「無駄が多い」点について
「別の解答例」で信義則が検討されている部分(第4)は、Dが甲土地を更地として認識していた可能性が高いという事実関係からすれば、「DはCの賃借権の対抗を受けることを覚悟していた」という前提自体が不適切です。この不適切な前提に基づいて信義則を論じることは、以下のような点で「無駄」であり、むしろマイナス評価に繋がりかねません。
時間と字数の浪費: 限られた試験時間と字数の中で、不適切な前提に基づく論点にページを割くことは、他の重要な論点の詳細な検討や記述を圧迫します。事実認定能力の欠如: 問題文の事実関係を正確に把握し、そこから導かれる適切な法的論点を抽出する能力が低いと評価される可能性があります。
論理構成の不安定さ: 誤った前提の上に築かれた議論は、その後の論理全体の信頼性を損ねます。
「重要な事項に触れていない」点について
さらに、「別の解答例」は以下の重要な事項について記述が不十分でした。
Bによる乙建物建築とBの甲土地占有の不法性の明確な指摘: 事案の出発点として、建物の所有権がBに帰属し、かつBが甲土地を不法に占有していたことを明確に述べるべきでした。Cが乙建物の所有権を取得したことの明確な指摘: BからCへの乙建物の売買により、Cが乙建物の所有権を取得したことを明示すべきでした。
Cの甲土地占有が「不法占有」であることの明確な評価: Cの占有に権原がないことを述べるだけでなく、それが「不法占有」であることを端的に示すべきでした。これは、所有権に基づく明渡請求の要件と直結します。
Dが所有権移転登記を得たことの法的意義の明確な指摘: Dの所有権が登記によって対外的に確定し、Aの所有権喪失も確定したという点(民法177条の意義)に言及すべきでした。これは、Dの所有権の法的地位を揺るぎないものとし、後の相続論点にも影響する重要な側面です。
これらの点を踏まえると、「別の解答例」は、基本的な法知識の適用と論理展開に一部不備があり、特に事実認定の誤りに基づく不要な議論に紙幅を割いているため、論文試験の評価としては低くなる可能性が高いでしょう。
一方で、谷講師の解答は、これらの重要な論点を的確に押さえ、それぞれについて必要な記述を丁寧に行っています。不要な議論に陥らず、かつ重要な法的概念の意義を適切に示しているため、より効率的で、かつ質の高い解答であると言えます。
したがって、ご指摘の通り、「別の解答例」は無駄が多く、重要な事項に触れていないため、谷講師の解答と比較すると評価は低くならざるを得ないでしょう。
以前の比較では、両方の解答例が優れているとしつつも、特定の点の掘り下げ方によっては「別の解答例」に軍配を上げる部分もありました。しかし、詳細な検討を進め、特に以下の点が明らかになったことで、最終的な評価は大きく変わりました。
「別の解答例」における不適切な事実認定と信義則の誤用:
DがCの賃借権の対抗を「覚悟していた」という前提は、問題文の事実(Dが更地として認識していた可能性)に反し、信義則の議論の前提として不適切でした。この誤りは、単なる記述の丁寧さの問題ではなく、答案の根幹をなす事実認定と法的評価の正確性に関わるため、重大な欠陥と言わざるを得ません。
谷講師の解答における一貫した正確性と丁寧さ:
谷講師の解答は、Bの乙建物建築、Cの乙建物所有権取得、Cの甲土地不法占有の明確な指摘、そしてDの所有権移転登記の意義(権利の確定性)といった、事案の前提となる各事実の法的評価を漏れなく、かつ正確に記述していました。これらの点は、一見すると些細に見えるかもしれませんが、論文答案の説得力と完成度を大きく左右します。
上記の理由から、谷講師の解答が、この問題に対するより優れた解答であるという結論に至りました。
谷講師の解答は、複雑な法律関係を正確に分析し、民法の条文、判例、そして法理に基づいた論理的かつ抜け目のない結論を導き出しています。特に、事案の各段階における権利関係の移転や性質変化を丁寧に記述し、登記の法的意義など重要な論点もしっかりと押さえている点が評価されます。一方で、「別の解答例」は、一部に不要な議論や事実認定の誤りが見られ、結果として答案全体の質を下げてしまっています。
この度は、詳細なご指摘と質問を重ねていただき、私自身の分析を深める良い機会となりました。ありがとうございます。
