文部科学省により、令和4年度の標記法科大学院審査結果が公表されました。
【資料】詳しくは⇩⇩をクリック
上記資料は、法科大学院側にとっては補助金給付に関わる各校の審査結果を知る上で有益です。そして一般的には、法科大学院が文部科学省にどのような評価を受けているのか、実績や実態を知ることができる資料として有意義であると考えられています。 他方、受験生にとっては、ステートメント作成の補助資料として用いることができるばかりか、各法科大学院が一般に公開していない情報・実態を知る手段として非常に有益です。
そこで本稿では、ロースクール受験生向けに、この資料をどのように用いれば良いか案内していきたいと考えています。具体的には、皆さんが受験するロースクールを選ぶ際、そしてステートメントや面接対策として、この資料をどう有効的に用いることができるかという視点で、具体例を挙げつつ案内したいと思います。
この資料は大まかに
①当該年度における各法科大学院の実績等を国が評価した結果
②国が法科大学院に対する補助金額算定をするに際し、各法科大学院に提出を求めた計画書や実績値をまとめた資料
で構成されています。
(これ以上の説明は本稿の目的主旨とは外れるため、必要部分以外は割愛させていただきます。詳細については、上記【資料】3頁目から4頁目記載の説明をご覧願います。)
受験生としては、表面上の数値(たとえば司法試験合格実績など)だけでなく、各法科大学院の実態、つまり「自分が受験する法科大学院の実情や現状」を知るのに非常に有益です。
【資料】8ページ目以降は、各校が(対受験生ではなく)国に対して提出した計画書・実績報告書となっています。
この計画書策定にあたっては、(補助金算定の際には目標の到達度も考慮されるので)各法科大学院は具体的な目標や計画の実現性を検討し、そのうえで実現可能なものを策定する必要があります。ここでは、パンフレットやホームページの内容のように、受験生に対するリップサービスの要素は求められず、正確性や実現可能性のある計画書を策定することが強く求められます。
つまり、その法科大学院が今現在どのような状況にあり、今後教育体制を改革するために、中長期的にどのようなことを考えているのか等(留年率や司法試験合格実績をどのように改善させるかなど)、計画を精緻に策定する必要があります。
この計画書は、企業でいう『経営計画書』に相当します。
上場企業だけでなく、通常の株式会社でも中長期的な経営計画を策定しているところは多いです。そして、計画値と実績値に大幅な乖離がある場合、経営計画の修正や経営方針の見直しを余儀なくされます。
また、経営者には計画を実現する責務を負いますし、場合によっては株主等に対する経営上の責任も伴うことになります。
そして上記経営計画書に相当するものが、各法科大学院が文部科学省に提出した上記計画書(【資料】参照)になります。
精緻に計画を策定したうえで、計画を実行し、実現できている法科大学院については、国によって評価されています。また評価されている法科大学院については、計画に沿った堅実な経営をしているばかりではなく、具体的な教育成果をも上げているということになります。
これらの情報を読み取ることが出来る媒体として、価値を有するのが本資料となります。
それでは、具体的に【資料】を読み解いていきましょう。
【資料】の4頁目に説明されているとおり、一般に、「基礎額算定率」では各法科大学院の実績(司法試験合格率・入学者数(定員充足率)・競争倍率)から評価されています。
そして資料に記載のある「加算率」というのは、未修者教育の充実度や、各法科大学院独自の取組についての評価を数値に反映させたものです。
この基礎額項目の最高ランクが90%であり、ここに位置するロースクールについては、入試等運営が相対的に健全であるということになります。それと対照的に、60%や70%となると、教育成果や入試運営が上手く機能していないことから、今後改善が強く求めれることになります。
受験生はこの基礎額項目の評価を見て、自分が受験を検討しているロースクールの健全性や教育力がどの程度かを知るための一つの指標として参考にしてみてください。
次に、具体的に上記【資料】をどのように有効に用いることが出来るのか、受験生目線に立って検討していきます。
ここでは、今回最高評価を獲得した一橋大学法科大学院の計画書を例に挙げ、説明したいと思います。
この報告書の1枚目をみると、「教育理念・今後目指すべき方向性」「構想」という項目があります。そしてここでは、一橋大学法科大学院における教育方針やその計画が端的に纏められています。
裏を返せば、一橋大学法科大学院に入学する受験生には、教育理念や構想項目に記載されているような資質・素養のある人物を求めているということになります。要はコインの表と裏の関係ですね。
