『解雇』合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第36回~平成23年 司法試験 労働法~

たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」  36回  
「解雇
合格答案のこつ

平成23年 司法試験 労働法問1から

第1 はじめに

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、平成23年司法試験労働法第1問を題材として、「解雇」について実際のA答案とC答案の比較・検討を通して解説していきたいと思います。

| 目次

第1 はじめに
第2 A答案とC答案の比較検討
第3 BEXAの考える合格答案までのステップとの関連性
第4 本問に関連する論点

  【問題文及び設問】
  1 概説
    【解雇の論述用フレームワーク】
  2 労契法上の解雇権濫用規制
    ⑴ 解雇要件の構造
    ⑵ 解雇の合理的理由
    【解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由」】
    ⑶ 解雇の相当性
    【解雇権濫用法理における「社会通念上相当」性】
    ⑷ 本問の検討
  3 労基法上の予告義務と同義務に違反した場合の解雇の効力
    ⑴ 解雇予告手当
    【解雇予告義務違反の解雇の効力】
    3_⑵ 本問の検討
  4 有期労働契約における期間途中解雇
    ⑴ 労契法17条1項による解雇規制
    4_⑵ 本問の検討

第2 A答案とC答案の比較検討

(60点以上をA答案、40点台の答案をC答案としています。)
【A答案とC答案】

 では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
 A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

A ポイント

設問⑴
1 Xに対する解雇が有効であるためには、①客観的合理性、②社会的相当性を要する(労働契約法16城)。以下、それぞれについて、検討する。
2 ①客観的合理性について
客観的合理性とは、解雇事由該当性があることをいうところ、本件で、Xの解雇はY社の就業規則37条1項3号を根拠になされたものと考えられる。
⑵ 前提として、37条1項3号の規定は合理的といえるか。
ア 確かに、「障害」や「適性を欠く」、「業務に耐えられない」という文言は広範すぎるとも思える。しかし、全ての自由を詳細に規則に定めることを要求することは、使用者に酷であるから、職種等を考慮して、社会通念上該当事由が認識できる程度に規定されていれば足りると解する。
イ 本問では、Y社はトラック運送業を営む会社であるから、従業員は、正常に運転できる能力を有していることが必要不可欠であり、障害や適性もこれを基準とすることによって社会通念上該当事由を認識できる。
よって、37条1項3号の規定は合理性を有する。
⑶ では、Xは、37条1項3号に該当するか。
ア この点、Xは疾病を併発しているものの、通常の運転業務に支障は生じない程度のコントロールができるのであるから、これだけでは、業務に耐えられないとは言えず、該当性を欠くとも思える。
イ しかし、Xは疾病以外にも、暴飲暴食をするという問題点があり、これが原因で、乗車前の飲酒検査で乗車不適とされたことが数度あるし、また、事故を起こしたこともあった。そして、再三の注意と反省文や誓約書の提出にもかかわらず、X の暴飲暴食は改善されず、23年1月15日は、意識を失って病院に運ばれている。
