~2024年度試験日せまる(2023年11月11日)~
総論①:なぜ未修者選抜入試では小論文課題を課すのか
総論➁:2023年度東京大学法科大学院未修者入試における合格点について
総論③:2023年度入試における時間配分、および合格者の傾向について
各論に入るにあたって
第1問(大問1)の総評(未修者入試選抜の題材としての適切性について)
1.第1問 問1の読解
(1)読解入門(共通事項)
(2)問いの読み解き
(3)解説
ア.❶「あらかじめ決めたこと・決められたこと」について
イ.❷「よりよく」守られるについて
(4)第1問 問1 上位水準解答(一例)
(5)解答に関するコメント、自己採点における採点項目
2.問2の読解
(1)問いの読み解き
(2)解説
ア.ケース1(一例)
イ.ケース2(一例)
(3)第1問 問2 上位水準解答(一例)
(4)解答に関するコメント、自己採点における採点項目
3.問3の読解
(1)問いの読み解き
(2)解説
(3‐1)第1問 問3 上位水準解答(“原則的に”という点に対する反対意見)
(3‐2)第1問 問3 上位水準別解答(理由付けに対する反論例)
(4)解答に関するコメント、自己採点における採点項目
4.第2問について
(1)下線部型の要約問題・内容説明型問題の解法について
(あ)問1について
(い)問2について
(う)問3について
(2)参考:長文読解型における意見論評の解法
余談
これについては、基本的には入学者選抜の理念に基づく。すなわち、将来法曹の卵となるであろう受験生の方々が、現段階においてその素質を十分に有し、かつ東京大学を含む各法科大学院に入学する適切な人材であるかを判断するために課している訳である。
法科大学院に適切な人材とは何かというと、当然各大学では理念等において案内しているが、そのような人材であるか否かをステートメント等書類のみで測るには限界がある。そこで、ペーパーテストを用いて各受験生の実践力、具体的には①法曹になるための(法律学の専門知識は不要)知識や考え方を有しているか、➁将来法曹になってから、又は法科大学院教育でも用いる裁判例など資料を適切に読み解く能力を有しているか、これらを測るべく、各法科大学院は小論文試験を課しているのである。
東京大学の入試問題を見る限り、上記①②を測る意向は顕著である
まず①については、特に昨年度(2023年度)第1問を見るとわかりやすい。あの問題は、まさに法が制定され、かつ適用される場面とはどのような場面か、原則と例外の意識、仮に(形式的に見て)法に反する行為をしたとしても、処罰されない場合とはどのような場合かということを、皆さんの想像力を働かせて記載することを求めているものである。そしてこれは法律学習、特に刑法(構成要件該当性(Tb)の検討、Tbに該当したとしても、その行為に違法性阻却事由(Rw)等がないか)や、民法(原則と例外)等の理解へと繋がる良問である。また仮に法学部出身者であったとしても、問題を正確に理解することができれば、あとは想像力次第で解答を導くことができるという点が特徴的である。この点、2023年度中大ローの法曹ポテンシャル入試のように、政治経済や現代社会の知識を確認するなど、法学部出身者や政治経済等履修受験者が圧倒的に有利となる「知識問題」を出さないところが、さすがは東大ローである。
つぎに、➁については、いわば受験生が裁判例等資料を読み解く上で必要最低限度の日本語文章の理解力を有するかを試しているのである。(参考として、最高裁判所による「薬局距離制限事件」(薬事法訴訟違憲判決)判決文のリンクを以下に載せておきます https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/051936_hanrei.pdf )
拙著2023年度東京大学法科大学院 入試選抜結果の分析 - BEXA を参照ください。
まず、問題を開いたら全体を見通して、まずは分量を把握し、そのうえで概ね各問に費やす時間配分を予定して欲しい。
昨年度の受験生の多くはこの時間配分ができず、例えば問題文を長く読む必要がない第1問に1時間以上費やした結果、長文読解を要する第2問で時間が間に合わず途中答案となった方が多くいた。そのため、いずれかの大問について点数が極端に低く、その結果として不合格となる方が続出した(参考;途中答案の方については、開示した結果殆どが30点台後半~、ある程度書いている方でも47点程度に留まった)。
