新株予約権の無償割当て |合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第 43回~令和元年司法試験の商法から~

たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」  43回  
『新株予約権の無償割当て
合格答案のこつ
令和元年司法試験の商法から

第1 はじめに・・・新株予約権の無償割当てについてです

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、令和元年司法試験の商法を題材として、新株予約権の無償割当てについて、実際のA答案とC答案の比較検討を通してレクチャーしていきたいと思います。
 受験生にとっては新株予約権(ストックオプション)のイメージは付きづらいかもしれませんが、実務的には非常によく使われるものです。会社法は具体的なイメージを掴むことで格段に理解が進むので、本記事を通して受験生の皆様が新株予約権がどのような場面で使われるのか、どのような使われ方をするのか、について少しでもイメージがつくようになれば幸いです。

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】

 では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
 A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

Aポイント

第2 設問2

1 乙社の主張
 1新株予約権無償割当て(277条以下)についても247条が類推でき、本件では①株主平等原則(109条)に反し「法令」に「違反」しており(247条1号)、また、②発行が「著しく不公正な方法によ」るといえ(同条2号)、さらに、③定款変更なく発行をした点で「法令」に「違反」しており(同条1号)、各号に該当し、「株主が不利益を受けるおそれがある」といえ、差止めが認められると主張する。

2 247条の類推適用の可否
(1)条文上は、新株予約権無償割当てに差止めの規定はない。しかし、無償割当ては「当該株式会社以外の株主」全員へ(278条2項)「払込みをさせないで」割当てをするものであり(277条)、通常株主間に不平等は生じず、株主の利益を保護するための差止めを認める必要がないためである。
そのため、株主の利益保護の必要が生じる場合には、247条の新株予約権の発行の 差止規定を類推適用できると解する。

(2)よって、乙社の主張は認められる。

③定款変更
(1)取締役会設置会社では所有と経営を分離し、株主の判断能力に疑問があるため、株主総会は「法律」「定款」に記載した事項のみ決議できる。そのため、定款に記載のない事項を決議しても、かかる決議は無効となる。
新株予約権無償割当ては、通常株主の持分比率等へ影響を与えないため、甲社のような取締役会設置会社では「取締役会」の決議によらなけばならないとされる(278条3項本文)。そして、甲社の定款には株主総会の決議による承認を要するという条項はない(同条項ただし書)。
したがって、株主総会決議事項へと定款変更(466条)することなく、本件新株予約権無償割当てを株主総会の決議により行ったことは、295条2項という「法令」に「違反」している。

(2)よって、乙社の主張は認められる。

4 ①株主平等原則
(1)4新株予約権無償割当てについては、「株式」ではないため109条は直接適用されない。しかし、278条1項は「新株予約権の内容及び数」を定めることを求め、2項では「株式」「の数に応じて」割り当てることを求めている。そのため、109条の株主平等原則の法理は妥当する。

(2)ア 109条1項は個々の株主の利益保護を趣旨とするが、これは会社の存立・発展なしには考えられない。そのため、(ⅰ)差別的に取り扱う必要性、(ⅱ)相当性があれば、新株予約権無償割当ても109条1項に反しない。(ⅰ)は、会社の利益帰属主体である株主自身により判断されるべきであり、株主総会決議に重大な欠缺がない限りその判断が尊重される。
5本件株主総会では、甲社の総株主の90%と大多数の株主が出席し、3分の2以上 の67%の賛成により可決している。乙社は20%の議決権を保有しているため、乙社以外の反対株主は少ないといえる。したがって、株主総会に重大な欠缺はなく、差別的に扱う必要性がある(ⅰ)。
 6本件新株予約権無償割当てでは、取得の対価を新株予約権1個につき1円の払込により甲社株式1個が取得できるとされているため、新株予約権1つには1株分の価値がある(概要⑸⑹⑽)。それにもかかわらず、被適格者乙社は新株予約権を行使できず(概要⑻)、また、甲社による取得でも1円が対価とされている(概要⑽)。そのため、乙社には持分比率的不利益および、適格者が上場会社の株式1株を取得できることと比較して経済的不利益が大きい。
 7甲社としては乙社がこれ以上の甲社株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には、新株予約権の全部を取締役会が無償で取得できるとすることで、乙社の利益を不当に害しないとしている。しかし、そもそも他社の株式を取得するのは自由であり経済的自由の一環といえるため、これを会社により一方的に制限させるのは認められない。
 したがって、差別的に取り扱う相当性はない(ⅱ)。

