ご質問いただきありがとうございます。
まず本問の表見代理は、112条ではなく110条を使います。たしかに代理人であるBは死亡していますが、Bの無権代理行為(乙不動産の売買契約)自体は、「Bが存命中」になされています。そのため、Bが存命中に夫婦の日常家事代理権を基本代理権として無権代理行為をしたのではないかと考え、110条で表見代理を検討します。
さて、111条1項2号で代理人が死亡した場合には代理権は消滅するとともに代理人自体がこの世から消えるので、挙げていただいたように112条1項の状況自体はおそらく発生しないと考えます。しかし本問は、無権代理人Bが存命中に行った無権代理行為自体はあるので、後はこの行為を110条で検討した上で、最後に無権代理人と相続の解釈論で処理する流れになります。そのため、挙げていただいた状況がそもそも本問では問題となりません。Bは確かに死亡していますが、Bが無権代理行為をしたのは、Bが日常家事代理権を有している存命中の時点だからです。
本問のポイントは、Bが存命中に日常家事代理権がある状態で無権代理行為をしているので、この無権代理行為が表見代理で例外的に効果帰属するかは110条で検討するという点です。そして、110条からは効果帰属しないとなるので、最後に無権代理と相続の解釈論で相続人たるACへの責任追及の可否を論じます。
また、本人が死亡した場合には111条1項1号から代理権が消滅し、本人たる地位を相続人が承継しないとなるため、本人の相続人には責任追及できないと考えます。もちろん死亡済みの本人にも責任追及できません。しかし本問は、無権代理人Bが存命中に無権代理行為をしており、その後に本人Aが死亡するという典型的な無権代理と相続の場面であるため、112条1項は問題となりません。最後にBとAを順番に相続したCへの責任追及を論じれば足ります。
本問は事案がやや複雑なので、誰がどの時点で行為をしたかという点を注意深く追いながら、110条・112条の条文をよく読みつつ復習してみるのがおススメです。