不真正不作為犯(後編)合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第 27回~平成26年度司法試験 刑法~ 

たまっち先生の
「論文試験の合格答案レクチャー
第 27回
「第27回 不真正不作為犯(後編)
合格答案のこつ

平成26年度司法試験 刑法から

第1 はじめに
・・・不作為犯は、作為を行っていないので、正犯性を認めることができるのか疑問に思う受験生もいる…

 こんにちは、たまっち先生です。
 前回に引き続き今回も「不真正不作為犯」について平成26年司法試験刑法を題材として合格答案のコツをレクチャーしていきたいと思います。
 前回は主に不真正不作為犯の要件について扱いましたが、今回は不作犯の正犯性について検討していきたいと思います。

 不作為犯は当然のことながら、作為を行っていないので、正犯性を認めることができるのか疑問に思う受験生もいるかと思います。特に平成26年の司法試験では、甲と丙という二人の者が不作為による実行行為を行なっており、どのような観点から両者の罪責を論じればいいか分からないという受験生も多いのではないかと思います。そこで、本記事では、有力な学説を踏まえつつ、不作為犯が関係する事案を類型化した上で、それぞれどのように罪責を論じていけば良いかについて解説していきたいと思います。

| 目次

第1 はじめに
第2 A答案とC答案の比較検討
第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性
第4 本問の関連論点
  1 片面的共同正犯の成否
  2 不作為犯の類型(4類型)
    ⑴ 作為犯に不作為で関与した場合
      ア 意思連絡なしの場合
      イ 意思連絡ありの場合
    ⑵ 不作為犯が不作為犯に関与した場合
      ア 意思連絡なしの場合
      イ 意思連絡ありの場合
第5 本問の考え方
  1 片面的共同正犯の成否
  2 単独正犯
    ⑴ 不作為の単独正犯犯か幇助犯か
    ⑵ 丙に不作為の殺人罪の実行行為性を肯定できるのか

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

A ポイント

1 本件では、丙は甲のA殺害の意図を気付き、このままではAが確実に死亡するであろうことを認識しながらも、何らの措置も講じていない。このような丙の行為にいかなる罪責が成立するか。

⑴ まず、甲との殺人の共謀共同正犯(60条、199条)が成立しないかを検討する。

ア 共謀が認められるためには、明示的ではないにしろ少なくとも黙示的な意思連絡が認められることが必要である。

イ 本件では、丙は7月2日昼前ごろ、甲が殺意を持ってAに授乳等をしないという犯罪を行っており、このままではAの死亡結果が生じることを認識している。そして、夜泣きの悩みから解放されるといった思いからAの死亡結果を認容している。しかし、甲は丙に自己の意図が気づかれていないと思っており、丙の上記認識・認容の事実自体を認識・認容しているとはいえない。そうであるとすれば、本件では黙示的にしろA殺害の意思連絡が甲と丙との間であったとはいえない。

ウ よって、共同正犯は成立しない。

⑵ そこで、Aが確実に死亡することを認識しながら何らの措置を講じなかった丙の不作為に殺人罪の単独犯(199条)が成立しないかを検討する。

ア まず、殺人の実行行為性が認められるか。前述の①②の基準に照らして判断する。

(ア)確かに、丙は甲とは異なりAは実親子関係にはないから、法令上の監護義務(民法820条)は負わない。しかし、丙はAとともにアパートの一室に同居しており、同棲を開始してから20日間であるにせよ、Aの世話をしていたことからすれば、条理上Aの監護をすべき義務が丙に生じていたといえる。

また、前述したように本件の犯行場所は外界から遮断された密室空間であるアパートの一室であったことや同居していた甲は殺害の意図の下Aの救命に必要な措置をとることが期待できない状況にあったことからすれば、Aの生命は相当程度丙に依存していたといえる。そして、7月3日昼過ぎにAを溺愛していた甲の母親から甲方に訪問したい旨の電話を受けた丙は、甲の母親によりAが救命されることを防ぐために、虚言を用いて甲方の訪問を断念させている。この事実からすれば、少なくとも行為にでた7月3日昼過ぎには、丙は自らAの生命につき排他的支配を設定し、Aの死亡に至るまで因果の流れを支配していたといえる。

