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115条は、109条・110条の罪において自己所有か他人所有かが問題となる場合に使う条文のため、108条で処理する乙宅では問題となりません。
まず甲宅においては、Bが勝手に入り込んでいたため、甲宅への放火は、客観面では現在建造物放火罪(108条)となります。しかし、甲乙はBを全く認識していなかったので、現在建造物についての故意がなく、38条2項から現在建造物放火罪(108条)の罪は成立しません。
そこで、Bについて認識がないことから非現住建造物の認識はあるとして、109条の罪を検討します。ここで、甲乙は甲宅を放火する認識はあるので、自己所有の認識はあるとして、109条2項の自己所有非現住建造物放火罪の故意は認められると考え、同罪に問えそうとも思えます。
しかし、甲宅には保険がかかっているので、115条により他人所有となり、他人所有非現住建造物放火罪(109条1項)の故意があるとして、最終的には108条の客観面と重なり合う他人所有非現住建造物放火罪(109条1項)を成立させます。
甲宅の処理のポイントは、客観面では現在建造物放火罪(108条)なのですが、Bについて認識がないので108条の故意がなく、重なり合う109条の他人所有or自己所有非現住建造物等放火罪を最終的に検討する点です。そこで、保険がかかっていることから115条を使い、他人所有として109条1項の罪を成立させます。
ここでは、最終的に故意との関係で109条の自己所有or他人所有が問題となるので、保険という点から115条を使い、109条1項の他人所有非現住建造物放火罪を成立させます。
これに対し乙宅では、内妻Aが乙宅を普段使いしていることから乙宅は現住建造物といえ、そのことを甲乙が認識しているので、甲宅と異なり現住建造物の故意に欠けることはなく、現在建造物放火罪(108条)を成立させることができます。
108条の罪は自己所有・他人所有を問わず、現住or現在建造物を放火して焼損した場合に成立します。そのため109条・110条の罪と異なり、他人所有・自己所有が問題とならないので、115条を使う出番はありません。したがって、108条の罪に問える乙宅においては他人所有・自己所有が問題とならないので、115条は使用しません。
そして答案例9行目では、自己所有と書くと厳密には誤りです。甲宅については保険があることを甲乙が事前に認識しており、115条から他人所有になることの認識が甲乙にあるといえるからです。そのため、他人所有非現住建造物放火罪の共謀があるとすべきです。