目 次
口頭試問といっても、主に①通常の面接型と②口述試験型面接型に分かれます。
※たとえば東京都立大学の最終試験である口述試験は、②型ではなく、①型です。
※それに対し、大阪・神戸・京都大学などの「未修特別選抜」については②型です
→主に「未修特別選抜」という名がついているところは、②型と理解ください。
以下、②型の口頭試問について説明します。
受験する法科大学院にもよるが、主に8~12分程度で課題文に目を通し、そのうえで、課題文を見ずに文章の内容を説明させるものが大半です。
そのうえで、試験官は文章の内容を的確に把握しているかを確かめるため、受験生に課題文の内容について要約をさせます。主な聞き方としては「この問題文はどのようなことについて書かれていましたか」というものです。そして、ここが口頭試問における出発点となります。
受験生が答えた要約が正確であることを前提に、以降の質問がなされます。つまり、以降はこの筆者の主張について、あなたはどう考えるかということを問うものですが、その聞き方や内容については試験官や受験する法科大学院によって千差万別です。
以下、❷において解説します。
課題文の内容について尋ねた後、試験官は筆者の主張や、受験生の主張について問題点を指摘したうえで、試験官の指摘した点を踏まえてどのような回答を導くかを尋ねる傾向にあります。ここで注意して頂きたいのは、唯一絶対の回答はないということです。
試験官らは、受験生が法科大学院に入学した後、授業についていけるかという耐性、いわば「ソクラテスメソッドに対応できるだけの力を有しているか・法科大学院で学習するに適した人材であるか」を試しているのです。そのため、受験生が回答した内容に対し、納得して何も質問を発してこないということは基本的にはあり得ません。また時には圧迫と感じられるような質問もされるのです。
しかし、繰り返しますが、いずれの質問も「受験生が法科大学院における授業で、教授らからの質問を的確に把握し、回答することができる素養を有しているか」を試しているだけです。そうだからこそ、特に試験官が2名いる場合は、一人が気さくな方であるが、他方は圧迫気味な試験官を演じているケースが非常に多いのです。
受験生を試しているということを意識したうえで、どんな問いがあっても焦らないで欲しいのです。そして受験生自身の魅力や能力を、試験官に対して伝えられるよう、常に冷静な対処をしてください。
自分の意見を述べる際に必要不可欠な要素は、①利益衡量(比較考量)と②唯一絶対の正解はない、という視点です。特に①については、皆さんが法科大学院入学後に詳しく学ぶ憲法において必要不可欠な視点となるため、今のうちにきちんと理解していただきたい。そしてこの視点こそが、未修者特別選抜における口頭試問突破のカギとなります。
過去問を分析する限り、未修者特別選抜における課題文には、「個人の利益を重視するか、それとも社会・公益を保護すべきか」という対立が存在し、両者の意見を加味したうえで、それに対する私見を述べさせる問題です。そしてその際に、両者を折衷したうえで妥当な解決策を提示するために必要となる視点が、上記利益衡量のです。(なお、利益衡量とは、要は天秤に2つのものを乗せたとき、どちらのほうが重いか(=重要であるか)という考え方が根本にあることを理解しておくと良いでのです。)
その際には、侵害された者の代替的救済策の有無、本件で講じている手段の合理性(より相手を制限しない、ほかに選びうる手段はないか)、手段の態様や侵害の程度といった視点をもとに、妥当な解決策を導くこととなります。
上記の通り、同性婚の問題について考えてみましょう。なお同問題については2022年現在、非常に注目されている問題であり、今後未修者入試においてなんらかの形で出題されてもおかしくはない問題なので、今回の導入解説を通じ、各人で問題点を把握するよう努めていただきたい。
さて同性婚の賛否については、そもそも婚姻が両者の意思の合致に基づく限り認められる制度であり、また個々人の意思を重視するのであれば自己決定権は当然保護されるべきものであるから、同性同士であっても、両者の合意がある限り婚姻は認められて当然であるという考え方があります(個人の利益保護の側面に基づく主張例)。
他方、人間が生物であるがゆえに子孫を残すことが至上命題であるという、いわば子孫の繁栄や家族制度・社会性を重視する視点からすると、同性同士の結婚では子孫を残すことができず、ひいてはその血筋を絶やすこととなることから認められないという考え方もあります(社会的利益を重視する主張の一例(以下、「反対派」と記載する)。なお反対派の考え方は、当然であるが上記根拠以外にも数多あるため、あくまでも未修者を対象とします(法律の知識を必要としない見解を紹介するに留めたい)。
