ご質問をいただきありがとうございます。
以下、講師からの回答をお伝えします。
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この理由は、誤振込の場合であっても、振り込まれた人は普通預金債権を取得すると考えられるからです(『刑法判例百選Ⅱ』の52事件)。すなわち、普通預金債権自体は認められるので、これが最終的な被害品たる財産上の利益になるというわけではありません。
しかし、誤振込の場合は組戻し手続を銀行が行えるため、預金についての銀行の占有には要保護性が認められます。そのため、要保護性との観点で、誤振込を受けた人はそれを告知する信義則上の義務を負い、この義務を果たさずに告知しなかった不作為について1項詐欺罪を認めます。
以上より、誤振込の場合でも普通預金債権自体は取得できることから、直ちに財産上の利益を対象とする2項詐欺罪になるわけではありません。
しかしこの場合でも、預金についての銀行の占有への要保護性から、振り込まれた人には誤振込の告知義務があり、この義務違反を不作為と構成し、引き出された現金に対する1項詐欺罪となります。