ご質問ありがとうございます。
まず、条解の511条2項の箇所に「≒469条2項1号」とあるように、469条2項1号は511条2項と同趣旨の規定です。これらの規定は、511条1項で相殺が許される範囲よりも広い範囲をフォローする規定になっています。
511条1項は、①差押え前に取得した債権であれば相殺を対抗できるが、②差押え後に取得した債権は相殺を対抗できないとしています。すると、②から、差押え後に取得した債権であれば、常に相殺できないとも思えます。
しかしこのように考えると、相殺の期待を十分に保護できないことから、511条2項では、②について、差押え後に取得した債権であっても差押え前の原因に基づいて成立した債権であれば相殺可能としています。
つまり511条2項は、511条1項の②で相殺できないとされた差押え後の取得債権について、差押え前の原因に基づいて成立したものであれば相殺を許すとして、511条1項よりも広い範囲で相殺を認め、債務者の期待を保護しているのです。
そして、469条2項1号は、債権譲渡という場面において511条2項の差押えとパラレルに考え、対抗要件具備時より後に取得した債権であっても、具備時より前の原因に基づいて成立した債権であれば、相殺を許すとしています。
結論として、469条2項1号・511条2項は、債権譲渡や差押えというそれぞれの場面において、対抗要件具備後・差押え後に取得した債権であっても、それより前の原因に基づいて成立した債権であれば相殺を認めるとすることで、511条1項の②差押え後に取得した債権は相殺を対抗できないという点をフォローする規定になっており、この点が広く債務者の期待を保護しているといえるのです。