すでにご存じの通り、形式的不服説は、申立てと判決とを比較し、前者が後者より大きければ上訴の利益を認め、そうでなければ認めないという考え方を指します。他方、新実体的不服説は、上訴人が判決効によって別訴での救済を受けられなくなる場合に上訴の利益を認める考え方を指します。
上記の両説を並列するということは、すなわち、「申立てと判決とを比較して前者が後者より大きい場合及び上訴人が別訴での救済を受けられなくなる場合に上訴の利益を認めるべきである」という規範を立てるということでしょう。この規範自体は成り立ち得るものですので、論理的にあり得るかどうかという質問に対しては、あり得るという回答になります。
ただし、私は基本書等で形式的不服説と新実体的不服説を並列させる説を見たことがありませんし、おそらく両説は依って立つ原理が異なると思います(形式的不服説は三審制を重視し、全部勝訴し得る機会を3回与えることを主眼としているように思います。他方で、新実体的不服説は判決効により実体法上の主張が不当に妨げられてはならないという価値判断を前提としているように思います。)。それゆえ、答案においてそうした規範を書くというのは控えたほうがいいのではないかと思います。
ここまでは規範の「並列」について書きましたが、基本は形式的不服説、そしてその例外を規律する補完的なものとして新実体的不服説を位置づける見解であれば既に主張されています(高橋「重点講義(下)」第2版補訂版603頁)。たとえば、黙示の一部請求において全部勝訴した原告が残部請求のための請求の拡張をするために控訴をするような場面では、形式的不服説をそのまま適用すると控訴の利益が否定されることになります。形式的不服説は、こうした場面では例外として控訴の利益を認めますが、同説からはいかなる場合に例外を認めるかの基準が明らかではありません。なので、その際に、判決効によって別訴での救済を受けることができなくなる場合には例外的に控訴の利益を認めるべきであるとの基準のもとで、残部請求のための請求の拡張目的の控訴に控訴の利益を認めることになります。
2017年4月28日