ご質問をいただきありがとうございます。
以下、講師からの回答をお伝えします。
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両者は、共犯が一部実行全部責任で処罰される根拠に関する説です。
相互利用補充関係説は、行為者どうしで犯罪の一体的実現をするにあたり、各関与者が他の関与者と協力して自分たちの犯罪を遂行しようという意識の連絡のもと、実際にも重大な寄与をして構成要件を実現するという相互利用補充関係を処罰根拠とします。
他方で、因果的共犯論は、共犯者が間接的に法益侵害またはその危険を惹起した点を処罰根拠とします。
平たく言えば、共犯者間で互いに利用し合う関係性を重視するのが相互利用補充関係説、法益侵害やその危険という結果面を重視するのが因果的共犯論と考えられます。
さて、因果的共犯論の場合は、承継的共同正犯の否定説につながります。
この理由として、後行行為の因果性は遡及しないため、先行行為により構成要件該当事実の一部が惹起されたのであれば、後行行為が構成要件該当事実全体に因果性を及ぼすことはできないといえるからです。
この場合に因果的共犯論の立場から共同正犯を認めるためには、処罰の必要性という政策的理由から因果性を拡張し、承継的共同正犯の場面においては、後行行為の結果に対する因果性があれば足りると解釈するのがあり得ます。
一方で相互利用補充関係説であれば、互いに利用し合う関係があればよいので、先行行為を後行者が積極的に利用し合う関係が見いだせれば承継的共同正犯の限定肯定説につながります。
このように、承継的共同正犯の肯否に当たって、①因果性が遡及しない点を理由に否定説につながるのが因果的共犯論(この場合に承継的共同正犯を認めるためには、因果性を拡張して結果への因果性あればよいと論証する必要あり)、②相互利用補充関係が見いだせればよいので限定肯定説につなげられる相互利用補充関係説という違いが見出せます。