ご質問をいただきありがとうございます。
以下、講師からの回答をお伝えします。
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挙げていただいた行為について、フラッシュメモリー自体の窃盗罪の成立を認めるのは誤りと判断されるおそれが大きいと考えます。
まず窃盗罪の客体は「他人の財物」であり、これは他人が所有権を有し占有している有体物をいいます。フラッシュメモリーは「日頃自ら(甲)が管理していた」と問題文にある以上、その占有は甲にあると考えるように誘導されています。その結果、フラッシュメモリー自体は他人(百貨店の社長など)が占有しているという点を満たさないため、窃盗罪の客体にはならないと考えられます。また、化体されたデータ自体は有体物ではないので、同じく窃盗罪の客体とはなりません。
仮に百貨店(正確には百貨店の社長などの自然人)の間接占有をフラッシュメモリーに認めたとしても、窃盗罪の実行行為として「窃取した」、つまり、財物について意思に反する占有移転が必要です。しかし、フラッシュメモリー自体は甲の手元にあり、データをコピーしたことで財物たるフラッシュメモリーの占有移転自体があるとはいえないため、この点からも窃盗罪は成立しないと考えます。
結論として、データをコピーした行為に窃盗罪は成立しないと考えるのが一般的であるため、業務上横領罪との包括一罪にもならないと考えられます。
刑法については、行為の切り出しと罪名選択はもっとシンプルに考えていただいて大丈夫です。私も大学時代に経験したのですが、行為の切り出しと罪名選択を複雑に考えすぎることで、答案が明後日の方向に行くというリスクがあります。
刑法の論文では、個々の罪名の構成要件要素を正確に理解・記憶することと、その罪名が成立する典型的な場面を押さえて行くことで、シンプルかつ正確に処理できるようになり、それができればもう合格です。これについては慣れと反射神経みたいなところがありますが、4Sを使って修業していくことでできるようになるので、頑張ってください!