ご質問をいただきありがとうございます。
以下、講師からの回答をお伝えします。
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1.前提として書類が会社を上位者、部長を下位者として下位者に占有が委ねられていると書くのはマズいでしょうか
挙げていただいた前提部分(上位者・下位者の占有)は出題趣旨には直接の言及がなく、法人それ自体は占有を認められないと一般的には考えられることから、記述しない方が安全と考えます。
まず、本問の採点実感には「占有の主体をA社とするなど,占有についての理解が不足しているのではないかと思われる答案もあった」とあることから、占有主体は会社ではなく新薬開発部の部長職にある者だと想定されています。
本問の問題文1・2にある、各部が独立した部屋で業務を行っていること・新薬開発部の部長が書類を管理するなどの業務に従事していたこと・書類は部長席後方にある暗証番号式の金庫で保管されていたことといった事実群から、「新薬開発部の部長職にある者の直接支配領域内に書類が存在している」と評価できるので、端的に新薬開発部の部長について占有を肯定できます。
そして、この部分で会社を占有の上位者としてしまうと、会社自体に占有を認めることを前提とする形になりますが、会社のような法人については占有を認めないのが一般的と考えられています。
すなわち占有は、財物に対する事実的支配を意味する「事実的・現実的」な概念であるところ、法人という生身の肉体を持たない存在による「観念的」な支配では事実的・現実的な支配があるとはいえません。
そのため、窃盗罪における占有は、法人という観念的存在ではなく、法人内部の代表者・管理者のような生身の肉体を持つ個々の人間が行うものといえます。
そうすると、法人である会社はそもそも占有が認められない存在なので、ここで上位者・下位者の占有を論じてしまうと、上位者たる会社に占有を認めることになり、おかしな感じになります。そのため、会社を上位者とする上位者・下位者の占有は論じない方が安全です。
2.答案では共謀の射程を共謀に基づく実行行為で書いていますが、共謀のところで書かずにこちらで書いたのはなぜでしょうか
次に共謀の射程とは、実行行為が当初の共謀に基づいて行われたのか、それとも、当初の共謀とは無関係に行われたのかという問題であり(『基本刑法Ⅰ』383頁)、当初の共謀と異なる内容の実行行為が思いがけずなされた場合に本当に②を満たすのかという問題です。
つまり、共同正犯の成立要件を①共謀・②共謀に基づく実行行為と整理する場合、共謀の射程とは、当初の共謀とは異なる実行行為がなされた場合でも、②共謀に基づく実行行為といえるかどうかを検討する議論です。
共謀の射程については、『基本刑法Ⅰ』をお持ちであれば、同書の382~384頁をご確認いただけると理解が深まります。
3.意思に反した立ち入りは窃盗であれ横領目的であれ禁止していると考えられるため、侵入について乙の共謀ありとできないでしょうか
最後に建造物侵入罪については、共謀ありと書いても試験現場では許容されると考えます。書類を持ち出す前提として、会社に立ち入ることが想定されるからです。もっとも本問では、乙は厳密には書類を持ち出すことのみを甲にお願いしている(問題文3の4~5行目)ので、この部分を重視して建造物侵入罪を除外しています。