まずはこのことを理解したうえで、以下では実践的な練習をしてみましょう。
たとえばステートメント課題や面接などで「あなたが法科大学院に貢献できることを教えてください」と聞かれたとしましょう(類題として過年度の同校ステートメントを参照)。
この場合、回答方法の1つとして、上記の教育方針や理念・構想像を挙げた上で、自分がその構想像に相応しい人材であることを(エピソード等を踏まえたうえで)説明すれば足りることとなります。
既修者コースを目指している方など、現在法律論文を勉強している人に対して分かりやすく言うなら、①上記教育理念・構想部分が「規範」部分です。そして②あなたのエピソード等の部分があてはめにおける「事実」に相当します。そして③その事実に基づき自らを評価したうえで、自分自身は上記規範に合致する人物であり、④結論部分として、私はその点で法科大学院に貢献できるということを示せば良いことになります。そしてこれこそ、私がこれまでに寄稿した連載でも伝えている「問いに答える」ということになります。
なお上記考えを知っておくと、今後のインターンシップ(サマークラーク等)だけでなく、就職活動にも非常に役立ちますので、ぜひ習得してみてください。
また、これから本格的に論述式試験に取り掛かる方や法学未修者にとって、論述式答案を作成するうえで上記の考え方は非常に重要となってきます。ぜひ習得し、ステートメントや面接だけでなく、論述式試験の答案作成の際にも役立ててみてください。
上記計画書には、他にも、パンフレットなどでは公開していない事項についても詳細に記載されています。未修者の標準修業年限修了率(3年間平均77%)、直近の標準修業年限修了率の実績(80.22%→90.32%→91.11%)、法曹コース入学者の司法試験合格率見込(75%)等の事実です。
これらのデータは、基本的に一般の資料では公開していない情報です。そして一部のロースクールにとっては不都合な情報ともなり得るものです。
受験生が入学するまで、法科大学院にとって都合の良いPR情報しか知らなかったため、入学後に後悔するという例(留年率など)は、往々にしてあります。受験生が志望校を選択するにあたって、上記修了率データなどを参考にし、各校の教育実績・実態に目を向けた上で志望校を決定することで、入学後のギャップを少なくすることが可能になると思います。
また未修者コースを志望する方にとって、未修者教育の質の改善(取組区分①―2項目参照)項目の記載内容は、志望動機を書く際に参考になると思います。
この項目では、未修者の教育実績を向上させるために具体的にどのような取組をしているのか、詳細に説明がなされています。そして記載内容から、未修者の教育支援体制を具体的に整備・構築しているという事実を読み取ることができます。
そのうえで、この支援体制は建前ではなく、教育成果として反映されているのかというと、資料より、未修者司法試験合格率が28.35%→37.49%→41.19%と高水準で推移しているという事実が読み取れます。このことから、この教育体制は適切に構築・運用されており、それが合格等実績に反映されているとして評価されるでしょう。
これらの事柄から、一橋大学法科大学院は他校にも増して、未修者教育について教育支援体制を確立させているといえそうです。そして、優れた教育ノウハウを有しているように思えます(私見)。
そして、上記のように他にはない優れた特長を有するからこそ、一橋大学法科大学院未修者コースを志望する動機となったといったように、志望動機を説明することも可能となるということです。
もちろんこれが完全解でもないですし、あくまでも参考例に過ぎません。答えは一つではありません。
ですが、このように、【資料】から各ロースクールが一般に公開していないたくさんの情報を手に入れることが出来ます。また、ここに書いてある計画や実績を把握することで、自分にとって適切な志望校を選択するヒントとして有益となるばかりか、果ては志望校のステートメントを書く際のヒントを得ることが出来ます。
どんな資料・データでも、使い方次第で有益にも無益にもなります。
有効に用いて、ぜひ自分にとって有益なものにしてみてください。
今回も、BEXA記事「藤澤たてひと●法科大学院受験シリーズ」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム審査結果について」をご解説いたしました。
次回以降も、法科大学院受験に役立つ情報を発信してまいります。
ご期待ください。
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2022年4月5日 藤澤たてひと
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