第2問(商法)は、設問1が従業員持株制度と譲渡制限株式(売渡強制特約の効力・承認擬制・名義書換)、設問2が仮装払込みと募集株式発行・株主総会決議の効力、設問3が招集手続の瑕疵と取締役の解任・報酬請求。会社法の主要分野を横断する重厚な出題です。
いずれの小問も、まず「どの訴え・どの主張か」を正確に選び、次に条文と判例の枠組みを、日付と数字という本件固有の事実に当てはめることが求められます。
特に設問1は承認擬制の起算日、設問2は議決権数、設問3は任期と各決議の日付が結論を左右します。数字を丁寧に拾ってください。
Cは、Aが本件合意に基づきBから本件株式を買い戻した本件取得を争いたい。考えられる主張は二つあります。
ア 合格ライン
・主張1 本件合意(売渡強制特約)の効力
本件合意の③(退職を停止条件としてAに1株100円で売り渡す)及び④(A以外に譲渡しない)は、従業員に取得価額と同額での売戻しを強制し、株式譲渡の自由(127条)を制約するものである。Cは、これが投下資本の回収の機会を不当に奪い、公序良俗に反して無効である(民法90条)と主張する。
もっとも、判例(最判平7.4.25等)は、非公開会社の従業員持株制度において、剰余金の配当により投下資本の回収が図られている場合には、取得価額と同額での売戻特約も有効とする。
本件でも毎年1株10円の配当があり、Bは制度を了解して安価(100円)で取得している。したがって、本件合意は有効であり、Cの主張1は認められない。
(株価上昇局面での投下資本回収を捉えて無効を基礎づける立論も反対説としてあり得るが、配当により回収が図られている以上、有効と解するのが判例に忠実である。)
・主張2 本件譲渡の承認擬制による本件取得の無効
Bは、本件譲渡につき、令和2年8月3日に譲渡承認請求及び買取請求をし、甲社は同月10日に不承認を通知した。もっとも、甲社は、その不承認通知の日(8月10日)から40日以内に、買取りの通知(141条1項)をしなかった。したがって、その40日が経過した同年9月19日頃、甲社は本件譲渡を承認したものとみなされる(145条2号。なお、甲社は請求から2週間以内に不承認通知をしているから、同条2号の適用はない)。
これにより本件株式はBからCに移転しているから、その後にAがBから買い戻した本件取得は、無権利者からの取得であって効力を生じない、とCは主張できる。
(この主張は、日付を丁寧に追えば認められる。)
イ 優秀レベル
・売渡強制特約の効力について、判例が有効とする根拠(非公開会社における株式の分散防止・経営の安定という合理的目的、配当による投下資本回収)を示したうえで、株価上昇局面という本件の特殊事情がその判断を左右するかを、正面から論じる。
・本件合意③の法的性質(停止条件付売買)と、⑤⑥の名義書換請求の代理的構造を分析し、Bが先にCへ譲渡した以上、Bの署名済み書面によるAの名義書換請求はBの意思に基づかず効力を欠く、という筋も示す。
ウ 加点要素
・承認擬制の起算日(不承認通知の日から40日)を条文に即して特定し、本件取得より前に本件譲渡が確定していることを明示する
・配当10円・募集株式発行1000円・Aの買戻し実績など、事実9の各事情を投下資本回収の評価に用いる
エ 減点要素
・売渡強制特約を一律に有効(又は無効)と決めつけ、本件の株価上昇という事情を評価しない
・承認擬制(145条2号)に気づかず、本件譲渡と本件取得の先後関係を検討しない(40日の起算点は不承認通知の日であることにも注意)
イ 優秀レベル
・売渡強制特約の効力について、判例が有効とする根拠(非公開会社における株式の分散防止・経営の安定という合理的目的、配当による投下資本回収)を示したうえで、株価上昇局面という本件の特殊事情がその判断を左右するかを、正面から論じる。
・本件合意③の法的性質(停止条件付売買)と、⑤⑥の名義書換請求の代理的構造を分析し、Bが先にCへ譲渡した以上、Bの署名済み書面によるAの名義書換請求はBの意思に基づかず効力を欠く、という筋も示す。
ウ 加点要素
・承認擬制の起算日(不承認通知の日から40日)を条文に即して特定し、本件取得より前に本件譲渡が確定していることを明示する
・配当10円・募集株式発行1000円・Aの買戻し実績など、事実9の各事情を投下資本回収の評価に用いる