競争倍率が2倍であれば、大問それぞれ偏差値点50点程度を取れば、理論上合格する(もっとも、事前準備可能なステートメント等書類で高評価を得ていることが前提である)。だからこそ、時間配分を誤って途中答案となるのが一番勿体ない。
2023年度入試における合格者複数名(いずれも合計得点として偏差値点110点以上獲得した者)に対し、時間配分についてヒアリングしたところ、①大問1については40分以内程度、➁大問2については読解・問題文分析で30分~程度、完答まで概ね1時間程度時間を費やしている。特に大問2については、読解に時間はかかるものの、時間配分さえクリアすれば、あとは各論編第2問の解説で案内するような基本的な解き方で十分に点数を稼ぐことが可能となる問題である。また23年度入試では意見論述型の設問はなく、下線部説明型に留まるため、正解筋が概ねはっきりしている。そのため、一応の正解筋の解答を書けば、それだけで合格点(55点以上)を得ることが容易となる。
だからこそ、23年度大問2については、時間に余裕をもって読解ないし解答することができたかが、合否の分岐点となった。
逆に大問1については、特に問3が難しく、反駁を含めて適切に解答をすることができた合格者は少なかった。しかし、皆が書けたことが想定される問1で点数を落とさず、問2においては設問や注記指示に基づき、ある程度適切に回答した方は、問3については若干不十分な内容であったとしても、少なくとも55点程度を得ることができていた。
なお、問1から問3について、設問や注記を適切に把握し、その問いに答えられていた受験生については、いずれも偏差値60点程度を得ていることから、いかに受験生においても問いを正確に把握できる人が少なかったことがわかる。
逆に言えば、問いを正確に把握し、聞かれている内容に答えることができていれば、少なくともその分の得点は得られ、他の受験生と差をつけることができるということである。少しでも得点を挙げるためにも、この連載を読んで下さっている受験生は、必ず問いを正確に把握し、それに対して答えるという姿勢を貫き通して欲しい。
そして、試験時間終了の合図が鳴るまでは決して諦めず、最善の努力をしてほしい。
※問題文については、著作権法上の問題により、ここで転載をすることはできません。東京大学本郷キャンパス内の法文2号館地下にある「文学部複写センター」にて購入下さい。
☞東京大学文学部複写センターの所在地等:https://www.j.u-tokyo.ac.jp/admission/wp-content/uploads/sites/4/2017/09/20140318mkakomon.pdf
※大問2については、二重の著作権問題(問題作成者である東大側と問題文著者)が生じます。問題文の重要な箇所を引用等することが必要不可欠ですが、他方でそれについては著作権問題が生じます。それをせず不特定多数の方に対して具体的に解説し、解答をすることは不可能です。そのため、具体的な解説・解答については第1問に留まる旨承知ください。
その代わりに、第2問については、小論文の普遍的なルール(解法)を案内したうえで、どのように解けばよいかといった案内をしております。ぜひその手順を参考に、課題文を読み解き、かつ自己採点をしていただければと思います。
総論編でお伝えした通りである。2023年度入試については、法を法科大学院にて学ぶ上で必要となる考え方を身に着けているかを受験生に問うものであり、各受験生が法曹としての素養・将来性を有するか(いわゆる「法曹ポテンシャル」というべきか)を確かめる非常に良い問題であった。同年度の私大ロー未修者選抜入試においては、あきらかに法学部出身者、または高校時代に現代社会や政治経済科目を学修したことのある者に有利となるような知識問題が出題されていたが、それとは一線を画す問題であり、さすが東京大学という想いである。(個人的には中高生に対する法教育の素材としてぜひ参考にしたいくらいに、素晴らしい問題であると考えている)。
・・・これを延々と述べると、東大ローの回し者かと思われてしまうので、さっそく本題に入る。
まず文章を分解する。慶應義塾法科大学院ステートメント講座や、私のゼミを受講している方であればお馴染みの、設問の正確な読み解きから始めよう。
文字数の都合上、厚くは解説できないため、端的に要点のみ案内する。
