東京都港区三田2-15-45 慶応義塾大学三田キャンパス内 南館
南館や施設データについては、https://www.ls.keio.ac.jp/gaiyou/equipment.html 参照
ア.入学に必要な経費
・第1次入学手続:入学金10万円
・第2次入学手続:在籍料30万円、授業料112万円、施設設備費19万円、
その他の費用12,240円
・第1次・第2次年間支払費合計:1,722,240円(昨年度比3万円増。分納可)
→日本全国の法科大学院のなかで最高額の費用負担が生じる事実は否めない。 また2022年度も一昨年度比10万円の値上げをしているが、今年度はそこから更に3万円値上げを実施した(内訳:授業料2万円、施設利用料1万円増)。
そうすると、令和3年度入試から今年度までの僅か2年間で13万円値上げしていることとなる。
もっとも、物価変動率や企業の給与等を基準として算出されるスライド率(前年度人事院勧告による国家公務員給与のアップ率等)に基づき学費が変動するとのことであり、また施設維持費の基準となる水道光熱費等諸費用を加味すると、あくまでも上記基準を基に算出される値上幅としては妥当な水準となるであろう。
ところで、同大学法科大学院では入学試験成績優秀者に対する学費免除制度等も設けられている(同制度の過年度採用枠:既習未修合計で16名)。対象者については、数年前と異なり合格発表と同時には対象者の受験番号は公表されない。もっとも、その代わりに合格証とともに郵送される手続書面には当該合格者が学費免除対象者である場合には、その旨の案内が同封されており、これにより自らが授業料等免除対象者か否かを知ることが可能となる。
また、社会人出身者を対象とする、厚生労働省専門実践教育訓練給付金等支給対象校(未修・既修両方)となっている。(https://www.kyufu.mhlw.go.jp/)
このような制度を利用することや、その他の制度として、塾内奨学金(採用に関する諸要件あり)、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金制度も存在する(https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/index.html)。
そのため、授業料が高額であることのみで受験・進学を諦めるのは必ずしも得策ではない。このような資金調達の手段が存在することを念頭に置き、そのうえで同法科大学院受験の可否を総合判断願いたい。
イ.授業料等入学費用納付後に辞退する場合の入学費用償還請求について
・例:同塾法科大学院の定める授業料納付期限(12月吉日)以降に合格発表がなされる国立大学法科大学院等に合格し、辞退する場合
→所定の方法により入学辞退の手続きをすれば、入学金を除くすべての入学に関する費用は受験生に返還される(募集要項19頁「6-4.入学辞退・在籍料などの返還」項目参照)。要は、大学院側が所定する必要手続きを経て入学辞退手続きを行えば、入学金を除いた授業料など支払分全て返還される。
ウ.厚生労働省教育訓練給付制度について
・項目ア.で示したとおり、既修者・未修者ともにその対象とされている。
なお令和3年4月1日~令和6年3月31日が指定期間とされているが、慶應義塾大学法科大学院については同制度が法科大学院にも導入された初年度から継続して対象校となっている。そのため、例年の慣行であれば令和6年度以降も更新されることが予想される。なお、継続の可否については、令和6年4月以降に厚生労働省のホームページを確認印いただくか、または同塾法科大学院事務室等に確認願いたい。(https://www.kyufu.mhlw.go.jp/kensaku/)
ア.試験日
法学既習者コース:2023年9月2日(土曜)
法学未修者コース:2023年9月3日(日曜)
イ.合格発表日
2023年9月12日(火曜) 午前10時
ウ.前年度との変更点と考察
① 昨年度同様、早稲田大学法科大学院入試(9/30~)前に合格発表がなされる。
なお、今年度についても三年前までと異なり、法学既修者コースの入学試験実施時間中に中央大学法科大学院の合格発表は行われない(参考:中央については9/15(金曜)に合格発表がなされる)。
② 慶應大ローの合格発表が時期的に前倒しとなったことは、早稲田大ロー入試の受験者数に影響を与えることが予想される。具体的には、出願をしたものの、慶應大ローに合格したために早稲田大ローを受験しないという事態が一定数生じることが想定されるというものである。
ア.昨年度の入試実績につき、今年度は既に公開されている(公開日:5月末)
イ.昨年度2023年度入学者選抜(未修・既習)
未修:志願者231名、受験者222名、合格者65名。実質競争倍率:3.4倍
既修:志願者888名、受験者804名、合格者243名。実質競争倍率:3.3倍
ウ.入試実績の考察と今後の展望
2021年度入試は全体の競争倍率2.02倍、定員充足率0.68倍と、それまでは同塾法科大学院の競争倍率・入学実績ともに芳しくなかった。しかし、同年度入試以降は法曹コース導入や、法科大学院入試全体として受験人気が再燃し、同校入試についても志願者・受験者数共に増加している。(参考:https://www.ls.keio.ac.jp/92c9f59caa85302db7d00243155a8765414774e4.pdf)
なお、慶應義塾大学法科大学院は、2019年度より競争倍率の向上を図り、自校を含めたLL7全体の同倍率改善目標を文部科学省に提出している。同計画記載によると、慶應大ローは率先となり、中長期目標として2023年度時点でLL7(法科大学院7校による先導的法科大学院コンソーシアム)全体の競争倍率を2.5倍以上に改善させるという方針を打ち出している。同校が先導し上記方針を打ち出していることもあり、また補助金算定の位置目標として文科省へ提出していることからしても、実受験者数/合格者数により算出される実質競争倍率は今年度も引き続き2.5倍以上となることは必至であるといえよう。
参考資料
法科大学院公的支援見直し強化加算プログラム審査結果 (mext.go.jp)
同資料23頁目(慶応義塾法科大学院提出資料およびその実績評価)参照
ア.法学既習者コース募集人員
・合計 :約170名(前年比±0名)
①特別選抜(5年一貫型) :約45名(地方枠4名含む)
②特別選抜(開放型) :約45名
③一般選抜 :約80名
※1:学部3年生3科目入試枠若干名を含む。本年迄に限り実施予定(要綱より抜粋)。
イ.法学未修者コース募集人員
・合計 :約50名(前年比±0名)
ウ.今年度入試の出願者数および受験者数の展望について
・法学未修者コース:219名(前年度比12名減)
・法学既修者コース:867名(前年度比93名減)
うち一般選抜(6科目・3年生3科目):816名(同72名減)
うち特別選抜(開放型):51名(同21名減)
上記のとおり、志願者数自体は前年度比で減少となっている。
これは、昨年度から法曹コースが本格的に実施され、従来であれば今年度の一般選抜で受験をしているであろう層が、既に昨年度に入学していることの影響も強く考えられる。事実、上記人数は概ね一昨年度の人数と概ね同程度の人数であることからすると、慶應義塾大学法科大学院が不人気になったというよりも、むしろ本来の水準に落ち着いたというのが相当と考えている。
そのうえで、近年の傾向を見ると、志願者のうち概ね10%程度の受験回避が出る。同一日程の受験となるトップ3校でも10%以上程度の受験回避者がでるが、もっとも慶應の場合は同一日程に同程度の難易度のロースクールが複数受験重なるというものはない(未修者コースを除く)。受験回避者が出現することにつき、客観的な事実に基づき明確な理由を導くことが難しいが、いずれにせよ例年通りの傾向が維持されるとなると、今年度についても同程度の割合で受験回避者が生じることが想定される。