このような、Xの暴飲暴食は、幾度の注意でも改善されないことからすると、いわばXの属性ともいうべきである。
そして、X の内臓疾患と糖尿病の併発に加え、暴飲暴食の属性が合わさると、意識の混濁が生じる可能性があり、このような症状がX に現れると、Xは、トラックを正常に運転する能力が欠けているといえる。
ウ よって、Xは、37条1項3号に該当する。
⑷ なお、X の暴飲暴食や無断欠勤からすると、37条1項2号にも該当するとも思えるが、Y社の解雇理由証明書には2号に該当する事由は明示されていないため、仮にY社が認識をしていたとしても、解雇事由にはならないと解する。
3 ②社会的相当性
⑴ 社会的相当性とは、解雇が相当性を有するかと意味するところ、比例原則、適正手続原則の見地から判断する。
⑵ まず、Xは、乗車不適とされたことが幾度もあり、事故を起こしたこともあるし、意識を消失して病院に運ばれたこともある。これらは全てXの暴飲暴食が原因であるが、X の暴飲暴食は、厳重注意や懲戒処分、反省文、誓約書の提出によっても、改善されなかった。そして、トラックの運転手という人の生命への危険も伴う職業であることからすると、Xの暴飲暴食による上記行為は、非違行為として程度の高いものである。
とすれば、その非違行為に対して、解雇という選択をすることも、手段として過剰であるとはいえないと解する。
⑶ 他方で、Y社としては、Xに対して、反省文の提出、けん責処分、再三の注意、誓約書の提出を求める際、段階的にできることを行っており、Xに更生の機会を与えているから、適正に手続を経ているといえる。また、懲戒解雇ではなく普通解雇として解雇予告手当も支払うなど、Xの生活への配慮もしている。
⑷ 以上のことからすると、Y社の解雇は、相当性を有するといえる。
4 したがって、Xに対する解雇は有効である。
設問⑵
1 Xは、平成23年3月31日までを期限とする、期間の定めのある労働契約の労働者であるから、Xに対する解雇が有効であるためには、労働契約法17条1項の要件を満たす必要がある。では、本問では17条1項の要件を満たすのか。「やむを得ない事由」があるといえるのか。
2 では、「やむを得ない事由」をどのように解するべきか。
⑴ この点、17条の趣旨は、期間の定めのある労働契約の労働者は、当該期間の間は生活保障があることを期待して、自己の計算で契約を締結しているのであるから、特にその期待は保護すべきであるという点にある。
⑵ とすれば、「やむを得ない事由」とは、16条の解雇よりもさらに厳格に解すべきであり、会社にとって著しく重大な支障となるほどに、雇用を継続し難い事情があることをいうと解する。具体的には、職種、事由の重大性、手続、解雇回避努力等の事情から総合判断する。
3 本問では、Y社は運送業であり、労働者の安全、適切な運転能力は必須である。特に、飲酒運転は社会において厳罰傾向にあり、会社も非難を免れないから、社員の管理には配慮する必要があるといえる。にもかかわらず、Xは、先述の通り、暴飲暴食を再三の注意にもかかわらず改善することができず、このままでは、いずれ他人の生命にも危険を及ぼす大事故を起こす危険性はかなりの高い確率であったと考えられる。とすれば、Xは運転手として適正を欠き、その程度も重大である。
そして、Y社としては、Xに対して懲戒処分等の手続を踏むとともに、解雇回避努力もしてきたが、X の改善の余地はないため、これ位以上Xを雇用することは、Y社にとって著しく重大な支障が生じるから、雇用を継続し難い事情があるといえる。
4 よって、Xの解雇には、「やむを得ない事由」があり、有効である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

