本日(令和8年7月21日)、今年の司法試験の問題が公開されました。
CBT試験になったことにより、論文式試験の問題が変化したかどうか興味があったので、早速解いてみました。
一言で言うと、難化したと思います。なぜなら、これまで以上に「考える力」が試されるようになったからです。
これは、従来からの傾向が一層強くなったということでもあります。これまでも、採点実感では、毎年のように繰り返し「論証パターンの貼り付け」を低く評価していましたが、今年の問題はまさに論パ貼り付けでは太刀打ちできないものになりました。やはり、過去問を教材にした「思考力を磨く勉強」がますます求められるということでしょう。
設問1は、甲乙によるAの殺害という事例を題材に、共同正犯、原因において自由な行為、遅すぎる構成要件の実現という総論の論点が問われました。共同正犯・因果関係・責任と、刑法の体系に沿って幅広く理解と思考力を試す良問だったといえるでしょう。
原因において自由な行為も遅すぎる構成要件の実現も、新司法試験では初の出題です(遅すぎる構成要件の実現は予備試験では出題例があります)。
こういう予想外の論点が出たときこそ、焦らず、設問の指示に徹底的にこだわってください。今年のヒントは何と言っても、設問1では、「①行為と②行為の関係をどのように把握するか」と「行為と責任の同時存在の原則の意義とその根拠」の二つに言及せよと指定していることです。この二つは別々の話ではなく、実は一つの問題の裏表です。ここに気づけたかで大きく差がつきます。
共同正犯は刑法総論の最頻出論点です。今年は実行共同正犯を認定します。まず、甲乙が暗黙のうちに意思を通じてAに暴行を加えた①行為、トイレ前の「取り押さえてくれ」「死んでも構わない」というやり取り、そして乙がAの両足を押さえる中で甲が行った②行為、という共謀と実行の流れを押さえてください。
そのうえで、設問が正面から問う「①行為と②行為の関係」は、次の(2)の同時存在の原則と必ずセットで考えます。①②を一連一体の実行行為と見るのか、それとも甲乙が一旦眠り、Aが逃げ、甲が冷蔵庫に頭を打って確定的殺意を抱いた点を捉えて断絶と見るのか。この選択が、甲の心神耗弱の処理の仕方を決めます。
本問の心臓部です。甲は①行為時には完全責任能力を有し、②行為の開始時点で飲酒の影響により心神耗弱に至っています。他方、乙は終始完全責任能力です。この甲乙の非対称を最初に押さえてください。
ア 合格ライン
・問題提起
甲は 行為時に心神耗弱であったとして、39条2項により必要的減軽②がされるのではないか。ここで、実行行為と責任能力の同時存在の原則(責任非難は実行行為の時点で可能でなければならない)の意義と根拠に触れる。
・規範定立
同時存在の原則を前提に、①②をどう捉えるかで二つの筋がある。
(1)①②を一連一体の実行行為と見れば、実行の着手(①)の時点で完全責任能力があるから、その後の低下は実行行為の途中にすぎず、同時存在の原則は満たされる。
(2)①②を断絶と見て、②を心神耗弱下で始まる新たな実行行為と捉えるなら、原因において自由な行為により完全な責任を基礎づける必要がある。
責任説(原因行為時の意思決定が結果行為時に実現・連続していれば、同時存在の原則の修正を認める)で規範を立てる。
いずれの筋でも論理が一貫していればよい。
・当てはめと結論
甲について、原因行為(飲酒)を続けた①行為の開始時点で既に3合に達し、甲がそれを認識し、かつAへの殺意を有していたことを摘示し、その意思決定が②行為に連続していると評価して、完全な責任を導く。乙は終始完全責任能力だから、この問題は生じないことを一言で示す
イ 優秀レベル(一応、このような筋が考えられます)
・①②の関係の選択が、同時存在の原則の処理を分岐させることを明示する。一体と見れば実行行為途中の責任能力低下として原因において自由な行為を経由せずに完全な責任を問え、断絶と見て初めて原因において自由な行為が必要になる、という連動を示せると、設問の二つの指定に正面から答えたことになる。
・構成要件説(原因行為を実行行為と見る立場)への反論を書く。実行の着手時期が早くなりすぎること、心神耗弱の場合を説明できないこと。本問の甲はまさに心神耗弱なので、この批判が効く。
・責任説の要件(原因行為時に責任能力があったこと、原因行為時の故意が結果行為に連続していること、原因行為と結果行為の因果的連関があること)を、本件事実に即して一つずつ当てはめる。