エ 減点要素
・売渡強制特約を一律に有効(又は無効)と決めつけ、本件の株価上昇という事情を評価しない
・承認擬制(145条2号)に気づかず、本件譲渡と本件取得の先後関係を検討しない(40日の起算点は不承認通知の日であることにも注意)
本件取得が認められる(AがBから有効に取得した)と仮定すると、本件株式はBからCへ、BからAへと二重に譲渡された関係になります。CA間の優劣を、対抗要件(名義書換)の観点から決するのが本筋です。
ア 合格ライン
・規範(対抗要件)
株式の譲渡は、取得者の氏名等を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗することができない(130条1項。株券不発行会社)。二重譲渡の場合、先に名義書換を得た者が優先する。
・当てはめと結論
本件では、Aが令和2年10月6日に名義書換を得ているのに対し、Cは同月1日に名義書換を請求したが甲社に拒絶されている。
ここで、名義書換の不当拒絶の法理(最判昭41.7.28)は、会社が自らの不当拒絶を盾に譲受人を株主でないものとして扱うことを信義則上許さないという、あくまで対会社の規律である。これを会社でないA(他の譲受人)にまで及ぼすことはできず、対Aの関係は、二重譲渡の対抗問題として名義書換の先後(130条1項)で決するべきである。
そうすると、対甲社の関係ではCを株主として扱う余地があるものの(不当拒絶の法理)、対Aの関係ではAが先に名義書換を備えており、Aが対抗要件を具備した株主として優先する。
しかも、主張1で本件合意(買戻特約)を有効とした以上、Aは正当な買戻権者であり、Bがこれに反してCに二重に売却した違約は重大であって、Aは保護に値する。対抗でAが優先する結果、対世的な株主はAであってCではないから、Cの株主確認請求は認められない。
イ 優秀レベル
・反対説(C優先)にも一言触れる。Aが、Cの先行する正当な名義書換請求を知りながら甲社にその拒絶を要請し順位を奪ったことを捉え、177条の背信的悪意者排除を130条に類推してAは名義書換をCに対抗できない、との構成もあり得る。もっとも、主張1で買戻特約を有効とした以上、Aは正当な買戻権者であって背信性を基礎づけにくく、対抗でA優先とするのが本筋である、と反論して自説を維持する。
・被告が甲社とAの双方であることを踏まえ、確認の利益と、それぞれに対する請求の当否を分けて論じる。
ウ 加点要素
・Cの名義書換請求(10/1)とAの名義書換(10/6)の先後、及び甲社がAの要請を受けて動いた経緯を、不当拒絶の評価に用いる
・承認擬制により本件譲渡が有効であることを、Cの請求の正当性の前提として明示する
エ 減点要素
・不当拒絶の法理の射程(対会社にとどまるか、対第三者に及ぶか)を論じないまま、A優先又はC優先を当然の前提とする
・小問1で否定したはずの前提(本件取得無効)を持ち出し、仮定に反する論述をする
甲社→丁社→丙社と資金が循環し、丙社がその資金で払込みをした本件募集株式発行が問題です。典型的な仮装払込み(見せ金型)の事案に、その後の株式譲渡と株主総会決議が重なっています。
ア 合格ライン
・訴えの選択
Eは甲社の株主であり、募集株式発行無効の訴え(828条1項2号、2項2号)を提起することが考えられる。甲社は非公開会社であるから提訴期間は効力発生日から1年であり、Eは令和7年7月1日に事実を知っており、期間内に提起できる。
・主張(仮装払込み)と当否
本件では、甲社が丁社に5000万円を融資し(本件融資①)、丁社が丙社に融資し(本件融資②)、丙社がその資金で払込みをしたうえ、丙社は融資②を返済せず、甲社も③の合意により丁社に融資①の返済を求めない。資金は甲社を起点に循環しているだけで、甲社に実質的な財産の増加はなく、資本充実は達成されていない。したがって、本件の払込みは仮装払込みに当たる。
問題はその効力であるが、平成26年改正は、仮装払込みについて、発行を無効とするのではなく、
引受人に払込金額全額の支払義務を課し(213条の2)、
これに関与した取締役等にも連帯責任を負わせ(213条の3)、
その支払まで株主権の行使を制限する(209条2項)という規律を採った。