(3)よって、109条1項という「法令」に「違反」しており、乙社の主張は認められる。

5 ②不公正発行
(1)8「著しく不公正は方法」(247条2号)とは、不当な目的を達成するためになされる発行をいう。そして、取締役が支配権維持確保を主要な目的とする発行は「著しく不公正な方法」にあたる。もっとも、これは、取締役が会社の所有者たる株主の信認に基礎を置くためであり、株主全体の利益の保護という観点から発行を正当化する特段の事情がある場合には、「著しく不公正な方法」にあたらない。
そのため当該発行が敵対的買収者への対抗手段として(ⅰ)必要性・(ⅱ)相当性があれば、特段の事情があり「著しく不公正な方法」にあたらない。

(2)9甲社は、本件新株予約権無償割当ては、乙社による甲社の支配権の取得を阻止するために行うものとしており、支配権維持確保目的がある。
乙社は、比較的短期間で株式を売買して売買益を得る投資手法をとり、敵対的買収により支配権を獲得して会社財産を切り売りする手法をとったことがある。また、乙社代表社員BがS N Sで、事務用品の製造販売を行う甲社の事業に関して、社会のデジタル化に伴い事務用品は早晩なくなると述べ、理解がない。そのため、乙社により支配されると甲社も同様に財産を切り売りされ、経営陣を入れ替えられるという懸念があった。したがって、甲社財産が毀損され、株主の共同の利益が害されることを防ぐ必要性がある(ⅰ)
もっとも、上記のように対抗手段としての相当性はない(ⅱ)。

(3)よって、「著しく不公正な方法」であり、乙社の主張は認められる。

6 株主の不利益
上記のように、割当てにより乙社以外の株主と株式割合に2倍の差が生まれて持分比率的不利益が生じ、また、経済的補填が不十分のため経済的不利益が生じる。
よって、「株主が不利益を受けるおそれ」があり(247条柱書)、乙社の主張は認められる。

7 以上より、
乙社は本件新株予約権無償割当ての差止めを請求することができる。

 

 

1乙社の主張を明示できており、読者に安心感を与えます。
 

 

 

 

 

 

 

2247条の直接適用を否定した上で(原則論)、247条の趣旨が妥当する場合には、新株予約権の無償割当てに対して同条を類推適用することができる旨を指摘できています。

 

 

 

 

余事記載です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4ブルドックソース事件の理解を正確に指摘できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5株主のうち67%の同意があり、会社の判断として差別的条件を定めることが相当と判断されている点、指摘できています。なお、本件株主総会の手続に特段瑕疵が認められない点も指摘しておきたいです。

 

6差別的条件の内容を丁寧に指摘できています。
乙社に経済的な不利益があるという指摘にとどまらず、不利益の程度が著しい点まで指摘できている点が好印象です。不利益の有無の指摘にとどまらず、不利益の程度にも目を配ることができている点は非常に参考になるでしょう。

 

 

 

7乙社に撤退可能性が保障されているものの、相当性を欠いている旨を自分の言葉で評価できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

8一見主要目的ルールを形式的に適用しているようにも思えますが、「取締役が会社の所有者たる株主の信認に基礎を置くためであり、株主全体の利益の保護という観点から発行を正当化する特段の事情がある場合には、「著しく不公正な方法」にあたらない」と指摘しており、買収防衛策として行われるような場合には、経営権維持目的であっても、著しく不公正な方法には当たらない旨指摘できており、結果的に判例と整合的な 内容になっています。非常によく書けていると思われます。

 

