目次
1 基本データ
(1)所在地
(2)ア.入学に必要な諸費用(2021年度実績)と,イ.授業料等納付後に辞退する場合の入学費用償還請求の可否について
2 出願時期・入試日程
(1)2022年度入試日程
3 過年度および2022年度ステートメント(自己推薦書)課題の分析
(0)自己推薦書の提出に先立って
(1)今年度と過去のステートメント課題文の変更点について
(2)2022年度のステートメント課題文について
東京都国立市中2―1 一橋大学マーキュリータワー棟内
※上記施設は東キャンパス内にある。
ア 入学に必要な経費
・第1次入学手続:入学金282,000 円
・第2次入学手続:授業料804,000円
→国立大学法人が設立する法科大学院の場合,入学金と授業料については各校一律にする傾向にある(その他諸経費については別)。
各校の詳細については,BEXAにて連載中の記事(https://bexa.jp/columns/view/295)2.(1)カ.項目のリンク先を参照願いたい。
イ 授業料等入学費用納付後に辞退する場合の入学費用償還請求について
・例:予備試験に最終合格したため,辞退する場合
→所定の方法により入学辞退の手続きをすれば,入学金を除くすべての入学に関する費用は受験生に返還される。
ア 出願日
2022年10月8日(金曜)~10月21日(木曜)*当日消印有効
イ 試験日
法学既習者コース:2022年11月13日(土曜),面接同年12月12日(日曜)
法学未修者コース:2022年11月13日(日曜),面接同年12月11日(土曜)
→昨年度と異なり,追試験など特別措置を講じる予定はない(9月26日現在)
ウ 合格発表日
1次選抜(筆記):2021年12月9日(木曜)
2次選抜(面接):2022年1月14日(金曜)
一橋大学法科大学院については,募集要項には自己推薦書が添付されていない。受験生らが,大学の指定する条件に従い,自己推薦書を作成する必要があるので注意が必要である。どんなに内容の良い自己推薦書を作成したとしても,形式不備で減点されては勿体ない。出願前に,自分の作成した自己推薦書が一橋大学法科大学院の指定する形式と違わないか,再度徹底していただきたい。
(形式指定等の詳細については,2022年度法科大学院入試募集要項
https://www.law.hit-u.ac.jp/lawschool/wp-content/uploads/2021/06/20210614_2022_ls_bosyu.pdf)
なお、指定の書式を逸脱した自己推薦書や、添付資料に不備がある場合には減点さる旨、募集要項には明記されている。
① 自己推薦書は ,同じものを3 部作成する。資料添付も同様である。
② 自己推薦書が複数枚になる場合や添付資料をつける場合、ホッチキスで左上を綴じる(添付資料は自己推薦書とひとまとめにし、綴じる。)
③ 外国語で書かれた証明書・文書をつける場合には日本語訳も添付する。
④ 在籍していた学校における指導教員等による推薦状は提出不要。
⑤ 自己推薦書に添付する書類で厳封されているものは開封して添付する。
⑥ パソコン、ワープロ等を用いて自己推薦書を作成する場合は、A4 用紙 2 枚 (1 行 40 字×30 行/合計 2,400 字相当分)以内で作成する。
⑦自己推薦書の作成にあたっては,1枚目の1行目に「自己推薦書」と記載し、2行目に氏名を記載して、3 行目より書き始める。
⑧手書きで自己推薦書を作成する場合、A4用紙400字詰め原稿用紙(横書き)6枚(合計2,400字相当分)以内で作成。1 枚目の1 行目に「自己推薦書」と記載、2 行目に氏名を記載、3 行目より書き始める。
⑨自己推薦書末尾に、募集要項に折り込まれている「特記事項報告書」を綴じ込む。
特記事項がない場合でも必ず綴じ込むことに注意。
昨年度と比較する限り,課題文の変更はない。
また,筆者の知る限り過去数年間ステートメント課題に変更点はないように思える。そうだとしても,インターネット上のものなど過去のステートメントを参考にした場合,時には問いに答えていないステートメントが掲載されている場合もある。
あくまでも過去のデータは過去のものに過ぎないことを認識していただきたい。
ア 2022年度課題文(既習未修共通)
自分が法科大学院に入学するのにふさわしいと考える理由、自分が魅力的な法曹になることができると考える理由など、自己のアピールポイントをこれまでの自己の経験、学業・社会活動などに基づいて記載してください。