もっとも、受験回避者が出るといっても、依然として合格水準にある者や、予備試験ないしトップ校に合格する程度のレベルの者は多数受験することは否めない。そこで、受験回避者が一定数見られるといっても、受験生は油断をせず、本番の試験においては最大限の実力を発揮して頂きたい。
エ.昨年度との制度比較今年度入試に与える影響の考察
昨年度入試まで、一般選抜の定員数80名枠内に設けられていた「学部3年生3科目入試枠(若干名)」は、今年度入試より撤廃されている。これは昨年度から既に計画されていたものであり、同枠は予定通りの廃止といえよう。
この事項を除き、募集定員につき昨年度と今年度入試に制度変更点はない。
なお、トップ校を除く法科大学院に共通して言えることであるが、国立大学(東大・京大・一橋などいわゆるトップ校)や予備試験に合格した場合に同塾法科大学院の入学を辞退する合格者が毎年一定数以上存在する。そこで、大学側が入学者確保の見地より、今年度入試も募集定員の倍近くの合格者数を出すことが十分に考えられる。
事実、昨年度の既修一般の合格者は243名(既修定員の3倍)と、定員数を大幅に上回る合格者を輩出している。そうすると今年度についても定員を大幅に上回る合格者を輩出することが伺える。なお未修については既修ほどではないが、定員以上の合格者を出していることは言うまでもない。
そのため、上記のとおり志願者数自体は公開されているが、受験生は過度に焦る必要はなく、その後の慶應義塾大学法科大学院の入試に向けて、日々着実に勉強をして欲しい。
参考資料 入学者選考:入学試験結果について - 慶應義塾大学 法務研究科 (keio.ac.jp)
ア.入試総論
2023年8月現在も、過年度と同様コロナウイルスは蔓延状態であり、感染者数は多い。しかし、国による対策等が一定程度なされたこともあり、現在では緊急事態宣言等も出されておらず、また5類感染症へと移行されていることからもわかるとおり、2021年度入試当時と状況が異なっている。
たしかに、過年度入試となった2021年度(2020年実施)はコロナウイルスの蔓延に伴い、通常の入試と追加入試の2つが行われている。しかし追加入試はあくまでも疫病の蔓延による例外的な措置としての位置づけである。
事実、2021年度入試の際と異なり、今年度入試については2023年8月13日現在、未だに追試実施に関する広報はされていないことから、追試は期待できない。そのため、受験生は体調管理に注意したうえで、相応の対策を講じて受験に臨んでいただきたい。
既修者試験においては、『法科大学院試験六法』(第一法規株式会社)https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104688.html )が貸与されることが想定される。
市販のポケット六法やデイリー六法等と異なり、特に試験科目である憲法や刑事訴訟法は条文の見出しのないことに注意が必要である。試験後に六法の持ち帰り可であるが、本番中に戸惑わないためにも、特に刑事訴訟法については図書館や書店で一読の上、条文の位置や構造を把握しておきたい。
なお、予備試験六法や司法試験六法についても、掲載法令数の差はあるものの、法文の記載や仕様は法科大学院試験六法と同じである。
イ.憲法(法学既修者)
2023年度入試においては、出題の形式および傾向に変化が生じている。2018年度入試以降、2021年度追試まで(21年度本試験を除く)では、立場・原告側の代理人として事例を検討させ、同時に被告側の反論も踏まえて解答させるという点で、近年の司法試験と小問形式が近似しており(例として令和2年度公法系科目第1問憲法)。慶應大ローでは2018年度入試以降この形式を採用していた。
しかし、昨年度は“原告の立場から、制度の憲法上の問題(どのような憲法上の権利に関わるのかという問題を含む)を検討して、あなたの見解を述べなさい。”というものに変更された。恐らく2020年頃と現在では出題者に変更があったとも読み取れるが、いずれにせよ説得的な論述をするためには、原告・被告・裁判所の観点から主張を検討し、妥当な結論を導くという視点で答案構成等をすることには変わりない。
後述項目(2)2024年度(2023年9月実施)入試対策で述べるとおり、入試問題の元ネタ判例は概ね存在しており、その場合は試験直近で話題になった裁判例や時事ネタを素材としているケースが殆どである。実際に、23年度の『供託金制度違憲訴訟』については、元ネタとして東京地裁令和元年5月24日判タ1473号(または、有斐閣令和元年度『重要判例解説』1544号【憲法7】に解説ありhttps://www.yuhikaku.co.jp/static/R01juhan.html )が存在する。なお、この裁判については2021年に最高裁が原告の上告を棄却したことで訴訟自体は終結をしたが、2022年11月に日弁連がその制度の廃止又は見直しを求める意見書を提出していることもあり、未だに話題としては落ち着くことはない。(自身で同年の過去問を解く際の反論意見として参考になるので、同意見書のURLを掲載するhttps://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2022/221116_2.pdf )
この供託金訴訟の合憲性については、かつて平成11年に最高裁の大法廷にて判断が下されており(公刊物未掲載)、そこでは国会の裁量の範囲内として憲法15条1項、14条1項、44条に反しないという判断が下されている。それが令和に入り、再度その供託金制度の合憲性について再燃した形である。そのため、2022年出題の当時は、日弁連や学者等の間では再注目されている論点であった。
もっとも出題の趣旨にも記載されているとおり、その判例や時事ネタを知らなくても解答することが出来るが、出題の元ネタ等を知っておくと有利であることは否めない。余裕があれば、例年と同様、入試で狙われやすい最新判例を記載しておくので、判例百選等の勉強が終わった方は、憲法については最終チェックとして近年の『重要判例解説』や下記最新判例をチェックしておくとよい。
いずれにせよ、受験生の理解力・思考力を問うものであり、内容含めロースクール入試随一の良問である。また2022年度以前は司法試験の問題と親和性がある問題も多く、演習問題としても利用できるので、受験生だけでなく法科大学院在学生にも、演習書を読み解く一環で問題や出題の趣旨などを読み解くことを強く勧めたい。
続いて、以下は過年度入試についての分析であるが、今年度と志願者数が近似しており、かつ法曹コース導入後の入試であり、合格者答案のレベル等を把握するために有益な事項であると考えたため、再掲させていただく。
一例として2022年実施の問題を挙げる。出題の趣旨は既にHP上で公開されている。そしてこの問題については、私が当時、出題の趣旨公表前にリリースした入試速報解説も存在する。出題の趣旨と記載内容が同じであるが、法科大学院受験生が制限時間内に書ける答案を推定し、実践的な解説をすることを重視したものである。以下リンクを記載するので、宜しければ出題の趣旨と併せて利用して頂きたい。https://law-information2019.hatenablog.jp/entry/2021/09/06/031428
次に、過年度2022年の合格者答案の分析結果を案内する。
以下記載のとおり、論点を多少落としても合格していることが判明した(もちろん他の科目で挽回することが前提となるが)。合格者答案を見る限り、制限時間との関係で全論点を網羅するということが厳しいということが如実に表れている。
たとえば①私人間効力について、当然認められることを前提に書いていないもの(注:なお学説の動向に照らし、上記解説のとおり論理の前提となるが、個人的には書かなくても減点にはならないと考えている)、②富山大学事件について検討していないもの、③表現の自由構成のみで、学問の自由構成を書いていないもの(又はその逆)もあった。