9本件の新株予約権無償割当ては、経営権の維持目的で行われているものの、買収防衛策として行われたものであり、必要性が認められる点を指摘できています。

C答案

Cポイント

第2 設問2

1 乙社の立場において考えられる主張
乙社は247条類推適用により本件新株予約無償割当ての差止めを請求すると主張することが考えられる。

2 主張の当否
(1)新株無償割当ての差止めについて定める明文の規定は存在しない。もっとも、247条は募集新株予約権に関する規定であるが、新株予約権無償割当てと類似しているため、同条を類推適用することができる。

(2)要件は、247条各号のいずれかに該当すること及び株主が不利益を受けるおそれがあることである。

(3)ア では、本件新株予約権無償割当ては乙社による甲社の支配権の取得を阻止するために行われているところ、そこで、「著しく不公正な方法」(2号)にあたらないか。

3247条の趣旨は、資金調達の必要性と既存株主の持株比率の低下の防止との調整 を図ることにある。そこで「著しく不公正な方法」かどうかは、支配権の争いがある場合において、支配権取得の阻止を主要な目的として行われたかどうかによって判断する。具体的には、資金調達の必要性・相当性を考慮する。

ウ 本件では、乙社は平成30年3月31日の時点で、議決権を20%保有するに至っており、支配権の争いがあるといえる。
 そして、4必要性について、確かに、乙社について、比較的短期間で株式を売買し、その売買益を得る投資手法を採ったことがあることなどの事実から、乙社が支配権を取得することが懸念される。また、乙社の代表社員Bについて、ソーシャル・ネットワーキング・サービスで、甲社の事業に関して「社会のデジタル化に伴い、事務用品は早晩なくなるであろう。」と述べるなど、甲社の事業に対して理解がないと考えられる。そのため仮に乙社が後者の支配権を取得すれば、甲社の財産を切り売りするのではないかという懸念が合理的に導かれる。
 しかし、P倉庫の近隣に高速道路のインターチェンジが設置されることが決まってから近隣の不動産価格が上昇し、P倉庫の市場価格は約15億円である。乙社は、このP倉庫を適正な価格で売却しようとしているから、甲社は不利益はない。また、P倉庫は遊休資産であるから、これを売却しても事務用品の製造及び販売等に影響はない。そのため、資金調達の必要性は乏しい。
 そして、相当性について、確かに、被適格者についても新株予約権取得の対価として、1個につき1円が交付される。また、5乙社がこれ以上の甲社の株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には、甲社の取締役会は、本件新株予約権無償割当てにより株主の割り当てた新株予約権の全部を無償で取得することができる。そのため、乙社の意向が反映された上で、持株比率の低下を防止することができる。
 しかし、非適格者である乙社は、新株予約権を行使することができない。また、基準日の翌日に本件新株予約権無償割当てが効力を生じるため、乙社に不意打ちである。さらに、甲社は、乙社に対し、これ以上の甲社の株式の買い増しを行わないように要請するものの、持株比率の低下を防止するには確約に応じざるを得ず、乙社の意向が反映されているとはいえない。そのため、資金調達の相応性に欠けている。ゆえに、乙社による支配権取得の阻止を主要な目的としているといえる。

エ したがって、「著しく不公正な方法」にあたる。

(4)また、本件新株予約権無償割当てが行われれば、 乙社の持株比率が低下することになるから、株主が不利益を受けるおそれがあるといえる。

(5) よって、乙社の主張が認められるから、乙社は本件新株予約権無償割当ての差止めを請求すること(247条類推適用)ができる。

 

 

 

 

 

1247条を類推適用できるとする根拠が不十分です。

2ブルドックソース事件では、株主平等原則違反の点がメインで問題となっていますが、本答案は株主平等原則について触れられておりません。

 

3主要目的ルールを形式的に適用してしまっています。
本件新株予約権無償割当ては資金調達目的で行われたものではないため、事案に適合するように規範を修正する必要があります。

 

 

4資金調達の必要性から検討していますが、判例がいうここでの必要性は、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになった場合」をいうため、検討のポイントを外しており、低い評価にとどまったと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

5乙社の撤退可能性が保障されていることを指摘できています。

第3 BEXAの考える合格答案までのステップ「8.条文・判例の趣旨から考える」との関連性

 BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「8.条文・判例の趣旨から考える」との関連性が強いです。

 