イ 課題文の読解と分析
まず,課題文の要点を押さえる必要がある。
この課題文を一言で纏めるのであれば「自己のアピールポイントを記載してください」というものである。なお、そのPRポイントは自己の経験や学業等に基づいて記載する必要がある。
つぎに、上記自己PRを補完する事実としては,①自己が法科大学院へ入学するのに相応である人材であることの理由(なお一橋大学へ提出する自己推薦書であることから,暗黙の了解として「一橋大学」法科大学院へ入学するのに相応な人材であることを説明することになる),②自分が魅力的な法曹になることができる理由などを挙げることとなる。これについては課題文で指定されているとおりである。
自己PR型の志望動機となると,東京大学など主要法科大学院とは課題が異なるものであり,受験生は作成するのに一苦労するかと思われる。ぜひ早い段階から草稿を作成していただきたい。
ウ 書き方について
一般的に,ステートメントについては、①たとえば「~について」等と論題を記入したうえで,その問いについて答えていくパターンと,②論題などを書かずに,そのまま問いに答えていく形の2パターンがある。
①については,出題者の問いに正確に答えるという点で優れており,かつ課題文で問われている事項を受験生が書き落とすリスクを極力少なくすることが出来る。そのことから,特に首都圏私立大学ロースクールの課題については①の形式で書くことをお薦めしている。
しかし,一橋大学法科大学院のステートメントについては,問いの主題はあくまでも「自己のアピールポイントを記載してください」という問いである。そして,そのための間接事実や補助事実として自己の経験・学業・社会活動を用いるとともに、自己をアピールする内容として(又は関連付けて),「自分が法科大学院に入学するのにふさわしいと考える理由」や「自分が魅力的な法曹になることができると考える理由」を書くことを大学側は求めている。
そのため,たとえば論題として①自己PR②法科大学院入学に相応な理由③魅力的な法曹になることができると考える理由などと分けてしまうと,出題者が求めている問いに正確に答えていないステートメントが完成する可能性が非常に高い。
繰り返すがあくまでも課題は「自己のアピールポイントを記載してください」であり,「一橋大学法科大学院を志望する理由」ではない。
例年出題者の意図を把握せず,私立他校のステートメントをそのままコピー&ペーストしたため,筆記試験(今年度の試験でいう1次試験)を通過しても,総合点が振るわず落とされるというケースが非常に多い。そのような結果にならないためにも,ステートメントでは問いを正確に把握することを第一に努めて欲しい。
エ 自己PRする前提として,ロー側の求める人材像を必ず確認すること
次に,自己PRするのであれば,法科大学院側の求める人材像や,その特長を把握することは必須である。
一橋大学側は受験生に対し,自己PRをする中で「自己が法科大学院へ入学するのに相応である人材であることの理由」を記載することを求めている。つまり,「あなたが入学することで,大学側にとって何がメリットとなるのか」「あなたは一橋大学にどのようなことを貢献できるのか」という,就職活動において企業が志願者に試す質問と同様のものを,皆さんに課しているのである。
これについては難しく考える必要はない。そして気を付けて頂きたいのは,自己PRや相手への想いを伝えるならば,最低限相手のことを少しでも知ってくださいということである。
まず,一橋大学法科大学院という相手のことを知るためのツールとして,一橋大学のホームページやパンフレットが存在している。そして,教育指針や育成方針(一橋大学法科大学院ではディプロマ・ポリシーと表記)が公表されている。 少なくとも,これらの事項については受験生各自で確認していただきたい。(なおこれらを確認することは,面接試験での問いを把握する・準備するうえでも非常に重要である。面接試験の詳細については後日の連載で言及する )
参考までに,以下では一橋大学が掲げるディプロマ・ポリシー等を引用する。(引用元:https://www.law.hit-u.ac.jp/lawschool/about/)
・一橋大学法科大学院が掲げている法曹育成像