しかし上記程度のミスであれば、問題文の事実をきちんと拾い上げて即して検討することで合格水準に達することは十分に可能であったようである。つまり、憲法についてはメインの争点をミスするならまだしも、細かな一つの論点落とし程度では合否に大きな影響を与えないことが読み取れよう。それよりも、解答にあたってはきちんと問題文の事実を用いて、どのように衡量し、または審査基準の定立や、あてはめを説得的に論述できたかが合否の分類嶺であったことが窺われる。
最後に一例として2021年度追試について案内する。同入試の合格者複数人に対するヒアリングによると、法律上の争訟について理解していない人も多かったと聞いている。そして、問題を開き、解く意欲を削がれた受験生も多かったと聞く。実際に合格した人でも、この分野はそこまで勉強していなかった方もいるが、うろ覚えでも知識を喚起させ食らいつき、条文に基づき解答し、合格ラインに乗ったという方も多い。
他方で、同入試の不合格者へヒアリングしたところ、同問題について職業遂行の自由(22条1項)の侵害として解答を作成したと聞いている。問題文にも「法律上の争訟に該当しないので不適法」という被告側の反論が掲載されており、問題文にも争点が明確化されている。他の答案については、本人の主観では一応の水準を満たすことができたということであるから、憲法で足切りに遭った可能性も排除できない。ステートメント講義でも案内している通り、「問いを正確に把握する」というのは、問題を解くうえでの大前提であり、まずは落ち着いて問題を把握したいところである。
現場では論証パターンや論証集に載っていない問題も出題される。だからといって論証の暗記量を増やすのでは無理もある。未知の問題に対応するには、まずは根拠となる条文を発見し(2021年度入試でいえば、少なくとも76条1項、そして司法権の定義を記載することにより「法律上の争訟」というワードを導き出し、そこの解釈論に展開させるという姿勢)、そこから大学の授業や予備校の入門講座等で学んだ知識を喚起したうえで、設問に則して問われていることに素直に解答するという姿勢が重要である。また、この過程で考え解答した方は、知識がうろ覚えでも・素材判例とは結論が異なっていても、同大学法科大学院合格している。
法科大学院入試では、人気校に行けば行くほど、現場思考型・未知の問題が出題される傾向にある(例として、2021年度入試以前の一橋大学法科大学院刑事訴訟法)。これには、問題作成者が論証パターンでは解けない問題を出題したいという意向が強く伝わってくるが、いずれにせよ、条文や定義、入門講座で教わったことを理解しておけば、合格水準の解答を導き出すことが可能である。判例と同じような完全解を導き出す必要はない。
未知の問題が出ても、まずは落ち着いてきちんと問題文を読み、既存の知識と条文で立ち向かうという姿勢が重要である。諦めず、基本に忠実であれば、合格レベルに達することは可能と思われる。
<過去問10回分出題分野>
・2023年度入試:公職選挙法上の供託金制度の合憲性(15条項、44条等)*
・2022年度入試:大学における学問の自由(又は表現の自由)と部分社会の法理
・2021年度追試:司法権と法律上の争訟(76条1項、裁判所法3条)*
・2021年度入試:財産権(29条3項)*
・2020年度入試:集会の自由(21条1項)*
・2019年度入試:幸福追求権(13条後段)*
・2018年度入試:信教の自由と政教分離(20条3項等)
・2017年度入試:登山の自由(幸福追求権(13条)又は移動の自由(22条1項))
・2016年度入試:アファーマティブ・アクションと平等原則(14条1項)
・2015年度入試:営業の自由(22条1項)
*は時事ネタまたは判例変更等出題当時、学者や実務家の注目を浴びていた事案
民法(法学既修者)
まず、昨年度の慶應ロー入試連載の「入試対策項目」で予想していたとおり、23年度についても債権法改正箇所から出題がなされた。今年度についても引き続き重要性が高い分野であり、旧法と比較してどのような点が改正されたかを正確に把握し、また条文に則した改正箇所の正確な理解を怠らないでほしい。
2023年度入試を除き、2022年度頃の入試問題と2018年度入試以前を比較すると、問題の難易度はやや易化傾向にあった。しかし、23年度入試においては設問2において応用力が試されるなど、基礎力や論証パターンのみを覚えていた受験生にとっては難易度が高く、近年の司法試験等で求められる未知の事案につき、自らの基礎知識・条文知識を用いてどのように論理立てて結論を導くことができるかという視点が解答には強く求められることとなった(応用事案である点を含め、『出題の趣旨』参照 https://www.ls.keio.ac.jp/2023houritushushi.pdf )。
もっとも法科大学院入学前段階では、設問2については『出題の趣旨』にあるような完全解答をするのは難しいであろう(少なくとも、50尾の引き渡しを拒絶するための論拠については、事実の近似性に着目し、『出題の趣旨』⑵にあるような混合寄託における寄託物の一部滅失に関する665条の2第3項類推適用を指摘できる受験生は稀であるように思える)。事実、合格者受講生や不合格者の再現を目にする機会があったが、いずれも設問2の上記引き渡し拒絶の法理については説明できていなかった。それほど、設問2の後段については合格者含め出来が悪いことが読み取れる。『出題の趣旨』を読み解く限り、恐らく教員らが期待・満足するような答案はほとんどなかったように思える。
なお、『出題の趣旨』設問2の100尾拒絶のための法理を説明する解説箇所に“信義則上の引取義務違反”について記載されているが、これは今年令和5年度司法試験民法でも出題されている問題でもある。この連載は一昨年以来されているが、かねてより憲法項目で伝えているとおり、慶應の入試については司法試験と親和性の高い論点が入試から毎年出題されているのはいうまでもない。そのため、来年度司法試験を受験される方は、ぜひ2024年度の入試問題が公開された際には、演習問題として利用して頂きたい。
元ネタとしては百選判例などを用いているものも多い(一例として2019年度入試)。また、予備校の講義などでも百選判例については引用され解説されている。学部の授業や予備校の入門講座・演習問題を通して、百選に掲載されている重要判例を理解し、解けるようになることが必要である。
最後に、以下は過年度連載分の再掲であるが、科目足切りラインの答案について案内する。
合格者と不合格者それぞれにヒアリングをし、過去の足切りライン答案を分析したところ、2019年度入試不合格者の“足切り”答案情報が入ったので以下詳述する。科目別の足切り水準とはどの程度のレベルであるのか、一例として参照して頂ければと思う。
不合格者は2019年度の出題の趣旨で述べられている「甲土地の所有権に基づく物権的返還請求権(を根拠とする建物収去・土地明渡請求)であることを確認した上で、それに対するBの反論として、①贈与による所有権の取得」までは書けていた。しかし、これによる対抗要件をBは具備していないとして177条の対抗関係の問題であると処理し、時効については何も触れないという答案(すなわち、①の処理のみ)という答案であった。設問2についても同様で、設定された占有権原を有することから対抗することが出来ないとする答案であった。
このことから考えて、受験生の殆どが書けるところ(本件でいえば少なくとも時効による所有権取得)を落とし、メインとなる争点の検討に繋がらないという答案は、不合格答案(又は足切りライン)となったものと窺われる。
この不合格答案例からも挙げられるとおり、民法では正確に人的関係や権利関係を把握すること、問題文をきちんと読むことが特に重要である。一般的に民法の事例問題で言えることであるが、①年月日の具体的記載のある事例では、その把握だけでなくきちんと経過年数をチェックする、②請求権や抗弁などを検討しても、動産であれば即時取得(192条)の成否や、権利抗弁として留置権(295条1項)や同時履行の抗弁(533条)を主張する余地がないか検討することを忘れずにいると、気づくことが出来る論点は多くある。