以上の事実関係からすれば、少なくとも7月3日昼過ぎ以降には、①丙にはAを病院に搬送する等Aの救命に必要な措置をとる法的作為義務があったといえる。

(イ)また、本件事実関係の下では、Aを病院に搬送する等は容易かつ可能であった以上、②作為の容易性・可能性も認められる。

(ウ)以上から、7月3日昼過ぎ以降の不作為には、作為との構成要件的価値同価値性があり、殺人罪の実行行為性が認められる。なお、丙の作為義務はAの生存にとって重要なものであったことや、夜泣きの悩みから解放される等、丙にはAの死亡について強い利害関係があったことからすれば、丙の不作為は幇助犯ではなく、正犯に問擬すべきである。

イ もっとも、甲と同様の理由から、丙の不作為とAの死亡結果との間に因果関係は認められない。

2 以上より、丙にも殺人未遂罪の単独正犯が成立し、その罪責を負う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲と丙の認識がずれていることから、そもそも両者の間には殺人罪の合意が認められないことを指摘することができています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先行行為や保護の引受けについては検討できていないのはやや残念であるものの、排他的支配の認定について非常に丁寧に事実を拾った上で論述できており、受験生がぜひとも見習うべき論述といえるでしょう。
丙が甲の母親の来訪を断念させたという事情を排他的支配の事情としていますが、これを先行行為と捉えることも可能だったと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作為義務を生じた時点を意識した論述ができています。

 

不作為犯に不作為によって関与した場合に、原則として正犯性を問えることを意識できており好印象です。

C答案

C ポイント

1 丙に殺人未遂罪の共同正犯(60条、203条、199条)が成立しないか。

丙は、甲がAを殺害しようとしているという意図を7月2日の昼頃に察知しているが、甲は丙が気づいているとは思っていない。刑法60条の共同正犯の成立には、「共同して」行うこと、すなわち犯罪についての意思連絡が必要であるところ、この意思連絡が甲丙間でなされていないから、殺人未遂罪の共同正犯は成立しない。

2⑴ そこで、丙に殺人未遂の幇助犯(62条1項、203条、199条)が成立しないか。まず、丙が7月2日昼前に丙がAの衰弱に気付いて以降、Aを放置した行為について、不作為による殺人未遂の幇助罪が成立しないか。

3幇助犯の要件は、「幇助」及び因果関係である。幇助とは正犯を容易にする行為をいう。丙は、7月3日夕方に甲の母親に対し、嘘をつき、甲方に来訪させていない。丙がこのような行為をしなければ、甲の母親がAを直ちに病院に連れていき、Aは救命されていたといえるところ、丙は甲の母親の来訪を阻止することで、甲によるA殺害を容易にしている。また、5甲の母親を甲方に来訪させない行為により、A殺害は促進されている。

3 よって、丙は殺人未遂罪の幇助犯の罪責を負う。

片面的共同正犯について検討できているものの、法的三段論法が崩れてしまっており採点者の印象を悪くしてしまっています。
また、意思連絡さえあれば、常に共同正犯が成立するかのような論述になっており共同正犯の要件の理解が不十分だといえます。共同正犯と狭義の共犯の違いは「正犯意思」の有無にあり、要件を定立するのであれば、正犯意思の指摘は必須だと考えられます。

 

正犯性を検討することなく、幇助犯該当性の検討に移ってしまっています。

 

 

 

 

幇助の故意も要件として必要であると考えられます。

 

幇助行為については、事実を踏まえて適切な評価をすることができています。

 

 

 

事実の評価ができていません。
また、幇助行為については「正犯を容易にする行為」と定義しているにもかかわらず、あてはめでは「促進されている」と評価しており、規範とあてはめが整合していません。このように内容は正確でも規範とあてはめの整合性がなければ、得点が伸びない可能性があります。