小論文の設問を正確に把握し、得点を得るために必ず守っていただきたいのは
⓪日本語を正確に読む(いわゆる「俺様解釈」等、書いていない内容を勝手に創出しない)ことを前提とし、
①設問の抽象的・漠然不明確な表現、形容詞表現(=解釈が必要な文言)を抽出
➁指示語があれば、それが何を指すのか正確に読み解く、
である。
これは第2問のような長文読解でも同じである。また英文読解でも同じである(いわゆる主張立証責任「Burden of Proof」のこと)
要は①抽象的・漠然不明確な表現がされている場合、それがどのようなニュアンスで用いられているのか、我々は全くわからない。形容詞表現も同じで、たとえば「伊藤健先生は、かっこいい」といわれても、そもそも伊藤健先生を知らない方にとっては、どうしてかっこいいのかわからないわけである。だからこそ、我々は読者等を説得するために、自分の主張については、きちんと理由付けをする必要がある。これこそが立証責任であり、要約問題や下線部読解型の問題で求められる最重要事項である
(脱線してしまうため詳細は第2問の解説に譲るが、要は要約問題のテクニックもこれと同様で、基本的には⓪~➁をきちんと把握したうえで、最後に各文が一連の文章として繋がるよう適切な接続詞を用いて文章を結びつけるだけである)
漠然不明確なキーワードをみてみよう。
今回用いられている①漠然不明確な表現・形容詞表現として、
❶「あらかじめ決めたこと・決まっていたこと」とはなにか(不明確な表現)
❷「よりよく」(形容詞表現)守られる場合とは、どんなかという語句が挙げられる。
そしてこれを把握したうえで、「どのような場合」かを300字以内で述べるものである。
❶については、読み手にとって「あらかじめ決めたことって、何??抽象的でよくわからない。」となるだろう。だからこそこれにあてはまる事項は何なのか具体的に想起する必要がある。
また、「よりよく」(英語でいうbetter)という、通常以上により効果的な場合とはどのような場合なのか、それを想起する必要がある。
以上が、問1を解答するために、受験生が読み解かなければならない事項である。これらの必須回答項目に対して、適切に答えられていないのであれば、点数は期待できない。
なお、上記のとおり講座やゼミ等と同様に藤澤が解説したが、この問題に限っては東京大学側も親切に、きちんと注意書きを記載し受験生が適切に回答できるよう一部誘導している。つまり、解答の注意事項として「❶の内容やその決め方、かかわった主体などの諸要素に留意し、適切な具体例を挙げる」ことを指示している。
このことからもわかるとおり、何もステートメント講座やゼミで話している内容は藤澤の独自説ではなく、出題者側(なにも東京大学に限られず、いずれの法科大学院でも同様)も受験生に求めている事項であるといえよう。
実際に分析をしてみよう
❶を具体的に指摘するにあたっては、主語「あらかじめ決めたこと」を想起することは勿論のこと、それと密接に関係する述語「守られる」というキーワードに気付けたかが高得点のカギとなる。
「守られる」(=受動態)という語句からして、それはあくまでも一個人だけの問題ではなく、決めた主体(集団または代表者)と、守られる客体(集団の中の個々人)という、いわゆる一個人の意思決定~実行だけの問題に留まらないケースを指摘する必要がある。つまり、「決めたことを守る」であれば、“自分で決めたことを自分で守る”という意味になるが、「決めたことが~守られる」であるので、“決めたことが遵守される”場合を書くことが求められているということである。
そうなると、「あらかじめ決めたこと」とは、組織等集団(ないしその代表者ら)による意思決定がなされた事項であることがわかる。集団ないし代表者が複数であれば、合議により決定されることとなる。(※念のため記載するが、それは、古代~中世期に存在した、いわゆる神託された王が決めたものであっても該当する)。
以上、これら「決め方、かかわった主体などの諸要素に留意し」て回答する必要がある
そして具体例としては、法律、校則、(組織内の)規則など、要は集団ないし組織等で決定された「取り決め(規律)・ルール」に関するものであれば、「あらかじめ決めたこと・決まっていたこと」の適切な具体例となろう。
これも回答は多々存在する。つまり、通常の場合と比べ「よりよく」守られる場合として
