Q:いつから司法試験・予備試験の勉強をはじめたんですか?
剛力:
はじめたのは大学1年からですね。
私は、都内でも特に司法試験に力を入れている有名な私立大学の法学部に入学しました。
その大学は大学1年生向けに司法試験受験対策のゼミを募集していて、当然私もそのゼミに入部しました。
当時の私はとにかく負けず嫌いでしたし、司法試験を目指すからには、ゼミの中でTOPに立てるくらい勉強しなければならないと考えてましたので、ゼミや講義で習うことは100%知識として暗記できるよう「まとめノート」なるものを春からすぐに作り始めました。
Q:まとめノートってどんなノート内容だったんですか?
剛力:
学部1年生が春に習う分野ですから、民法総則や憲法人権の知識をまとめたノートです。
たとえば「虚偽表示とは」と見出しを付けて定義を書いて、その後に「原則 無効」「第三者には有効」とかを書いていくわけです。
それに加えて「第三者とは」みたいな小見出しをつけて、どんなケースの人がそれに該当するのかをツラツラ書いていってましたね。
Q:そのまとめノートは役に立ちましたか?いつまで作ったんですか?
剛力:
まったく役に立ちませんでした(笑)
後でお話しますが、夏に行われたゼミの模擬試験でビリになってから、こういった知識のまとめノートを学習初期で作ると、目的が「司法試験に合格すること」ではなく、単に「知識を知ってる人になること」になってしまうんですね。
ある程度学習が進んで知識が混在してきたって段階ならまだしも、全体を把握していない段階でノートを作ってもただの自己満足になると感じました。
模擬試験でビリを取ったのでノートまとめは早々に止めました(笑)
Q:模擬試験で最下位とは?
剛力:
私が所属していたゼミでは200人弱1年生が所属しているのですが、毎年夏に模擬試験を受けるんですね。その試験は秋からのゼミのクラス分け認定も兼ねていて、短期合格を目指す人なら上位の点数を目指すわけです。
試験は事例形式の論文。分野は1年生前期でやった民法総則や物権前半あたりでした。
私も短期合格を目指していたので、上位を目指していました。自分のまとめノートで。
ところがですよ。
いざ問題を読んでみるとまったくといっていいほど何が問われているのかわからないんです。
当然ですよね。試験は事例形式でそれに論文で解答しなければなりません。定義とか論点とかを書いていただけの人間が答えられるわけがないんです。
まず「何が問われているのかがわからない」、次に「何を書けばいいのかわからない」特にあてはめ、最後に「どう書けばいいのかわからない」。
200人弱の受験生の中で私は最下位の成績をたたき出してしまったわけです。
Q:そこからどうやって立て直したんですか?
勉強方法を変えなきゃいけないと猛烈に反省しました。
そこからは、(完全に私の主観で)予備試験に合格しそうな先輩に片っ端から話を聞くことにしました。
そうすると、不思議な法則・パターンみたいなものを見つけたんですね。おそらくここがターニングポイントでした。
ゼミで上位にいる先輩であっても、基礎知識が飛んでたりすることが多かったんです。
当時のイメージは「○○とは」って聞かれたら「××だよ」と即答で返ってくるものだと思ってました(現に同期と話していたり、ゼミで講師に質問を受けてすぐに解答できる人がいると「おっ、この人はできる人だ」って思うじゃないですか)
ところが、ゼミで上位にいる先輩は、学部1年生が知っているような条文がスッポり抜けていたり、または解答があやふやな人が多かったんですね。
それにもかかわらず、なぜその人たちがゼミで上位にいるのか?
その答えは共通していました。
①事例問題で問われていることがわかり答案が書けたから
②知らない問題が出題されても条文と自分の経験から感覚的にこんな感じなのではないかとあたりを付けられたから
①については至極当然といえば当然なのですが、先輩方が口々に話すのは「司法試験は答案を書く試験」「問題を解く試験」だということ。学者になるわけじゃないから、自分が話したいことを話す試験じゃないということ。
模擬試験前までは、司法試験に受かる人=法律を知っている人でしたが、模擬試験後は、司法試験に受かる人=問いに答えられる人・出題者が答えてほしいことが分かる人に変わっていました。
②についてはこれに気付いてハッとしました。司法試験では未知の問題が出題されることが多いですが、それに喰らいつくのは自分なんだから自分の認知・感覚を研ぎ澄ます必要があるんだと気付きました。
これが大学1年生の夏休みでした。
Q:先輩の話を聞いてどういう勉強法に切り替えたんですか?
剛力:
今までと180度方針を転換しました。
ポイントは2つです。
・問題を解いてから知識を定着させる逆算思考
・認知の歪みを改善して、知らない問題でも外さない感覚を磨くこと
Q:ではまず、逆算思考の学習法について教えてください。
剛力:
これは多くの短期合格者が取り入れている手法ですが、基本書やテキストを読む前に先に演習書などの問題にあたり、わからなくてもいいからまず生の事実とは何かを考える作業です。
基本書・テキストなどの法律論→問題演習、ではなく問題演習→法律論の順番で学習します。
問題を理解して=生の主張(何をしたいのか/何が悪いのか等)を理解して→法律論に敷き替える、という作業です。
Q:もう少し具体的に教えていただけますか?