 本問は明らかにブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)を意識した問題であり、同判例の正確な理解ができているかによって評価が分かれていることは明らかです。ここまで判例の事案がそのまま出題されることは珍しいですが、それだけ重要判例として扱われていることの証拠といえるでしょう。ブルドックソース事件で用いられた買収防衛策のようなスキームは受験生にとってはイメージがつきづらい分野だとは思いますが、日頃からビジネスに対して興味を持つなどして少しでも具体的なイメージを掴めるようにしておくだけでもアドバンテージになると思います。

 本問に関連する論点解説

【問題文及び設問】

令和元年司法試験の商法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/001293668.pdf

 

1 新株予約権の無償割当て
⑴ 概要

 新株予約権の無償割当てとは、会社側の行為のみによって、新株予約権を株主に持株比率に応じて割り当てるための制度です(会社法277条、278条2項)。株主割当ての方法により、払込金額の払込みを要しないとして募集新株予約権の発行がされる場合に類似しますが、その場合には株主が会社に引き受けの申し込みをする必要があるのに対して、新株予約権無償割当ての場合には株主が申し込みをする必要はなく、会社が強制的に株主に対して新株予約権を割り当てるという点に特徴があると言えます。
なお、新株予約権の無償割当てが用いられる場面は、ライツ・オファリングの場面や本問のような敵対的買収の場面です。

⑵ 新株予約権無償割当ての手続

 会社が新株予約権無償割当てを行うときは、取締役会設置会社では取締役会の決議で(取締役会非設置会社では株主総会決議で)、株主に割り当てる新株予約権の内容、数、効力発生日などを決めます(278条)。そして、事前に定められた効力発生日に、新株予約権無償割当ての効力が生じます(279条1項)。このように、新株予約権無償割当ての手続きは、取締役会決議で行うことができるため、比較的簡易的な手続で行うことが可能です。これは、同一内容の新株予約権が持株数に応じて株主に割り当てられるため、株主の権利が害されることはないと考えられているためです。
基本的には上記のような考え方で問題ないですが、本問のように特定の株主だけに新株予約権の行使をさせないとするような差別的条件が設けられることがあり、かかる場合には当該特定の株主の権利が害されることになるため、救済手段を考える必要があります。

2 敵対的買収と買収防衛策
⑴ 概要

 敵対的買収とは、対象会社の経営者の賛同を得ずに(=敵対的に)、当該会社を買収することをいいます。敵対的買収の場合には、原則として株式公開買い付け(TOB)または市場取引を通じて対象会社の株式をできるだけ取得するという手法が用いられます。
 敵対的買収の中には、企業価値を向上させるための買収もありますが、他方で、企業価値を低下させるような濫用的な買収もあります。このような濫用的な買収に対抗する手段を防衛するための買収防衛策を導入する企業が多くなっています。

⑵ 買収防衛策

 近年、買収防衛策として用いられることが多いのは、新株予約権無償割当てです。新株予約権の行使により株式数を増加させることで、買収者の持株比率を低下させるのが狙いです。
 なお、新株予約権無償割当ては、株主全員に対して株式数に応じて新株予約権を割当てるものですが、当該新株予約権の内容が差別的である場合には、一部の株主にのみ不利益を与える可能性があるため、247条を類推適用して当該新株予約権無償割当てを差し止めることができると解されています。

3 ブルドックソース事件最高裁決定(最決平成19年8月7日)
⑴ 新株予約権無償割当ての差止請求権の根拠(会社法247条の類推適用の可否)

 会社法は、247条で募集新株予約権の発行についての差止めの規定を設けていますが、新株予約権の無償割当てについては同様の規定は設けられておりません。
もっとも、新株予約権無償割当てであってもこれに差別的行使条件が付加されている場合には、持ち株比率の変動を生じさせ、株主の持株価値の低下が生ずるため、一切差止請求を認めないとするのは妥当ではありません。
 この点、ブルドックソース事件は、株主に対する新株予約権の無償割当てをする場合において、当該無償割当てが株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には、247条を類推適用が可能であることを前提としています。答案では、以下のように論証すればよいです。

