コモディティ化されているものは商品ではない
皆さんこんにちは。マーケティング・コンサルタントの瀬本です。本連載は「弁護士さんが中小企業の顧問先を増やし、収益を上げる」為の講座です。
前回は素材と商品の違い、つまりモノとコトとの違いを説明しました。顧問先を増やす為には「自分しか提供できない商品」を明確にしなければならないのに、どの弁護士も同じモノを売っている。差別化されていないモノなので「知人からの紹介」で弁護士を探すことになる。あるいは安い費用で依頼できる弁護士を探そうとしてしまうことになる。「いやいや、私の法務能力や経験は、そんじょそこらの弁護士とは違う」と言っても素人には区別がつきません。
先日、行列寿司店の隣にある寿司屋で1000円のランチを食べていると、大将が「隣よりうちの寿司の方が美味いのに、みんな隣の店に行列している。寿司の味がわからん客ばかりや」と嘆いていました。でも「そんなことを言っている大将の寿司の味も隣とたいして違わないよ。」と言いそうになりました。私がこの店で食べたのは美味いからではなく、客が少なくすぐ食えるから。腕が良いと思っているのは大将だけで、ネタも味もあまり変わらない。「それならワンコイン(500円)の寿司ランチの方が良い」と思うのは当然のこと。「うちはシャリに砂糖を使っていないから本物だ」と大将は言っていましたが、ランチ客にはどうでも良い事で選択の基準にはならない。つまりこの店の寿司は商品ではないのです。隣の店も寿司が商品ではなく、「安さ」が商品。つまり同じようなものだから本来商品であるべきものが商品ではなくなっているのです。
マーケティングでは、このような状態を「コモディティ化している」と言います。コモディティ化とは「一定のレベルを満たしていれば、顧客にとって商品やサービスの品質は関係がない状態」を言います。品質や提供価値がほとんど同じなので価格を下げるしか差別化しかできない状態です。弁護士業界は成熟産業となりつつあり、まさしくコモディティ化が進んでいます。そしてそこから抜け出した一部の弁護士のみが多くの企業から顧問契約を結んでいるのです。まずは「同質化からの脱皮」が顧問契約増、収益増の第一歩であることを理解して下さい。
「仕事をしないで30万の顧問料を貰う弁護士」を見習おう
私がミシュラン常連の高級フレンチレストランを指導している時の話です。販管費の再検討をしていたところ、顧問弁護士に月30万円払っていることを発見し、「この弁護士さんには毎月どれくらいの頻度で仕事をしてもらっていますか?」と聞いたところ、社長は「この1年、別に仕事はしてもらっていません」とのこと。私は「それなら顧問契約をやめるか、私の知り合いの弁護士に5万円程度でやってもらいましょう」と提案したのですが、「いやいやこの弁護士さんの紹介で来店するお客さんの売上は毎月200万くらいになるんです」と社長。原価35%ですからこの弁護士さんは毎月130万円、年間1560万円もの粗利をこの会社に提供してくれていることになります。「ああ、それなら続けてもらわないといけないですよね」と私。
この店のファンである弁護士は友人知人から「接待に使える良い店を知らないか」と聞かれると必ずこの店を紹介しているようで、無意識に会社に多くの利益を提供しているのです。もし、これが意識的なら私は素晴らしい弁護士だと思います。「そんなものは邪道だ、弁護士としての活動や能力を通して適正な顧問料をもらうのが弁護士としてあるべき姿だ」との反論がでてきそうですが、「それならば毎月5万円ほどの顧問料をもらいながら、顧問先からの相談がないからと言って何もしない多くの弁護士はどうなんだ」と思います。
「コモディティ化された商品以外に何を提供できるのか?」が顧問先にとっては重要です。
「この弁護士さんは会社に対して何を提供してくれるのか」と顧問先は考えています。少なくともこの弁護士さんは年間1500万を超えるキャッシュを提供してくれているのです。立派ではないですか。「素材(リーガルに関する指導、実務)+α=商品」です。「α」がなければ商品とは言えません。その「α」があって差別化商品や、オンリーワン商品となるのです。次回、1月29日は、この「α」について解説をしたいと思います。
講師紹介
瀬本 博一
米国PWU大学院でPh.D(経営学博士号)を取得。
1957年生まれ
米国系コンサルティング会社主任コンサルタントを経て
㈱CESを設立。代表取締役。
2000年に弁護士、税理士等の全国組織「NPO法人PRENET21」を設立し、
事業再生の第一人者として中小企業の競争力UPを指導。300社にのぼる会社を優良企業に成長させた実績を持つ。
近年は弁護士事務所や税理士事務所のビジネスモデル改革を指導し、収益力UPを実現。
15社の社外取締役等も務める。
著書に「御社だけのビジネスモデルを創りなさい」「CLマネジメントの時代」「事業承継の考え方と実務」他多数。経済誌「コロンブス」にて事業再生ノウハウを連載中。
ビジネスモデルの神様が伝授する「儲かるしくみ」バックナンバー
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