いい質問ですね。
形式的根拠としては、H26.2.27判決が授権を問題としていないにもかかわらず判決効の拡張を認めていることから、法定訴訟担当として説明するほかないということです(百選25頁解説3参照)。
ただ、このような質問をされたということは、その実質的根拠を問うているのでしょうから、わかる範囲で説明させていただきます。
百選11のH6.5.31判決(これも授権を問題とせずに構成員への判決効の拡張を認めています。)の解説田中豊・法曹時報48巻4号(平成8年)1020頁によると、
「確定判決の効果を構成員に及ぼすものとするために誰が当事者となるのが適当か、権利能力のない社団を当事者とする場合に代表者に対する特別の授権が必要かといった点が問題となるのであるが、理由説示のわかりやすさから、このような文脈の運びになっているのであろう」として、判決効の拡張の先決的問題として授権等の問題を提示しています。
ですから、本来は先に判決効がどのような根拠で拡張されるのかを論じる必要があるのですが、その根拠としては、社団の資産である不動産が「実質的には当該社団が有しているとみるのが事の実態に即している(H26判決)」ことから、実質的には「団体的色彩の濃い共同所有の権利形態(H6判決)」をとっていると理解して、団体に実質的な管理処分権が帰属するものと認めるというのがひとつの考え方です(百選27頁解説2参照)。
しかし、この考え方の問題点として、実質的な管理処分権をもとに法定訴訟担当を認めるとなると、その成立範囲があいまいになります。ひとつの説明としては、構成員の意思が代表者による訴訟追行に十分に反映される関係(実質的組織性)がある場合にだけ、法定訴訟担当の成立を認めるというものがありえます(高橋重点講義上185頁参照)。
もうお分かりの通り、少なくとも私の調べうる文献の範囲では、現状、あまり明晰な説明がなされておりません。H26判決を説明するには法定訴訟担当が最も適合しているというのみで、その理論的説明をするのはなかなか難しいです。
次に、答案でどう論じるのかという点についてです。法定訴訟担当の成立を認める場合には、任意的訴訟担当を論じる実益がないですから、論じる必要がありません。逆に、法定訴訟担当の成立を認めない場合には、任意的訴訟担当の成否を論じる必要が生じます。ただし、当事者適格が認められるかどうかという問題の枠の中で任意的訴訟担当を論じる場面ですから、明文なき任意的訴訟担当の可否自体は、「なお、明文なき任意的訴訟担当も、本件のように被担当者が共同利益者の場合には一般に認められるものと解される。」程度の記載で足りるのではないかと思います。
2016年3月20日