ご質問ありがとうございます。
これは、有利発行や不公正発行に伴う株価下落等を直接損害と評価できるのであれば、429条1項による賠償請求は可能と考えられます。
まず前提として、株主に間接損害が生じた場合には、株主代表訴訟があること等を理由に、株主は「第三者」に当たらず、429条1項を使うことはできません。すると、不公正発行等で生じた株価下落等が直接損害か間接損害かが問題となってきます。
これについては、直接損害があるとして429条1項の請求を認める裁判例と、間接損害としたうえで株主代表訴訟によるべきとする裁判例の両方が存在しており、429条1項による請求は排斥されていないという理解が可能です。
また、取締役と支配株主が一体といえるような閉鎖型の会社であれば、救済手段を株主代表訴訟に限定すると実行的な権利救済になりにくいことから、少数株主の被る間接損害については429条1項による救済を認める余地もあるとの分析もあります。
そのため一般論としては、有利発行・不公正発行に伴う株価下落等を直接損害と認定できるだけの事実関係や、少数株主の間接損害を救済する必要性を認定できる事実関係があれば、429条1項を用いることは可能だと考えられます。
しかし2-1-7では、たしかに新株の払込価格は1000円であるものの、甲社の株価は800円から1500円台まで上昇しており、株価が下落したという情報の明示がありません。また、乙社の持株比率自体は最終的に低下しますが、これに伴って直接的なダメージが乙社に生じたという事情までは読み取りにくいです(乙社の甲社買収計画に支障が出そうですが、これは企業間の駆け引きの範囲内ともいえます)。また、乙社が甲社の少数株主であって救済すべき必要性が高いともいえません(むしろ乙社は、甲社の買収を目指して既に12%ほどの株式を買収済み)。
結論として、本問の問題文の書きぶりからすれば、429条1項による請求はできないと考えるのが無難ですね。