ウ 加点要素
・本件固有の積極事実(甲の殺意が①から②へ継続していること、①行為開始時に飲酒量が3合に達し甲がこれを認識していたこと)の摘示と評価
・消極事実(甲は飲み始めの時点では「暴れるほど酩酊することはないだろう」と思っていたこと)に触れ、原因行為をどの時点に求めるかで評価が変わることを意識する
・甲乙の非対称(乙は完全責任能力ゆえ原因において自由な行為は不要)を明示する
エ 減点要素
・①②の関係と同時存在の原則を切り離し、別々の論点として処理する(設問が二つの言及を並べた意味に気づいていない)
・乙についてまで原因において自由な行為を論じてしまう
・設問の指示に触れず、論パを貼り付けて問題の所在に気づいていない
有名論点の「早すぎる構成要件の実現」と混同している受験生がけっこういらっしゃいます。本問は逆で、②行為を自己が行った介在事情としての③行為を経て結果が発生した、という構造です。甲乙は②行為でAを殺したと思い込み、死体を運ぼうとした③行為(スーツケースへの押し込み・運搬)で、現実にはAが窒息死しています。
ア 合格ライン
・問題提起
②行為で殺害したという甲乙の認識にかかわらず、罪証隠滅として行った③行為で死亡結果が発生したことを指摘する。
・規範定立
「②行為の危険が、自己の介在事情としての③行為を経て、死亡結果へと現実化したか」と、危険の現実化説で規範を立てる。
・当てはめと結論
本問の事実を摘示して評価の上、規範に当てはめて結論を導く。そして、因果関係の錯誤は同一構成要件内である以上、故意を阻却しないことを示して、殺人既遂の共同正犯とする。
イ 優秀レベル
・②行為と、死亡結果を発生させた③行為とでは故意が異なる(③の時点では既にAが死んだと誤信している)から、一連一体の行為とは評価できないことを指摘したうえで、上記②と同様の規範で因果関係を検討する、という順序を明示する。
・③行為が、乙の発案と甲の同意という当初の計画に基づく行為であること(=行為者自身の介在行為であり、②行為に誘発された一連の経過であること)を捉えて、危険の現実化を基礎づける。
ウ 加点要素
・本件固有の積極事実(②行為による脳挫傷が「そのまま放置すれば死に至る程度」の危険であったこと、③行為が甲乙の計画に基づく介在であること)の摘示と評価
・死亡の直接の機序(スーツケースの密閉性による窒息)と②行為の危険との関係を、危険の現実化の枠内で評価する
エ 減点要素
・「早すぎる構成要件の実現」と混同する
・故意が異なる②行為と③行為を、無理に一連一体の行為として一体化してしまう
・設問の二つの指示(①②の関係・同時存在の原則)に引きずられて、こちらの因果の検討を落とす
・甲について
①行為から③行為までは、いずれもAの殺害に向けられた一連の経過であり、包括して一個の殺人罪を構成する。②行為時の心神耗弱は、原因において自由な行為(又は①②を一連一体と捉えることによる同時存在の原則の充足)により、完全な責任を問える。よって、甲には殺人既遂罪の共同正犯(199条、60条)が成立する。①行為の殺人未遂及び各暴行による傷害は、殺人既遂に吸収される。
・乙について
乙は終始完全責任能力を有し、①行為の共謀・実行、トイレ前での「死んでも構わない」という意思の確認、②行為でのAの足の押さえ(事前の打合せに基づく共同実行)、③行為の発案を通じて、甲と共同してAの殺害を実現している。③行為で結果が生じた点も、甲と同様に遅すぎる構成要件の実現として処理できるから、乙にも殺人既遂罪の共同正犯(199条、60条)が成立する。
・罪数
甲乙とも、成立する犯罪は殺人既遂罪の共同正犯の一罪である。①行為の殺人未遂・傷害は既遂に吸収され、全体として包括一罪となる。
設問2では建造物等以外放火(110条1項)という各論のマイナー論点が出題されました。もっとも、本問は「公共の危険」をめぐって二つの固有論点が仕込まれています。すなわち、⑴公共の危険の意義(範囲)と、⑵公共の危険の認識の要否です。とりわけ、甲は延焼の危険を認識していたのに乙は認識していない、という事実の書き分けは、認識の要否を正面から問う仕掛けなので、重要な加点要素です。
まず客体はA車です。Aは死亡していますが、その所有権は相続人に移っているので、「前二条に規定する物以外の物」であって他人の物にあたり、110条1項の問題となります。
ア 合格ライン
①「放火」
②「前二条に規定する物以外の物」