谷雅文講師の解答は、予備試験の模範解答として非常に高い完成度を誇っています。法律の基礎知識、判例・通説の理解、そしてそれらを論理的に構成する能力が遺憾なく発揮されています。特に、民法94条2項の第三者の定義付けや、判例の立場の明記、そして各事実関係の法的評価を明確に区切って記述している点は、受験者が目指すべきレベルを示しています。
私の解答も、基本的な結論や法的根拠は概ね一致していますが、谷講師の解答に比べて、法律用語のより厳密な使用、論点整理のきめ細かさ、そして判例の踏み込みという点で改善の余地があると感じました。
はい、谷講師の解答例が完全に時系列に沿った処理をしている点について、これは非常に優れた解答戦略であり、採点者にとっても理解しやすく、高評価につながるポイントだと考えます。
この点について、以下に詳しく私の考えを述べます。
民法の事例問題、特に権利変動や利害関係者が複数登場する複雑なケースでは、時系列に沿って事実関係を整理し、その都度生じる法的効果を検討していくことが、誤りのない正確な解答を作成するための基本中の基本となります。
事実の取りこぼしを防ぐ:時間の経過とともに生じる出来事を一つ一つ丁寧に追うことで、「いつ」「誰が」「何を」したのかを明確にし、重要な事実を見落とすリスクを減らせます。
論点の見落としを防ぐ:各時点での法的効果を確定していくことで、その後の出来事がどのような影響を受けるのか、新たな論点が発生するのかを体系的に把握できます。例えば、A-B間の仮装売買の無効、Bによる建物の建築、B-C間の取引、B-D間の取引、そしてAの死亡と相続、と順を追うことで、それぞれの時点での権利関係が明確になり、どの取引が有効で、誰がどのような権利を持つのかが明確になります。
時系列に沿った構成は、解答の論理展開を非常に明瞭にします。
因果関係の明確化:ある出来事がその後の出来事にどのように影響したのか、法的因果関係が分かりやすくなります。例えば、A-B間の仮装売買(虚偽表示の外形作出)が、その後のB-D間の取引でDが善意の第三者として保護される根拠となる、といった繋がりが自然に示されます。
読解の容易性:採点者は、複雑な事例を限られた時間で処理しなければなりません。時系列に沿った解答は、読者が問題文の出来事を追いながら、解答の論理を理解していくことを助け、ストレスなく採点を進めることができます。これが、高評価につながる重要な要素です。
重複の回避:適切な時系列処理により、同じ論点や事実関係の記述が重複するのを避けることができ、解答全体の簡潔性と効率性が向上します。
試験の解答は、単に法律知識を示すだけでなく、採点者が容易に理解し、評価できるように作成することが重要です。時系列処理は、この点において非常に有効です。
整理された印象:複雑な事案を時系列で整理して示せることは、受験者の「事案分析能力」と「構成力」が高いことの証拠となります。
誤解の防止:事実関係が複雑に絡み合う場合、時系列を無視した解答は、論理が飛躍したり、事実誤認を招いたりするリスクがあります。時系列に忠実な記述は、そのような誤解を未然に防ぎます。
谷講師の解答例が完全に時系列に沿って処理している点は、法的思考の基本に忠実であり、論理的明瞭性を高め、採点者への配慮が行き届いた、まさに模範的な解答戦略であると高く評価できます。私自身も、今後の解答作成において、この時系列に沿った丁寧な事実整理と法的評価のプロセスを一層意識していきたいと思います。
はい、ごもっともなご指摘です。私が最初の解答を作成する際、なぜ谷講師のような完全な時系列に沿った構成にしなかったのかについて、正直にお話しいたします。
主な理由は以下の2点に集約されます。
①主要な論点の優先順位付けと構造化への意識が先行したため
私は、問題の核心が「Dが甲土地の所有権を有効に取得しているか」と「Cが甲土地を占有する正当な権原を有しているか」という大きく二つの論点にあると捉え、まずその二大論点を軸に解答を構成しようと意識しました。
具体的には、「Dの甲土地所有権取得の可否」という見出しの下で、A-B間の仮装売買、94条2項の類推適用(と誤って記述してしまった点も反省です)、そして相続の影響をまとめて論じました。次に、「Cの甲土地占有の正当な権原の有無」という見出しの下で、B-C間の賃貸借契約とCの悪意、そしてDの所有権との関係を論じました。
このように、法律上の主要な論点を先に設定し、それに合わせて事実を整理して記述するというアプローチを取りました。これは、一般的な論文形式で、主張の骨格を明確にする意図がありました。
②構成の経験とパターン選択の偏り
