ご質問をいただきありがとうございます。
挙げていただいたご認識は、採用しない方が安全と考えます。なぜかといいますと、実行行為性の有無と因果関係の有無はあくまで別個の問題ですので、一般論としても、実行行為性があれば通常は因果関係が認められるという芋づる式の関係ではないからです。
構成要件の客観面の検討においては、殺人罪や傷害罪のように構成要件がシンプルな犯罪については、①実行行為→②具体的な結果発生→③実行行為と具体的な結果との因果関係の順番で検討します。
実行行為性は①の問題、因果関係は①②があった後の③の問題ですので領域が異なり、①があれば芋づる式に③もあるという感じにはなりません。
本問では、実行行為性で検討した事情が因果関係でも使われていますが、これは「1つの同じ事情が2つ以上の要件や領域で当てはめられることもある」というものでして、その同じ1つの事情に対して異なる評価をすることで、2つ以上の要件や領域で当てはめ可能というものです。
そのため、不能犯においても、①実行行為性の有無、③実行行為と具体的な結果との因果関係は異なる領域として、本問の答案例のように別個に区分けして検討します。
また、実行行為性肯定→因果関係否定となるような事案としては、一般論としては、結果発生があるものの因果関係が切れる場合が想定されます。つまり、条件関係がそもそもない場合や、条件関係はあるものの第三者の介在事情の異常性・結果発生への寄与度が高く危険の現実化が認められない場合です。
ちなみに、不能犯が問題となる事案において実行行為性が肯定される場合には、不能犯を肯定ではなく、未遂犯を肯定となります。不能犯は実行行為性が認められず未遂犯にもならない場合ですので、不能犯を肯定する場合とは未遂犯にもならない場合です。
そのため、実行行為性が認められるのであれば未遂犯となるので、「実行行為性(不能犯)肯定」というよりかは、実行行為性(未遂犯)肯定と表現するのがベストです。