発行を無効にすると多数の利害関係人の法律関係が不安定になるのを避け、資本充実は事後的な払込義務で回復させる建前である。募集株式発行の無効事由は取引の安全から厳格に解されるところ、仮装払込みはこの規律で処理されるから、それ自体は無効事由に当たらない。
よって、本件募集株式発行は無効ではなく、Eの無効の訴えは認められない。
(この結論は、後記小問2が、発行は有効であること(株式は存在すること)を前提に丁社の議決権行使を問うている構造とも整合する。)
イ 優秀レベル
・仮装払込み(見せ金)と預合い(965条)の区別、及び平成26年改正で導入された213条の2・209条2項の趣旨(発行を無効とせず引受人の払込義務と権利行使制限で処理する)を踏まえて、無効事由該当性を論じる。
・循環融資により甲社に生じるのは回収見込みのない貸付金であり、純資産が実質的に増加していないことを、資本充実の観点から具体的に評価する。
・無効説の最強の足場を正面から受け止めて乗り越える。本件は丙社・丁社とも悪意の共謀者で、無効事由を厳格に解する根拠たる善意の第三者保護の要請が働かない。この点は無効を基礎づけうる。しかし、資本充実の回復は引受人・関与取締役の払込義務(213条の2・213条の3)と議決権行使の制限(209条2項)で図られるから、第三者保護の要請が働かないことは、これらの事後的規律を排して発行そのものを無効とすべき理由までは基礎づけない。こう反論してなお有効で言い切ると、厚みが出る。
ウ 加点要素
・③の合意(丁社が丙社から返済を受けない限り甲社は丁社に返済を求めない)が、資金の循環と返済の不実行を担保していることを指摘する
・非公開会社の無効の訴えの提訴期間(1年)とEの提訴適格・期間を正確に押さえる
エ 減点要素
・仮装払込みに当たれば当然に発行無効、と短絡し、213条の2・209条2項による処理を検討しない
・有利発行(199条3項)を論じる(払込金額は特に有利でないと明記されており、論点ではない)
・発行の効力を有効・無効のいずれとも決めず、両論併記のまま終える(会社法の効力の問題は結論を言い切るべき)
ア 合格ライン
・訴えの選択
Eは、株主総会決議取消しの訴え(831条1項、決議の日から3か月以内)を提起し、丁社の議決権行使が違法であるとして、決議方法の法令違反(同項1号)を主張することが考えられる。
・主張(丁社の議決権行使の可否)と当否
本件募集株式は仮装払込みによるものであるから、引受人丙社は払込みを仮装した者として、213条の2の支払をするまで株主権を行使できない(209条2項)。
その株式を代物弁済により譲り受けた丁社は譲受人ではあるが、本件スキームに関与していて悪意である。したがって、権利行使を認める209条3項本文にかかわらず、悪意の丁社は同条項ただし書により保護されず、株主権(議決権)を行使することができない。
それにもかかわらず丁社が議決権を行使したことは、決議方法の法令違反に当たる。総議決権15万のうち賛成は9万であるところ、丁社の5万を除くと賛成は4万にとどまり、取締役の選任に必要な過半数に達しないから、丁社の議決権行使は決議の結果に影響を及ぼす。
したがって、決議取消しの主張は認められる。
イ 優秀レベル
・209条2項が引受人を対象とすることを確認したうえで、悪意の譲受人(丁社)に209条3項ただし書を介して行使制限が及ぶ理由を、仮装払込みの規律の潜脱防止という趣旨から説明する。
・丁社の議決権を除いた賛成4万が可決要件を満たさないことを数字で示し、瑕疵と決議の結果との因果関係(裁量棄却〔831条2項〕の余地がないこと)まで論じる。
ウ 加点要素
・丁社が本件スキームの当事者として合意に加わっていた事実(11・13)を、悪意の評価に用いる
・小問1で発行が有効(無効の訴えは認められにくい)と解したことと、小問2で丁社の議決権行使を否定することとが、整合することを意識する
エ 減点要素
・丁社を単なる譲受人として209条3項本文で当然に行使可としてしまう
・決議取消しの結論だけを述べ、議決権数への影響(結果への因果性)を示さない
Fの解任決議(本件臨時株主総会①)には、招集通知が一切発出されていないという瑕疵があります。Fは、この解任が効力を生じないとして、令和7年2月分以後任期満了までの報酬500万円を請求しています。瑕疵の程度、追認決議(本件臨時株主総会②)の効力、そして任期満了時期の三つを、順に検討します。