客観的合理性と解雇事由の関係性について簡潔ながらも言及できています

 

 

 

 

 

 

 

 

解雇事由の意義を自分なりに解釈できています。もっとも、就業規則の規定は合理性を有することが前提とされていたと思われるため、あえて論じる必要まではなかったでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本問のメインである就業規則37条1項3号該当性を丁寧に検討できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疾病以外にも、暴飲暴食等を原因として、運転手としての適性を欠いており、業務に堪えることができないという事情を指摘できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1号、2号該当性についても簡潔に指摘できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有期労働契約における契約期間中の解雇は期間の定めのない労働契約における普通解雇に比して厳格に判断されることを指摘できています。

C答案

Cポイント

第1問 設問(1)
Xは疾患により意識障害を引き起こし重大な危険を発生させるおそれがあることを理由に解雇されているが、この解雇は懲戒解雇としてなされたものか普通解雇としてなされたものか明らかではない。そこで懲戒、普通解雇として有効か検討する。
1 懲戒解雇(労働契約法15条)
使用者が懲戒解雇を行う要件として根拠規定の存在、根拠規定の該当性、相当性が必要である。本問ではYには懲戒解雇の効果規定しか存在せず(就業規則58条)要件規定が存在しないため懲戒解雇を行うことはできない。
2 普通解雇(労契16条)
使用者が普通解雇を行う要件として根拠規定の存在、根拠規定の該当性、相当性が必要である。
⑴ 根拠規定の存在
就業規則37条に普通解雇の根拠規定が存在する。
⑵ 根拠規定の該当性
①能率が著しく不良で、向上の見込みがなく転換できないとき
Xは交通事故を起こし立ち往生することがあったが、このような事態を起こすことは荷物を安全に決められた時間に配送するというトラック運転手にとっての業務能率が著しく不良と言える。
また交通事故の原因である暴飲暴食について注意を受けたにもかかわらず直そうとしていないため向上の見込みはない。
Yは小規模会社である上、トラック運転手以外の事務職の配置人員は少ない。Xをトラック運転手以外に転換することはできない。なおパートタイマーの事務職がいるものの人数が少ないことから転換困難であることには変わりない。
イ ②勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、職責が果たせないとき
トラック運転手にもかかわらず乗車前に飲酒をし、意識障害の原因である暴飲暴食により交通事故を起こしたり、意識を失い乗車できなくなったことがあるなど勤務状況は著しく不良であると言える。
けん責を受け、誓約書を提出したにもかかわらず繰り返しており改善の見込みがないと言える。
飲酒、意識障害を抱えたままではYは運転させることはできずXはトラック運転手としての職責が果たせないと言える。
なお、Xは飲酒について以前にけん責を受けているため飲酒を解雇理由とすることは2重処罰にあたり許されないとも思えるが、懲戒と普通解雇は異なるため2重処罰に反せず許される。
ウ ③適性を欠き業務に耐えられないと認めるとき
トラック運転手が運転中意識障害を起こせば重大な事故を引き起こすおそれがあるが意識障害を起こす持病を抱え改善する見込みがないXはトラック運転手としての適性を欠き、業務に耐えられないと認められる。
⑶ 相当性
意識障害の危険を抱えたXに勤務を継続さることはYにとっては事故により顧客との契約が果たせないだけではなく、事故による信用低下、損害賠償など多大な損害が生じるおそれがある。またYは誓約書を提出させるなどしてXに暴飲暴食をやめさせる努力を繰り返してきたことからYが解雇を選択する必要性は高い。
他方、Xは運転手としての経歴を買われ月給30万という高待遇で雇われていたにもかかわらずにもかかわらずXが暴飲暴食をせず何度も意識障害を繰り返しておりXには疾患をコントロールすることはできていない。
このような以上のことを鑑みればYがXを普通解雇することは客観的に合理的理由があり社会通念上相当と言える。
以上からYのXに対する普通解雇は有効である。
設問(2)
1 期間満了前の解雇(労契17条)
期間の定めのある労働契約は期間満了前は解除できないのが原則であり、やむを得ない事由が存在する場合に例外的に解除することができる。
期間満了前の解除は労働者に重大な影響を及ぼすことからやむを得ない事由は労働契約法16条よりも厳格な事由に限定される。
⑴ やむを得ない事由
ア 不適格性
Xはトラック運転手として大変危険な意識障害という疾患を有しその疾患の原因である暴飲暴食をYが再三注意しているにもかかわらずXが直そうとしないし現にXは重大事故を起こしている。このような事情からXはトラック運転手としての適格性を欠く
イ Yの不利益の重大性
ひとたび事故を起こせば、契約の債務不履行だけでなく被害者から莫大な損害賠償を請求されるおそれがありYにとっての不利益は重大である。
ウ 転換の困難性
Xは15年の運転経験を買われ月給30万の高待遇で雇われており、Yは小規模な会社で運転手以外の人員が少ないことからXを運転手以外の職に転換することが困難である。
以上を総合するとYが期間満了前にXを解雇することについてやむを得ない事由が存在すると言える。

 

 

 

 本件就業規則を見ると、就業規則第37条に普通解雇に関する規定が具体的に掲げられています。他方、懲戒に関する第58条も挙げられておりますが、懲戒事由については具体的な規定が挙げられておりません。そのため、本件の解雇は普通解雇であると考えるのが通常であり、労契法16条との関係で本件普通解雇が有効といえるのかを論じることになるでしょう。

 

 

別紙に掲げられた就業規則の中に懲戒事由に関する規定が挙げられていないことを踏まえ、本件解雇が普通解雇であることを的確に指摘できています。

 

 

 

解雇権濫用法理から離れてしまっています。労働契約法16条は解雇が有効であるためには、①客観的合理性、②社会通念上相当性が必要であると規定しているため、必ず①、②に当てはめる必要があります。採点実感でも、「労働契約法第16条の解雇権濫用法理の検討においては,客観的合理的理由と社会的相当性の2つの要件が掲げられている趣旨あるいは客観的合理的理由の要件と就業規則該当性の関係など,解雇規制に関する法律構成の枠組を整理して理解していない答案かが多く,例えば,上記各要件を分けずに解雇の効力を論じている答案が相当数あった。」と指摘されています。
なお、かなり甘めに論述の趣旨を汲み取って「根拠規定の存在、根拠規定の該当性」部分が①の点を指していると読んだとしても、普通解雇の根拠規定があり、かつ、普通解雇事由に該当する場合であっても①が直ちに認められるわけではないため、本答案の論述はいずれにせよ答案としては不十分です。

