刑事系に続いて、民事系第1問(民法)を解いてみました。
設問1は、⑴取得時効と抵当権、⑵遺贈と遺言執行者。
設問2は、⑴請負の出来形部分の所有権帰属、⑵損害賠償の範囲と相殺。総則・物権・債権・相続から満遍なく出題されており、民法の総合力が問われた良問です。
結論から言うと、こちらも「考える力」を試す方向がはっきり出ています。
設問1は、有名論点の応用に日付の計算を絡め、同じ論点でありながらCとDで結論が分かれるように作られています。
設問2は、「反対の立場の論拠にも触れつつ」「金額を示して」と、書くべきことを設問が名指しで指定してきました。
つまり、論点の名前を思い出しただけでは点にならず、条文と判例の枠組みを、目の前の事実と数字に当てはめて初めて点になる、ということです。設問の指示にこだわる姿勢は、民法でも全く同じです。
取得時効と登記は、民法で最も有名な論点の一つです。もっとも本問は、そこから一歩進んで、時効完成後に抵当権の設定を受けた第三者に対する「再度の取得時効」まで問うています。しかも、CとDとで結論が分かれる作りになっています。ここに気づけたかどうかが最大の勝負どころ。日付を丁寧に拾ってください。
ア 合格ライン
・問題提起
Aの取得時効が成立するとして、時効完成後に抵当権の設定を受け登記を備えたC・Dに対し、Aは登記なくして時効取得を対抗し、抵当権の消滅を主張できるか。
・規範定立
Aは所有の意思をもって、平穏かつ公然と、善意無過失で占有を開始しているから、10年の短期取得時効が問題となる(162条2項)。時効取得は原始取得であり、本来は抵当権の負担のない所有権を取得する。もっとも、時効完成後に原所有者から権利を取得した第三者との関係では対抗問題となり、時効取得者は登記なくして対抗することができない(177条)。
ただし、第三者が登記を経た後もなお占有を継続し、その登記時を起算点として再び取得時効に必要な期間が経過したときは、抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情がない限り、時効取得者は登記なくして抵当権の消滅を主張することができる(最判平24.3.16)。
・当てはめと結論
Aは令和2年1月10日に善意無過失で占有を開始しているから、令和12年1月10日に取得時効が完成する。Cの本件登記①(令和22年4月20日)もDの本件登記②(令和33年2月15日)も、これより後であるから、C・Dはいずれも時効完成後の第三者である。
Cについて。Aは、本件登記①の後も甲土地の占有を継続し、令和35年9月3日まで善意無過失であったから、本件登記①から10年が経過した令和32年4月20日経過時に再度の取得時効が完成している。Aが抵当権の存在を知ったのはその後の令和35年9月3日であり、抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情もない。よって、Aは登記なくしてCに対抗でき、Cに対する本件登記①の抹消登記手続請求は認められる。
Dについて。本件登記②(令和33年2月15日)から援用の日(令和35年10月15日)まで約2年8か月しか経過しておらず、再度の取得時効は完成していない。よって、Aは登記なくしてDに対抗することができず、Dに対する本件登記②の抹消登記手続請求は認められない。
イ 優秀レベル
●時効完成前の第三者と完成後の第三者とで扱いが分かれる理由(前者は当事者類似の関係に立つのに対し、後者は原所有者を起点とする二重譲渡類似の関係に立つこと)まで遡って説明する。
●再度の取得時効の起算点をC・Dそれぞれの登記時に置くことを明示し、162条2項の善意無過失をその起算点において判断することを示す。
●最判平24.3.16の「抵当権の存在を容認していたなど特段の事情がない限り」という留保に触れ、Aが抵当権の存在を知った令和35年9月3日が、Cとの関係での再度の時効完成(令和32年4月20日)より後であることを摘示して、特段の事情がないと評価する。
●再度の取得時効の起算点をめぐる理論的対立まで示す。
民法397条を、取得時効による原始取得の反射的効果として抵当権が消滅することの確認規定と解する立場(確認規定説)に立つと、最初に対立関係が生じた最先順位(C)の登記時を単一の起算点とし、再度の取得時効の完成により当時存在する抵当権が一挙に消滅すると説明できる(平成24年最判の調査官解説はこの方向)。他方、397条を抵当権の消滅時効を定めた規定と解する立場(消滅時効説)に立てば、抵当権者ごとに、その登記時を起算点として再度の取得時効を検討することになる。
●もっとも、本問の日付の並びでは、いずれの説に立っても結論は変わらない。
Cの登記(令和22年4月20日)を起算点とする再度の取得時効は令和32年4月20日に完成するのに対し、Dの登記(令和33年2月15日)はその完成後にある。したがって、確認規定説を採っても、完成の時点でDの抵当権はまだ存在せず一挙消滅の対象とならないから、結局Dは完成後に現れた第三者として残る。Cは消滅・Dは存続という帰結は、両説で一致する。この点まで示せると、起算点論を単なる知識ではなく本件の事実に即して使えていることを示せる。
ウ 加点要素
●日付を丁寧に拾い、同じ枠組みからCとDで結論が分かれることを明示する(本問最大の勝負どころ)