③「焼損」
④「よって」
⑤「公共の危険を生じさせた」
の各構成要件に、本件の事実を一つ一つ当てはめる。「放火」「焼損」「公共の危険」の意義(定義)を示せればなお良い
イ 優秀レベル
・公共の危険の意義(範囲)
本件は最寄り建造物まで約25メートルで建造物への延焼危険はなく、危険はC車とゴミ集積場に及んだにとどまる。そこで、公共の危険を108条・109条の物への延焼危険に限る限定説では危険を認めにくく、不特定又は多数人の生命・身体・財産に対する危険で足りるとする立場(最決平15.4.14参照)に立って初めて公共の危険を肯定できることを示す。
・公共の危険の認識の要否
判例(不要説)と学説(必要説)の対立に触れ、いずれかの立場に立って反対説に反論する。そして、甲は延焼の危険を認識しているから認識必要説でも問題なく成立するのに対し、乙は認識がないから、認識必要説に立つと公共の危険の認識を欠くことになる、という甲乙の帰結の違いまで示す。
ウ 加点要素
・本件固有の積極事実(火炎が屋根上から約2メートル、C車まで約3メートル、ゴミ集積場まで約2メートルの近さ、可燃性ゴミ約300キログラム)の摘示と評価
・消極事実(漁業関係者が出入りする可能性について甲乙とも認識がないこと)を、公共の危険の認識の当てはめで正確に扱う
エ 減点要素
・公共の危険の認識の要否を落とす(甲乙で認識を書き分けた出題意図を外す)
・公共の危険の範囲(限定説か拡張説か)に触れず、当てはめが宙に浮く
・マイナー論点を網羅しようとして長々と書き、設問1が薄くなる
・甲について
甲は完全責任能力を回復した上で、乙と共謀してA車に放火し、公共の危険を生じさせている。甲は延焼の危険を認識していたから、公共の危険の認識の要否につきいずれの立場に立っても、建造物等以外放火罪の共同正犯(110条1項、60条)が成立する。A車の焼損についての器物損壊罪は同罪に吸収される。
・乙について
判例(認識不要説)に立てば、乙にも建造物等以外放火罪の共同正犯(110条1項、60条)が成立する。これに対し、認識必要説に立てば、乙は公共の危険の認識を欠くから放火罪は成立せず、灯油を撒いてA車を焼損させた行為につき器物損壊罪(261条)が成立するにとどまる(110条には未遂処罰規定がないことにも注意する)。
・罪数
甲には建造物等以外放火罪の共同正犯一罪が成立する。乙は、採る立場に応じて同罪の共同正犯又は器物損壊罪の一罪となる。なお、事例1の殺人罪と事例2の放火罪(乙につき認識必要説なら器物損壊罪)
第2問刑事訴訟法は、設問1が捜査(強制採尿・体内異物のCT検査)、設問2が証拠(録画データ内の再伝聞・捜査報告書)から出題されました。いずれも、令状主義と伝聞法則という刑訴の背骨を、条文と判例の基本に立ち返って、目の前の事実に当てはめる力を問うものです。刑法と同じく、論パの貼り付けでは太刀打ちできません。
設問が「具体的事実を摘示しつつ」と繰り返し求めている点にも、必ずこだわってください。
なお、強制採尿は、新司法試験では初の出題です(論文では旧司法試験の平成7年に出題例があるのみです)。体内異物のCT検査の令状(検証・身体検査・鑑定)は内視鏡による嚥下物の採取の違法性という裁判例で出てきますが、知らなくて当然の現場思考。録画データ内の再伝聞、写真付き捜査報告書の証拠能力も、いずれも新司法ではほとんど問われてこなかった領域です。
予想外に見えても、焦る必要はありません。条文と処分の性質・供述の構造に立ち返れば、必ず対応できます。
強制採尿には最決昭和55年10月23日という超有名判例があるので、多くの受験生が反応できたはずです。差がつくのは、①令状の種類の理由づけ、②発付要件の当てはめ、③下線部②の実施(医師・有形力)の当てはめ、の三段を、事実に即して丁寧に書けたかです。
ア 合格ライン
・令状の種類
強制採尿は身体に対する侵襲を伴う強制処分であり、体内の尿を取得する捜索差押えの性質を有するから、「捜索差押許可状」に「医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせる」旨の条件を付したもの(条件付捜索差押許可状)による、と最決昭55.10.23に従って書く。
・発付要件
本件の事実(甲に覚醒剤使用の嫌疑があること、6回を超えて任意提出を拒否し、水も飲まず、任意の提出が期待できないこと)を抽象化して、「強制採尿の必要性・相当性に照らして真にやむを得ない場合に許される」といった規範を立て、これに当てはめて要件充足を導ければ十分。