 

 

 

解雇事由ごとにそれぞれ分けて検討することができており好印象です。
もっとも、解雇事由と客観的合理性の関係性については言及できおらず、やや残念です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解雇理由証明書には,解雇事由として,「Xは,糖尿病や内臓疾患を患っていて,疲労等を引き金に意識障害に陥ることがあり,その結果,重大な交通事故を発生させる危険 性を常に有しているため」と記載されており、解雇の有効性を検討する際の中心となるのは、就業規則37条1項3号該当性であると考えられますが、C答案は同号該当性の検討が非常に薄くなっています。

 

 

 

 

 

 

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「4、各科目の答案の「型」がわかる」との関連性

 BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「4、各科目の答案の「型」がわかる」との関連性が強いと考えられます。

 

 解雇は労働法の中でも最も基本的な論点であり、これを書けなければ受からないと言っても過言ではないくらいに重要度が高い論点です。
平成23年司法試験第1問は非常にオーソドックスな問題であるため、基礎固めを行う問題として有用です。
 解雇権濫用法理に照らし、就業規則のどの解雇事由に当たるのか、解雇事由に該当するとしても客観的合理性が認められるのか、解雇まで行うことが社会通念上相当だったのか、について問題文の事実を丁寧に評価して検討する必要があります。

第4 本問に関連する論点

【問題文及び設問】

平成23年司法試験労働法第1問の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/000073975.pdf

1 概説

「解雇」とは、使用者による労働契約の解約、要するにクビのことをいいます。解雇権の根拠は民法627条1項前段にあります。解雇が問題になったときは答案上で必ず指摘するようにしてください。
 労働者は仕事がなくなると生活できなくてめっちゃ困るので、労基法、労契法はそれぞれ解雇に関する規制を設けています。ただ、メインとなるのは本問でも問われている解雇権濫用法理ですから、解雇の検討は以下のフレームワークに従って行えば基本的に問題ありません。

【解雇の論述用フレームワーク】

[STEP1]期間の定めのない労働契約の解雇が原則自由(民法627条1項前段)であることの指摘

[STEP2]労基法による解雇制限の検討(労基法19条、20条等)

[STEP3]「客観的合理的理由」(労契法16条)の検討
就業規則の解雇事由該当性

[STEP4]「社会通念上相当」(労契法16条)の検討
 
2 労契法上の解雇権濫用規制

⑴ 解雇要件の構造
解雇が就業規則に基づいて行われた場合、解雇権濫用(労契法16条)の判断は、就業規則の解雇事由該当性の判断(「客観的に合理的な理由」)と、解雇の相当性(「社会通念上相当」)の判断に分けて検討することになります。

⑵ 解雇の合理的理由
ア 総論
 解雇の合理的理由では、就業規則の解雇事由該当性を中心に検討することになります。そして、解雇は労働者に雇用喪失という重大な不利益をもたらすものであるため、最後の手段としてのみ許されることに注意が必要です(最後の手段の原則)。
 なお、平成23年司法試験労働法出題趣旨では、「まず,Xについて解雇事由があるかどうかを論じる必要がある。この点は,Y社がXに示した解雇理由を踏まえつつ,具体的事実関係に即して,就業規則に定める解雇事由該当性を論じることになる。次に,解雇事由があるとした場合,それが客観的で合理的な理由といえるか,さらに,当該解雇事由を理由とする解雇が社会通念上相当であるかどうかを論じる必要がある。」と指摘しており、解雇事由と客観的合理的理由とを区別して論じることを求めているようにも読めます。
 もっとも、この点については学説上も争いがあるため、受験生としてはそこまで難しく考える必要はなく、解雇事由を客観的合理性とは区別して論じても構いませんし、客観的合理性の考慮要素の一つとして論じても構いません。
私は受験生時代、後者の立場を採用していたため、以下の論証は後者の立場に立った際の論証となっています。

【解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由」】

(解雇権の根拠(民法627条1項前段)の指摘に続けて・・・)
 もっとも、解雇は労働者に雇用喪失という重大な不利益をもたらすものであるため、最後の手段としてのみ許される。そのため、労働者の解雇事由が雇用を終了させてもやむを得ないと認められる程度に達している場合にのみ「客観的に合理的な理由」(労契法16条)があると解する。
 具体的には、解雇事由を就業規則の絶対的記載事項(労基法89条3号)とした労基法の趣旨から①就業規則の解雇事由に該当することが必要である。また、最後の手段の原則から、②労働者の解雇事由が重大で業務に支障を生じさせ、または反復・継続的で是正の余地が乏しく、③使用者が解雇回避努力義務を尽くしたことが必要である。

