事業所得と給与所得の区別について

判例を前提とすると、独立性と従属性で判断することになると思いますが、職業の専門性や裁量といったものが決め手にならないのはなぜですか(日フィル判決参照)。
2017年3月29日
選択科目 - 租税法
回答希望講師:宮崎貴博
回答:1

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宮崎貴博の回答

ご質問を有難うございます。その点につき明確な文献はございませんでしたが、以下、私見を記載いたします。

参照として挙げていらっしゃる日本フィルハーモニー事件では事業所得か給与所得であるかが争われました。

そもそも、事業所得は人的役務提供事業もその範囲に含まれていることから、そのような業務から生じる所得については給与所得との区別が困難になります(谷口勢津夫「税法基本講義 第5版」273貢)。

だからこそ、両者の明確な区別基準として「独立性」と「従属性」が重要視されてきました。

ここで、日フィル事件判決にある通り、「提供される労務の内容自体が事業経営者のそれと異ならず、かつ、精神的、独創的なもの、あるいは特殊高度な技能を要するもので、労務内容につき本人にある程度自主性が認められる場合であっても、その労務が雇用契約等に基づき他人の指揮命令の下に提供され、その対価として得られた報酬もしくはこれに準ずるものである限り、給与所得に該当する。」

以上のように、区別が困難な事業所得か給与所得かは、職業の専門性や裁量より、「独立性」と「従属性」の基準で区分するのが相応しいと考えたのだと思います。

もっとも、同判決は、楽団運営規程を基に楽団における原告の地位、服務、分限、報酬、旅費、退職金等について詳しく認定した上、原告の日本フィルからの所得が原告の危険と計算において経営される事業から生じたものとは認められず、日フィルとの雇用契約に基づき所定の演奏及び練習という労務に服することの対価もしくはこれに準ずる給付として支給されたもので、給与所得に該当すると判示していますので、職業の専門性や裁量は考慮要素の一つとして捉えています。

職業の専門性や裁量は、事業所得、給与所得ともに関わってきますので、この点を両者の区別の決め手にするのは、やはり区別基準としては不十分かと考えます。

2017年3月31日