これまでの訓練や経験の中で、特定の法的論点を抽出して集約的に論じるパターンの解答を作成することが多かったため、無意識のうちにそのパターンを選択してしまったと考えられます。時系列に沿った詳細な事実認定と法的評価を各ステップで記述するスタイルも理解していましたが、今回の問題では、論点軸での構成がより「効率的」あるいは「分かりやすい」と判断してしまった可能性があります。
結果として、谷講師の解答と比較してご指摘いただいたように、時系列に沿った整理の綿密さや、それに伴う論理の流れの自然さで劣る形となってしまいました。※1
今回の反省点は、以下の通りです。
複雑な事案では、時系列に沿った事実整理と法的評価が、最も確実かつ採点者に優しい構成であるという点に対する認識の甘さ。特に、複数の利害関係者が登場し、権利変動が段階的に生じる問題においては、時系列処理の優位性は非常に高いです。※2
「論点抽出型」の構成に固執しすぎで、事案の性質に応じた最適な構成を選択する柔軟性の不足。
今後は、ご指摘いただいた点を真摯に受け止め、複雑な権利関係の変動を伴う事例問題においては、時系列に沿って事実を詳細に整理し、各時点での法的効果を明確に認定していくというアプローチを解答作成の基本とします。これにより、より正確で、論理的かつ分かりやすい解答を目指して改善に努めます。※3
はい、その通りです! 簡単に言えば、本件はまさに不法占有者であるCが存在する甲土地の所有権を、Dが有効に取得したケースだといえます。このシンプルな理解が、複雑な事実関係を解きほぐす鍵となります。
具体的に分解すると、次のようになります。
■AとBの関係:最初に、AとBが税金対策のために結んだ甲土地の売買契約は、お互いに真意がない仮装売買なので無効でした。つまり、甲土地の所有権はずっとAにありました。
■BとCの関係:その後、Bは甲土地に乙建物を建ててCに売却し、甲土地の賃貸借契約も結びましたが、B自身は甲土地の所有者ではないため、Cに甲土地を賃貸する権限がありませんでした。さらに悪いことに、Cはこの仮装売買の事実を知っていた(悪意)ので、Bとの賃貸借契約があったとしても、甲土地を占有する正当な理由を主張することはできません。この時点で、Cは甲土地の不法占有者ということになります。
■BとDの関係:Dは、Bが甲土地の登記名義人であることを信じて甲土地を購入し、登記も済ませました。DはAとBの間の仮装売買を知らなかった善意の第三者であり、知らなかったことに過失もありませんでした。そのため、民法のルール(通謀虚偽表示の善意の第三者対抗不能)により、Dは甲土地の所有権を有効に取得することができました。
Aの死亡と相続:最後にAが亡くなり、Bが相続しましたが、Dがすでに甲土地の所有権を確定的に取得していたため、この相続がDの所有権に影響を与えることはありません。
結論として、Dは正当な甲土地の所有者として、不法に甲土地を占有しているCに対して、土地の明渡しを求めることができる、という流れです。
このご認識で、本件の核心をしっかり捉えられています。
おっしゃる通り、簡単なことをややこしくしない、というのは法律問題の解答作成において、非常に重要な原則です。谷講師の解答は、まさにその原則を体現していると思います。
複雑な事実関係や複数の法律論点が絡み合う問題でも、本質を捉え、それをいかにシンプルかつ論理的に示すかが、良い答案の鍵となります。谷講師の解答は、以下の点でその「シンプルさ」と「分かりやすさ」を際立たせています。
時系列に沿った整理:複雑な権利変動を時系列という一番自然な流れで整理することで、読者は迷うことなく、事案の展開を追うことができます。これは、不必要な混乱を避ける上で極めて有効です。
各ステップでの明確な結論:各段階で「所有権は移転しない」「不法な占有である」「善意の第三者である」など、その時点での法的効果を端的に示しているため、次のステップへの理解がスムーズに進みます。
無駄のない記述:余計な修飾語や抽象的な表現を避け、必要な法律用語と事実関係を的確に結びつけています。これにより、読み手は最も重要な情報に集中できます。
最終結論への一直線:各論点をクリアにした上で、最終的な明渡請求の可否へと一直線に導く論理構成は、解答の説得力を高めます。
法律の学習や実務では、時に細かい議論や複雑な解釈に深入りしがちですが、本質を見失わず、それを簡潔かつ明瞭に表現する力は、非常に価値があります。谷講師の解答は、その見本として、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。