民法では、特に人的関係や権利関係、動産か不動産か、権利抗弁の余地がないか確認する姿勢を忘れないで欲しい。
なお、問題の形式や内容からすると、2023年度入試の問題作成者と、2022年度、2021年度入試の問題作成担当者、2020年度・2019年度入試、2018年度入試の作成担当者は異なると思われる。
<過去10回分出題内容>
・2023年度入試:制限種類債権及びその履行不能、目的物引渡請求に対する抗弁
・2022年度入試:将来債権の譲渡と債務消滅の抗弁(混同)、
詐害行為取消権とその抗弁
・2021年度追試:権利喪失の抗弁と権利抗弁、物権的請求の相手方とその内容
・2021年度入試:売買の契約責任(担保責任)、賃貸借の同責任と責任追及
・2020年度入試:賃貸借契約の解除と信頼関係破壊の法理、
債権者代位・転用物訴権
・2019年度入試:取得時効と登記(百選47、48、58事件等参照)
・2018年度入試:相殺の抗弁とそれを基礎づける法的構成(表見代理等)の検討
・2017年度入試:将来債権譲渡の適法性、債権譲渡の304条1項該当性、
抵当権に基づく物上代位と貸金相殺の優劣
・2016年度入試:取得時効と登記、賃借権の取得時効
・2015年度入試:二重譲渡と危険負担(旧法)、第三者(177条)該当性、
代償請求権(現行法では422条の2で明文化済)
刑法(法学既修者)
民法と同様、近年は2023年度入試を除き、2018年度入試以前と比べると、問題自体の難易度自体は易化傾向にあった。特に2022年度入試以前の論述式試験の易化傾向は顕著であり、受験生であれば概ね解答できていた。そのため、かつては勝負の分かれ目となるのは、近年出題されるようになった短文式(短答式)問題に関する設問であった(実際に、「刑法は良くできた。」という感想を述べた不合格者の短文式試験の解答をチェックしてみると、6割程度しか取れていない等が頻繁に存在した)。
しかし、2023年度入試においては、短答のネタ本などを過年度の『慶應ロー入試分析』で公開したこともあろうか、又はネタが尽きたこともあろうか、短答の出題は廃止された。今年に関しては、法科大学院在学生による司法試験短答式試験の合格率が高かったこともあり、復活する可能性も少なからずあるが、結果発表は8月初旬であったこともあり、既に入試問題は作成されていることが想定されるため、今年度から急に短答式が復活するとは思えず、昨年度の出題形式を踏襲するものと思われる(私見)。
なお、短答式試験の対策をしたいと考える受験生については、後の項目で案内するとおり、慶應ローの過去問演習や共通到達度確認試験等を用いて、短文式試験の対策をし、少なくとも8割程度は確保できるよう対策を講じるとよい。
論述式試験については百選の基本判例や基本知識を問う問題である。問題自体の難易度を主要科目で比較するのであれば、近年刑法が一番易しいように思える。市販の演習書で例えるのであれば、難易度はロープラクティス刑法の問題と同程度と思ってよい。
出題者は受験生に対し、あくまでも最低限の知識を押さえるよう求めているように読める。刑法については、落ち着いて問題を読み解いたうえで事実を適切に把握し、書くべき要件をきちんと挙げたうえで、丁寧な答案を心掛けたい。
また、事実を適切に把握し、受験生はそれを丁寧に評価したうえで答案に示して欲しいという出題者側の意図は、2019年度入試以降の出題の趣旨を読む限りで強く伝わってくる。もっともそれは、23年度の『出題の趣旨』(刑法の場合は採点実感としての性格が強い)でも、“判断基準についてかなり長い論述をした上で、あてはめに関して、ただ事実を羅列するにとどまるものが目立った”と記載されていることからも、改善されていないことが読み取れる。
『ステートメント対策講義』受講生には、その講義やゼミ、BEXA質問会を通じて、事実⇒評価⇒結論と、規範とあてはめの対応やその方法について案内し、作成演習を通じることで理解をしていただいているが、やはり法科大学院入試受験生レベルでは未だに浸透していないようである(これは、修了生についてもあてはまる場合がある)。
慶應ロー側も指摘しているとおり、いくら論パを正確に書いたとしても、問題文に記載されている間接事実等をどう評価すればその規範に結び付くのか、すなわち事実を評価したうえで小結論に導かない限り、説明したことにならないのは言うまでもない。
もちろん、市販など予備校の演習問題の解答例では、あてはめが殆どなく論証だけ厚く貼り付けてあるケースが多く存在することから、あてはめを学ぶ機会は少ないという事実は否めない。また、大手予備校の演習書であるほど、あてはめの仕方を学ぶ機会は少ない(∵短文問題や、事例に関する検討が解答に反映されていないため)。
が、皆さんは、面倒であってもステートメント作成の際に事実からどう結論に導くか、きちんと熟考している。この過程を正確に学べていれば、事実をどう評価して結論に導くかという基礎を習得することが可能であり、ひいては全くあてはめがなされていない予備校答案例を自身の手で問題文の事実を用いて修正することが可能となる。
論証パターンを覚えることも重要であるが、問題文の事実を用いてそのあてはめを正確にできるか、演習を通して学んでいただきたい。
なお23年度の問題については、総論知識を確認する問題と、各論知識を確認する問題とに分かれた。そして各論については『出題の趣旨』において“放火罪の学習が及んでいない”受験生が多い旨案内されている。
法科大学院入試はあくまでも、受験生が基礎的学力を身に着けているか否かを確認する試験であることからすると、今年度についても受験生の苦手意識のある各論分野の基礎知識を確認する傾向は続くであろう。後の「24年度入試対策」項目で詳述するが、各論については昨年度的中させた予想と同様、引き続き財産犯(特に窃盗、次いで詐欺)の構成要件や不法領得の意思の定義等をきちんと覚え、それにあてはめができるようにして頂きたい。また、放火と同様に受験生が苦手な点としては賄賂罪や文書偽造罪があり、これらの構成要件の確認や定義を復習して頂きたい。
なお昨年度の合格者・不合格者へのヒアリングによると、出題形式が変更となったことを気づかずに問題を解いた結果、不合格者の中では問題3で時間切れないし殆ど書けなかったという方が多くみられた。
既修未修問わず、法科大学院入試においては例年、時間があれば書けたのに、時間配分を誤った結果、時間切れで不合格となってしまう受験生が非常に多い。そのため、特に刑法に取り掛かる際には、まずは問題が何問あり、特に23年度のように問題数が多い場合は、各問につき時間配分をどの程度にするか確認していただきたい。
<過去10回分出題内容(22年度以前については問題1の短答式試験を除く)>
・2023年度入試:実行行為の特定と因果関係の錯誤、共同正犯の要件とその成否
単純横領罪の要件とその成否の検討、
建造物等以外放火罪の成否と「公共の危険」の認識の要否
・2022年度入試:刑事未成年者に犯罪を実行させた事例における間接正犯及び
共犯関係の処理
・2021年度追試:(Xの)窃盗未遂、事後強盗罪・強盗致傷等の成否の検討
・2021年度入試:(Xの)殺人行為に対する正当防衛の成否
誤想過剰防衛の成否と36条2項(任意的減免)の適用有無
・2020年度入試:窃盗罪の成否における「不法領得の意思」の有無、
窃盗罪の器物損壊罪との区別(各論分野のみ)
・2019年度入試:窃盗か占有離脱物横領か(窃取時における占有の事実の有無)
自招侵害の場合における正当防衛の成否
・2018年度入試:窃盗罪の成否(「窃取」の認定)・事後強盗罪又は傷害罪の成否、
同時傷害の特例適用の可否
・2017年度入試:因果関係の存否、具体的事実の錯誤、違法性阻却事由の錯誤