・下線部②の適法性
医師(Y医師)による合理的かつ安全な方法であること=条件を充たすこと、警察官が甲の手足を押さえた有形力=実施に必要な最小限度のものとして許されること(最決平6.9.16の趣旨)を当てはめて、適法と結論づける。
イ 優秀レベル
・発付要件の規範を、最決昭55.10.23の考慮要素(被疑事実の重大性・嫌疑の存在、証拠の重要性と取得の必要性、適当な代替手段の不存在、被侵害利益との権衡)まで示して立てられれば、なお良い。
・令状の種類について、なぜ検証許可状や鑑定処分許可状ではなく捜索差押許可状なのか(体内の尿を『差し押さえるべき物』として取得する処分であること、直接強制の担保が必要であること)まで理由づける。
・逮捕の被疑事実は『譲渡し』であるのに、強制採尿は『使用』の証拠収集である点を意識し、使用罪の嫌疑が注射痕等から基礎づけられることを示した上で、別罪の嫌疑に基づく強制採尿として適法性を検討する。
ウ 加点要素
・本件固有の積極事実(真新しい注射痕、常用者特有の様子、再三の任意提出拒否、水を飲まない不自然さ)の摘示と評価
・逮捕(当日午前7時)から令状の取得・実施(午後4〜5時)まで約10時間が経過しており、時間の経過とともに尿中の覚醒剤の反応が薄れていくことから、証拠保全の必要性・緊急性が高いこと
・実施方法の相当性(10年の経験を持つ泌尿器科専門医、抵抗のない甲、安全確保のための押さえ)の評価
エ 減点要素
・令状の種類の理由づけを欠き、判例の結論だけを貼り付ける
・発付要件と実施の適法性を区別せず、混ぜて論じる
・設問が『具体的事実を摘示しつつ』と求めているのに、事実を摘示せず一般論で済ませる
設問は令状の種類だけを問うています。ここは強制採尿の応用問題で、処分の性質から令状の種類を導く思考が試されます。要件や適法性まで書くと設問2が薄くなるので、種類を絞ってください。
ア 合格ライン
・CT検査は、体内の状態(マイクロSDカードの位置・排出可能性)を画像で認識する処分だから、五官の作用で対象の状態を認識する『検証』の性質を有する。
もっとも、X線照射という身体への侵襲を伴い、身体を対象とするから、『身体検査』としての性質を併有する。
よって、身体検査令状(218条1項)による、と書ければ合格ライン。
イ 優秀レベル(一応、このような筋が考えられます)
・CT検査が医師の専門的知識・技術を要する医学的検査である点で『鑑定処分』(225条・168条)の性質も併有すること、鑑定処分許可状には直接強制の担保がないことを指摘し、身体検査令状と鑑定処分許可状の併用による、という筋を示す。
・強制採尿(最決昭55.10.23)と同様に、身体への侵襲を伴う強制処分について明文なき令状の種類が問題となる構造であることを意識し、処分の性質(検証+身体検査+鑑定)から令状を組み立てる。
ウ 加点要素
・体内の異物(SDカード)を最終的に取得する捜索差押えの前段階として、位置確認のための検証という位置づけを示す
・強制採尿との異同(尿の取得ではなく、体内状態の認識にとどまる点)に触れる
エ 減点要素
・単に『検証許可状』とだけ答え、身体侵襲・専門技術という性質を捨象する
・令状の種類を問われているのに、要件や適法性まで長々と論じて設問2が薄くなる
設問2に共通する前提として、まず、本件DVD・捜査報告書のいずれについても、立証趣旨がそのまま要証事実となること(立証趣旨と別異に解すべき事情はないこと)を確認してください。
そのうえで、これらはいずれも公判外の供述を内容とする記録・書面であって、320条1項により原則として証拠能力がないこと(伝聞法則)を出発点に置き、どの伝聞例外の要件を充たすかを検討する、という筋になります。
ここが第2問の山です。二重の伝聞(再伝聞)を、供述の構造を分解して処理できるかで大きく差がつきます。撮影者Wが死亡していること、発言の中で乙の発言が引用されていることの二点に、必ず気づいてください。
ア 合格ライン
・供述の構造を分解する
立証趣旨は『乙が1月20日昼頃J公園で甲と会ったこと』。これを立証するのに用いるのは、動画内のWの発言『あなたは〈J公園に行って甲と会ってた〉と言っていた』である。
すなわち、⑴乙の発言(『J公園で甲と会った』)を内容の真実性のために用いる伝聞と、⑵それを再現するWの発言(公判外供述)という、二重の伝聞であることを指摘する。
