こんにちは、たまっち先生です。
今回は、平成18年新司法試験の刑事訴訟法を用いて、共謀メモ(犯行計画メモ)について、実際のA答案とC答案の比較検討を通してレクチャーしていきたいと思います。
刑事訴訟法において伝聞証拠が重要論点であることは言うまでもありませんが、その伝聞証拠の中でも共謀メモは特に難解な論点になります。ただ、逆に言えば伝聞証拠の最高峰がこの共謀メモですから、共謀メモについて理解できる程度の力を付けてしまえば、予備試験・司法試験で問われる伝聞証拠については全く心配する必要がなくなるということになります。本記事を通して、まずは共謀メモの類型を理解した上で、要証事実の設定と当該要証事実ごとの処理方法をマスターしていただければと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「7.事実を規範に当てはめできる」との関連性が強いと考えられます。
司法試験受験生レベルであれば、伝聞証拠の規範を覚えていないという受験生は少ないと考えられ、勝負となるのは、事実の当てはめになります。特に、要証事実をどのように設定するかという点は、伝聞証拠の理解度によって差が付く部分です。当該刑事裁判において、被告人はどのような認否をしているか、裁判における争点は何か、証拠はどうなっているか、等を踏まえ適切な要証事実を設定し、かかる要証事実との関係で当該供述証拠の内容の真実性が問題となるかを慎重に検討していくことがポイントになります。
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供述証拠には,知覚・記憶・叙述の各過程に誤りが混入するおそれがあるため,公判期日における反対尋問等により供述の信用性をテストする必要があります。そのような信用性のテストを経ることのできない伝聞証拠は,類型的に事実認定を誤る危険性があるため、原則として証拠能力が否定されることになります。
上記趣旨に鑑みて、伝聞証拠とは ①公判廷外の供述を内容とする証拠(「書面」又は「供述」)であって、かつ、②要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる証拠をいう、と解されています。つまり、「供述の内容どおりの事実があったこと」を証明するための証拠として当該供述証拠を使用する場合には、当然その供述が真実でなければ証拠として意味をなさないことになりますから、伝聞証拠に該当することになります。他方、当該供述の内容には立ち入らず、当該供述が存在すること自体を証拠として用いる場合(=物証)には、当該供述証拠の内容の真実性は問題とはならないことから、非伝聞ということになります。
ア 要証事実の重要性
「供述内容の真実性を立証するため」に用いるかどうかという点については、その証拠の要証事実が何であるかによって決されます。
問題を解く際は、まず
① 個別の立証趣旨から、何が証明対象事実かを考える。
→当該立証趣旨に含まれる一定の事実のうち、当該供述証拠から直接立証できる事実は何か、という観点から考えると良いです。
↓
② 当事者が設定した立証趣旨をそのまま前提にすると、証拠として無意味になるような例外的な場合には、実質的な要証事実が何かを検討することになります。
上記の点からすれば、要証事実とは、当該供述から直接立証できる事実であって、かつ、被告人を有罪にする上での証拠として意味のある事実、であると考えることができます。
イ 精神状態の供述
伝聞証拠となるか非伝聞証拠となるか学生上争いがあるものとして、現在の心理状態を表現すること(精神状態の供述)を、そのような内心の真実性を立証するために用いる場合がある。多数説は、精神状態の供述は、知覚、記憶の正確性は問題とならないことから、非伝聞証拠になると解しています。細かい争いはありますが、受験生的には、精神状態の供述は非伝聞となると覚えておいて問題ないでしょう。
共謀メモは、伝聞証拠の中でトップクラスに難しい論点です。平成18年の司法試験で出題されて以来、長らく出題されておりませんが、伝聞証拠の重要性に鑑みると、再度出題される可能性は十分にあると思われます。そこで、ここでは共謀メモの考え方について解説していきたいと思います。
共謀メモの出題パターンは以下のように類型化することができます。
① 要証事実が「事前謀議の存在」である場合
当該メモをその内容の真実性を証明するために用いる場合(=当該メモに記載された内容通りの事前謀議があったことを証拠として使いたい場合)ですから、これが伝聞証拠に当たることは明らかであり、当該メモの証拠能力が認められるためには、伝聞例外に該当するか否かを検討することになります。
② 要証事実が「作成者の犯行の意図・計画」である場合
作成者の単独犯の場合には、作成者の犯行計画・意図は、そのまま証拠として意味がありますが、これとは異なり、共謀事案の場合であって、作成者以外の者の公判において用いる時には、謀議参加者間の何らかの共通意思が形成されたことが別の証拠によって証明されているという事情があって初めて、作成者の意図・計画の証拠として用いることに意味があります。
なお、当該メモが謀議者間で回覧され確認された時には(回覧・確認の証明が必要だが、例えば当該メモに全員の署名があれば足りる)、謀議・参加者間全員の供述であって、要証事実は、「謀議参加者全員の犯行計画・意図」ということとなり、上記と同様に、非伝聞として関連性があれば証拠能力が認められることになります。
