ご質問ありがとうございます。
まず、午後4時の「履行の提供」は、Aの同時履行の抗弁権の主張との関係で、口頭の提供をしたという文脈で論じられています。
ここでは、午後4時の時点でBが分離・準備・通知をしており、これが「履行の提供」のうち口頭の提供に当たるので、Aの主張する同時履行の抗弁をつぶせるとBは主張しているのです。しかし、継続して履行の提供が必要なので、Bの主張は通りません。
これに対し、午後8時の履行の提供は、567条の危険負担を適用するに当たって、413条1項の受領遅滞が問題となる文脈で論じられています。
ここでは、受領遅滞からの危険負担を使うために、「引渡し」について履行の提供をしたときから実際に「引渡し」をするまで自己の財産と同一の注意義務を果たして物の保管を行い(413条1項)、さらに履行補助者Cに保管について帰責事由がないことから、引渡債務の履行不能に帰責事由はなく、その結果、「引渡しの債務の履行を提供した」が帰責事由なく「滅失」したとして、「買主」Aの代金支払いを認めるという流れになります。
すると、「引渡し」という占有取得において「債務の履行を提供した」かが問題となるので、これは実際に買主Aに松茸5キロを渡すような動作が必要になると考えます。その結果、実際に松茸5キロを乙倉庫で受け取る時刻である午後8時が履行の提供の基準になるのだと思います。
以上のように、10行目の午後4時の履行の提供は同時履行の抗弁権との関係で問題となるのに対し、74行目の午後8時の履行の提供は危険負担・受領遅滞における「引渡し」(買主Aの占有を取得させる)との関係で「引渡しの債務の履行を提供した」(567条2項)かが問題となり、両者の文脈が異なるために時間がズレるものと考えます。