●時効取得が原始取得であること(本来は抵当権の負担を受けない)から出発し、それでもなお対抗問題が生じる理由を示す
●Aが時効を援用したのが令和35年10月15日であり、援用によって効果が確定的に生じ、起算日に遡ること(144条)に触れる
エ 減点要素
●CとDを区別せず、両者を同じ結論にしてしまう
●時効完成前の第三者の処理(登記不要)をそのまま当てはめる
●再度の取得時効に気づかず、「登記がないからAの請求はいずれも認められない」で終える
こちらは平成30年改正で新設された1013条2項が主戦場。
Kが「Hに対してEが遺言を残していたか否かを尋ねることもしなかった」という事実が、わざわざ書き込まれています。この「わざわざ事実」を何のために使うのかに気づけるかが加点要素です。
ア 合格ライン
・問題提起
Fは本件遺言による特定遺贈によりEの死亡時に丙土地の所有権を取得する(985条1項)。しかし、Hが法定相続分の相続登記を経たうえでその持分をKに売却し、Kが本件登記③を備えている。FはKに対し本件登記③の抹消登記手続を請求できるか。
・規範定立
遺贈による物権変動も177条の対抗問題であり、受遺者は登記なくして第三者に対抗することができない(最判昭39.3.6)。もっとも、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず(1013条1項)、これに違反した行為は無効となる。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することはできない(同条2項)。
・当てはめと結論
本件遺言ではGが遺言執行者に指定されている。Gの就職の承諾(令和8年2月10日)はHの処分(令和8年1月21日)より後であるが、遺言で指定がある以上、就職の承諾により相続開始時に遡って遺言執行者があったものとして扱うべきであるから、Hの処分にも1013条1項が適用される。したがって、Hの処分は同条2項本文により無効である。
もっとも、Kは本件売買契約の締結時に本件遺言の存在を知らなかったから、同項ただし書の「善意の第三者」に当たる。したがって、Fは処分の無効をKに対抗することができず、177条の対抗関係に立つ。
よって、登記を有するKが優先するから、Fの請求は認められない。
イ 優秀レベル(一応、このような筋が考えられます)
●1013条2項ただし書の「善意の第三者」に無過失を要するかを論じる。条文の文言は善意のみを要求しているが、真の権利者たる受遺者の保護との調和から無過失を要するとの見解もあり得る。無過失を要すると解すれば、Kは相続開始の直後にHから持分を買い受けながら遺言の有無を尋ねてもいないから過失があり、保護されない。その場合、Hの処分は無効のままでKは無権利者となるから、Fは登記なくしてKに対抗でき、請求は認められることになる。
●「遺言執行者がある場合」(1013条1項)の意義について、就職の承諾前にされた処分行為にも及ぶかを正面から論点化し、遺言の実現を確保するという同条の趣旨から理由を示す。
●1013条2項の適用がない(又はKが保護される)場合には177条の対抗問題に戻り、登記を備えたKが優先する、という二段構えの構造を明示する。
ウ 加点要素
●Kが「Hに対してEが遺言を残していたか否かを尋ねることもしなかった」という事実を、過失の評価に正面から使う
●Hが令和8年1月11日に遺言の内容を認識していたこと(Hは悪意)を摘示したうえで、それでもなお善意のKが保護されるという構造を示す
●Gの就職承諾・通知(令和8年2月10日)とKの登記(令和8年1月21日)の前後関係を丁寧に押さえる
エ 減点要素
●1013条に気づかず、177条の対抗問題だけで処理する
●1013条2項ただし書の「善意」の意義(無過失の要否)を論じないまま結論を出す
●遺贈と特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言・899条の2)を混同する
請負の完成物の所有権帰属という古典的な論点に、下請負人が材料を提供したという事情が重なります。最判平5.10.19がそのまま素材になっています。設問が「反対の立場の論拠にも触れつつ」と指定している以上、これを落とすと大きく失点します。
ア 合格ライン
・問題提起
材料の全部を自ら調達したのは下請負人Cであるが、注文者Aと元請負人Bとの間には、解除された場合に出来形部分の所有権をAに帰属させる旨の特約がある。本件出来形の所有権はAとCのいずれに帰属するか。
・規範定立
請負においては、請負人が材料の全部を提供した場合、完成物の所有権は請負人に原始的に帰属し、引渡しによって注文者に移転するのが原則である。もっとも、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された場合の出来形部分の所有権を注文者に帰属させる旨の特約があるときは、下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、元請負人と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、出来形部分の所有権は注文者に帰属する(最判平5.10.19)。下請負人は、元請負人がその債務を履行するために用いる者であって、注文者との関係では元請負人と同視できる立場にあるからである。
