こんにちは、たまっち先生です。
今回は、令和元年司法試験の商法を題材として、新株予約権の無償割当てについて、実際のA答案とC答案の比較検討を通してレクチャーしていきたいと思います。
受験生にとっては新株予約権(ストックオプション)のイメージは付きづらいかもしれませんが、実務的には非常によく使われるものです。会社法は具体的なイメージを掴むことで格段に理解が進むので、本記事を通して受験生の皆様が新株予約権がどのような場面で使われるのか、どのような使われ方をするのか、について少しでもイメージがつくようになれば幸いです。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「8.条文・判例の趣旨から考える」との関連性が強いです。
本問は明らかにブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)を意識した問題であり、同判例の正確な理解ができているかによって評価が分かれていることは明らかです。ここまで判例の事案がそのまま出題されることは珍しいですが、それだけ重要判例として扱われていることの証拠といえるでしょう。ブルドックソース事件で用いられた買収防衛策のようなスキームは受験生にとってはイメージがつきづらい分野だとは思いますが、日頃からビジネスに対して興味を持つなどして少しでも具体的なイメージを掴めるようにしておくだけでもアドバンテージになると思います。
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https://www.moj.go.jp/content/001293668.pdf
新株予約権の無償割当てとは、会社側の行為のみによって、新株予約権を株主に持株比率に応じて割り当てるための制度です(会社法277条、278条2項)。株主割当ての方法により、払込金額の払込みを要しないとして募集新株予約権の発行がされる場合に類似しますが、その場合には株主が会社に引き受けの申し込みをする必要があるのに対して、新株予約権無償割当ての場合には株主が申し込みをする必要はなく、会社が強制的に株主に対して新株予約権を割り当てるという点に特徴があると言えます。
なお、新株予約権の無償割当てが用いられる場面は、ライツ・オファリングの場面や本問のような敵対的買収の場面です。
会社が新株予約権無償割当てを行うときは、取締役会設置会社では取締役会の決議で(取締役会非設置会社では株主総会決議で)、株主に割り当てる新株予約権の内容、数、効力発生日などを決めます(278条)。そして、事前に定められた効力発生日に、新株予約権無償割当ての効力が生じます(279条1項)。このように、新株予約権無償割当ての手続きは、取締役会決議で行うことができるため、比較的簡易的な手続で行うことが可能です。これは、同一内容の新株予約権が持株数に応じて株主に割り当てられるため、株主の権利が害されることはないと考えられているためです。
基本的には上記のような考え方で問題ないですが、本問のように特定の株主だけに新株予約権の行使をさせないとするような差別的条件が設けられることがあり、かかる場合には当該特定の株主の権利が害されることになるため、救済手段を考える必要があります。
敵対的買収とは、対象会社の経営者の賛同を得ずに(=敵対的に)、当該会社を買収することをいいます。敵対的買収の場合には、原則として株式公開買い付け(TOB)または市場取引を通じて対象会社の株式をできるだけ取得するという手法が用いられます。
敵対的買収の中には、企業価値を向上させるための買収もありますが、他方で、企業価値を低下させるような濫用的な買収もあります。このような濫用的な買収に対抗する手段を防衛するための買収防衛策を導入する企業が多くなっています。
近年、買収防衛策として用いられることが多いのは、新株予約権無償割当てです。新株予約権の行使により株式数を増加させることで、買収者の持株比率を低下させるのが狙いです。
なお、新株予約権無償割当ては、株主全員に対して株式数に応じて新株予約権を割当てるものですが、当該新株予約権の内容が差別的である場合には、一部の株主にのみ不利益を与える可能性があるため、247条を類推適用して当該新株予約権無償割当てを差し止めることができると解されています。
会社法は、247条で募集新株予約権の発行についての差止めの規定を設けていますが、新株予約権の無償割当てについては同様の規定は設けられておりません。
もっとも、新株予約権無償割当てであってもこれに差別的行使条件が付加されている場合には、持ち株比率の変動を生じさせ、株主の持株価値の低下が生ずるため、一切差止請求を認めないとするのは妥当ではありません。
この点、ブルドックソース事件は、株主に対する新株予約権の無償割当てをする場合において、当該無償割当てが株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には、247条を類推適用が可能であることを前提としています。答案では、以下のように論証すればよいです。
【論証例】