①問題を読む
②なんとなくわかる。何をしたいのかを考える(最初はなんとなくでさえわからない場合も多かったです。それでも当事者が何を望んでいるのか考えました)
③頭で知ってる条文を考える
⇒大抵ここで詰まります。普通はここで解説とか答案例を見るんですよ。でもここで答えを見ても正直意味ないと思います(解説などがあるのは誘惑ですよね)。
④いくら考えてもわからないなってときは、それっぽい条文を見出しで探す。これでいけんじゃね?という条文を見つけます。
⑤この後に答案例や解説を読みます。
この手順を繰り返し行います。特に④⑤の段階で2つ目のポイント「認知の歪みを改善する」ことが超重要です。
Q:それでは、認知の歪みの改善について教えてください。
剛力:
④の段階で、学習初期は大抵外れるんです。当然ですよ。知らないんですもん。
それでも腐らずに、答えがわからない段階では生の主張+自分の感覚+条文の文言で一定の解答を出すんです。このトレーニングが最初の肝です。
この後に⑤答案例や解説を読むと、自分の認知と客観的な答えがズレてることがわかります。これを修正していく作業が認知の歪みの改善です。
知らない問題が出たときに認知がズレなきゃ絶対に大外ししない。大外ししない訓練を学習初期から行うことが大事です。
認知の歪みを整える、法的センス・着眼点を磨くといったことを一番最初に行ってしまえば、最低限の知識で合格ができると考えました。
Q:修正していく作業とは?
剛力:
⑤の段階で基本書を確認するわけなんですが、これでまず客観的ないわゆる正しい知識を確認します。これはどの受験生でも演習後の復習で行うことだと思います。
これに加えて、私は④の段階で自分が必死に探して考えた条文の解説も併せて調べました。ここで重要なのが、両者を見比べて違いを探す作業です。違い=認知のズレになるのでズレの原因を探す作業が重要です。一般的な受験生であれば、正しい知識を知って「そうなんだ」と満足してしまいますが、これではあまり学習効果はないと思います。
自分の頭で必死に考えたのに、解説読んで間違えて「なんで?」ってなるじゃないですか?
その「なんで?」を埋める作業を正しい知識と間違えた知識の両方を見比べて行うのです。
両方の典型例を知り、適用される場面の違いを知り、事案間の違いを意識して見比べる。
この作業を行ってました。
この違いを探す作業は、最初は苦痛でしたね。
一方の知識は私が間違えた知識なわけですから、私個人の悩みをクリティカルに解決してくれる解説が必ずしもあるとは限りません。
なので、自分自身で考えることは常に行っていました。
Q:解説をただ読んで覚えるのではなく、ご自身の主観と照らし合わせて、認知との違いをあぶり出したわけですね。
剛力:
その通りです。
ただ、この訓練はすぐに効果が出るわけではないのでとても苦痛です。最初は自分の認知が大きくズレてることやセンスのなさに絶望しかけたこともありました。
途中、解説の誘惑もありますし、「知らないんだからやはりインプットから...」という気持ちも出てきましたが、それでは大学1年の夏と同じだと我慢してトレーニングしていました。
Q:効果はどれくらいで出てきましたか?
剛力:
半年程度です。
半年間このトレーニングを継続したのですが、ある日まったく知らない論点の問題を解いて、見事論点を当てることができました。
開始して半年で、はじめてこのトレーニングが活きてきたということを実感しましたね。
大学1年生の春休みに夏と同じようなゼミの認定試験があったのですが、その時には200人弱のゼミ生の中で10番台を取ることができ、自分の勉強法に確信を持つことができました。
しかも後から気づいたのですが、このトレーニングには副次的な効果もあったのです。
Q:副次的な効果とは?
剛力:
二重にインプットができることです。
先ほどの正しい知識と間違えた知識の違いを探す作業は、思ってる以上に頭を使います。
両方の違いを探すのですから、両方の趣旨や判例を調べるわけじゃないですか。
違いを意識しながら両方を深く調べるので、両方とも自然とインプットしてしまってるんですね。
机にかじりついて呪文のように暗記するより、違いを調べながらの方が記憶の定着にとってはかなり効果的だったと思います。この点は自信を持って言えます。
私実は大学2年生の春に病気で1年間入院していました。
この間ほぼ勉強はできていないのです。
1年後退院した後に勉強を再開し、大学2年生から再スタートしたのですが、これらの勉強の感覚は覚えてたのですぐにリカバリーでき、予備試験に合格することができました。
Q:剛力さんにとって予備試験・司法試験に合格するためには、どのような力が必要だと考えますか?
剛力:
よく「知識がなければ心配」「初学者だからインプットから」と言う人がいるのですが、効率的に短期合格したいのであれば、とにかく演習から入るべきだと思います。
合否を分けるのは、基礎知識の有無よりも自分で考える力の有無だと思います(基礎知識が不要って意味じゃないですよ)。
他人が書いたものや作り上げたものを覚えただけでは考えたことにはならないわけですから。基礎的な問題であっても知らない前提でまず自分で考える、登場人物は何がしたい(何が悪い)のか、どの条文が使えてどの文言が欠けているのか、これを自分で探すことではじめて司法試験・予備試験で求められている素養は身につくのだと思います。
分厚い基本書や予備校テキスト読んでもいいですが、演習→解説じゃなく、演習→思考→解説のプロセスは絶対に守らなければなりません。
演習→解説だと、単に問題と解説を覚えただけになっちゃいます。
こういう話をすると、「とりあえず典型事例とか知識だけ覚えて、そこから思考トレーニングに移行する」と考える方もいると思います。
それでももちろん受かる可能性はありますが、「短期合格」するためには毎日学習時間を8~10時間くらい確保してべったり集中する必要がありますね。
私の方法は、効率的に短期合格する方法です。現に私は週に4日勉強で、1日3時間~5時間の学習ペースでした。これを約1年半やって合格したわけです。 繰り返しになりますが、最初の半年は本当に苦痛と誘惑の戦いでした。
ただ、この苦痛と誘惑を乗り越えて結果が出始めたときの喜びはひとしおでしたね。個人差はあるでしょうが、私の場合最初の半年を乗り越えられたかどうがかが短期合格する分水嶺だと思います。
2020年3月4日 剛力大
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