ご質問ありがとうございます。
本問は、致傷結果が乙の加工後に生じたかどうか不明であるところ、加工前の行為に承継的共同正犯が成立しないので、致傷の原因となりうる暴行の全過程に共同実行したとはいえないため、致傷結果までは共同正犯になりません。
まず、加工の前後の因果関係が不明の場合に、致傷結果まで共同正犯が成立するためには、致傷の原因となりうる行為の全過程に行為者が共同していることが必要です。
全過程に共同していれば、加工の前後で因果関係が不明でも、その共同した全過程のどこかから致傷が生じたこと自体はいえるので、共同した全過程と致傷との因果関係を肯定できるからです。
これは裏を返すと、全過程にまでは共同していない場合に加工の前後の因果関係が不明であるならば、共同していない過程から専ら致傷結果が生じた可能性を排除できないので因果関係を認められず、致傷まで帰責できないのです。
すると本問では、乙の加工前の行為には承継的共同正犯が成立しないので、乙は加工前の行為との関係で共同正犯となりません。その結果、加工の前後で致傷の因果化関係が不明である以上、乙が共同していない加工前の行為から専ら致傷が発生した可能性を排除できないので、致傷結果までは乙に帰責できないという処理になるのです。
要するに、加工の前後で致傷との因果関係が不明な場合は、加工の前後を含む全過程で共同正犯となるのであれば、全過程と致傷の因果関係自体は認められるので、致傷結果まで共同正犯で罪責を負わせられます。
しかし、本問のように加工前に共同正犯が成立しない以上は、専ら加工前の共同していない行為だけから致傷結果が発生した可能性を排除できないので、疑わしきは被告人の利益に考える結果、加工後の行為だけと致傷結果との因果関係を肯定できず、致傷結果までは帰責されないのです。