新株予約権無償割当てについて差止規定が存在しないのは、同一内容の新株予約権が持株数に応じて株主に割り当てられるため(278条2項)、通常であれば、株主の地位に実質的変動が生じないと考えられたことによる。もっとも、本件のように、差別的行使条件が付されているときは、新株予約権無償割当てでも株主の地位に実質的変動が及び、差止規定を不要とした上記趣旨は妥当しない。そこで、この場合には、247条の類推適用により、新株予約権無償割当ての差止請求を認めるべきである。
【判旨】
「法109条1項は、株式会社は、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないとして、株主平等の原則を定めている。新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできない。しかし、株主は、株主としての資格に基づいて新株予約権の割当てを受けるところ、法278条2項は、株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは、株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定するなど、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としていると解されるのであって、法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである。」
「株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちにどう原則の趣旨に反するものということはできない。そして、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の基礎となる事実が実際には存在しなかったり、虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。」
このように、ブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)は、株主平等原則の趣旨が及ぶとした上で、発行が必要かつ相当かという判断枠組みを示していいます(しかも発行の必要性については、株主総会の判断が尊重されます)。論証例を示すと以下の通りです。
【論証例】
前提として、新株予約権無償割当ては新株予約権者の間で差別的取扱いをするものにすぎず、直ちに109条1項の定める株主平等原則に違反するわけではない。もっとも、株主に割り当てられる新株予約権の内容は同一であることが前提とされていること(278条2項)に鑑みれば、同原則の趣旨は新株予約権無償割当てにも及んでおり、この趣旨に違反した割当てには法令違反の差止事由が存在すると解すべきである。
その上で、①特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになった場合は、②その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取り扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に違反するとはいえない。なお、①の検討に際しては、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵がない限り、会社の利益の帰属主体である株主自身の判断を尊重するべきである。
近侍は、買収防衛策として、新株予約権無償割当てや募集新株予約権の発行が行われる傾向にあります。この場合、会社支配権に影響を及ぼす目的があることが明らかである一方で、資金調達目的は肯定されづらいため、資金調達目的を重視した形での主要目的ルールの運用は行いにくいという問題点があります。この場合に、主要目的ルールを適用せず、どのような基準で新株予約権の無償割当ての不公正発行該当性を判断すべきか、学説上争いがあります。
この点、学説では新株予約権無償割当てが資金調目的であるとは認められない場合には、ブルドックソース事件やニッポン放送事件抗告審決定等で示された基準で判断すべきとする説が有力です。判例は、株主平等原則の問題と同様、「著しく不公正な方法」該当性についても、防衛策の必要性と相当性の要件を満たす場合には、例外的に新株予約権無償割当てが許容されると解しています。そのため、本件においても、甲社の採用した防衛策の必要性と相当性が満たされるか否かで検討すべきことになります。
本問では、乙社にも本件新株予約権は無償で割当てを受けるものの、乙社は「非適格者」となるため、新株予約権を行使することができません。そのため、他の株主が本件新株予約権を行使すれば、乙社の持株比率は低下することになるため、本問では株主の地位に実質的変動が及ぶといえ、247条の類推適用が認められることになります。
(なお、採点実感によれば、247条の類推適用の問題であることにすら気づけなかった答案があるようですが、そもそもの前提となる247条の指摘段階で間違えてしまうと、その後の論点が続かなくなる危険性があり、大きな致命傷となる危険があります。そのため、近年の最高裁判決まで入念に確認しておく必要があるでしょう。)
247条が類推適用されることにより、本件新株予約権の無償割当てが①法令又は定款に違反する場合(1号)、または、②著しく不公正な方法により行われる場合(2号)において、株主が不利益を受ける恐れがある場合には、株氏は会社に対して本件新株予約権の無償割当ての差し止めを請求することができることになります。
