善意者(本問のF)からの転得者が背信的悪意者(本問のD)である場合、背信的悪意者が善意者を藁人形として利用したのであれば、両者を一体と見て、背信的悪意者は保護されません。
本問では、Dが事情を知らないFを利用しているので上記の場合に当たり、Dは「第三者」(177条)ではなく、Eは登記なくして工場の移転登記手続請求を行えます。
これに対し、善意者が藁人形と評価できないときに、善意者からの転得者が背信的悪意者である場合の処理は、『新ハイブリッド民法2 物権・担保物権法』の53頁によると、見解が分かれているようです。
第1の見解は、背信的悪意者かどうかを個別的に判断するという最判平8.10.29の考えに則り、善意者が対抗要件を具備したとしても、転得者が背信的悪意者である以上は保護されず、登記なくして、転得者たる背信的悪意者に所有権を対抗できるとします。
第2の見解は、善意者が対抗要件を具備した時点で元の権利者から善意者への物権変動が完全に生じ、背信的悪意者である転得者も権利を承継でき、全くの無権利者となった相手方(本問のDの立場の人)は所有権を主張できないとする見解です。
そのため、善意者からの転得者が背信的悪意者の場合は…
①背信的悪意者が善意者を利用したならば、背信的悪意者を保護しない。
②背信的悪意者が善意者を利用したわけではないならば、背信的悪意者を保護しない見解
と保護するという見解が対立する。
という整理になります。