誤想(過剰)防衛
・2016年度入試:不真正不作為犯の成否と因果関係、中止犯、財物性の認定、 不法領得の意思の有無の認定
・2015年度入試:暴行後の領得意思(「強取」該当性)、窃盗罪と死者の占有、 共謀の射程
商法(法学既修者)
2023年度入試については、事業譲渡(法467条1項1号)及びそれに関する諸論点を問う問題が出題された。これについても、昨年度の『慶應ロー入試分析』にて重要点として明記していた点からの出題となった。
なお23年度商法の出題の趣旨およびその解説を理解できない方や、類題を解きたいという方向けに以下記載する。まず、同様の問題が2021年度関西学院大学法科大学院入試(B日程)にて出題されており、かつこの入試問題と元ネタが同じである。同学の解説は非常に丁寧であるため、慶應ローの『出題の趣旨』を確認するのと同時に、関西学院大学ローの同入試解説を確認すれば、問題の所在などをさらに深く・正確に把握することができるであろう。ぜひ有効利用願いたい。
以下は過年度連載と同様の案内であるが、今年度についても重要項目であるため、そのまま案内する。
下三法については、慶應大ロー側はあくまでも簡易記述式との位置付けであり、上三法(特に民法や憲法)と比べると、問題自体の分量も少ない。
過去の入試問題を見る限り、論述式で手形法分野からの出題はない(2005年の肢別式試験の解答に対する理由説明を除く)。また、第三編持分会社、第四編社債、第五編組織再編からの出題についても同様である。商法についても同様であるが、会社法総則分野と重複する商法総則(例として事業譲渡)については、基本事項をきちんと押さえておくと良い。
入試では主に会社法総則(商法総則)・株式会社における意思決定や手続上の瑕疵につき、受験生の基本事項の理解力を問うものが出題される。また問題のレベルは、『ロープラクティス商法』の演習問題と同程度か、それよりも易しい。
難しい論点や論証を覚える必要はない。基本的な条文をきちんと把握し、それを適切に指摘し、丁寧に説明できる能力が求められていることは、出題の趣旨からも読み取れる。
演習問題や法学部の講義を通じ、基本事項を徹底の上、復習して欲しい。
<過去問10回分出題内容>
・2023年度入試:株主総会不存在確認の訴え、事業譲渡の定義とその該当性判断
株主総会特別決議を欠く事業譲渡の効力
・2022年度入試:特別利害関係取締役が参加してなされた取締役会決議の効力
同決議を欠く利益相反取引の効力、重要な財産の処分該当性
・2021年度追試:事業譲渡に係る商号続用責任の適否、法人格否認の法理
・2021年度入試:発起人の権限の範囲と、範囲外の場合の責任追及について
・2020年度入試:会社法429条1項責任の検討、名目取締役の監視義務の有無
・2019年度入試:瑕疵ある取締役会決議の効力、瑕疵ある新株発行の効力
・2018年度入試:取締役の会社に対する任務懈怠とその責任の有無、
競業規制に違反する取引の効力
・2017年度入試:承諾なき譲渡制限付株式の移転の効力と譲受人を株主と扱うことの可否、名義書換未了の株式の処理、831条1項の取消事由の認定 (定足数不足、取締役招集漏れが存在する取締役会決議の有効性、株主総会招集通知漏れという事実を基に)
・2016年度入試:利益相反取引の検討・(「重要な財産の処分」該当性)、
株主代表訴訟(847条、423条)の検討
・2015年度入試:株主提案権、株主総会取消の訴え(314条違反検討)と裁量棄却
民事訴訟法(法学既修者)
2023年度入試については、過去問と同じ論点から出題された。証明責任に関する出題としては2021年度追試、控訴の利益については2020年度入試においても同様の出題がなされた。そのため、本連載を用いる等過去問の出題傾向を 検討し、入試前に論点の復習ができていた方にとっては、非常にありがたい出題となった。なお上記論点については『ロープラクティス民事訴訟法』にも事例問題が掲載されており、昨年度連載等で案内していた通りにそれを解き、復習をしていた方についても同様であったことが伺われる。
そこで、以下案内は過年度の連載と同様であるが、重要であることに変わりはないため、今年度についても同様の案内をさせて頂く。
商法と同様に、簡易記述式試験であり問題文の分量は上三法と比較して少ない。また、難易度自体も司法試験合格率トップ校と比べると易しいが、それでも基本的な知識を問う良問であることに変わりはない。
当大学院入試に問題が出題された数年後に、司法試験試験や予備試験に同様の分野・論点が出題された(一例として2020年度司法試験民亊系第三問と、2018年度入試設問2)。そのため、民法や憲法と同様に、民事訴訟法についてもロー入試が終わった後にも、演習問題としても利用することを薦めたい。
過去12年度分(2012年度~2023年度入試)を見る限り、複雑訴訟(請求の主観的複数)に関する問題は出題されていない。ただし、2020年には上訴(控訴)の利益に関する問題が出題されており、基本書や予備校本によっては複雑訴訟の後に説明されていることもあるので、注意する必要がある。
入試では、民事訴訟法上の概念を具体的な事例とともにきちんと理解しているか問われる傾向にある。そのため、予備試験や本試験などの問題を解くよりも、まずは基本的事項や用語を理解するとともに、ロースクール1年生向けに作成されている『ロープラクティス民事訴訟法』レベルの問題集を繰り返し解くことを薦めたい。上記書籍は慶應大ロー入試と親和的であり、かつ最新の判例を素材とした演習問題も掲載されている。
なお、入試過去問は、ロープラクティス民事訴訟法掲載の論点・解説から出題されている。同演習書をやっておけば、どの年度でも対応は可能である。(同演習書解説講義:https://bexa.jp/courses/view/296)
民事訴訟法は基本概念を具体的な事例と関連させて理解することが、苦手意識を克服する一番の近道である。事例演習をメインに、その傍らで基本事項等は問題解説を読み、それでもわからなければ基本書等を調べて理解するという過程を経ることが他の科目に増して求められる。
決して諦めずに、日々演習問題を通じて基本概念の復習をしていただきたい。
<過去問10回分出題分野>
・2023年度入試:証明責任及びその分配の基準、控訴(上訴)の利益
・2022年度入試:相殺の抗弁と既判力(114条2項)、権利自白とその効果
・2021年度追試:証明責任の分配、既判力の客観的範囲(114条1項、2項)
・2021年度入試:将来給付の訴えの利益と確認の利益、一部請求と残部請求
・2020年度入試:既判力の客観的範囲、控訴の利益
・2019年度入試:主張原則(弁論主義の第一テーゼ)、既判力の遮断効について
・2018年度入試:一部請求と残部請求,将来給付の訴えの利益(21年入試と類似)
・2017年度入試:立退料減額と処分権主義、訴えの変更の可否
・2016年度入試:訴訟物の認定及び処分権主義違反の検討、控訴の利益の有無
・2015年度入試:証明責任、既判力の拡張(「口頭弁論終結後の承継人」該当性)
刑事訴訟法(法学既修者)
2023年度入試については、恐らくロー入試受験生が一番苦手とする伝聞証拠、および9月の受験時では深い理解が進んでいない方も多い訴因の特定(明示)について出題された。しかも刑訴法において受験生が得点を稼ぎたいと考える捜査法分野から一題も出題されなかったこともあり、恐らく受験生全体の刑訴法の出来は低いことが伺われる。その中でも、訴因の特定などにつき正確に理解していた受験生は、刑訴法分野で得点を稼ぎ、合格に一歩近づいたといえよう。そのため、23年度の下三法における合否の分水嶺は、“いかに刑事訴訟法で耐えたか”にあるように思える(私見)
