こんにちは、たまっち先生です。
今回は、請負契約の目的物の所有権の帰属について実際のA答案とC答案の比較検討を通して、どのように答案を作成すれば安定して合格答案(上位答案になる可能性の高い答案)を書くことができるようになるかをレクチャーしていきたいと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「6.基本的な事例問題が書ける」との関連性が強いです。
請負契約及び不法行為法の基礎的知識があれば、本問を解くことはそこまで難しくはありません。
司法試験本番ではこのような「基礎的知識」が問われることが少なくないため、基礎こそ丁寧に勉強することが重要であるといえます。
民法は司法試験の科目でも最も範囲が広い科目であると言っても過言ではありません。もっとも、基礎的な知識さえ押さえることができていれば、司法試験で高得点をとることは不可能ではないため、諦めずに勉強を頑張っていただきたいです。
令和元年司法試験の民法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
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ア 請負人帰属説
請負人が請負目的物の所有権を原始取得し、それを注文者に引き渡すことにより注文者が承継取得するという考え方です。請負人帰属説の根拠は以下のとおりです。
①請負人が自己の材料を用いて自己の労務を提供して製作した以上、目的物の所有権は請負人に帰属し、引渡しまたは代金の支払いによって注文者に移転するというのが当事者の合理的意思に資すること、請負人が自己の材料に自ら労力を加えたのだから、その成果物である建物所有権は請負人に帰属することが物権法の原則に適合すること、③請負人の報酬請求権の確保に資すること、④担保責任の期間制限の起算点や報酬の支払時期が引渡しを基準としていること、⑤請負人に所有権を帰属させた方が当事者間の紛争解決のための交渉を促進すること、⑥完成した建物に重大な契約違反があり、取壊しが必要となった場合に所有権が請負人にある方が仮に建物を壊すとなった場合にも妥当な結果を導くことができること、等が挙げられます。
イ 注文者帰属説
注文者が請負目的物の所有権を取得するという考え方です。注文者帰属説の根拠は以下のとおりです。
① 注文者のために請負目的物を作成しているのであるから、注文者に原始的に所有権を帰属させることこそが当事者の合理的意思に適うこと、②引渡しや代金支払などの事実を介在させるより、契約目的に照らした合理的意思を直接反映させた処理を行うことが意思主義をとる物権法の原則に整合的であること、③請負人の報酬債権の確保のためには同時履行の抗弁権や留置権があるから注文者に目的物の所有権を帰属させても特段不利とはならないこと、④担保責任の期間制限の起算点は報酬時期の基準は所有権の貴族の基準とはなり得ないこと、⑤交渉促進の効果は不合理な結果をもたらすこともあること、⑥建築基準法上の建物確認や建物の保存登記は注文者の名義でされるのが通常であり注文者に所有権を帰属させた方が実務と整合すること、等が挙げられます。
上記の対立が浮き彫りとなるのは、特に建物の引渡しがあるまでの間、請負人は注文者に対して建物の所有権を主張できるかという問題においてです。また、建物となる前の段階の築造物の所有権の帰属も別途問題となります。
以下それぞれ解説を加えていきます。
ア 注文者vs請負人との問題
まず、請負契約は結局は契約ですから、当事者間に所有権の帰属に関する特約が定められていれば、当該特約が優先して適用されることになります。
仮に特約が定められていない場合には、材料を提供したのは誰かが問題となります。
本件のように建物の全ての材料を請負人が提供している場合に限定して考えていきましょう。
↓
請負人帰属説は、建物所有権は請負人に原始的に帰属し、請負人から注文者への引渡しによって所有権が移転すると考えます。他方、注文者帰属説は注文者に原始的に建物所有権が帰属すると考えます。
この点、判例は、請負人帰属説に立った上で(大判明37年6月22日民録10軒861頁)、例外的に一定の事情が認められる場合には、当事者の合意を推認し、注文者に帰属させるという考えを採用しています。ここにいう一定の事情とは、建物完成前に請負代金の全額が支払われていたというような事情です。本問でもまさにこのような事情を目的物帰属にあたりどのように考えるかがポイントになっています。
イ 建物となる前の段階の建築物の所有権の帰属
建物となる前の段階の築造物について、これを①土地の定着物として不動産とみるのか(86条1項)、②土地とは独立した動産とみるのかは、ケースバイケースといえます(なお、①の立場だと築造物が注文者の土地に付合しないか(242条)が問題となりますが、築造物の材料が請負人の物であったとしても、請負人は建築工事を行うという権原によって土地上に築造しているの、建物として独立した段階に至る以前から築造物は土地に付合しないと考えて問題ないです(242条但書)。
本問の解答に当たっても、冒頭で一言言及しておくと丁寧だと思います。
ウ 本問の当てはめ
本問では、材料はその全部を請負人が調達して提供しており、かつ、本件事故時点で建物はすでに完成しているが代金の8割部分について支払済みであるという特殊事情があります。
〜出題趣旨〜