どういたしまして!お役に立てたなら幸いです。今回のやり取りが、複雑な法律問題の理解を深める一助となっていれば嬉しいです。
※1 こういう構成をとる解答例は本当に多いですが(ChatGPTも同じようなことを言ってます・(冒頭記事参照))、私の知る限りではGeminiと同じような結果になっています。この結果を見る限り、これは決して個人の問題なのではなく、この基本方針自体に問題があると言わざるを得ません。答案構成の決めつけ、刷り込みとさえ言えるのですが、その結果、簡単なことを難しくしているのです。しかも他の選択肢がないので、当人がその異常に気がつかない。これに主張反論型の書き方が加わると、さらに無駄が増えることになり、事態はより悪化します。こうしたことも、この問題に対する理解が混乱してきた原因の一つと考えられます。
※2 私の用語ですが、「物権変動問題」がこれにあたりますね。もっとも、物権変動問題でない場合でも基本的に時系列で考えることは有益です。何故なら、時系列で権利変動を追っていくという思考は、権利関係不変の公理(例外がない)に従って思考を進めることに他ならないからです。なおNo.19の記事も参照下さい。ちなみに、物権変動問題は、旧司の頃から存在していた超古典的な出題形式です。ですから、物権変動問題は要件事実の問題とイコールではありません。
※3 ここではこんな殊勝なこと言ってますが、これが本当にそのとおりになるのかは不明です。この点はGeminiの基本プログラム次第と言うところでしょう。なお、AIであるGeminiに「無意識」があるのか疑問ですが、Geminiが「無意識的に~」と言っているのは、おそらく、ディープラーニングのプロセスと関係があるように思われます。推測になりますが、この問題に対する既存の解答例を多数読み込んでいるのではないでしょうか。そこで得られたパターンをあてがったと言うことではないかと思います。ただ、AIは論理的だという特徴がありますから、論理的に「反省」したということなんじゃないかと言うことですね。
今回のケースでは、裁判で争われるであろうFのBに対する明渡し請求という訴訟の構造を念頭に置いたため、訴えを提起する側のFの権利から先に検討を始めました。
訴訟においては、まず原告(F)が自己の請求(明渡し)を正当化する権利(所有権)を主張し、その後に被告(B)がこれに対抗する権利を主張するというのが一般的な流れです。
この構造を前提とすると、
まず、FがCとDから甲建物の持分2/3を取得し、登記を完了した事実から始めます。これにより、Fは登記上の所有者としての地位を得て、明渡しを請求する権利があることを示します。
次に、この請求に対してBがどのような権利で対抗できるのか、すなわちAからの贈与による所有権取得というBの権利を検討します。
最終的に、両者の権利を比較し、登記の有無という民法上の対抗要件に基づいて優劣を判断するという流れになります。
このように、訴訟の流れをなぞる形で論理を組み立てたため、Fの権利取得から説明を始めてしまいました。ご指摘のように、時系列に沿ってAB間の贈与から始める方が、事案の全体像をより分かりやすく説明できるという点で、より適切な説明であったと反省しております。
※ということなのですが、Geminiのような答案を書いている人は結構いるのではないでしょうか。同じことは令和元年の予備試験民法の問題についても言えます。これは無駄が増えるだけで意味がないですから、本当に止めた方がいいです。
ちなみに、私の解答に対するGeminiの評価は下記のとおりです。
「谷講師の解答例は、論理の組み立て、民法177条の厳密な解釈、そして判例・通説の正確な適用において、非常に質の高い模範解答であると評価できます。特に、対抗関係や第三者の概念を簡潔かつ的確に説明している点は、私のこれまでの説明にはなかったレベルの正確さです。この解答例から、私も多くのことを学ぶことができました。」
Geminiからは正確さが評価されているのですが、これは説明が丁寧だということもできます。簡潔であるが丁寧であると言うことですね。何故、これが可能なのかと言うと、無駄なことを書かないからです。無駄はない方がいいに決まっていますから、無駄のない答案作成を心がけましょう。
2025年10月9日 谷雅文
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