(あ)所属集団全員の利益となる事項、(い)総意による(集団の真意が反映された)決定事項、(う)権威者による権力(支配力)が強く遵守せざるを得ないケース、(え)(破ったら全員死刑などというように)違反した場合の不利益(応報)が存在するだけでなく、ルールを破った場合の応報の程度がより高く、所属集団に対する萎縮効果を与えるもの(=破ったことによる不利益が、破る利益を上回るということ)
が一例として考えられよう。
問いはあくまでも「あらかじめ決めたこと~がよりよく守られるのはどのような場合」かというものである。問いに正確に答えるためには、「あらかじめ~場合とは、〇〇という場合を指す」等の指摘は必要となる。出題者の問いには正確に答えよう。
そのうえで、解答において結論まで導く書き方は(あ)帰納法(い)演繹法によるいずれかの解答が考えられる。上記解答例は(あ)帰納法的見地で回答しているが、もちろん文頭に結論「あらかじめ~場合とは、〇〇という場合を指す」ということを指摘したうえで、具体的内容、理由付け等をする演繹的な解答も可能である。
次に、解答にあたっては、東大ロー側が注記しているとおり、解答に当たってはきちんと“「あらかじめ決めたこと・決まっていたこと」の内容やその決め方、関わった主体などの諸要素に留意”する必要がある。あくまでも“留意”と記載されており、“明記”とは書いていないため、解答の際にわざわざその諸要素までも明示する必要はないが、具体的な事例を想起して書かなければ適切に解答を導くことができないことはいうまでもない。
他方で“適切な具体例を挙げなさい”と書いてある。“具体例を挙げなさい”と指示されており、解答において具体例を挙げていない場合や適切なものを指摘していない場合は、問いに答えていないこととなり、点数は期待できない。
上記解答例のように、ご自身で考えた具体例を何らか挙げていただく必要がある。
<採点項目>
❶「あらかじめ決めたこと・決められたこと」について、適切な具体例を挙げている
❷通常のケースと比較し、規則等が「より」守られる場合とはどんな場合か指摘できている
❸解答にあたっては、注記(留意事項)を考慮したうえで、導くことができている
❹(形式的要素として)、誤字脱字や適切な日本語を用いていること
再現答案を複数確認する限り、採点項目❶~❹のすべての事項について適切に記載できていれば、本問についてはA評価となろう。
「あらかじめ決まっていたこと」とは何かについては、問1で既に説明している。そのため、本項では説明を割愛する。
問2を読み解くと、出題者は受験生に対し
①あらかじめ~を「破っても構わない場合」とは、どんな場面かである。それに加えて問いでは
②(破っても構わないのは)なぜか
③予想される反対意見とはなにかを解答で指摘することを求めている。
端的に言えば、あらかじめ決まっていたことを守るのが原則であるが、それを破っても構わない例外とはどのような場合か、ということである。原則と例外という構造をきちんと想起することができたかが、この問題を解答するうえでのカギとなる。逆に言えば、この構造をきちんと想起し、かつ原則例外関係にある事実を記載できなければ、点数は期待できないこととなる。
これについてはイメージができてしまえば、あとは書きやすい。
まず、集団において法や規則が(あらかじめ)制定されていた場合、その集団に属する限りにおいて、守る必要があるのが原則である。つまり、各構成員は、その組織や場所に属したタイミングで、各構成員はその規則に黙示に合意したこととなるから、それを守ることが原則ということである。
しかし、原則というなら例外もあるはずである。では、その例外とはなにか、それを想起できるかが、本問を解く上での重要な視点となる。
以下、数例記載する。
たとえば、私立学校において管理権限を有する理事長や教員らの合議により「教師は学生に対し、ナイフを用いて自由に傷害(体罰)を加えてもよい」という校則を作ったとする。
たしかに、上記は管理権者が制定した規則であり、かつ管理者は規則制定権を有する。また、その集団に属する限り、原則として守ることを要する。
しかし、ナイフで人を傷害する行為は、そもそも社会倫理規範に反する反社会的行為である。我々は自由だといっても、それは当然の前提として他者危害禁止原則、すなわち「他人に危害を及ぼさない限り」という留保が付いている(※いわゆる「自由主義」。自分の生命・身体・財産に関して、他人に危害を及ぼさない限り、たとえその決定が当人にとって不利益なことでも、自己決定の権限をもつとする考え)。
