こんにちは、たまっち先生です。
今回は、令和2年予備試験の民事訴訟法を題材としてA答案とB答案を比較検討し、合格答案の書き方をレクチャーしていきたと考えております。
民事訴訟法は理論面が重視される出題が多く、論証パターンを暗記しているだけでは対応が難しい問題が多い印象があります。本問は民事訴訟法の基本的判例の知識はもちろんのこと、判例の射程に注意しつつ解答することを求められている難問です。このような現場思考問題のときこそ民事訴訟法の基本的な理解が重要になってきます。
本記事を通して、受験生の皆様には基本的な知識の大切さに今一度立ち返って考えてもらいたいと思います。
さっそく、A答案(合格答案)とC答案(不合格答案)を見て行きましょう。
A答案とC答案の違いは明らかでしょう。A答案は判例の射程が問われていることを理解し、判例の事案と本件の事案の違いを意識しながら規範を自分なりの定立した上で論じることができています。他方で、C答案は平成16年判決を指摘できてはいますが、本問が判例の射程を問う問題であることに気づけていません。そのため、平成16年判決を何の理由もなく援用してしまっており、本問の事情のもとでも平成16年判決の理解を援用することができるか、という判例の射程について言及することができていません。それどころか、確認の利益や二重起訴の禁止など本問ではおよそ論述が求められていない事項について長々と論述してしまっています。過去の司法試験の採点実感でも指摘されていましたが、確認の利益がおよそ問題とならない場合に、確認の利益を厚く論じてしまうのは、確認訴訟に対する理解ができていないと判断される恐れがあり非常に危険です。このことから、受験生の皆様には気づいた論点に飛びつけば良いというわけではなく、問われていることに対して忠実に答える、という姿勢を大切にしてもらいたいと思います。
また、設問1の後半部分で、「本訴についての判決の既判力は、当該判決のどのような判断について生じるか」という点も問われており、A答案は、本訴が訴え却下判決となったのは、反訴において本件事故を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求権の明示的一部請求がなされ、その訴訟物は存在しないと裁判所が心証を形成したことが原因である。
よって、再度の提起により紛争が蒸し返されるのを防止すべく、本訴においては本件事故を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求権の不存在について既判力が生じる。」と本訴に対する既判力について言及することができています。ただ、理由づけはやや民事訴訟法の理解が誤っている点がありますので、多少減点はされていると思います。ですが、設問の指示に忠実に従うことができているので、一定の評価は得られていることは間違いないでしょう。他方で、C答案は、本訴に生じることになる既判力について一切言及がされておらず、設問の指示に従うことができていません。これは間違いなく大きく減点されていると思われます。設問の指示に従うというのは基本的なことですが、出来ていない受験生が非常に多いです。設問をよく読み、忠実に解答するという姿勢を大切にして欲しいです。
令和2年予備試験の民事訴訟法は、予備試験では珍しく判例の射程を聞く問題となっており、非常に難易度が高いです。判例の射程は、判例の理解を前提しつつ、判例の事案とは異なる場合であっても、判例法理が妥当するかという問題です。判例の射程は、憲法や民事訴訟法で問われることが多く、苦手とする受験生が多いとされることから、この点を説得的に論じることができれば、相対的に高評価が得られやすくなります。そのため、過去問演習を通して判例の射程を論じるのに慣れておくことが大切といえるでしょう。
また、本問では、解答筋がいくつか考えられることから、自身の立場に沿って一貫した論述をしなければならないという点でも難易度が高いといえるでしょう。
これらの点から、令和2年度の予備試験民事訴訟法は過去問演習としての重要度の非常に高い問題であると考えられます。
【問題文及び設問】
令和2年 予備試験問題を読みたい方⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/001330820.pdf
B E X Aの考える「合格答案までのステップ」との関係では、「7、条文・判例の趣旨から考える」との関連性が強いと考えられます。
合格レベルの受験生でも判例の射程を論じることを苦手とする受験生は一定数います。判例の射程は、判例の結論を理解しているだけでは足りず、どのような事案のもとでどのような判示がされたのかという判例の事案まで理解しておく必要があり、非常に難度が高いです。ですが、憲法や民事訴訟法では判例の射程を問う問題が出題されますので、予備試験・司法試験を突破するためには避けては通れない道であるといえます。本記事やA答案の論述を通して、判例の射程の論じ方をマスターしていただきたいと思います。