・各段の伝聞例外(324条)
録画データは、録取過程の誤りが介在しない機械的記録だから、供述書に準じて扱う。
そのうえで再伝聞だから、324条の趣旨に従い、
外側のWの供述部分は、Wが死亡して供述不能だから321条1項3号の要件(供述不能・不可欠性・特信情況)を、
内側の乙の供述部分は、被告人の不利益供述だから324条1項が準用する322条1項の要件を、
それぞれ検討する。
・結論
両段の伝聞例外の要件をいずれも充たせば証拠能力が認められる、と結論づける。
イ 優秀レベル
・再伝聞が許容されるのは、各段の供述についてそれぞれ伝聞例外の要件を充たすからであるという理論的な理由づけを一言添える。
・特信情況を、私的な誕生日祝いの動画であって、Wに虚偽を述べる動機がなく、会話の流れも自然であるという事実から具体的に基礎づける。
・乙の供述の任意性・不利益性(自らJ公園で甲と会ったと認める内容であり、譲渡しの共謀を基礎づけること)を当てはめる。
ウ 加点要素
・本件固有の積極事実(撮影日・撮影経緯が明確であること、Wと乙の交際関係、自然な私的会話であること)の摘示と評価
・発言の存在自体(非伝聞)と内容の真実性(伝聞)の切り分けを意識し、立証趣旨からは内容の真実性が問題になることを明示する
エ 減点要素
・二重の伝聞であることに気づかず、一段だけで処理する
・録画データの性質(供述書に準じるか)に触れないまま伝聞例外に飛ぶ
・被告人乙の供述であるのに321条1項3号だけで処理し、324条・322条を落とす
一つの書面の中に、性質の異なる部分(写真・見分結果・意見)が混在していることに気づけるかがポイントです。書面を一体として扱わず、部分ごとに切り分けてください。とりわけ、末尾の説明文がPの意見である点は、合格ラインでも必ず気づいてほしいところです。
ア 合格ライン
・書面の性質
捜査報告書は、Pが差押え済みスマートフォン内の動画を見分し、その結果を記載した書面である。作成者Pの公判外供述を内容とするから、供述証拠であり、伝聞法則が適用される。
・添付写真
動画から静止画を出力した写真は、機械的に記録された現場写真類似のものだから、非供述証拠であり、伝聞法則の適用はない(作成過程に人の供述が介在しない限度で)。
・伝聞例外
書面(見分結果)部分は、Pの見分結果の報告として、321条3項(検証の結果を記載した書面に準じ、作成者が公判で真正に作成した旨を証言すること)の準用の可否を検討する。
・意見部分
末尾の説明文『この写真の注射器は、覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である』は、Pの意見・推測であって単なる知覚の報告ではないから、その真実性を担保する伝聞例外がなく、この部分は証拠能力を欠くことに気づく。
イ 優秀レベル
・写真(非供述)・見分結果(Pの供述)・意見(意見の伝聞)の三つを切り分けて部分ごとに証拠能力を論じたうえで、意見部分を除いても、写真+見分結果で立証趣旨(乙が注射器12本を所持していたこと)を支えられるかまで検討する。
ウ 加点要素
・写真の証拠能力について、動画からの複製・静止画化の同一性・非改変が担保されているかに触れる(資料1と異なり、資料2には内容の同一性を認定できる旨の指定がないことを意識する)
エ 減点要素
・書面を一体として扱い、写真・見分・意見の性質の違いを無視する
・意見部分(密売人が交付する注射器という評価)を当然に証拠能力ありとして扱う
・設問2に時間を使いすぎて設問1が薄くなる
本記事で、令和8年司法試験・刑事系の出題傾向を捉え、問題文の「読み筋」から答案構成まで解説した加藤洋一講師。
今年の問題からも、論証を覚えるだけではなく、過去問を通じて未知の問題にも対応できる思考力を磨くことの重要性が、ますます明確になりました。
そこで、加藤講師による新講座 「司法試験過去問 刑法攻略の地図」を、7月中にリリース予定。
司法試験過去問20年分を横断的に整理し、直近年度では答案作成の思考過程を重点的に解説。
問題文のどこに着目し、何を優先して、どの順番で答案に落とし込むのかを学びます。
過去問を「解いたことがある」から、「本番で使いこなせる」へ。
2026年7月22日 加藤洋一
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