他にもわかりやすい例をだすのであれば、「この部活内においては、毎日下級生は上級生のために覚せい剤を調達するものとする」とするものである。覚せい剤を所持ないし使用することは原則として禁止されており、かつその使用・所持は社会倫理規範(公序良俗)に反する行為である。
このような、いわゆる公序良俗に反する規定というものは、仮に制定したとしても効力は無効となるのはいうまでもない。違法な行為をするために規則を作る、それでは法を制定する趣旨から逸脱しており、本末転倒な結果を招く。
そのような社会倫理規範に反することが客観的に認められる場合については、人はむしろ自身の自由や権利を守るためにも、必要最小限の行動をとることで例外的に破ることは許容されることとなる。
だとしても、権力者としては反論として「集団に属する限りにおいて、組織内の取り決めは集団をも拘束する」として反論がなされることもあろう。集団であったとしてもその集団内では規則を制定することは認められるという趣旨の反論である。
しかし、だからといって、当然であるが公序良俗に反する内容の規則であっても認められてしまえば、それは社会規範(上位規範、例として刑法)と矛盾することとなる。つまり、社会全体の規範(=今回でいえば刑法)として禁止される違法行為が、なぜか下位規範(=今回でいえば校則)で認められてしまうという背理が生じてしまう。
以上をまとめると、下記のとおりとなる。
すなわち、たしかに組織や団体は管理権を有するから、規則を制定することができる。しかし、(規則を制定できるからと言って)どのような内容であっても無限定に認められるわけではない。すなわち、社会倫理規範として絶対に守らなければならない、いわゆる強硬規範までをも変えることはできないということである。
※この解説内容につき更に理解したい方は、巷の『法学入門』等の書籍で案内されている「憲法と法律の関係」、「強硬規範と任意規範の違い」について学んでみるとよいでしょう。
他にも、たとえば警察等公共の安全を担う国家権力による救済がなされ難い非常時において、自分自身の生命や身体等を守るために行われる行為(いわゆる正当防衛や緊急避難)が考えられよう。
たとえば、問1のように人に傷害を加えてはいけないという校則がある中で、A君があなたに、ナイフで加害行為に及んできたとする。そんなあなたが「傷つけてはいけないという校則があるから、何も抵抗できない」としてしまっては、最悪の場合、自分自身の生命等を失いかねない。それではさすがに、社会的に見ても相当性に欠けるといえよう。
つまり、社会慣習や条理から見て、さすがに傷つけてもよい例外的なケースがあるはずである。しかし、あくまでも「例外的」であるのだから、事例は限定されてくる。
では、どのような場合に限って認められるであろうか
上記の正当防衛・緊急避難のケースであれば、たとえば❶生命や身体の自由など、自分の権利を守るための行為であること、❷防衛行為により相手に生じさせる結果が、相手の侵害行為により生じるだろう危険結果を上回らない程度の行為であること、❸他に逃げるなどの手段がないことが客観的に認められることなど、❶~❸を総合したものや、❶のケースなどを具体的に規範化し、どのような場合であれば例外として認められるか定めることが必要となる。原則でなく“例外”なのだから、例外が適用される場合は限定しなくてはならないということである。
なお、刑法を学んだことのある方にとっては正当防衛の要件などが自然と出てくるであろう。しかし、今回はあくまでも未修者選抜入試であり、刑法の知識を問うものではない。そのため、別に正当防衛と緊急避難の要件が混じったからバツとなるというものではなく、きちんと理由付けをしたうえで、例外が認められるだろう相当な手段を指摘できていれば、自ずと正解となる。他方で、我が国の刑法における要件を正確に指摘できたからと言っても、「正当防衛として刑法に規定されているから」という理由付け以外の理由が指摘できなければ、点数は期待できない。正当防衛になるから破っても構わない場合として認められるという説明では、適切に説明できたといえず、点数を期待できないであるということである。
正当防衛で書くのであれば、その背景や根底にある考え方をきちんと理解しているかが、カギとなる