・当てはめと結論
本件契約①には、解除された場合に出来形部分の所有権をAに帰属させる旨の合意がある。
他方、本件契約②では出来形部分の所有権の帰属について特段の合意がされていないから、判例のいう「特段の事情」は認められない。加えて、Aは一括下請けについて書面で承諾しており、Cもそれが本件工事①の一括下請であることを知っていたから、CはA・B間の契約関係を前提として仕事を引き受けたといえる。
よって、本件出来形の所有権はAに帰属する。
イ 優秀レベル
●反対の立場(Cに帰属する)の論拠を的確に示す。すなわち、
①材料の全部を提供したのはCであり、材料主義からはCに原始的に帰属すべきこと、
②CはA・B間の特約の当事者ではなく、契約の相対効からその特約に拘束されないこと、
③Cは報酬800万円のうち200万円しか受領しておらず、残報酬債権を確保するために出来形部分の所有権を留保する利益があること。
●そのうえで、下請負人が元請負人の履行補助者的立場にあること、Aの書面による承諾とCの認識という本件固有の事実を摘示して、判例の立場を基礎づける。
ウ 加点要素
●Aが書面で一括下請けを承諾し、Cもそれを知っていたという事実の摘示と評価
●本件契約②に出来形部分の所有権帰属についての合意がないことを、判例のいう「特段の事情」の不存在として位置づける
●Cの報酬が200万円しか支払われていないという事実を、反対の立場の論拠として正確に使う
エ 減点要素
●「反対の立場の論拠にも触れつつ」という設問の指示を落とす
●材料主義だけで結論を出し、A・B間の特約を検討しない
●Cが特約の当事者でないことだけを理由に、特約の効力を一切否定する
設問が「金額を示して論じなさい」と指定しています。6割という数値が与えられている以上、これを634条の「注文者が受ける利益の割合」に結びつけて計算するところまでが要求です。数字を出し切ってください。
ア 合格ライン
・問題提起
Aの債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項、545条4項)はどの範囲で認められるか。また、Bの割合的報酬債権による相殺の反論は理由があるか。
・規範定立
請負が仕事の完成前に解除された場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる(634条2号)。同号は解除の理由を問わないから、請負人の債務不履行を理由とする解除の場合にも適用される。
・当てはめと結論
Bの報酬債権について。本件出来形の引渡しによってAが受けるべき利益は、本件工事①が完成したとすればAが受けたであろう利益の6割に相当する。よって、Bは報酬1000万円の6割である600万円を請求することができる。Aは既に400万円を支払っているから、Bの残報酬債権は200万円である。Bの反論は、この200万円の限度で理由がある。
Aの損害について。本件契約①が履行されていれば、Aは1000万円の支払により完成建物を取得できたはずである。ところが実際には、Bに600万円(634条による報酬)、Dに650万円を負担し、合計1250万円を要した。よって、その差額である250万円がAの損害である。未完成部分についてBに負担すべきであった400万円(1000万円の4割)に代えてDに650万円を支払った、その増加分と考えても同額となる。Dへの報酬650万円は同日時点の市場の適正価格であるから、損害として相当因果関係の範囲内にある(416条1項)。
以上より、Aの250万円の損害賠償請求権とBの200万円の報酬債権とが相殺され、Aの請求は50万円の限度で認められる。
イ 優秀レベル
●634条2号が解除の理由を問わないこと(請負人に帰責事由がある解除であっても適用されること)を、条文の文言と、既履行部分の価値を清算するという同条の趣旨から説明する。
●損害額の算定について、①契約が履行されていれば置かれたであろう財産状態との差額から導く筋と、②未完成部分の追加工事費用の増加分から導く筋の双方を示し、いずれによっても250万円となることを確認する。
●解除による原状回復(545条1項)と損害賠償(同条4項・415条1項)とを区別したうえで、634条により6割の部分は仕事の完成とみなされる結果、その限度では原状回復の問題とならないことを示す。
ウ 加点要素
●「6割」という数値を、634条の「注文者が受ける利益の割合」に正確に結びつける
●Aが既に400万円を支払っている事実を、Bの残報酬債権の算定に落とし込む
●650万円が市場の適正価格であるという事実を、損害の相当性の評価に用いる
●金額を明示して結論を示す(250万円-200万円=50万円)
エ 減点要素
●割合的報酬を危険負担(536条2項)から導く(本問はAの帰責事由による履行不能ではないから同項は使えない)
●634条に気づかず、Bの反論を理由がないと一蹴する
●設問が「金額を示して」と指定しているのに、抽象的に「損害賠償が認められる」で終える
●原状回復(545条1項)と損害賠償とを混同し、既払の400万円の返還と損害賠償を二重に計上する
2026年7月29日 加藤洋一
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