ア 合格ライン
・主張の骨格
Fは、本件臨時株主総会①のF解任決議は招集手続に重大な瑕疵があって不存在であり、Fは取締役の地位を失っていないから、地位に基づき報酬を請求できると主張する。
・招集手続の瑕疵の程度
株主に対する招集通知が一切発出されていない場合は、単なる招集通知漏れ(取消事由・831条1項1号)にとどまらず、決議が法律上存在すると評価できないほどの重大な瑕疵であって、決議不存在(830条2項)となる。
もっとも、株主全員が出席し異議なく決議した全員出席総会であれば瑕疵は治癒されるが、本件臨時株主総会①に出席したのはA及びGらのみで、他の従業員・取引先株主は出席していないから、全員出席総会には当たらず、瑕疵は治癒されない。
よって、本件臨時株主総会①のF解任決議は不存在であり、Fは同決議によっては取締役の地位を失わない。
・追認決議(本件臨時株主総会②)の効力
本件臨時株主総会②は、①のF解任決議を追認する旨の決議である。
ここで「不存在の決議は追認できない」のが原則であるが、これが否定するのは遡及効だけであり、①の不存在を遡って治すことはできないにとどまる。
他方、②はそれ自体、適法に招集・開催され、解任決議の要件(341条)を満たして可決された独立の株主総会決議である。表題が「追認」でも、その実質はFを取締役の地位から外すという株主総会の意思決定に他ならない。
したがって、遡及効は否定しつつ、②を将来に向かってFを解任する新たな決議と評価すべきであり、②の時点(令和7年4月30日)からFは解任されると解する。
(「追認だから空振り」という形式論を決議の実質で乗り越える)
・任期満了と結論
Fは令和5年6月30日に再任され、定款に任期の定めがないから、その任期は令和7年の定時株主総会終結時(同年6月30日)に満了する。
以上を前提とすると、①の解任は不存在だがFは②により令和7年4月30日に将来効で解任されるから、Fは2月分から4月分までの3か月分について取締役の地位に基づき報酬を請求でき、その限度(300万円)で請求は認められる。5月分以後は解任後であり認められない。
イ 優秀レベル
取締役の報酬請求権が、現実の職務執行の有無ではなく取締役の地位(委任契約)に基づいて発生することを示し、Fが病気で出社していなくても、地位がある限り報酬請求権を失わないことを明示する。
・②を将来効の新たな解任決議と評価する(300万円)のが主柱であり、500万円説(②は追認議案で新解任の意思を諮っていない)は反対説として示して乗り越える、という構造で言い切る。
・解任に正当な理由(病気による職務困難)があるかは、339条2項の損害賠償の問題であって、地位存続期間中の報酬請求の可否とは区別されることに触れる。
ウ 加点要素
・全員出席総会の法理を挙げ、本件では他の株主が出席していないから治癒されないことを、事実に即して示す
・任期満了時期(332条1項)を条文から特定し、請求期間の終期を確定する
エ 減点要素
・招集通知が一切ないのに、取消事由(831条1項1号)にとどまるとして3か月の出訴期間を問題にする
・追認決議②に遡及効を認め、Fの地位が当初から失われたとする
・報酬請求を、職務執行がないことを理由に一律に否定する
・②の効力を決めず、300万円か500万円かを場合分けのまま終える
(追記)
(この結論は、利害の均衡にも適う。仮に500万円の全部を認めると、Fは甲社のミスに乗じて働かずに5か月分を得ることになり(地位に基づく請求権とはいえ実質は不労所得的)、他方で会社の損害も大きくなる。②を将来効と読めばこれを避けられる。もっとも、これは実質論から導いた結論を確証する傍証であって、F対甲社の報酬請求は②の法的性質から決するのが筋である。反対説として、②はあくまで「①の追認」議案であって新たな解任の意思を株主に諮っていないから空振りであり、Fは任期満了(6月30日)まで取締役として500万円全部を請求できる、との立論もあり得るが、決議の実質を捉える前記の理由から、300万円で言い切るのが妥当である。
2026年7月29日 加藤洋一
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