出題趣旨によれば、「請負人帰属説に立つ場合には、新築建物の所有権の帰属について特段の合意がない場合には物権法の原則が妥当し、材料の所有権が積み上げられて完成した建物となることなどの理由から、材料の全部又は主要部分の提供者が誰かによって所有権の帰属が決せられることを原則としつつ、例外則として、注文者が代金の支払をしていたときは注文者が所有権を取得することを論ずべきことになる。…例外則の根拠については、大別して、材料の提供の実質に求める考え方と、当事者の黙示の合意に求める考え方とがあり得る。」
「上記の考え方は、材料の全部又は主要部分の提供者がいずれであるかによって決せられるという原則に照らして、代金の全額又は大半が支払われているときは、注文者が材料の原資を出しているといえるから、注文者が材料の提供者と考えることができるとする。この考え方によれば、「大半」といえるかどうかは、支払われた代金が材料の全部又は主要部分の費用に相当するかどうかが判断基準となり、この観点から、本問の事実の評価がされることになる。」
「上記の考え方からは、請負契約は、注文者が仕事の結果に対して報酬を支払うものであるから、代金の全額が支払われた以上、仕事の結果である建物の所有権は注文者が取得するというのが両当事者の合理的意思であると考えられ、このような両当事者の意思(黙示の合意)を基礎として、全額支払済みの場合に例外論を発動させるとする見解が導かれ得る。他方で、大半の支払の段階でも、注文者は、建物を取得するために契約をしたのであるから所有権を取得することができると考え、請負人も、報酬確保について懸念がなければ所有権を保持する利益がなく、所有権を注文者に取得させることに異存はないのが通常であるとも考えられる。そこで、このような量当事者の意思(黙示の合意)を基礎として例外論を発動させるとする見解も導かれ得る。この見解によれば、報酬確保として懸念のない状態にあるかどうかが判断基準となり、この観点から、本問の事実の評価がされることになる。
「以上に対し、注文者帰属説に立つ場合には、判例が採用していると考えられる請負人帰属説の内容を示してこれを批判し、注文者帰属説を採用すべき理由を論ずることが求められる。注文者帰属説による場合には、注文者への帰属を排除する特段の合意がない限り、甲建物は注文者Aに帰属すると結論付けることになる。なお、所有権の帰属の決定に当たっては、前記のとおり、契約当事者の合意がまず基準となるところ、請負人帰属説か注文者帰属説かの対立に触れることなく、本問における契約内容、特に代金分割支払の合意内容等を詳細に分析・評価し、所有権の帰属についての(黙示の)合意を
と指摘されており、多種多様な構成が考えられることが示唆されています。
上記の指摘からすれば、出題者としては注文者帰属説からの説明よりは請負人帰属説からの説明を求めているように読むことができます。したがって、受験生としては、基本的には判例と同様に請負人帰属説に立った上で、本問の特殊事情(請負代金の8割が支払われていたという事情を踏まえてないしの考えに従って答案を構成することが望ましいと考えられるでしょう。
本記事ではの立場に立った場合の当てはめ例を以下に示しますので、検討のご参考にしてみてください。
被害者であるCと甲建物の所有者であるAに契約関係はないことから、Cとしては法定債権(事務管理、不当利得、不法行為の総称)のいずれかを根拠に損害賠償請求をすることになると考えられます。
請負人が材料の全部または主要部分を提供した場合には、請負人の請負代金支払請求権の支払いを担保するために請負人が完成建物の所有権を取得し、建物の引渡によって注文者に建物の所有権が移転すると解する。ただし、請負人が材料を提供した場合であっても、代金の大部分の支払いを済んでいるなど請負人の上記権利を担保する必要がなくなったといえる場合には、請負人から注文者に請負目的物の所有権を移転させる旨の黙示の特約があったと解すべきである。
本件において、請負人Bが必要な材料を全て自ら調達して甲建物を完成し、引渡前であることから、Bに甲建物の所有権が帰属すると考えることが原則である。
しかしながら、本件契約にしたがって注文者Aはすでに請負代金の80%の代金を支払っており、請負代金の大部分を支払っているため、もはや請負人にとって請負代金支払い請求権の支払いを担保する必要性は小さくなっているといえる。また、本件契約締結時点で注文者Aの支払能力に問題があったという事情もないことから、請負代金の残金が20%となった段階で注文者に甲建物の所有権を移転させることによってBが被る不利益が大きいとまではいえない。
以上からすれば、本件契約には請負代金の80%を支払った段階で注文者に対して甲建物の所有権が移転する旨の特約が付せられていたと解するべきである。
よって本件事故時点における甲建物の所有者はAである。
【占有者が責任を負うための要件(民法717条1項本文)】
①「土地の工作物」
②「設置又は保存に瑕疵」があること
③ 「損害」の発生
④ ②と③との因果関係(「よって」)
⑤ ②の時点で①を占有していたこと
・所有者が責任を負うための要件(民法717条1項ただし書)
①「土地の工作物」
②「設置又は保存に瑕疵」があること
③ 「損害」の発生
④ ②と③との因果関係(「よって」)
⑤ ②の時点で①を占有していたこと
⑥ 占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていなかったこと
⑦ ②の時点で①を所有していたこと
このように、1次的には占有者が責任を負い、占有者が抗弁として「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ことを証明すれば(占有者の抗弁)、2次的に所有者が責任を負うことになります(無過失責任)。