特に伝聞証拠については、法科大学院入学後に、その推認過程などを深く学び、そこで初めて本質的に理解する方も多い。また、他校の話であるが、かつて2015年以前に一橋大学法科大学院において伝聞法則に関する入試問題を例年課していたが、いずれの年度についても本質を理解したうえで、出題者(『伝聞法則に強くなる』の著者である後藤昭名誉教授)が望むような解答をした受験生は、ほぼ皆無であったという旨ヒアリングをしている。それくらいに理解力が求められる分野であり、また論証を除いては形式的に解くことができないため、予備校で刑事訴訟法を一通り習っただけでは、本質を理解し難い論点でもある。
これらの背景を勘案すると、恐らくであるが23年度の本件入試についても、受験生は伝聞法則の論証パターン等を正確に書くので手一杯であり、立証趣旨を踏まえ、その推認過程などを丁寧に説明し、出題者を満足させる程度に、問題文の事実を的確に把握したうえで伝聞証拠該当性の有無を論じられた答案はほぼ皆無であるように思える。そのため、恐らく合否は設問1と、設問2における伝聞証拠の論証および、その基本的理解をどの程度表現できているかで合否が決されたであろう。
以下記載は、23年度入試を踏まえたうえでも、本年度についても有益であることから、過年度連載の記載事項をそのまま引用する。
刑事訴訟法については簡易論述式試験であるが、下三法の中では一番難易度が高いように思える。また、2018年頃と比べると捜査法ではなく公判・証拠分野から出題されることもあり、難易度は多少上昇しているように思える。
レベルとしては、まだローに入学する前の受験生に求めるレベルとしては難易度が高く、かつ形式的には処理し難いような考えさせる問題が多い。
たとえば2019年度入試においては、当時の学説対立の激しかった以下論点について出題されている。
2019年度入試小問4(改題):「令状による捜索・差押え(218 条 1 項)を実施し中、その対象物が捜索場所とは管理権を異にする隣家の敷地に投げ込まれてしまった。この場合、捜索・差押えという本体の処分に内在する措置 (218 条 1 項)、または捜索・差押えに必要な処分(222 条 1 項、111 条 1 項)として、隣家の敷地に強制的に立ち入ることが許されるか」というものである。
今であれば解答や出題の趣旨が公表され、それに基づき予備校のテキストもこの論点が掲載されつつあるが、当時学説等で議論が活発に行われている最中であり、予備校のテキストなどで解説のあるものは皆無であった。出題者が受験生に対し未知の論点を考えさせる目的で、上記小問を作成したことが窺える。
他方で、2020年度入試以降の傾向は異なる。具体的には、ロースクール2年次において刑事訴訟実務の基礎を学ぶための基礎知識を現段階で習得しているか確認するもので、公判・証拠法などを問うものに変わりつつある。もちろん、23年度入試についてもその傾向が強くみられる。
過去の傾向としてはいずれも類似論点は本試験・予備試験等に出題されている個所から出題されている。予備校のテキストなどでは予備試験や本試験に出題された箇所についてはチェックがされている。それらの箇所を把握し、復習することを心掛けたい。それとともに、特に基礎・基本を徹底して頂き、基本論点で落とすことのないよう、受験生には心がけていただきたい。
<過去10回分出題分野(文字数の都合上,条文問題は入試問題を確認下さい)>
・2023年度入試:訴因の明示・特定性、伝聞証拠該当性(および伝聞例外の判断)
・2022年度入試:令状に基づく捜索差押(218条1項、憲法35条)、
捜索差押許可状の効力が及ぶ範囲(219条1項)とその派生論点
・2021年度追試:職務質問に付随する所持品検査、違法収集証拠排除法則
・2021年度入試:自白の補強法則、訴因変更手続きとその可否(312条1項)
・2020年度入試: 供述録取書・供述調書の証拠能力(伝聞法則)、自白法則
・2019年度入試:逮捕に伴う捜索・差押,令状による捜索の範囲,条文指摘・説明
・2018年度入試:条文指摘・説明,逮捕前置主義,「必要な処分」(222Ⅰ,111Ⅱ)
・2017年度入試:令状主義、現行犯・準現行犯逮捕の要件及びその事例判断
・2016年度入試:捜査に関する強制処分及び任意処分該当性判断、GPS捜査
・2015年度入試:捜索差押許可状記載の特定性、差押え対象物の範囲、
伝聞証拠と伝聞例外
小論文(法学未修者)
小論文については、その基礎としてまずはステートメント課題文を適切に把握したうえで、相手に対しどのようにすれば論理的かつ説得的に説明できるかという勉強をすることが一番の近道である。
下線部型の要約問題・内容説明型問題の解法は、①下線部に指示語があれば、それが具体的に何を示すかを正確に把握する(配点1)。そのうえで、②解釈を要するような漠然不明確な表現・比喩表現などについては、それが曖昧であるためにそのまま用いては説明とならないため、文中においてどのような意味で用いられているのかを探す(配点2)。③接続詞などを適切に用いることにより、各文を適切な論理関係で繋げたうえで、指定文字数以内に説明する(配点3)、これが解答のプロセスである。これができるかで勝負が決まる。
つぎに、意見論評の解法の基礎を案内する。
まず、「あなたの意見を述べる」意見論評型の問題については、①前提として問いをきちんと要約して、何が問われているかを正確に把握することが必要不可欠である。ここを間違えると、単なる課題文無視の作文となり、点数が期待できない。
そのうえで、②(その前提が正確にできることを条件とし、)つぎにその前提に含まれる問題・課題について、端的に自分の主張を述べる。③可能であれば、前提に含まれる問題や課題の不合理な点を指摘し、主張に至る理由付け(一般的理由)を述べる。④その主張を根拠づける具体的事実の適示をし、⑤その事実からこのようなことがいえるから(評価)、⑥質問に対する結論という過程を踏むこととなる。これが意見論評型の基本的な解法である。
さて、これを見たとき、私の講座を受講した方や、ステートメントをきちんと作成した方は、すぐに「あれ?藤澤が教えているステートメントの作成方法と同じじゃん・・」と思うであろう。そう、同じである。
法科大学院未修者選抜入試において小論文課題を課す趣旨は、①将来法曹となった際や法科大学院入学後に、皆さんは膨大な量の文献や、長文からなる判例を読み解くこととなること。だからこそ、その基礎力を有する人材であるか入学前段階に確認する点にある。そのうえで、②皆さんは将来法曹等になった際には、裁判例や文献を参照ないし批判したうえで、自分の考えを述べ、妥当な結論を導く必要があるから、その基礎力を有しているのかを確認する点にある。
言うなれば、皆さんが対象の法科大学院に入学するだけの、ひいては将来法曹としての素養を有しているか確認するために、試験等を課しているのである。そしてそれは、ステートメント課題であっても、小論文課題であっても変わらない。(法律論述式試験についても、それに「法律知識」が加わる以外は、問われる事項は変わらない)。
このような解答の基礎を正確に、かつ落ち着いて学ぶ機会は、入学前しかない。それくらいに、入学後などは法律知識を習得するだけで精一杯かと思われる。だからこそ、私は、法律を学ぶ上で、論理的かつ説得的な文章を作成するために、ステートメント講座を実施し、そこで法律論述式試験や小論文の基礎力を身に着けていただいている訳である。
ステートメント作成で文章力・課題文の正確な読解力を学んだあとは、解法は全て共通しているのであるから、あとはそこで学んだ解答プロセスを思い出しながら小論文の問題を解く、これに尽きる。
ステートメント作成で学んだ基礎を、有効かつ効率的に活用願いたい。
次に、問題文の傾向について案内する。
主に社会科学分野の評論文から出題される。なお、日々の演習や対策方法は、BEXA『第三回 筆記試験対策について(法学未修者コース入試編)』で述べたとおりである。https://bexa.jp/columns/view/498
