基本的だけどもしっかりと考えたことのない内容の質問でした。いい質問です。
さて、ご質問の内容はといいますと、給付訴訟では原告が主張する義務者こそが被告適格者なのであるから(H61判決)、百選12事件も給付訴訟であり、かつ、原告が遺言執行者を義務者と主張している以上、遺言執行者に被告適格が認められるのではないか。また、その結果として、百選12事件では訴えの却下をすることができず、本案判決によらなければならないのではないか、ということでしたね。
まず、あらかじめ結論を述べますと、少なくとも現時点ではH61判決も百選12事件判決も維持されております。百選12事件で本案判決による必要はありません。
次に、理由です。ご質問の内容に直接の回答を与える文献は見つかりませんでしたが、高橋宏志「重点講義(下)」第2版補訂版に示唆的な記載があります。以下、引用してみます。
「当事者適格は権利義務の主体が当事者となる通常の訴訟においても問題となる一般的概念である。が、他人の権利義務につき第三者が管理処分権を持つ場合に特に問題となる。これを第三者の訴訟担当と言う。当事者適格として理論としては両者統一的に括られるが、実際に機能する局面は、前者の通常の訴訟と第三者の訴訟担当とではかなり異なる。それは、訴えの利益においても、理論としては一般的であるが、実際に機能するのは確認の利益において最も重要であるのと照応するところがある。」(同書244-245頁)
要するに、一般の給付訴訟における当事者適格と第三者の訴訟担当における当事者適格とは、給付訴訟における訴えの利益と確認訴訟における訴えの利益との関係と同じように考えることが可能だということですね。そうすると、給付訴訟においては原則的に訴えの利益があるとされますが、確認訴訟では訴えの利益を吟味しなければならないのと同様に、一般の給付訴訟においては原告により義務者と主張される者に被告適格が認められるとしても、第三者の訴訟担当の被告適格を吟味しなければならないということができます。
「当事者適格判断の基準は、必ずしも統一的で明快なものがあるわけではない。本文で述べたように、一般の給付訴訟の場合には権利義務の主体だと主張すればよいと説明し(……)、第三者の訴訟担当や固有必要的共同訴訟では管理処分権で説明するという二元的な説明が主流である。究極的には、誰と誰を当事者として本案判決をするのが紛争解決の見地から有効・適切かということなのであるが、ブレイクダウンした中間の概念として法的利益と管理処分権が用いられるのである。」(同書248頁)
一般の給付訴訟とは異なり、第三者の訴訟担当の場合には、管理処分権の有無という中間的な基準を用いて被告適格を吟味しているということですね。
ここまでの説明を簡単にまとめると、一般の給付訴訟と第三者の訴訟担当では、実際に当事者適格を判断するにあたっての基準が異なるということです(根っこは同じみたいだけど。)。そうだとすると、H61判決は一般の給付訴訟における被告適格の判断基準を示したものであり、他方、百選12判決は第三者の訴訟担当(のうちの遺言執行者について)の被告適格の判断基準を示したものということができます。
以上より、上記結論に至ります。
2016年4月4日