにより不合格となる結果を未然に防止する目的を兼ねている。)

 このステートメントには、藤澤がBEXAにて連載していた内容を踏まえた上で、ステートメント内に若干の解説を入れている。
 そしてもちろん、このステートメントには問題点もある(藤澤がコメント欄に指摘した通り、東大ローと他のローとを差別化するための具体的カリキュラム等の指摘をすると更に説得力のある文章となった等)。
 ただ、このステートメントは藤澤が以前より連載している講義内容を基に、東大ロー既修コースの文字数制限に対応し、課題文の要点にきちんと回答している点は参考になるかと思われる。


別添資料(東京大学法科大学院 合格者答案)は下記をご覧ください。

添付資料
東京大学法科大学院
合格者答案

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 東京大学法科大学院で学ぶのに相応な者とは、法曹としての潜在能力、すなわち法知識は勿論のこと、他者と差別化できる「法学以外の専門知識や経験」や「国際性」等の教養を有する者を指すと考えます。
 その中で私は特に「専門知識や経験」「国際性」につき、他者と差別化できる実力を有しています。英語及びタイ語での意思疎通能力は海外赴任年数やTOEICスコアから、専門知識については経歴や経営学系統の最難関資格として中小企業診断士や1級FP技能士を保有することを証拠として挙げ・・・・・

 今回の連載や合格者ステートメントを参考にし、より良いステートメントを作成していただければ、筆者藤澤としても嬉しい限りです。
 この連載が受験生にとって、より良いステートメント作成の糧になるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。ぜひ受験生はこの連載を有効活用し、書類点に自信を持ったうえで入学者選抜試験に臨んで欲しいと切に思っています。
 がんばってください、応援しています。

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2022年9月23日   藤澤たてひと 

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