慶應義塾大学の学部入試(特に一般入試)を受験した経験のある方(商学部や理系を除く)にはおなじみの問題形式。設問1が下線部の箇所についての説明問題、設問2が問題文の理解を前提としたうえで、受験生の意見を述べさせるものである。
つぎに、慶應義塾大ローでは出題の趣旨が公表されているが、採点基準や解答例に関する案内は掲載されていない。そこで日々の演習や模試代わりに利用するのに最適な過去問として、関西学院大学法科大学院の入試問題が挙げられる。同大ローの入試問題は慶應大ローと問題文の量や設問形式が似ており、他方で出題の趣旨だけでなくロースクール公式の解答・解説も公表されている。ロースクール側が受験生に対しどのような解答を求めているか把握する材料としても適切であり、日々の小論文問題演習の材料として利用頂きたい。また、捨てずに保管しているのであれば、同大学学部入試の小論文等を利用することも有益であろう。
最後に、その他の慶應義塾大ロー特有の注意事項を述べる。
慶應大ローの入試問題の特徴として、他のロースクールと比べてとにかく問題文の量が多いことが挙げられる。また試験時間も150分と他校と比べて長い。そのため、集中力を維持させるとともに、設問内容を適切に把握する能力が必要不可欠である。
一般に評論文は、主張箇所(claim)と、それを肉付けする具体的事実と根拠箇所(data(evidenceと表現するものもある),warrant)にわかれている。後者はあくまでも筆者の主張を正当化させるための事実や証拠に過ぎない。
慶應大ロー入試ほどの長文をメリハリつけずダラダラとよんでいると、読解中に集中力が切れ、内容を理解できず、問題文の主題と全く異なる解答を作成しがちである。そうすると、筆記試験の成績は期待できず、最悪の場合筆記試験で不合格となってしまう。
問題文を読む際は、①まずは問いを正確に把握する、問われている内容が何か・キーワードは何か正確に把握し(繰り返しとなるが、特に下線部型の問いについては、指示語が何を指すか必ず・正確に把握すること)、②具体的な事実や例(例えば歴史上の人物の意見)を挙げている個所は、あくまでも筆者の主張・意見を補強する事実に過ぎないこと(もちろん、筆者がその意見を批判するために用いる場合もある)、③筆者がどういう立場を採用しているのか文章全体から把握する(要は頭の中で要約する)ことが必要である。要は、不必要に具体的事実と根拠(data, warrant)が記載されている個所に引っ張られるのではなく、具体的な例を挙げた後又は挙げる前提として出てくる「筆者の主張」を適切に把握することが重要である。
そのため、問題を解く際には、筆者が問題文で挙げる具体例に引っ張られ過ぎて、問いで聞かれている事項を見失わないよう注意したい。そして、なによりも試験時間中は集中力を切らさず、問題文の内容を適切に把握して欲しい。
また、未修者入試については、毎年時間切れで答案を完成できず、その結果不合格となるケースが多く散見される。かならず制限時間を意識したうえで、問題の読解や各設問の解答を終了した時点で残り時間がどの程度あるか、ある程度把握したうえで解答をしていただきたい。
以下は補足として、2022年入試課題について案内する。
2022年度入試では、問題文は11頁に及んだ。問題文のページ数からもわかるとおり、問題量は非常に多いため、既述のとおりメリハリをつけて読み進める必要がある。それとともに、読解方法としては❶設問文を正確に読み解く(例えば設問1であれば「フェイクニュース」という用語の解説がなされている個所を重点的に読み解く必要があること、そして問題文はメディア論について書いてあるということがこの問いから推測される。設問2については、「論旨を踏まえつつ」との問題文の指示から、「メディアリテラシー」について筆者の主張を適切に理解していること前提として踏まえつつ、それを一定程度要約する形で解答に示したうえで、それに関して自らの主張(ないし意見を補完)をする必要があるということが読み取れる。つまり、最初の段階で何が問われているのかを正確に把握したうえで、メリハリをつけて文章を読解しなければ、恐らく時間だけ浪費することになってしまうであろう)、❷上記「問題文を読む際は~」の段落に示した通り、評論文における論理構造を的確に把握し、筆者の主張は何なのか・キーワードに関してどの段落で具体的に説明しているのかを正確に把握することが必要不可欠となる。
試験は一度きり、後で悔いるくらいなら、集中し、全力で問題文の把握に努めて欲しい。
以下では、過去問の出題傾向に基づく重要点を纏めたものである。
ア.憲法
(ア)2023年度入試を踏まえて(今年度の対策)
憲法については、2019年度以降は憲法論として問題となっている時事ネタから出題される傾向が強い。そしてその傾向は、23年度入試についても変わらない。
判例が元ネタの問題については、下記記載の判例速報または判例時報等の速報記事・論題から出題される傾向にある。(23年度の元ネタ判例やその解説については⒋⑴イ.憲法の項目に記載したとおりである)
なお2022年度入試については、その8ケ月後に行われた司法試験令和4年度入試と共通している論点・事情等もある。司法試験委員に慶應ローの憲法担当が多いことが如実に反映れているように思える。
2023年度入試:東京地裁令和元年5月24日判タ1473号
(最新判例解説は期限切れのため、各自図書館等でご確認ください)
2022年度入試:令和4年度司法試験 公法系科目第1問憲法
https://www.moj.go.jp/content/001371989.pdf
2021年追試:https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011831991_tkc.pdf
2021年入試:グローバルダイニングによる訴訟(自粛と補償に関する諸問題)
(参考)https://bijutsutecho.com/magazine/insight/23401
2020年入試:泉佐野市民会館事件判決と太子町立博物館入館拒否事件の融合問題https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011831991_tkc.pdf
参考:https://ls.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-011111391_tkc.pdf
→琉球大学ローが8月入試の段階でこの判例を素材とした入試問題を既に出題しており、重複を避けるため問題を若干変更したことも考えられる(私見)
※参考として(琉球大学A日程入試問題憲法)http://web.law.u-ryukyu.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/c690459f845953db56d00ef83fd05527.pdf
2019年入試:性同一性障害特例法における性別変更と生殖腺除去要件の合憲性
参考:https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011561737_tkc.pdf
上記を踏まえ、また過去問の出題からすると、近年出題されていない重要論点として、営業の自由・職業活動の自由(22条1項、なお職業遂行の自由・営業の自由の根拠条文については学説対立あり)が挙げられる。これらの論点は昨年度も同様に案内しているが、今年度も引き続き注意が必要である。
(イ)最新判例について
職業活動の自由については令和二年司法試験公法系第一問でも出題されているばかりでなく、近年、同自由の侵害について争われた最高裁判例も話題である(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011902044_tkc.pdf)。同判例では判旨において、薬事法違憲判決の判旨が引用されている。そして薬事法違憲判決自体は判例百選に掲載されている、ロースクール受験生であれば一度は勉強しているものである。過去5年出題されていない論点であり、この判例を素材とした問題が出題されてもおかしくはない。なお上記判例を素材とした問題については(昨年度も案内しているが)、2022年度東京大学法科大学院入試において出題されている。