出題趣旨によると、「設問1は、金額を明示しない債務不存在確認の訴え(本訴)が提起されて係属中 、反訴として当該債務に係る給付の訴えが提起された場合における債務不存在確 認の訴えの訴訟物及び既判力に関する理解を問う問題である。具体的には、まず、 金額を明示しない債務不存在確認の訴えの適法性が問われ、さらに、債務不存在確 認の訴えにおいて給付訴訟の反訴がなされた場合の確認の利益に関する判例の立場 を念頭に置きつつ、反訴が明示的一部請求訴訟であることを踏まえた上で、本問の事案における本訴の帰すうについて、その判決に生ずる既判力の点も含め、検討されているかを問うものである。」
最判平成16年3月25日は、保険金支払債務の不存在確認請求に対して保険金の支払を求める反訴が提起された事案において、本訴が反訴提起によって確認利益がなくなるとして確認の利益を否定したものです。この理由は、給付訴訟の方が給付請求権の存在を確定する既判力(114条)に加えて執行力(民事執行法22条1号)も認められる点で確認訴訟よりも紛争解決に資するといえるからであると述べられています。
出題趣旨からすると、上記平成16年判決の理解を踏まえ、かかる判例の射程が本問にも及ぶのかを論理的整合性を保った上で論じることが求められていたと考えられるでしょう。
本訴を確認の利益がないとして却下しても不都合ないことを指摘できれば、判例の射程を肯定し、本訴は、確認の利益がなくなったといて訴えを却下するという立場も十分考えられます。この場合、反訴しか残らないことになりますので、反訴で請求されていない明示的一部以外の部分については後訴の提起が許されるようにも思えます。しかし、ここで最判平成10年6月12日(以下平成10年判決といいます。)は、一部請求棄却後に残部請求をした事案において、前訴で実質的に本件事故による不法行為に基づく損害賠償請求権全体について審理されたことになり、特段の事情がない限り、Yが後訴を提起することは信義則によって許されないとしています。その理由としては、金銭債権の数量的一部請求であっても自ずから債権全体についての審理判断が必要となり、当事者の主張立証の範囲・程度も通常は全部請求の場合と変わらないこと、一部請求を棄却する判決は残部不存在の判断を示すものであることから、棄却判決後の残部請求は、実質的には前訴で認められなかった請求・主張の蒸し返しであり、紛争解決についての被告の合理的期待に反し、被告に二重応訴の負担を強いることになる、といった点を挙げています。平成10年判決を参考に考えると、本件前訴では反訴の明示的一部請求が棄却されていることになります。だとすると、裁判所は本件事故による不法行為に基づく損害賠償請求権の全体を審理の対象として審理していることになり、後訴の提起は実質的に紛争を蒸し返すものであること、反訴被告(本訴原告)としても反訴が棄却されたことにより紛争解決に対する合理的期待が生じており、かかる期待を保護すべきであることからすれば、後訴の提起は信義則に反するものとして、許されないことになるでしょう。このように考えれば、後訴の提起は信義則によって遮断されるため、無理に本訴を維持する必要はない(=訴えの利益を認める必要はない)と考えることができます。
平成16年判決の事案は、本訴と反訴の訴訟物が同一であるという事案でした。これに対して、本問における本訴と反訴とでは、訴訟物が一部の限度しか重なっていません。そうすると、前訴には反訴で主張されていない部分の請求権の存否についても既判力によって確定できるという反訴にはない独自の意味があるといえます。そのため、反訴の判決効が本訴の判決効を包含するとはいえません。したがって、平成16年判決の射程は本問には及ばないと考えることができます。
いかがでしたでしょうか。今回は、令和2年予備試験の民事訴訟法を題材として、判例の射程の論じ方をレクチャーさせていただきました。近年の予備試験は、初見で解答するのが難しい出題が多くなっている傾向があります。しかし、難しい問題のときこそ基礎に立ち返って考えてみるのが大切です。
判例を正確に理解し、判例の事案と本問とでどのような点が違うかを指摘できていれば、一定の評価は得られるはずです。そのため、判例学習をする際には、規範部分を暗記するという学習ではなく、判例の事案と判旨について的確に理解するように学習してほしいと思います。
本記事が皆様の学習のお役に立てれば幸いです。
2022年7月1日 たまっち先生
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