「豊かな教養と市民的公共性を備えた,構想力ある専門人,理性ある革新者,指導力ある政治経済人を育成する。」との教育理念を受けて,社会の各分野において,法に関係する指導的役割を担うことのできる人材,幅広い教養を備えた公共的志操の高い法律家の育成を目指しています。これは,現在の日本社会が抱える法的課題を,法律家として,積極的に引き受け,それに対する解決策を,現状を十分に踏まえつつも,法の理念である正義の観点から,現状を評価し,場合によっては現状を打破する方向での革新的な構想を現実的な形で提案しうる人材の育成を目指しているということです。
さらに具体化した目標として,(1)ビジネス法務に精通し,(2)広い国際的視野を持ち,(3)豊かな人権感覚を有する法律家の育成を目指しています。
・一橋大学の教育理念と,専攻長による案内(抜粋)
一橋大学法科大学院は、ビジネス法務に精通し、広い国際的視野を持ち、豊かな人権感覚を有する法律家の育成を目的としています。そのために、千代田キャンパスにビジネスローコースを設け、また英語による授業※を含む国際系科目を充実させ、さらには人権クリニックを実施するなどの特色ある取組みを行っています。・・・(省略) (※筆者注:英語による授業とは,具体的には英米法(ネイティブによる英語による講義)や同教授によるゼミ,法律英語(日本人による授業)が挙げられる。)
上記の2つのトピックだけでも,受験生がステートメントを書く際のヒントが多く散りばめられている。しかし例年,これすら調べずにステートメントを書き,他のローのステートメントを提出した結果,点数がつかず,面接等で不合格となっているケースも散見される。
くどいようだが,少なくとも自己PRをする上では,相手のことを知ろうとし,かつ相手にとっても魅力的な人物(受験生)であるよう映る必要がある。まずは相手を知り,自らが相手の求める(又は相手の足りない点を補うだけの)素養を有するのかきちんと検討したうえで,ステートメントを作成していただきたい。
オ 自己PRや志望動機に,結果論だけを根拠として説明しない
以下では,ステートメントにおいて仮に一橋大学法科大学院の魅力について言及しようとする場合に,注意すべき点について案内する。
相手のことを魅力的に映る(要は志望動機等)ことを説明するために,結果論だけを記載しないようにする必要がある。(なお,自己PRや志望動機等を主張するためには,法科大学院側はどのようなことを長所として考えているか等をきちんと把握する必要があるのは,項目エ.で既に述べた通りである)。
例えば一橋大学法科大学院の司法試験合格実績は秀でてている。そして,一橋大学では東京大学と異なり,未修1年次だけでなく2年次以降に開催される実務家弁護士による司法試験対策ゼミ(TAゼミ)や,与えられた演習問題を解答し教授らに採点して頂ける問題解決実践というカリキュラムが充実していることも,その要因として挙げられる。
しかし,合格実績を残しているのは,あくまでも法科大学院を修了した受験生が日ごろから一定程度以上の学力を身に着けていた・個別に勉強したからであり,予備校と異なり法科大学院教育が司法試験合格に直結するわけではない(特に短答式試験)。また,司法試験合格実績も年度によってある程度左右される。
そうすると,志望動機に「司法試験合格率が高いこと」と書いても,それは単に結果だけに注目しただけで,それならば「司法試験合格実績が低ければ一橋大学法科大学院を志望しないこととなる」「予備試験の累計合格率のほうが我が校より高いが,なぜ予備試験を志望しないのか」という疑問を採点官に生じさせてしまう。
そのため,結果論だけでは説得力に欠ける主張となるため,注意が必要である。
なお,それは法科大学院のステートメントに限ったものではない。
たとえば男性が異性を好きになったとして,異性から「どうして私を好きになったの(要は上記志望理由に相当する質問)」と聞かれたとしよう。その際に,「あなたは弁護士で,その職業が好きだから(結果論)」と言っても,異性に対して何の説明にもなっていないし,そもそも弁護士である異性など無数にいるという疑問を抱かれるのは当然である。そして,適当な理由を思いついて告白していると思われかねない。
志望動機や自己PRをするのであれば,まずは相手のことをきちんと知ってほしい。そして,相手の見た目(司法試験合格実績や就職実績)だけでなく,ロースクールそのものにどのような長所や特長があるのか,しっかりと把握してほしい。
カ あれもこれも書こうとしない・趣旨一貫とした文章を書く
