新年度に入り、また5月になると、各校が募集要項やパンフレットを公開し始めるようになります。そしてその頃になると、そろそろ自分がどの法科大学院を受験すればよいか、悩むこともあろうかと思います。
他方で、たとえば巷でよく見かける「司法試験法科大学院別合格者数一覧」等では、人数に焦点を当てられています。新聞やマスコミの報道でも、話題性の観点から人数のみに着目し、報道するケースが殆どです。
しかし、皆さんの本試験合格可能性という点を考えるのであれば、人数だけで決めてしまうのは尚早であると考えます。実際に見てみると、人数は多くても「合格率は各校の平均以下」である学校もあります。他方で形式的な合格率だけを見ても、場所によっては「留年率が極端に高く、入学しても半ば必然的に留年するため、そもそも司法試験自体を受験できる人が限られている」という実情がある法科大学院もあります。
そのような事情を知らずに入学し、入学後に公開する方も多くいらっしゃいます。
たしかに一口に「それを知らずに入学した受験生が悪い」と片付けるのは問題がある一方で、その主張にも一理ある面もあります。
そこで今回は、皆さんが志望校を決定するとともに、入学後に悩まないようにするため、本件資料を作成し、各校の実態を精緻に分析しました。
特に令和6年度に法科大学院入学者選抜の受験を検討している皆さんの、少しでも力になれば幸いです。また この資料を基に、ご自身の受験校を決めることや、親御さんに対する受験校・進学先確定のための説得のツールとして利用いただければ幸いです。
なお本件資料は文科省が2023年2月20日頃に公表した最新版の資料に基づき、分析・作成しております。
各年度の法科大学院各校の司法試験合格率については、法務省のホームページ上 https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00026.html にて掲載されています。
しかし、上記法務省の資料では、①既修未修の合格率の別、②その年の3月に修了し、司法試験を受験した方々の修了率が記載されていないこと、③累計の合格率が記載されていません。
本表では既修・未修コースにより司法試験合格率に差があるという実態について、皆様にご理解いただきたく、作成しています。すなわち、在学中の1年だけで既修コース入学者と同等の知識を得られるかというと、それには大変な努力が必要であるという点をご理解頂ければと思います。
このことを理解の上で、入学前から予備校通学や基本書通読・演習書を解くことを通じて、未修者コース合格後はぜひ勉学に励んでいただければと思います。
また、自らが志望するロースクールの未修・既修コースが、どの程度の合格実績を出せているかという点を正確に把握することができます。
近年留年率を上げることで司法試験を受験する修了生を恣意的に選抜している学校もあると聞きます。そこで本表ではこの数値を含めたうえで、作成いたしました。
受験生は法科大学院各校の合格者数や合格率のみに意識が向きがちです。当然、法科大学院側も受験生のそのような意識を知っており、優秀な受験生を入学させるためには合格者数または合格率を上げることが必要不可欠であると認識しています。
他方で、法務省資料では公表されない「留年率」については、近年多くの法科大学院では悪化する傾向にあるというのが実情です。
そこで本表では、皆様に実態を把握して頂いたうえで、志望校選択をして頂きたく、修了率欄を作成しました。
(なお実質修了率、すなわち在学中既に本試験合格をしたことによる退学者を除く修了者数/入学者数で算出した実態値については、本稿⒉項記載の資料をご覧ください。)
特に、全体の標準修業年限修了率の半分以下が数年間も続いている法科大学院については、どうしてそのような事態が生じるのか・教育力に問題がないかといった点を含め、各自で十分に検討・理解したうえで、進学ないし受験判断をして頂ければ幸いです。
たとえば、愛知大学法科大学院については、令和4年度の標準修業年限での修了生は1名です。他方で同校の令和4年度修了者の司法試験受験者数が3名であることからすると、残りの2名は同法科大学院に4年以上在籍しているということとなります。また、標準修業年限修了率は10%となっています。
しかし、このような実態については、法務省等の司法試験に関する公表資料だけでは把握することはできず、入学後に知るという方は非常に多いのが実情です。
受験生各位が何年で司法試験を受験するかという目算や、自身の将来の人生設計をする点、学費等費用負担面の問題からしても、受験時から受験予定校の標準修業年限修了率を知っておくことは非常に重要です。
本資料を基に、ぜひ皆様が、受験校・入学校につき最良の選択をして頂ければ幸いです。