⑶ 解雇の相当性
 解雇の合理的理由がある場合でも、解雇が労働者に均衡を失するほどの不利益を及ぼすものである場合には、「社会通念上相当」といえず、解雇は無効となります(労契法16条)。
 考慮要素としては、労働者の情状、他の労働者の処分との均衡、使用者側の対応・責任、解雇手続等が考慮されることになります。論証は以下の通りです。

【解雇権濫用法理における「社会通念上相当」性】

解雇の合理的理由がある場合でも、解雇が労働者に均衡を失するほどの不利益を及ぼすものである場合には、「社会通念上相当」とはいえず、解雇は無効となる。具体的には、労働者の情状、他の労働者の処分との均衡、使用者側の対応・責任、解雇手続を考慮して判断する。

⑷ 本問の検討
ア 客観的合理性

  (ア)解雇事由該当性
まず、解雇事由該当性について検討していくことになります。解雇理由証明書には、解雇事由として、「Xは、糖尿病や内応疾患を患っていて、疲労等を引き金に意識障害に陥ることがあり、その結果、重大な交通事故を発生させる危険性を常に有しているため」と記載されています。当該解雇理由に直接的に関係しそうな規定は、就業規則37条1項3号ですから、同号該当性をメインに検討してくことになるでしょう。
就業規則37条1項3号の規定は、「精神若しくは身体の障害により、又は適性を欠くため、業務に堪えられないと認められたとき」と規定しているため、
① 精神or身体の障害により、業務に堪えられないといえるか
② 適性を欠くため、業務に堪えられないといえるか
をそれぞれ検討していくことになります。
本件では、XはY社に入社する前から内臓疾患及び糖尿病という持病があり、これは身体の障害により業務に堪えられないことを推認する一要素となります。ただ、問題文最後の段落にもある通り、内臓疾患と糖尿ぼうを併発している場合であっても適切な食生活と投薬治療により通常の運転業務には支障がないとされていることからすれば、X の持病のみをもって解雇事由に該当するとは言い難いと考えられます。
他方、XはY社入社後も暴飲暴食を辞めず、無断欠勤をした上で、その翌日の乗車前の飲酒検査で乗車不適とされるなど、Xはトラック運転手として雇用されておりトラックの運転業務を行うことを求められているにもかかわらず、飲酒運転の状態で出勤するという適格性の欠如を推認させる事情があります。他にも、意識朦朧の状態で運転を行い自損事故を引き起こすなど、一歩間違えれば人身事故に繋がり、Y社に対しても大損害を生じさせかねない勤務態度をとっています。加えて、Xは暴飲暴食を辞める誓約書を提出した後も、同様の暴飲暴食を繰り返しており、再び運転中に意識朦朧状態に陥るなど反省の態度も見受けられない状態です。これらの事情に鑑みれば、Xはトラック運転手としての自覚を欠いており、いつ重大な事故を引き起こし会社及び第三者に大損害を生じさせても不思議ではない状態にあったことからすれば、「適性を欠くため、業務に堪えられないと認められたとき」にあたると評価することができると考えられます。
したがって、Xは就業規則37条1項3号の解雇事由に該当すると考えられます。

  (イ)労働者の解雇事由が重大で業務に支障を生じさせ、または反復・継続的で是正の余地が乏しいこと
Xがこれまで実際に意識朦朧の状態で運転をして自損事故を引き起こしていること、さらに意識朦朧状態での運転を辞めようとしないこと、運転業務という性質上意識朦朧状態で業務に従事すれば重大な事故につながる危険性が高いこと、からすれば、Xの解雇事由が重大でY社の業務に支障を生じさせ、または反復・継続的で是正の余地が乏しいと認められるでしょう。

  (ウ)使用者が解雇回避努力義務を尽くしたこと
Y社としては、いきなり解雇処分にしたわけではなく、反省文の提出、けん責処分、再三の注意、誓約書の提出を求める等、解雇回避努力義務を尽くしていると認められます。