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性

B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性が強いと思います。

 

 例えば、本件のような不作為犯に対して不作為で関与する事案の処理については、基本書等で必ずと言っていいほど記載があります。ただ、不作為犯は出題頻度が低いから、ニッチな論点だから、と勝手な理由で勉強することを放棄していないでしょうか。平成26年司法試験のように、マイナーな論点でも正面から問われてる可能性は今後も考えられるため、試験直前期にはもう一度基本書に立ち返ってマイナー論点に対する理解も深めておきたいです。

第4 本問の考え方

【問題文及び設問】

平成26年司法試験 刑法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/000123138.pdf

1 片面的共同正犯の成否

 過去の記事でも指摘しているとおり、共同正犯の処罰根拠は、犯罪結果に対して因果性を与えたことにありますから、共同正犯が成立するためには、①共謀、②共謀に基づく実行が必要です。なお、共謀とは故意及び正犯意思を前提とした特定の犯罪を共同実行する旨の合意をいうとされています。
 ここで、片面的共同正犯とは、実行行為共同の事実が認められる場合において、共同犯行の意識が一方の者にのみ存在し、他方の者には存在しないことをいいます。そうすると、片面的共同正犯には、特定の犯罪を共同する旨の合意がないことになり、したがって、①共謀が認められませんから、共同正犯の要件を充足しないということになります。
なお、判例も片面的共同正犯の成立を否定していると考えられています(大判大昭和11年2月25日刑集1巻79頁)。

【片面的共同正犯】(否定説)

① 共謀(故意+正犯意思を前提とした特定の犯罪の共同遂行の合意)➡︎否定

② 共謀に基づく実行(共謀に基づく実行行為、非実行者の重大な寄与)
➡︎ 共謀を欠き、片面的共同正犯を否定

 

2 不作為犯の類型(4類型)
⑴ 作為犯に不作為で関与した場合

意思連絡なしの場合
 作為犯に不作為で関与した場合には、作為犯が結果に至る因果の流れを支配しているといえるため、不作為犯者は原則として結果に至る因果の流れを支配していたとはいえません。そのため、作為犯に不作為で関与した場合には、当該不作為犯は幇助犯となると考えられています(原則幇助犯説)。なお、不作為犯の幇助犯を検討する場合であっても、当然不作為が処罰されるには、作為の幇助犯との同価値性が要求されるため、作為義務、作為可能性・容易性が必要となります。

イ 意思連絡ありの場合
 作為犯と不作為で関与した者との間に意思連絡があった場合には、共謀共同正犯の問題となりますから、不作為犯の共同正犯の問題とはなりません。ただ、この場合には非実行者、つまり不作為犯者に犯罪結果に対する重大な寄与が必要である点に注意しましょう。

⑵ 不作為犯が不作為犯に関与した場合

ア 意思連絡なしの場合
 作為犯に対して不作為で関与した場合とは異なり、不作為犯に不作為で関与した場合には、結果に至る因果の流れを支配している者がいませんので、主従関係を認めるのが困難です。したがって、この場合には、両者が合わさって結果に対する因果の流れを設定したと考えて、原則として両者ともが正犯となります。

イ 意思連絡ありの場合
 作為義務を負う複数の者が、意思連絡の下で、いずれも作為義務を履行せず、そのために結果が発生した場合には、不作為による共同正犯が成立します。なお、この場合、共犯者の一方にしか作為義務が肯定されない場合であっても、作為義務を「真正身分」と捉えることによって、刑法65条1項を適用して両者に共同正犯を成立させることができます。

不作為犯の4類型

① 作為犯に不作為で関与した場合 
(ⅰ)意思連絡なし型➡︎原則として幇助犯
(ⅱ)意思連絡あり型➡︎共謀共同正犯
② 不作為犯に不作為で関与した場合
(ⅲ)意思連絡なし型➡︎原則として単独正犯(本問)
(ⅳ)意思連絡あり型➡︎不作為の共同正犯