ここで上記両者の意見を考慮したうえで、どのような折衷案ないし解決案を述べることができるかがカギとなります。
上記同性婚反対派の主張は、同性同士の婚姻では子孫を残すことができないという点を危惧するものでありますが、果たしてそうでありましょうか。たとえば日本には養子縁組制度があり、子供を産まなくても同制度を利用し、たとえば孤児等と縁組をすることで、戸籍上の子供とすることは可能であります。そしてその子がやがて成長し、婚姻し、子供を産めば、(血はつながっていないものの)家自体は滅びずに済みます。また、養子縁組により孤児の数を少なくすることができるという利点もあります。
しかし、この主張にも当然問題点があり、それは上記カッコ内で述べた、「血筋が途絶える」という点が挙げられます。そこで、上記回答をした場合、この「血筋が途絶える」という点について、どのように考えるかという質問が試験官よりなされることが予想されます。これについては、果たして「血筋を残す」ということがどれほど重要なものなのか・個人の意思を抑圧してまで必要な事項であるのかという視点から、意見を述べることになるでしょう。
以上の例題に対する解説からもわかるとおり、唯一絶対の正解はありません。また、何かを保護するということは、他方の犠牲を少なからず伴うということであります。そうだからこそ、最初に述べた「利益衡量(個人VS社会)」の考え方と「救済手段の検討(その手段をとったとして生じる弊害について、代替策や対策方法がないか)」ということが重要となってくるのであります。そしてこの考え方こそが、未修者特別選抜における口頭試問型面接において(ひいては法律を学ぶうえで)非常に重要となってくるのはお判りいただけたでしょう。
この能力を高めるためには、①日ごろからの訓練(例えばニュース記事を見て、コメンテーターの意見を聞き、その意見に欠けている視点はないか判断する等)、②模擬面接等を用いた訓練、③未修者小論文の過去問で訓練する方法が挙げられます。
なお、上記③については、BEXAにおける私の連載記事である『第3回 ~ロースクール受験シーズン突入。未修者にすぐ役立つ、教材と勉強方法を解説!~』を参照ください(https://bexa.jp/columns/view/300)。
例えば30分の試験時間であれば、問題文読解に10分前後、試験官からの質問で15分程度、残りの時間で出願書類に関する質問をされるケースが多いです。
未修者特別選抜における口頭試問では、これに関する質問は少ないです。事実、大阪大学法科大学院未修者特別選抜の試験では、同大学院ホームページ上(Q&A参照)で「法曹を目指すに至った動機や経緯、本研究科への志望理由等を尋ねるものではありません。」と説明しています。
ただし、同大学以外の法科大学院未修者特別選抜では、課題文について一定程度質問し、区切りがついた後に、志望動機やステートメントの記載内容について質問してくる傾向があります。そのため、自分が出願書類に書いた内容を、直前に一通り確認しておくことを推奨します。
課題文に関する口頭試問が終わる頃には、試験時間も残り少なくなっています(概ね残り5分未満程度)。その中で試験官が尋ねる質問は当然限られてきます。
例年であれば➊志望動機、❷法科大学院教育に期待すること、❸ステートメントに記載した内容について説明を求めるもの、❹社会人経歴やゼミや学生時代における活動内容のいずれかを(またはいずれも)質問するケースが殆どです。
繰り返しとなりますが、これらの事項については、回答できるよう、面接前に出願書類に目を通して確認して頂きたいのです。
法学部出身者や、未修者であっても同性婚の問題について応用知識を事前に学びたい方用に、資料のリンクを掲載いたします。
知識のブラッシュアップをする際や、将来皆さんが解くことになるであろう憲法の論述式試験においてこの同性婚問題を考えてみた際に、どのような視点で考えれば良いか、参考にして頂ければ幸いです。
https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011872032_tkc.pdf
今回も、BEXA記事「2023年度 法科大学院入試対策ガイド」をご講読くださり、誠にありがとうございます。 今回は「法科大学院未修者特別選抜入試「口頭試問」対策 導入講座」についてご案内いたしました。
また、「2023年度 法科大学院入試 試験日カレンダー(9月まで更新)」もご活用頂ければ幸いです。
2022年8月11日 藤澤たてひと
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