  イ 社会通念上相当性
 本件では、上述の通り、Y社はXに対して、注意やけん責処分を行った上で、それでも全く勤務態度の変わらないXに対して解雇を行ったものであるから、解雇によるXの不利益を考慮しても、均衡を失するものとはいえないと考えられます。
したがって、本件解雇には社会通念上の相当性が認められると考えられます。

3 労基法上の予告義務と同義務に違反した場合の解雇の効力

⑴ 解雇予告手当
 使用者は労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされています(労基法20条1項本文)。この予告日数は、平均賃金1日分を支払った日数だけ短縮することができます(同条2項)。
同条の趣旨は、民法上の2週間の解雇予告期間のうち、使用者が一方的に行う解雇について、それに伴う労働者の生活上の打撃を和らげる趣旨で、予告期間を30日に延長する、または、平均賃金の30日分の予告手当を支払うことを求めたものです。使用者としては、労働者を解雇するには原則として少なくとも30日前に労働者に予告する(予告期間)、30日分以上の平均賃金を支払う(予告手当)、または、予告期間の日数と予告手当の日数を合計して30日以上とする、のいずれかの措置をとらなければなりません。
 なお、解雇予告義務に違反した場合の解雇の効力が論点となりますが、この点については、細谷服装事件(最判昭和35年3月11日民集14巻3号403頁)において、最高裁は、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇通知後30日が経過した時点または通知後に所定の解雇予告手当を支払った時点で解雇の効力が発生すると解しています(相対的無効説)。
試験的には、下記の論証を覚えておけば十分でしょう。

【解雇予告義務違反の解雇の効力】

即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日を経過するか、または通知の後に予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生じる(相対的無効説)

3_⑵ 本問の検討
 解雇予告手当の算定基礎となる平均賃金には、基本給15万円のみならず、乗務手当、無事故手当、家族手当、通勤手当も含まれることになります(労働基準法12条1項)。したがって、Y社としてはXに対し解雇予告手当として30万円を支払う必要があります。
 もっとも、本件では、Y社は15万円の解雇予告手当しか支払っていないため、労働基準法20条1項が要求する解雇予告手当が支払われたとはいえません。
したがって、即時解雇の効力は生じず、Xが解雇された平成23年1月31日から15日を経過した時点または解雇予告手当としてもう15万円が支払われた時点で解雇の効力が生じることになります(細谷服装事件参照)。

4 有期労働契約における期間途中解雇

⑴ 労契法17条1項による解雇規制
 労契法17条1項は、使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において,労働者を解雇することができないとしています。この規定は,期間の定めのある雇用契約はやむを得ない事由があるときには直ちに解約できるとする民法628条の反対解釈として,有期雇用契約(労働契約)はやむを得ない事由がなければ中途解約できないという解釈を,使用者側が行う一方的解約である解雇についてのみ確認し,労契法上明文化したものです。
 そもそも、契約期間に定めを設けることは、当該期間中契約を継続させる旨の合意を含むものであり,その契約期間中の契約継続の要請は期間の定めのない契約より高い点に注意が必要です。したがって,有期労働契約の期間途中での解雇を正当化する「やむを得ない事由」(労契法17条1項)とは,期間の定めのない労働契約における解雇を正当化する事由(16条)よりも限定された,より重大な事由であることが求められると考えられます。具体的には、無期労働契約における解雇の場合の客観的に合理的で社会的に相当な理由に加えて,期間満了を待たずに直ちに雇用を終了させざるを得ない特段の重大な事由が存在することが必要と解されます。

4_⑵ 本問の検討
 本問では、Y社は運送業であり、労働者の安全、適切な運転能力が要求される職業であるところ、飲酒運転は社会において厳罰傾向にあり、会社も非難を免れないから、社員の管理には配慮する必要があるといえます。それにもかかわらず、Xは、上記の普通解雇でも検討した通り、暴飲暴食を再三の注意にもかかわらず改善することができず、このままでは、いずれ他人の生命にも危険を及ぼす大事故を起こす危険性はかなりの高い確率であったと考えられます。また、Y社としては、Xに対して懲戒処分等の手続を踏むとともに、解雇回避努力もしてきましたが、これに対しX は態度を改善しようとはしていません。
 したがって、契約期間満了前に雇用契約を終了させざるを得ない特段の重大な事由があると評価することができ、「やむを得ない事由」があるといえ、本件解雇は有効となると思われます。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第36回は
平成23年 司法試験 労働法から「解雇」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年8月4日   たまっち先生 

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