ア 要件①:「土地の工作物」
土地の工作物とは、土地に接着して人工的作業によって成立するものをいいます。建物が土地の工作物に当たることは間違いありませんが、ここでいいう土地の工作物には建物のように屋根や壁がなくとも、自動販売機、プール、スキー場のゲレンデ等も含まれることに注意が必要です。
本問においた、甲建物は土地に接着して人工的作業によって成立するものであるため、「土地の工作物」に該当することになります。
イ 要件②:「設置又は保存に瑕疵」
「設置又は保存の瑕疵」とは、通常備えている安全性を欠いていることをいいます。
我が国は地震大国であり、だからこそ震度5弱程度の地震が発生することは容易に想定できます。そうすると、建物が通常備えるべき安全性しては「震度5弱程度の地震で損傷しない程度の安全性」が求められるといえるでしょう。
そうであるにもかかわらず、本件甲建物は震度5弱の地震により一部が損傷してしまっていることからすれば、上記の安全性を有していたとは言い難く、「設置又は保存の瑕疵」があったと認められるでしょう。
以上からすれば、「設置又は保存に瑕疵」が認められます。
なお、
ウ 要件③:「損害」の発生
甲建物の一部が落下してそばを歩いていた歩行者Cを負傷させ、Cには治療費相当額の「損害」が生じていることになります。
エ 要件④:「設置又は保存の瑕疵」と「損害」の因果関係
近年、因果関係の意味を相当因果関係以外のものと捉える立場が複数登場していますが、実務は相当因果関係説で動いているため、受験生的には伝統的通説である相当因果関係説に立った上で論述すれば足りるでしょう。
相当因果関係とは、ある行為からある結果が発生することがその行為者の立場に置かれた一般人の見地に照らして異常でない(=相当である)と判断される場合におけるそれらの行為と結果との間の関係をいいます(相当因果関係説・416条類推適用説。大民刑連中間判大正15年5月22日民集5巻386号)。
本問では、震度5弱の地震により甲建物の一部が落下して歩行者Cを負傷させ、Cに治療費相当額の損害を生じさせているところ、甲建物の瑕疵によって歩行者Cが負傷したことが一般人の見地からしても相当と判断されるため、因果関係が認められることになるでしょう。
オ 要件⑤:設置又は保存の瑕疵がある時点で請負人Bが甲建物を占有していたこと
占有者とは、土地工作物を事実上支配し、その瑕疵を修補して損害の発生を防止できる立場にある者をいいます。
本問では、請負人Bは、甲建物を事実上支配し、まさに甲建物を建築していた請負人であることから甲建物の瑕疵を修補して損害の発生を防止できる地位にあったと評価できます。
よって、Bは「占有者」にあたります。
カ 要件⑥:「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと」
「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」とは、占有者に通常要求される注意をしたことをいうと解されます(一般的には、717条が要求するかかる注意義務の程度は709条の要求するそれと同義であると考えられていますが、本件の請負人は建築業者という業務者であるため、通常人に要求される注意義務より高度の注意義務が課せられる可能性がある点に留意する必要があります)。
本件では、占有者たるBは建物を建築する請負人の立場で甲建物を占有しているところ、建物建築請負人に通常課せられるべき注意義務を検討する必要があります。
この点、建築請負人は資材を使った建築の専門家ではありますが、かかる建物に使用される資材の製造の専門家ではありません。そうだとすると、資材製造業者に対する信頼が相当といえる場合には、Bが業務者であることをもってしても、高度な注意義務が課せられないと評価できる余地が残ります。
そして、甲建物の損傷の原因は建築資材の不備ですが、この資材は一般的に定評のあるものであり、製造時点で瑕疵が明らかだったらまだしも、製造業者の検査漏れは事故後の調査で判明したものに過ぎません。そうすると、資材製造業者を信頼するのが相当といえ、Bには通常要求される程度義務、すなわち、外形的に瑕疵が明らかな資材を用いて建造物を製造してはならない注意義務、が課せられているに過ぎないと評価できるでしょう。
以上からすれば、請負人Bは通常発見できないような資材の瑕疵を見抜けなかったに過ぎず、上記のような一般に要求される注意義務は果たしているといえるため、「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」といえるでしょう。
キ 要件⑦:設置又は保存の瑕疵の時点でAが甲建物を所有していたこと
第4の1で検討したとおり、本件事故時点の甲建物の所有者はAとなります。
ク 小括
以上からすれば、いずれの要件も満たすため、CはAに対して所有者としての責任を追求し、本件事故による損害賠償請求をすることができます(717条1項ただし書)。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第44回は令和元年司法試験の民法から「請負目的物の所有権の帰属」 合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2024年3月13日 たまっち先生
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