文字数が多いこともあってか,例年あれもこれも記載し,その結果読み手に対して説得的な文章が書けないケースが散見される。
読み手が一番知りたいのは具体的事実の内容や自慢ではなく,「その具体的事実についてあなたはどのように評価したのか,そこから何を学び・それがどう自己PRにつながり,ひいては一橋大ローにとって魅力的な人物であるとして説明できるのか」という点である。
単に具体例を挙げるだけでは,読み手にとって「この志願者は事実を挙げるだけで,なにも考えられていない(想いがない)・説得的な文章を書けていない」と思われるだけである。
ロースクール入学後,または社会に出た際にも学ぶと思うが、事実は1つでも,それに対する評価や考え方・価値観は人それぞれである。それは論述式試験でも同じである。あてはめにおいて,事実だけを挙げて仮にその事実について何も説明をしなかった場合,それがどう主張や規範と対応するのか,何の説得力もない文章となってしまう。
(未修コース志願者には少しわかりにくいかもしれないが,以下では殺意の有無につき争われている仮の事案を例に挙げる。被告人宅から刃渡り16cmのナイフが見つかり,しかもそのナイフから被告人の指紋・被害者の血痕が検出されたとしよう。論述式試験においてその事実だけを記載しても,果たして殺意があったと認められる事情として“評価できるのか”未だに不明である(傷害の故意だったことも十分考える余地がある。)
その事実から,例えば事件に使われたナイフの殺傷能力の高さを認定する(評価)ことを通して初めて殺意が認定される事情の一つとして考慮されることになるのである。〔その際は当然,経験則,また最終的には他の証拠(間接事実)などを挙げ,それらの事実を評価して初めて殺意が認定されることは言うまでもないが…〕)
その事実からどのようなことを言えるか(評価),そしてそれが最終的に自らの主張とどう繋がるのか(一貫性)を意識してステートメントを作成してほしい。
別添資料(ダウンロードはこちら)では,一橋大学法科大学院修了者(社会人出身者)より使用許諾を得られた自己推薦書を添付した。
本講義では⒊⑵ウ.記載のとおり,論題を書かない方向で記載することを推奨しているが,仮に論題を記載した場合には,どのように書けばよいか参考になると思われる。論題を書いたとしても,聞かれていることは「自己のアピールポイント」であるということをきちんと意識し,結論部分できちんとその問いに対応させられれば問題はない(が,論題を付けたことにより自己PRを主張し忘れることは注意して頂きたい)。
なお,東京大学法科大学院入試ステートメント対策連載でも案内した通り,添付した自己推薦書はあくまでも合格者によるステートメントであり,完全解を記載したものではない(例えば主語が私であることを当然の前提として記載している個所,建学の精神に対する具体的な主張がなく抽象表現に留まる等)。
ただし,書き方の参考や合格者(ステートメントの完成レベルとしては上位)のレベルを知るという点では非常に参考となると思われる。
また,何にせよ筆者がBEXAで数回にわたり皆さんに教示した内容をベースにしたうえで記載されている。特に課題に対してきちんと説明・自己PR出来ているという点では,非常に優れたステートメントであると考える。
一橋大学法科大学院のステートメント課題については,問いを正確に把握することを含めて極めて難易度は高い。他方で難易度が高いということは,きちんと問いを分析し,正確に答えるだけで,ステートメントの評価は相対的に高くなる。
今回の連載や合格者ステートメントを参考にし,より良いステートメントを作成していただければ,筆者としても嬉しい限りである。
ぜひ最後まで頑張って頂きたい。
文字数が多いため読みにくい・印刷したい方は、ことらからダウンロードできます ↓ ↓ ↓
今回も,BEXA記事「藤澤たてひと 法科大学院受験シリーズ」をご講読くださり,誠にありがとうございます。 次回は「2022年度 一橋大学法科大学院入試 傾向と対策」について徹底解説する予定です。ご期待ください。
前回までのアーカイブは下記からご覧いただけます。
(「法科大学院・ロースクール試験」に関する記事はこちらから。)
また,「【更新版】2022年度 法科大学院入試 試験日カレンダー 6月~2022年1月分」もご活用頂ければ幸いです。
2021年10月4日 藤澤たてひと
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