ご質問ありがとうございます。
1.請求の客観的複数(請求権が複数ある)の場合
①単純併合
これは、同じ相手方に売買代金請求と賃料請求をする場合です。
当事者甲・乙において、まず売買契約があり、それとは別個に賃貸借契約もあり、両立する売買代金債権・賃料債権を同時攻撃の要領でまとめて甲から乙に請求する場合は、両立する別々の請求を便宜上まとめて行うので、単純併合となります。
②予備的併合
これは、売主甲が買主乙に売買代金債権を請求(主位的請求)し、売買契約が無効と判断される場合に備えて、同じく乙に目的物の返還請求(予備的請求)をする場合です。
この場合、主位的請求は売買契約が有効であることを前提にするものである一方、予備的請求は売買契約が無効であることを前提にするので、両請求は非両立です。
そこで、第1希望の主位的請求をしながら、主位的請求が通らなかった場合に備えて、第2希望でかつ第1希望と両立しない予備的請求を保険として行うのが、予備的併合となります。
③選択的併合
これは、相手方に対して所有権に基づく返還請求権と占有権に基づく返還請求権をそれぞれ行使する場合です。
この場合は、所有権か占有権かいずれかの権利に基づく返還請求が通れば原告のニーズを満たすので、2つ以上の両立する請求のうち1つが認容されればよい請求態様として、選択的併合となります。
2.請求の主観的複数(当事者が複数いる)の場合
①単純併合
これは、原告甲が、被告乙に対して代金売買請求、被告丙に対して賃料支払請求をする場合です。甲が、乙丙それぞれの相手方と売買や賃貸借を締結した場合ならば、法律上両立する複数の請求としてそれぞれを別訴提起(133条1項)し、弁論併合の職権発動(152条1項)を求めることができます。
また、これらの請求が権利義務・原因共通等といった38条の要件を満たすならば、同条の通常共同訴訟として、まとめて審理できます。例としては、数人の連帯債務者に対する支払請求があります。
②予備的併合
これは、工作物責任(民法717条)における占有者と所有者への損害賠償請求です。この場合は、占有者Aが一次的には責任を負い、占有者Aが無過失ならば所有者Bが責任を負います。
つまり、第1希望の被告A(占有者)に主位的請求をしながら、主位的請求が通らなかった場合に備えて、第2希望の被告B(所有者)に第1希望と両立しない予備的請求を保険として行うのが、当事者が複数の場合における予備的併合です。
このような当事者複数の場合の予備的併合(これを主観的予備的併合といいます)は、予備的被告の地位が不安定になること等から認められず、主観的予備的併合のような形態で訴訟がしたい場合は、41条の同時審判申出訴訟で処理されます。
③選択的併合
これは、法律上両立する複数の請求を被告AとBにそれぞれ行い、誰か1人への請求が認められれば、それ以外の者への請求をしないという形態です。主観的予備的併合と異なり、被告のAとBには主位的・予備的との順位付けはしていません。
こちらも、主観的予備的併合と同様に認められず、41条の同時審判申出訴訟で処理されると考えられます。
以上のように、単純・予備的・選択的併合は、請求が客観的複数か主観的複数かで意味合いが微妙に異なるので、それぞれの場合を区別して押さえて下さい。