第5 本問の考え方

1 片面的共同正犯の成否

 甲はAを殺害しようとの意図を丙に察知されないよう、Aに授乳を一切しない他はAに対する世話を通常どおり行っていますが、丙は7月2日昼頃の時点で甲がAを殺害しようとしていることを気づいています。ただ、甲はあくまで丙は、自らの殺害意図を察知されていないと思っていることから、黙示の合意すら形成されていないことになります。
 以上からすれば、片面的共同正犯否定説に立つと、甲と丙の殺人罪の共同正犯の成立は否定されることになります。

2 単独正犯
⑴ 不作為の単独正犯犯か幇助犯か

 本件では、丙は不作為の単独正犯の甲(第26回の記事参照)に不作為で関与しているため、原則として正犯該当性を検討する必要があります。平成26年司法試験の再現答案をみると、多くの受験生が幇助犯該当性を検討しており、また、現在の受験生の中にも幇助犯を検討する方が多くいらっしゃいます。もっとも、Aの死亡に至る因果の流れを排他的に支配している者はいないため、不作為で関与した者全てについて、まずは正犯性を検討するべきであり、正犯性を検討することなく幇助犯該当性の検討に移るのは妥当とはいえないでしょう。そして、甲と丙についてどちらが一方の強い関与によってAの死の危険を生じさせたというよりも、両者の不作為が合わさってAの生命の危険を生じさせたわけですから、甲と丙の両者がAの死亡について強い因果性を与えたと評価することができると思われます。したがって、本件においては丙にも正犯性を問うことができると解すべきでしょう。

⑵ 丙に不作為の殺人罪の実行行為性を肯定できるのか

 不作為犯の実行行為性の検討については、第26回の記事を参照してください。以下では、第26回の記事でご紹介した2要件説にしたがって丙の実行行為性を検討していきます。
 Aは市販の乳児用ミルクにはアレルギーがあって母乳しか飲むことができなかったこと、丙は男性であったことからすれば、丙が授乳を行うことは困難でした。ただ、丙がAと同居し始めたのは6月1日頃からであり、すでに1ヶ月程度同居していること、アパートには乳児Aの他には、甲・丙の2名しかいないことからすれば、Aの生命は丙に委ねられていたといえ、丙には排他的支配を認めることができます(排他的支配)。
また、丙はAの育児に協力しておむつ交換や入浴等の世話を20日間にわたってしており、先行行為を認めることができます(先行行為)。
 これらの事情からすれば、少なくとも7月3日昼前の時点では、丙にAを病院に搬送する等Aの救命に必要な措置をとるべき作為義務を認めることができます(具体的な作為義務の内容)。
 また、丙がAを病院に連れて行くことについて、特段の支障もなかったことからすれば、当該措置をとることが可能かつ容易であったといえるでしょう(作為可能性・作為容易性)。
 このような状況下において、7月3日になり病院で治療を受けさせない限りAの救命が不可能になった後、丙はAを溺愛する甲の訪問を、嘘をついて阻止しており、Aの生命の危険に対する危険を維持する行為をしています。
したがって、丙の7月3日昼過ぎ以降にAを病院に搬送する等のAの救命に必要な措置をとらなかったという不作為は、作為との構成要件的同価値性があり、殺人の実行行為性が認められることになります。
 ただ、第26回記事でも指摘したように、Aはタクシーの追突行為によって死因が形成され死亡しており、このようなタクシーによる追突行為は丙の不作為が誘発したものとは言い難いことからすれば、丙の上記不作為とAの死亡結果との因果関係を肯定することは難しいでしょう。
 なお、最後に丙は7月3日時点でこのままではAは確実に死亡するだろうと思っており、殺人罪の犯罪事実の認識があり、それでも良いと認容しているため、殺人罪の故意も認められることになります。
 以上からすれば、丙には不作為の殺人未遂罪の単独正犯が成立することになります。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第27回は
平成26年司法試験 刑法から「
不真正不作為犯(後編)」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年2月28日   たまっち先生 

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