つまり、「正当防衛として法定されているから」では、正当防衛が法定の違法性阻却事由(ないし責任阻却事由)として存在することを前提として記載している。では正当防衛行為が違法性(ないし責任性)を阻却するという明文がなかったら、破っても構わない場合にあたるのか・否かは不明となってしまう。また、問題文では我が国の刑法が適用される場面などという前提もない。だからこそ、「法定されているから」では説明になっていないということである。
正当防衛等の法律知識を用いて説明するのであれば、きちんと「なぜその行為をしても罰せられない」場合に当たるのか、すなわちどうして破っても構わない場合であるのかきちんと説明する必要がある。
いずれにせよ、きちんと筋道立てて、説明することを心がけて頂きたい。
問いはあくまでも「~破っても構わない場合とすれば、それはどのような場合か」というものである。そして注記において、適切な具体例を挙げなさいと書いてある。だからこそ、これらの指示に基づき、適切に回答する必要がある。
すなわち、この問いに答えていない場合については、聞かれていることに適切に解答できていないこととなるから、得点は期待できない。
ステートメント講座やゼミ等でも申し上げているとおり、出題者の問いを正確に把握し、適切に回答するという姿勢を忘れないで頂きたい。
<採点項目>
❶「あらかじめ決めたこと~を破っても構わない場合」の適切な具体例を挙げている
❷「破っても構わない場合」の例として挙げたものは、守るという原則と例外関係にあるか。
❸なぜその具体例が「破っても構わない場合」にあたるのか、理由付けをしている
❹破っても構わないという主張に対し、相手から予想される反対意見を記載できている
➎上記❹で挙げられた反対意見に対して、反駁をしている
(但し❹❺は450字制限との関係で端的にする必要あり。あくまでもメインは❶~❸)
❻(形式的要素として)、誤字脱字がなく、かつ適切な日本語を用いていること
問3を読み解くと、出題者は受験生に対し
①あらかじめ~を「原則的に守らないといけないのはなぜか」、理由の説明を求めている。
そして解答作成にあたっては、注記によると
②適切な具体例を挙げる
③予想される反対意見を挙げる
必要がある。
これらの指示を守ったうえで、回答する必要がある。
問2と異なり、今度は原則について説明してくださいというものである。どうしてこのような原則を守る必要があるのかということの説明である。
このような問題を考えるにあたっては、まずは5W1Hについて意識すると想起しやすい。
❶誰が守るのか:当該集団に属する人々ないし社会的実在(例:法人)
❷❸いつ・どこで守るのか:集団に属している時点・場所
❹なにを守るのか(対象・問われている事項):原則を守るということ
❺どのように守るのか(手段):違反行為をしない
❻なぜ守るのか(必要性): 個人等の重要な権利利益を保護するため(以下解説)
❻に示した通り、なぜ守ることが原則なのかというと、集団社会における規律とは、あくまでも集団の秩序維持・紛争解決をその趣旨とする。自由主義の考えからしても、我々が特定のコミュニティの中で生活するためには、全て自由に行動できるわけではない。問2の解説でも述べたが、簡単に言うと規則(ルール)というものを制定することにより、秩序が維持され、かつ紛争を解決することができる。そしてこれにより、我々は個人の権利や自由を最大限行使することが可能となるわけである。
たとえば我々の社会に「刑法」という規律がなければ、犯罪(罪を犯す)という概念が存在しなくなる。そうすると、今我々が犯罪であるから抑制している行為や暴力が許されてしまう。そのような世界では、個人の自由や権利は、暴力という手段により抗うことができず、権利を主張することができなくなってしまう。だからこそ、個人に自由や権利を最大限主張できるように規律が制定される。そのうえで、その社会の実在として行動する我々は、原則としてその規律に従うことで、ひいては我々個人の自由や権利が保護されることになる。
したがって、問2で示したような例外を除いては、我々は原則として集団やその代表者らが「予め決めたこと・決まっていたことを原則的に守らないといけない」というわけである。