【論証例】


 新株予約権無償割当てについて差止規定が存在しないのは、同一内容の新株予約権が持株数に応じて株主に割り当てられるため(278条2項)、通常であれば、株主の地位に実質的変動が生じないと考えられたことによる。もっとも、本件のように、差別的行使条件が付されているときは、新株予約権無償割当てでも株主の地位に実質的変動が及び、差止規定を不要とした上記趣旨は妥当しない。そこで、この場合には、247条の類推適用により、新株予約権無償割当ての差止請求を認めるべきである。

 
⑵ 新株予約権の無償割当てにおける株主平等原則違反の適否

【判旨】
「法109条1項は、株式会社は、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないとして、株主平等の原則を定めている。新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできない。しかし、株主は、株主としての資格に基づいて新株予約権の割当てを受けるところ、法278条2項は、株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは、株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定するなど、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としていると解されるのであって、法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである。」

「株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちにどう原則の趣旨に反するものということはできない。そして、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の基礎となる事実が実際には存在しなかったり、虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。」

このように、ブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)は、株主平等原則の趣旨が及ぶとした上で、発行が必要かつ相当かという判断枠組みを示していいます(しかも発行の必要性については、株主総会の判断が尊重されます)。論証例を示すと以下の通りです。

【論証例】


 前提として、新株予約権無償割当ては新株予約権者の間で差別的取扱いをするものにすぎず、直ちに109条1項の定める株主平等原則に違反するわけではない。もっとも、株主に割り当てられる新株予約権の内容は同一であることが前提とされていること(278条2項)に鑑みれば、同原則の趣旨は新株予約権無償割当てにも及んでおり、この趣旨に違反した割当てには法令違反の差止事由が存在すると解すべきである。
 その上で、①特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになった場合は、②その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取り扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に違反するとはいえない。なお、①の検討に際しては、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵がない限り、会社の利益の帰属主体である株主自身の判断を尊重するべきである。

 
4 主要目的ルールの適用の可否について

 近侍は、買収防衛策として、新株予約権無償割当てや募集新株予約権の発行が行われる傾向にあります。この場合、会社支配権に影響を及ぼす目的があることが明らかである一方で、資金調達目的は肯定されづらいため、資金調達目的を重視した形での主要目的ルールの運用は行いにくいという問題点があります。この場合に、主要目的ルールを適用せず、どのような基準で新株予約権の無償割当ての不公正発行該当性を判断すべきか、学説上争いがあります。
 この点、学説では新株予約権無償割当てが資金調目的であるとは認められない場合には、ブルドックソース事件やニッポン放送事件抗告審決定等で示された基準で判断すべきとする説が有力です。判例は、株主平等原則の問題と同様、「著しく不公正な方法」該当性についても、防衛策の必要性と相当性の要件を満たす場合には、例外的に新株予約権無償割当てが許容されると解しています。そのため、本件においても、甲社の採用した防衛策の必要性と相当性が満たされるか否かで検討すべきことになります。

5 本問における検討
⑴ 247条の類推適用の可否

 本問では、乙社にも本件新株予約権は無償で割当てを受けるものの、乙社は「非適格者」となるため、新株予約権を行使することができません。そのため、他の株主が本件新株予約権を行使すれば、乙社の持株比率は低下することになるため、本問では株主の地位に実質的変動が及ぶといえ、247条の類推適用が認められることになります。
(なお、採点実感によれば、247条の類推適用の問題であることにすら気づけなかった答案があるようですが、そもそもの前提となる247条の指摘段階で間違えてしまうと、その後の論点が続かなくなる危険性があり、大きな致命傷となる危険があります。そのため、近年の最高裁判決まで入念に確認しておく必要があるでしょう。)
 247条が類推適用されることにより、本件新株予約権の無償割当てが①法令又は定款に違反する場合(1号)、または、②著しく不公正な方法により行われる場合(2号)において、株主が不利益を受ける恐れがある場合には、株氏は会社に対して本件新株予約権の無償割当ての差し止めを請求することができることになります。

