大谷先生(以下敬称略):
今回、私が出たら面白そうだなと思ってお話しするのは、最大判平成29年3月15日(刑集第71巻3号13頁)、いわゆるGPS判決です。刑事訴訟法の令状の話ではありますが、憲法判例百選にも掲載されている判例です。
Y:
強制処分該当性の問題の中で憲法35条の違憲性が問題となった事案ですね。
※[全文はこちら](https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86600)
大谷:
そうですね。判例百選では憲法35条の話として聞かれていますが、憲法論文では憲法13条のプライバシーの問題として問いやすいと考えています。
仮に憲法論文でプライバシー権が出題された場合、まず考えるべきは対象となる情報の要保護性です。受験的に言えば権利の重要性にあたる部分ですよね。たとえば、1個の情報でもその情報が思想や信条にかかってくるものであれば核心的なものとして要保護性は高くなりますし、その一方で名前や住所だけだと特に何もなく要保護性は低い方向になると思います。
この判例の面白いところは、1個の情報それだけでは大したことなくても、それを「継続的・網羅的」に全部まとめてみると要保護性が高くなるという考えを取った点にあります。
事案としては、対象の自動車にGPSを付けて、自動車がどういう道を通っていくかというのを監視したんですが、これからわかるのって、言ってしまえば自動車がどこにいるのかっていう場所の情報だけじゃないですか。ですけど、ただの自動車の場所っていう情報であっても継続的・網羅的にみるとプライバシーの侵害になるよねとした判例なんです。
Y:
強制処分該当性っていう刑事訴訟法の論点での判例ではあるものの、それを憲法13条のプライバシー権の話に書き換えると情報の要保護性が高くなるという考え方を示した判例になるということですね。
大谷:
今の社会ってどこに行っても監視カメラがあって人の行動を特定することが可能じゃないですか。1つの監視カメラの情報だけ見れば大した情報じゃなくても、複数箇所の監視カメラの情報を継続的・網羅的に観ると要保護性が高くなるのではないかっていう問題意識を出題させることができると考えています。
Y:
監視カメラの他にもSNSから情報を収集するっていうのもあり得るかもしれないですね。
大谷:
あり得るかもしれないですね。
場合によっては行動の情報からその人の思想や信条を推測できてしまうので、プライバシー権を侵害しているという主張が憲法上成り立ちます。
もう少し憲法寄りに考えてみると、プライバシー固有情報とプライバシー外延情報という考え方があって、プライバシー固有情報というのは、人の思想・信条、心身に関する情報で、特に秘匿性が高く、他人に知られたくない核心的な情報がこれに該当すると考えられています。プライバシー外延情報というのは、氏名、住所、電話番号といった人の思想などにすぐには直結しない情報で、プライバシー固有情報の外側に位置する情報がこれに該当すると考えられています。
1つの情報であっても継続的・網羅的にみると思想や信条が推測できてしまうということが主張できるのであれば、プライバシー固有情報に該当し要保護性は高くなり審査基準を上げる考慮要素になります。
Y:
反論としては、その情報だけ見たらただの行動、事実に過ぎずプライバシー外延情報になるから秘匿性は低く要保護性は高くない、だから審査基準は低くなるという方向にもっていけるということですね。
大谷:
ただ、人の思想、信条にかからない事実であっても要保護性を高めるロジックっていうのが実はあります。
モザイク理論っていうものなのですが、1つ1つは単なる事実に過ぎないものであっても、複数集まることで対象者のプロフィールを推測することができてしまって、個人の特定につながるリスクがある、だから要保護性は高いよねと包括的に見る考え方もあります。
Y:
1つの情報を追うというわけではなく、複数の事実を組み合わせて俯瞰すると個人が見えてきてしまうということですね。