余談であるが、国(法務省等)や各弁護士会では近年、法教育の必要性を唱え、また小中学校でも適切に教育がなされるよう、啓もう活動を行っている。そして法教育の指導教材を作成している。しかし、教える側がそもそも本質を理解していないため、結局は子供に対しきちんと理由を説明せず、価値観の押し付けという事態が生じてしまっていることは否めない。現に公立小中学校等では、いまだに「集団の中で原則を守ることはよいこと」や「社会に出るために必要なこと」といった半ば道徳的価値観の押し付けのような教育をしていることもある。そのような、いわば法教育が浸透していない現状を見て、東大ローの出題者としては、受験生が「よい・悪い」という価値観で物事を強権的に判断するのではなく、きちんと論理的に説明できるかを、筆記試験で確かめたということであろう。
問いはあくまでも、“予め決めたこと・決まっていたことを、原則的に守らないといけないのはなぜか”というものである。まずは“なぜか”という問いに対する答え、すなわち理由付けをきちんと明記する必要がある。
そのうえで、“適切な具体例を挙げ”、また“予想される反対意見も挙げてそれに対して反駁しなさい”との注記がされている。だからこそ、これらの指示に基づき、適切に回答する必要がある。
すなわち、これらの指示に従っていない場合については、聞かれていることに適切に解答できていないこととなるから、高得点は期待できない。
ステートメント講座やゼミ等でも申し上げているとおり、出題者の問いや日本語を正確に把握し、適切に回答するという姿勢を忘れないで頂きたい。
<採点項目>
❶「あらかじめ決めたこと~を原則的に守らないといけない」理由を挙げている
❷「あらかじめ決めたこと~を原則的に守らないといけない」具体例が挙げられている。
❸(あ)理由に対する反対意見、または、(い)“原則的に守らなければならない”点に対する反対意見が挙げられている
❹上記❸で挙げられた反対意見に対して、反駁をしている
❺(形式的要素として)、誤字脱字がなく、かつ適切な日本語を用いている
※上記案内のとおり、著作権法上の問題により、引用をすることができません。そのため、文章を引用しないうえでの最大限の解法を以下案内します。
下線部型の要約問題・内容説明型問題の解法は、
①下線部に指示語があれば、それが具体的に何を示すかを正確に把握する(配点1)。
そのうえで、
②解釈を要するような漠然不明確な表現・比喩表現などについては、それが曖昧であるためにそのまま用いては説明とならないため、文中においてどのような意味で用いられているのかを探す(配点2)。
③筆者が自らの意見や見解を主張したものについては、主張責任が生じているため、どうしてそのようなことがいえるかという根拠部分を探す(配点3)。
④接続詞などを適切に用いることにより、各文を適切な論理関係で繋げたうえで、指定文字数以内に説明する(配点4)。
これらの過程で考え、文章を作成することが解答のプロセスとなる。これができるかで勝負が決まる。
(あ)問1について
問1の下線部の箇所については漠然不明確な表現が存在する(“危機”)。だからこそ、この語句について、筆者はどのような意味で用いたのか、説明する必要がある。
星の王子様が直面した危機とは、どのようなものか、そこをまずは探してみよう。
すると文頭から、星の王子様について例示され、下線部の前の段落において“危機”について話題に出され、しかもまとめられている。その箇所に気づくことができるか否かが勝負の分かれ目となったであろう。
恐らくであるが、時間配分が適切であり、かつこの問題を焦らずに解くことができていれば、どの受験生も問1については得点できたであろう。それくらいに基本的な問題であった。
だからこそ、まずは問題を開いたら全体を見て、大まかに時間配分を予定して欲しい。
(い)問2について
解法に記載した通りである。まずは①“これらの事実”が何を指すのか適切に把握することから始まる。
「これら(複数形)」の事実と記載されていることから、複数の事実を指すことがわかる。そのうえで、「これ」という指示語は、原則としてその前の文の語句を指すが、その指す前文を見ると「これら」という文言がある。そうすると、その前に答えがあることとなるが、段落が分かれてしまっている。そうすると、その前の段落に挙げられている複数の事実が“これらの事実”が指すものとなる。
つぎに、「助けになりません」という筆者の主張が突然でてきている。
③主張をしたのであれば、それを証明する責任が生じることとなる。つまり、“なぜか”や、“どうしてか”(How & Why)ということを、読者に向けて説明する必要が生じている。