時事問題としては、今年度も引き続き各校にて昨年度の入試問題と類似するものとしてコロナ禍における営業の自由の侵害について問うものを出題することも考えられる。なお、この問題については、令和2年度筑波大学法科大学院の過去問において出題されている。
(筑波大学法科大学院過去問:https://www.lawschool.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2021/06/8e6798256d82162ebab53528712d52ef.pdf)。
また、他に過去5年間に出題されていないが今後狙われても不思議ではない判例として、以下の判例を紹介する(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011851996_tkc.pdf )。
この判例は、百選にも掲載のある長良川リンチ事件やノンフィクション逆転事件判例の(プライバシー侵害による不法行為成立の)判断枠組を引用している。百選掲載判例についてはロースクール受験生であれば抑える必要があり、上記の2判例についても学習経験のある受験生は多い。基本事項として復習すると良いと考える。また近年、マイナンバー制度に関する訴訟が行われ、その判決が下されたが(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-012182305_tkc.pdf )住基ネット判決訴訟と関連して復習するとよい。なお上記は慶應の准教授が判例解説をしているが、同大学院の小山剛教授の関心分野でもあり(「なぜ情報自己決定権か」小山剛著全国憲法研究会編『日本国憲法の継承と発展』(三省堂2015年)326頁~327頁)、重要度については高いと考えている。
そのほか、孔子廟違憲判決(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011882034_tkc.pdf)など重要なものはあるが、個人的には受験生であれば既に知っている判例であり、他のロースクールなどでも出題が予想されることから、出題しにくいのではないかと考えている。もっとも、空知太神社事件については百選でも掲載されており、時間を残す限り、上記判例に一度目を通しておくのも良い。
近年市役所前広場における集会の不許可処分の合憲性が争われた事案についても、今年2月に最高裁判決が下されている。非常に話題性のある判決であるため、慶應義塾大学法科大学院でなくとも、いずれかの入試において狙われてもおかしくはない(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-012192308_tkc.pdf )。
イ.民法
昨年度入試の分析を踏まえて(今年度の対策)
昨年度の慶應ロー入試分析でも事前に伝えていた通り、法改正により明文化された箇所の問題については重要性が高いが、他方で予備校の問題集では法改正においつけず、旧法の問題を単に改正法に置き換えただけの問題も多い。必ず条文を確認し、また改正箇所についても一度は目を通りようにして頂きたい。
次に、債権法の施行が決定した平成29年以降の入試(2020年度入試~)では、毎年度債権法分野から出題されている。そして同改正により明文化された箇所や旧法と異なる点についての、現行法に基づく知識を問うものが非常に多い。そのことからしても、債権法分野の重要性は今年度についても高い。
総論分野については2019年度入試以降出題されていない。しかし、民法総則分野についても文言の変更や明文化された箇所も多い(代理など)。そのため、(全分野狙われる可能性があるが、その中でも過去問の出題傾向からすると)代理や時効民法総則分野や債権法改正により明文化・変更のあった箇所については、今一度総復習して頂きたい。
対策としては、旧法下で作成された旧試験の過去問や問題集を利用するよりも、改正民法の知識を確認するために作成された演習書で勉強するほうが網羅性も高く、適切であると考える。本試験についてもいえることであるが、民法については近年論点を問うというより、条文の理解力や基本的な知識を問う問題が多く出題される傾向にあるからである。
改正民法に対応した演習書の一例として、ロープラクティス民法Ⅰ・Ⅱが挙げられる。各自で勉強していただきたい。(解答解説付講座についてはhttps://bexa.jp/courses/view/260)
ウ.刑法
(ア)2023年度入試を踏まえて
23年度の問題については、総論知識を確認する問題と、各論知識を確認する問題とに分かれた。そして各論については『出題の趣旨』において“放火罪の学習が及んでいない”受験生が多い旨案内されている。
法科大学院入試はあくまでも、受験生が基礎的学力を身に着けているか否かを確認する試験であることからすると、今年度についても受験生の苦手意識のある各論分野の基礎知識を確認する傾向は続くであろう。
各論については昨年度予想と同様、引き続き財産犯(特に窃盗、次いで詐欺)の構成要件や不法領得の意思の定義等をきちんと覚え、それにあてはめができるようにして頂きたい。各構成要件の定義は確実に覚える、そこは絶対に落とさないというスタンスで各論を勉強して頂きたい。
また、放火と同様に法科大学院入試に臨む受験生が苦手な点としては賄賂罪や私文書偽造罪があり、これらの構成要件の確認や定義を復習して頂きたい。また偽造については、名義人と作成者人格の同一性を偽るということに留まらず、きんと問題文の事情を踏まえたうえで、誰が名義人で、誰が作成者であるのか、きちんと指摘することを忘れずにいてほしい。
(イ)24年度についても短答対策をしたい方向け(昨年度連載内容)
既述のとおり刑法については、特に短答式問題については全問正解、間違えても8割正解のレベルに留めたい。手元の六法を用いることが出来るだけでなく、ロースクール受験生であれば理解していることが期待されるごく基本知識について問う問題だからである。
対策としては、共通到達度確認試験・試行試験の肢別問題を一通りやることをお薦めする。(http://toutatsudo.net/)。形式が同じものとして、法学検定試験委員会がかつて実施していた法学既修者認定試験の過去問問題集(肢別箇所)を解くのも良いが、同試験は2016年で廃止されていることに注意が必要である。
両者を解答する際は慶應の出題形式に沿い、特に各論分野については条文や罪名も正確に指摘するようにして欲しい。慶應の短答式試験問題は、司法試験予備試験の短答式試験ほどのレベルではない。基本的知識や基本判例の理解力を問う問題であり、直前期に同試験の過去問をやるにはオーバースペックである。直前期には、効率よく適切なレベルの問題集等を復習すると良い。
論述式については、過去3年間連続で窃盗罪について問われたこともあり、財産罪については頻出となっている。ただし、レベルとしてはそこまで難しい問題は出ていない。不法領得の意思といった書かれざる構成要件は勿論、犯罪の構成要件や定義について今一度確認すれば、対応は可能である。
昨年度好評を頂けたことから、今年度も無事『2024年度版 慶応義塾大学法科大学院入試分析』を連載できたことを非常に誇りに思えます。
昨年度の受験生に続き、少しでも今年度の受験生のロー入試対策のためになれば、筆者としてこれ以上嬉しいことはありません。
残り少ない時間ではありますが、受験生はこの資料を用いて、慶応義塾大学法科大学院の出題傾向や入試分析に用いて頂ければ幸いです。
以上
2023年8月22日 藤澤たてひと
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