累計合格率を掲載した理由は、令和4年度については一過性の要因で合格率が悪くなったという事態も考えられるからです。そこで本表に記載致しました。
もっとも、累計合格率を過信し過ぎるのも危険です。累計合格率は約20年に渡る合格率の蓄積であり、近年の実績と比べて大きく乖離している場合もあるからです。
たとえば中央大学法科大学院の累計合格率は69.3%と高いですが、直近の合格率を見ると、令和4年度は26.18%、令和3年度は31.8%と、法科大学院全体の合格率平均ですら届いていない状況が続いています。
そのため、繰り返しとなりますが、累計合格率に記載されているような、長すぎる期間だけで合格率を参照するのは、実態判断を誤ることとなり非常に危険です。
ではどの程度の期間であれば容易に判断できるでしょうか。
一般に財務分析や経営実務(特に金融実務)においては、中長期的な過去のデータ(2~5年程度)をもとに、リスク分析を行ったうえで、意思決定・経営判断をします。それに加え、現在の制度は「修了後(又は在学中受験を含めて)5年以内に5回、司法試験を受験する資格を有する」ことや、法科大学院各校の近年の合格実績を把握するという点からすると、過去5年程度の平均号合格率を算出し、その結果を基に意思決定をするのが適切であるように思えます。
そこで以下、資料を添付いたしました。なお、記載校の順番については、未修・既修含めた合格率総合順位の高い順(神戸・大阪については類型合格率)に基づきます。
上記表は、主要各校既修・未修別合格率の推移を表しています。①~⑦は項目内における順位、マーカーは1位~3位の箇所にそれぞれ水色→黄色→橙色の順で引いています
たとえば令和4年度司法試験において一橋大学法科大学院未修コースの実績は、有名校の中では振るいませんでしたが、令和4年度を除き、同大学院は未修者コース合格率につき1位の座を不動なものとしていました。(参考までに、あくまでも教員や学生へのヒアリングに基づく限りでは、学生同士でコミュニケーション上の大きなトラブルが生じると、その代は合格率が悪くなるというのは、どの法科大学院でもあるようです)。
一過性の事情であっても、もちろん先の合格率低迷というリスクを勘案するためには必要不可欠です。しかし、過大に評価するのは、意思決定や自らの判断を誤る可能性があり、非常に危険です。
そのため、直近数年程度の推移をみる必要があります。
過去数年の推移をみるべき例として、中央大学法科大学院の合格率推移が挙げられます。先に述べた通り累計合格率は上位ですが、他方でここ5年間の司法試験合格率は各コースとも法科大学院平均合格率以下に陥っており、お世辞にも好ましい状況であるとは言えません。(キャンパスが神田駿河台に移転することを起爆剤として、ぜひ黎明期当初の実力を取り戻して欲しいとは、個人的に思ってはいます。)
そのため、公表されている累計合格率だけで最適な法科大学院を判断するのは、安直であると考えます。他方で、過年度1年だけで判断するのも一過性要因を排除できません。そこで、財務ないしリスク分析の基本である、直近の複数年度単位で中長期的に分析することが重要である、ということです。
以上、例を挙げたのはあくまでも上記2校に過ぎませんが、ぜひ皆様におかれましては、上記資料を有効に用いて戴き、自分にとって最適な受験校を選択できることを願っています。
※年度表記に誤りが見つかった旨、藤澤先生から連絡がございましたため画像と遷移先ファイルを差し替え・訂正いたしました(2024_09_14)
標準修業年限修了率とは、既修なら2年、未修なら3年という修業期間において、どれだけの方が留年等をせずに、法科大学院の課程を修了したかを示す割合です。
この割合が高ければ高いほど、入学後に留年等せずに修了した院生数が多いことを示しており、これと司法試験合格率が高いことをもって、当該法科大学院の教育力を測ることが可能となります。
あくまでも原則は上記修業期間内に院生を修了させるのであり、例外としてやむにやまれない事情や、学校側が教育実績を出せなかった場合に、やむなく対象の院生を留年をさせることとなるのが制度本来の趣旨です。
しかし近年では、(数値のみを見る限りでは)留年者数を極端に増やすことにより法科大学院生を修了させず、限られた者のみを司法試験受験させることによって、合格実績を上げようとしていると評価されかねない法科大学院も表れていることも事実です。
もちろん、進級判断を厳しくするか否かの裁量は各法科大学院側にあります。
もっとも、特に既習においては入学試験においてその法科大学院に入学する必要最低限の知識を有するとして入学を許可されたのに、法科大学院に入ってその大学院生が知識を得られなかったとなると、「法科大学院生の実力をつけることができなかった」という点で、法科大学院側の教育力や指導力に何かかしらの不備があるように思えます。