これについては、本文に限ってはすぐ近くに説明されており、それをまとめればよい。
なお下線部分が段落の文頭や文末ではなく、段落文中にある場合、下線部の後の文章も下線部分と何らかの関連性を有していることとなる。このような場合においては、少なくとも下線部の後の文も、下線部分を解く上でのヒントとなることから、解く際には意識するとよい。
(う)問3について
問2と解法は同じである。
「愛着は~寄せられるものなのです」という、主張ないし結論が述べられている。すなわち主張責任が生じているから、きちんと理由を説明する必要がある。
しかし今回は結論部分に位置していることからすると、これまでの文章で既にきちんとその理由付けがされているということが読み取れる。
つまり、今回の文章の結語として「愛着は~寄せられるものなのです」と主張していることから、これがどういうことなのか把握するためには、結論に至る過程や文章の内容をきちんと理解していることが不可欠となる。
つぎに、下線部の一文前において「この」という指示語が用いられている。「この」が何を指すか、問2同様に正確にたどることができるかが、「愛着の価値」という言葉を理解するうえで必要となる。そして、「愛着」についてどの段落から展開されているか、そしてどの段落から「愛着」に関する筆者の意見主張が展開されているか、きちんと把握しよう。
そのうえで、設問指示「それと対立する主張」とあることから、対立主張としてどのようなものがあったかを問題文より探し、対比しつつ記載することが求められる。
本年度では課されなかったが、長文読解型における意見論評の解法の基礎を案内する。
まず、「あなたの意見を述べる」意見論評型の問題については、①前提として問いをきちんと要約して、何が問われているかを正確に把握することが必要不可欠である。
ここを間違えると、単なる課題文無視の作文となり、点数が期待できない。
そのうえで、②(その前提が正確にできることを条件とし、)つぎにその前提に含まれる問題・課題について、端的に自分の主張を述べる。③可能であれば、前提に含まれる問題や課題の不合理な点を指摘し、主張に至る理由付け(一般的理由)を述べる。④その主張を根拠づける具体的事実の適示をし、⑤その事実からこのようなことがいえるから(評価)、⑥質問に対する結論という過程を踏むこととなる。
これが意見論評型の基本的な解法である。問題を解くことを通じて、ぜひ習得して欲しい。
さて、これを見たとき、私の講座を受講した方や、ステートメントをきちんと作成した方は、すぐに「あれ?藤澤が教えているステートメントの作成方法と同じじゃん・・」と思うであろう。そう、解き方は同じである。
法科大学院未修者選抜入試において小論文課題を課す趣旨は、①将来法曹となった際や法科大学院入学後に、皆さんは膨大な量の文献や、長文からなる判例を読み解くこととなること。だからこそ、その基礎力を有する人材であるか入学前段階に確認する点にある。そして、②皆さんは将来法曹等になった際には、裁判例や文献を参照ないし批判したうえで、自分の考えを述べ、妥当な結論を導く必要があるから、その基礎力を有しているのかを確認するという点も同時に存在する。
言うなれば、皆さんが対象の法科大学院に入学するだけの、ひいては将来法曹としての素養を有しているか確認するために、試験等を課しているのである。そしてそれは、ステートメント課題であっても、小論文課題であっても変わらない。(法律論述式試験についても、それに「法律知識」が加わる以外は、問われる事項は変わらない)。
このような解答の基礎を正確に、かつ落ち着いて学ぶ機会は、入学前しかない。それくらいに、入学後などは法律知識を習得するだけで精一杯かと思われる。だからこそ、私は、法律を学ぶ上で、論理的かつ説得的な文章を作成するために、ステートメント講座を実施し、そこで法律論述式試験や小論文の基礎力を身に着けていただいている訳である。
ステートメント作成で文章力・課題文の正確な読解力を学んだあとは、解法は全て共通しているのであるから、あとはそこで学んだ解答プロセスを思い出しながら小論文の問題を解く、これに尽きる。
ステートメント作成で学んだ基礎を、小論文等解答手段に発展させ、有効かつ効率的に活用願いたい。
以上
(2023年10月29日修正原稿版)
2023年11月1日 藤澤たてひと
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