⑵ 法令違反について〜株主平等原則との関係について〜

 乙社としては、甲社が、乙社を非適格者として新株予約権の行使を認めないとしていることは、新株予約権者である乙社の差別的な取扱いを内容とするものであり、株主平等原則(109条1項)又はその趣旨に反し、法令に違反するものであると主張することが考えられます。
 この点、新株予約権の割当ては、会社が有する自己株式を除いて、株主が有する株式の数に応じて行われなければならないとされている点が参考になります(278条2項)。このことからすれば、本件無償割当ては、基準日の最終の株主名簿に記録された株主に対して、その有する甲社の株式の1株について2個の割合で新株予約権が割当てられます。本件新株予約権1個の行使により甲社の株式1株が行使されることになり、乙社についても新株予約権は割当てられるものの、本件新株予約権の行使条件として、「非適格者は新株予約権を行使することができないものとする」という差別的条件が定められているため、乙社は新株予約権を行使することができません。したがって、他の株主が本件新株予約権を行使すれば、乙社の持株比率は低下するという関係にあります。
 この点、上記ブルドックソース事件によれば、株主平等原則の趣旨は、新株予約権の無償割当てにも及ぶとした上で、「①特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになった場合は、②その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取り扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に違反するとはいえない。」旨判示していますから、本問では①、②の点について検討を進めていくことになります。

ア ①について
 本件新株予約権の無償割当てに関する議案は、甲社のそう株主の議決権の90%を有する株主が出席した本件定時株主総会において、出席株主の67%が賛成したことで可決されています。このことからすれば、会社の特別決議が承認されるほど、乙社の提案が甲社の企業価値を毀損し、かつ甲社の利益ひいては株主共同の利益を害することになるといえるでしょう。
なお、本件株主総会の手続に特段問題はないことから、本件株主総会は株主の判断の正当性を失わされるような重大な瑕疵は存在しないと認められるでしょう。
イ ②について
 本件では乙社は平成30年3月31日時点で甲社株主の議決権の20%を保有していたところ、本件株主総会では甲社株主の議決権の90%を有する株主が出席したことから、乙社も本件株主総会に参加したと推認され、乙社は総会において一定の意見をいう機会自体はあったといえそうです。また、たしかに、甲社の差別的な取扱いは乙社にとって経済的な損害を与える性質があります。しかし、買収防衛策としての導入策の是非が株主総会の決議(勧告的決議)に委ねられており、また乙社が甲社株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には、甲社は本件新株予約権無償割当てにより割当てた新株予約権の全てを無償で取得できることが規定されていたことから、乙社には撤退可能性が保障されていたと評価することができます。
 したがって、衡平の理念に反し、相当性を欠くとまではいえないでしょう。
 以上からすれば、本件新株予約権無償割当ては、株主平等原則の趣旨に反するとまではいえず、法令違反については認められないという整理になると考えられます。

⑶ 著しく不公正な方法について

 上記したように、新株予約権無償割当ては基本的に資金調達目的で行われるものではなく、本件新株予約権無償割当ても買収防衛策として行われており、資金調達目的でないことは明らかです。そのため、主要目的ルールを適用するのに馴染まないといえます。そこで、本件新株予約権無償割当ての適否は、甲社の採用した防衛策の必要性と相当性が満たされるか否かで検討すれば足ります。
 本件乙社は過去に敵対的な買収により対象会社の支配権を取得し、経営陣を入れ替え、対象会社の財産を切り売りする投資手法をとったことがあり、現に乙社は甲社の資産を売却する提案をしていることからしても、甲社を食い物にしようとしている可能性があると認められるでしょう。また、SNSにおいて甲社の事業について理解がないような発言があることからしても、甲社を支配下に置いたのちに焦土化経営をするおそれも否定し難いです。これらのことからすれば、買収防衛策を講じる必要性が認められます。また、前記したとおり、乙社には撤退可能性が保証されており、相当性は欠かないといえます。
 以上からすれば、本件新株予約権無償割当ては、買収防衛策として必要かつ相当なものといえ、「著しく不公正な方法」に該当しないと判断することができるでしょう。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第43回は
令和元年司法試験の商法から新株予約権の無償割当て​」 合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2024年2月16日   たまっち先生 

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