③ 犯行計画メモは、要証事実が「メモの存在と内容」である場合
要証事実が「メモの存在と内容」とされている場合は、基本的に非伝聞となります。なぜなら、このような要証事実が設定されるのは、以下のような場合だからです。
謀議の形成手段とされた場合(メモの内容に立ち入らずとも、メモが存在すること自体が、謀議者全員が共謀をしたのかもしれないという推認する証拠として意味があるため、非伝聞となります。)
偶然の事情による一致とは考えがたい時は、当該犯行が当該メモの記載の計画に則ってなされたことが推認されます。
ア 当該メモ作成者が当該犯罪内容を知っていたことを推認し、
さらには、無関係な者がそのような犯行計画を知るとは認めがたいときは、メモが存在すること自体が、もしかしたら作成者自身が当該犯罪に何らかの関与をしていたことを推認する証拠として意味をなすため、非伝聞となります。
イ 当該メモを所持していた者の犯行関与を推認する場合には、
メモの存在自体がメモの所持者がもしかしたら当該犯罪に関与していたのではないかと推認する証拠として意味をなすため、非伝聞となります。
ウ 当該メモ中において役割が記載された者に相当する者の犯行への関与を推認する場合には、
そのようなメモが存在すること自体がその者が当該犯罪に関与していたのではないかと推認する証拠となるため、非伝聞となります。
エ メモ作成者以外の者が実行行為を行っている場合で、
メモ作成者と実行行為者との間の共謀を推認する場合には、実行行為者以外の無関係な者が偶然そのようなメモを作成することは考え難く、当該犯行がメモ記載の計画に則って行われたことが推認されるという意味で証拠として意味をなすため、非伝聞となります。
なお、以上のように類型化することができますが、注意しなければならないのは、一つのメモであっても、複数の証拠として利用する可能性があるという点です。実際、本問でも2つの使い方が想定されます。要証事実をどのような事実に設定するかによって、証拠の使用方法も変わってくる点に留意してください。
本件メモについては、上記①のパターンと上記③⑵アのパターンで利用することが考えられます。具体的には以下のように検討していくことになります。
甲の公判廷における供述によれば、本件メモは、乙が「この地図のとおりに逃げて、J公園の茂みのところで車を乗り捨てて、金だけ持って、公演の東出口まで来てちょうだい。そこで、私が車の中で待ってるから。」と述べたことに対し、甲が乙の書いた「×」印のすぐ下に、「乙、車の中で待ってる。」と書き入れ、地図の下に乙から言われたことを「決行は、24日閉店まぎわ」、「名前がわかる物は持って行かない」、「車は盗んだものを使う」、「取った金は半分ずつ分ける」というように書き留めたものです。そうすると、本件メモは、甲が乙の供述内容を書面として書き留めたものということができます。
そして、本件メモは乙の公判廷において、共謀を立証するために証拠請求されており、乙の犯罪意思の存在を要証事実とする証拠として使用するため、本件メモの内容の真実性が問題となるといえます。したがって、本件メモは、伝聞証拠に該当することになります。
甲の公判廷における供述によれば、本件メモは、乙が乙方にあったレポート用紙にB支店からJ公園東出口付近までの地図を書き、公園の東出口付近に「×」印を付けたものに対し、甲が乙から「24日の閉店間際に入るといいと思う。」、「あんたの名前が分かってしまうと、すぐ私も疑われるから、自分の名前が分かるようなものは絶対に持っていっちゃだめよ。」、「だから、車も自分のを使わないで、盗んだ車を使ってね。」などと言われたことを書き留めたものである。また、「取った金は半分ずつ分ける」と記載されている部分については、乙が「取った金は半分ずつ分けるってことでどうかしら。」と言ったことに対し、甲は「それでいいよ。」と述べたものの、乙は金に汚い部分があるため、後で乙が変なことを言わないように甲が乙の目の前で書き留めたものです。以上のことからすれば、本件メモは、甲と乙が互いに本件犯行の方法を議論しながら共同して作成したものであり、甲と乙の精神状態が記載されたものということができます。
そして、本件メモは乙の公判廷において、共謀を立証するために証拠請求されており、乙の犯罪意思の存在を要証事実とする場合には、乙がメモ記載通りの犯罪意思を有していたという乙の精神状態の供述といえますので、知覚・記憶の真実性は問題とならず、非伝聞に該当することになります。
また、メモを共謀の存在自体を推認させる 情況証拠として使用する場合には、記載内容の真実性から独立した証拠価値が認められるため、メモの存在自体が要証事実となり、非伝聞に該当することになります。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第40回は平成18年新司法試験の刑事訴訟法から「共謀メモ(犯行計画メモ)」 合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2023年11月6日 たまっち先生
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