乙社としては、甲社が、乙社を非適格者として新株予約権の行使を認めないとしていることは、新株予約権者である乙社の差別的な取扱いを内容とするものであり、株主平等原則(109条1項)又はその趣旨に反し、法令に違反するものであると主張することが考えられます。
この点、新株予約権の割当ては、会社が有する自己株式を除いて、株主が有する株式の数に応じて行われなければならないとされている点が参考になります(278条2項)。このことからすれば、本件無償割当ては、基準日の最終の株主名簿に記録された株主に対して、その有する甲社の株式の1株について2個の割合で新株予約権が割当てられます。本件新株予約権1個の行使により甲社の株式1株が行使されることになり、乙社についても新株予約権は割当てられるものの、本件新株予約権の行使条件として、「非適格者は新株予約権を行使することができないものとする」という差別的条件が定められているため、乙社は新株予約権を行使することができません。したがって、他の株主が本件新株予約権を行使すれば、乙社の持株比率は低下するという関係にあります。
この点、上記ブルドックソース事件によれば、株主平等原則の趣旨は、新株予約権の無償割当てにも及ぶとした上で、「①特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになった場合は、②その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取り扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に違反するとはいえない。」旨判示していますから、本問では①、②の点について検討を進めていくことになります。
ア ①について
本件新株予約権の無償割当てに関する議案は、甲社のそう株主の議決権の90%を有する株主が出席した本件定時株主総会において、出席株主の67%が賛成したことで可決されています。このことからすれば、会社の特別決議が承認されるほど、乙社の提案が甲社の企業価値を毀損し、かつ甲社の利益ひいては株主共同の利益を害することになるといえるでしょう。
なお、本件株主総会の手続に特段問題はないことから、本件株主総会は株主の判断の正当性を失わされるような重大な瑕疵は存在しないと認められるでしょう。
イ ②について
本件では乙社は平成30年3月31日時点で甲社株主の議決権の20%を保有していたところ、本件株主総会では甲社株主の議決権の90%を有する株主が出席したことから、乙社も本件株主総会に参加したと推認され、乙社は総会において一定の意見をいう機会自体はあったといえそうです。また、たしかに、甲社の差別的な取扱いは乙社にとって経済的な損害を与える性質があります。しかし、買収防衛策としての導入策の是非が株主総会の決議(勧告的決議)に委ねられており、また乙社が甲社株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には、甲社は本件新株予約権無償割当てにより割当てた新株予約権の全てを無償で取得できることが規定されていたことから、乙社には撤退可能性が保障されていたと評価することができます。
したがって、衡平の理念に反し、相当性を欠くとまではいえないでしょう。
以上からすれば、本件新株予約権無償割当ては、株主平等原則の趣旨に反するとまではいえず、法令違反については認められないという整理になると考えられます。
上記したように、新株予約権無償割当ては基本的に資金調達目的で行われるものではなく、本件新株予約権無償割当ても買収防衛策として行われており、資金調達目的でないことは明らかです。そのため、主要目的ルールを適用するのに馴染まないといえます。そこで、本件新株予約権無償割当ての適否は、甲社の採用した防衛策の必要性と相当性が満たされるか否かで検討すれば足ります。
本件乙社は過去に敵対的な買収により対象会社の支配権を取得し、経営陣を入れ替え、対象会社の財産を切り売りする投資手法をとったことがあり、現に乙社は甲社の資産を売却する提案をしていることからしても、甲社を食い物にしようとしている可能性があると認められるでしょう。また、SNSにおいて甲社の事業について理解がないような発言があることからしても、甲社を支配下に置いたのちに焦土化経営をするおそれも否定し難いです。これらのことからすれば、買収防衛策を講じる必要性が認められます。また、前記したとおり、乙社には撤退可能性が保証されており、相当性は欠かないといえます。
以上からすれば、本件新株予約権無償割当ては、買収防衛策として必要かつ相当なものといえ、「著しく不公正な方法」に該当しないと判断することができるでしょう。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第43回は令和元年司法試験の商法から「新株予約権の無償割当て」 合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2024年2月16日 たまっち先生
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