その点については、法科大学院側や教育者側は、このことをきちんと理解したうえで、公正妥当と認められる範囲内で裁量権を行使し、教育力の改善に努めて戴ければ幸いです。
話を戻して、
受験生目線で見れば、上記のとおり修了率の低さは受験生が入学した際に、留年するリスクがどの程度あるかを、過去のデータをもとに客観的に分析する点で非常に有益です。また、この標準修業年限修了率と司法試験合格率の両者を見て初めて、各校の正確な教育力・実態を把握することが可能となります。
上辺だけの合格率に流されず、実情を把握したうえで、受験校を決定することを願っています。
参考:本件資料の特筆すべき点について
本表の差別化事項として、「実質標準修業年限修了率」を分析した点が特長として挙げられます。
この「実質標準修業年限修了率」とは、①在学中に予備試験合格を理由として休学後に司法試験に合格し退学した方や、②休学せず在学中に司法試験に合格し、その後退学した者、③予備試験に合格したため、退学した者という、教育上の問題から留年・退学した者を除くことで、真の修了率ないし留年率を把握することができる点で、受験生にとって非常に有益となります。
たとえば東京大学の標準修業年限修了率は、形式値をみるだけだと、法科大学院平均を下回り、非常に悪いというイメージがあります。他方で、上記実質で算出すると、教育上の問題等を理由として留年ないし修了できないという方は極めて少ないことが読み取れます。
これらの数値を有効に利用し、受験生にとっては自らの進路決定をするツールとして利用いただければと思います。また在学生におかれましては、期末テスト等で留年リスク・司法試験合格可能性を分析する一つのツールとして利用いただければ幸いです。
まず留年率については、標準修業年限修了率と異なり、その法科大学院在学中に、どれだけの大学院生が留年しているのか・進級割合はどの程度か把握することが可能となります。
特にこの表を見ると、近年は未修1年から2年に進級する際に留年するリスクが各校とも比較的高い状況です。他方で、進級判断を厳しくする傾向からか、3年次への進級の際も留年率が高まっている法科大学院が増えているのも現状です。
入学後の原級留置リスクを判断する一資料として、ご利用ください。
つぎに、この表は退学率を示すものですが、注目して頂きたいのは、在学中に司法試験に合格する人数割合です。つまりどれだけの方が在学中に司法試験に合格しているかを把握することで、上記記載の実質標準修業年限修了率を把握することが可能となります。また、その学校のロー生の知識水準を測るために最適です(どれだけ在学中に司法試験に合格するほどの実力を有する院生が存在するか、など)。
各校の実態や知識レベル確認の資料として、ご利用ください。
学費一覧を添付いたします。自分が仮に受験校に合格し、修了するまでどの程度の学費がかかるか、参考にして頂ければ幸いです。
なお国公立であれば世帯収入に基づく学費減免制度、私立ないし一部の国立であれば、入学試験の成績に基づく学費減免制度(ただし継続要件あり)が存在します。
詳細については、各校のホームページないし募集要項などを参照ください。
いかがでしたでしょうか。上記で案内した資料を基に、受験生の皆様にとって最適な志望校を選択できることを切に願っています。
5月頃になると各校が入試募集要項を公表し、そして各校のパンフレット等を公開することになると思います。その場合は、それらの資料を利用することを通じて、いよいよステートメント等出願書類の作成準備をすることとなるでしょう。
その際には、文科省が公表している下記資料『法科大学院の機能強化構想について~令和5年度法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム審査結果~』も有益です。この資料は、国による各法科大学院の評価が掲載されているとともに、各校が策定する中長期的な計画が掲載されています。そのため、各校の現状を知るとともに、どのような点に力を入れているのか詳細を把握することが可能となります。
内容に深みのあるステートメントを作成するためには、参照できる資料数は多いに越したことはありません。パンフレット・ホームページの記載、上記プログラム審査申請の際に法科大学院側が提出した資料等、志望動機等を作成する際に困ったときは、一度目を通してみてはいかがでしょうか。https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/mext_00011.htm
以上
2023年4月30日 藤澤たてひと
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