ご質問をいただきありがとうございます。
以下、講師からの回答をお伝えします。
-----
これについては、当然に無効原因とまでは認められず有効にすべきと考えます。
まず、取締役会決議を欠く新株発行は無効原因とならないとするのが判例(最判昭和36年3月31日)の立場です。
この理由として、公開会社の募集株式の発行は会社の業務執行(一般の取引行為のような経営事項)に準ずるものとして取り扱われていることから、当該募集株式の取得者を保護し、取引の安全確保に重点を置いていると説明されます(髙橋美加先生の『会社法』(弘文堂、いわゆる紅白本)319頁)。
すると、内部事情を知る取締役Dに発行したのであれば、取引安全の要請が下がるので、無効原因といっても良さそうに思えます。
しかし、発行相手がD・Eのいずれであっても、本問は取締役会決議を欠く新株発行であり、公開会社の募集株式の発行は会社の業務執行(一般の取引行為のような経営事項)に準ずるという点は同じです。
また本問のA社は公開会社であるところ(問題文冒頭に(ただし、定款に株式の譲渡制限の定めはない)とあるため)、Dの下に新株がとどまらない可能性があることはEの場合とおそらく変わりません(答案例43~44行目)。そのため、Dから事情を知らない第三者に新株が譲渡される可能性があるので、第三者の取引安全という要請はDの場合にもあり得ます。
したがって、公開会社の募集株式の発行は会社の業務執行(一般の取引行為のような経営事項)に準ずることや、A社が公開会社でありDから第三者に新株の譲渡可能性あることを理由に、Dに発行した場合でも無効原因とはならないとする方が無難です。
また、事前の発行差止請求・事後の発行無効確認の訴え以外の手段としては、Bの気持ちになって考えると、対立するCを排除したいとして、Cを役員から解任するように株主総会で求める(339条1項)ことがあり得ます。しかし本問では、BがCの解任を求めているなどの事情がなく、新株の発行に関する問題ですので、解任は問われていないと処理します。